ノーリミットアビリティ

ノベルバユーザー202613

第3話  列車

 改札内は非常に大きいが、一組に付き実質一本しか線路がない。
 今、シーク達の目の前にはシーク達の組に行く列車がちょうど止まっていた。
二十両近い列車の内装は、四人部屋が一両に付き十二室もある。
横幅も一両の大きさも通常の列車よりはるかに大きい。
列車がそれだけ大きいということはそれだけ生徒が多いということ。
 列車の乗り口には、無理やり列車に乗ろうとしている生徒達で押し合っていた。

「相変わらずの光景だねー」

 昨年もその光景を見ていたジンは、目の前で行われている乗車戦争を見てものんきな声を出している。 ヒツジもその言葉に大きく頷く。しかし、言っていることは全然違った。

「まったくです。全員今すぐジン様のために列車を降りるべきですね」
「それ、どこの国の独裁者?」

 ヒツジのあまりに無謀な発言に、シークは少し引いてしまう。

「次を待つか……」
「それがいいだろうね」
「……」

 今、ここに着いたシーク達がその戦いに参加するのは分が悪い。
今日に限り、列車は三十分に一本のペースで来るので別に急ぐ必要はないので次を待つ選択をする。
シークは壁際によると、ジンとヒツジもすぐに着いてくる。ヒツジも分かってくれたのだろう。
 だがしかし、ヒツジは真っ直ぐシークの目の前までやってくると指を真っ直ぐに突きつけ、

「シーク! 今からジン様のために部屋を確保してきなさい!」
「嫌に決まってんだろ……。つか、俺たちの関係って何だったっけ?」
「主人と付き人と下僕に決まっているじゃない」

 ジン、ヒツジ、シークの順番に指していく。

「いつ俺が下僕になったんだよ……」
「は? 貴方、居候でしょ?」
「いや、そうだけど」
「なら下僕でしょ?」
「いや違うな、それは」

 ヒツジの中では居候と下僕は同じものになっているらしい。

「タダ飯もらっているんだからそれ位やりなさいよ」
「タダ飯を食っていることは認めるが、俺は別に自らジンの家におせっかいになっているわけじゃないぞ」
「は?」

 ヒツジは少しだけ目を見開いて驚く。初耳だったみたいだ。シークはヒツジが初耳だったことが初耳だ。

「その話、少し詳しく……」

 ヒツジが追求しようとした瞬間、列車の汽笛の音が構内に響き渡る。それと同時に、各車両のドアが一斉に閉められ、出発する。

「行っちゃうねー」

 ジンののんきな声とともにシークは列車を見送った。
 列車が駅を出て行くのを見守ったジン達は改めて駅構内の生徒達を見回す。
ここにいる生徒達は列車の前のため、シークと同じ組の生徒だけだ。
 しかも彼らの多くは一年生だ。
真っ昼間のこの時間帯は、列車が混むことが容易に想像できるため、経験者の上級生は早朝の始発や、夜の列車に並ぶ。
そうすれば生徒数も少なく、ごった返す生徒に揉まれることもなく列車に乗車できるからだ。
 逆にこの太陽が昇りきった時間帯にここにいるのは、それを知らない新入生か人ごみが気にならない一部の生徒だけ、ということになる。今年からセントラルに入学するシークは、駅がここまで混むとは知らなかった。
 しかし、昨年も学校に通っていたジンは知っていたはずだ。

「なんでこんな時間に着くようにしたんだよ」

 ジト目でジンを睨み付ける。

「ん? だから洗礼だって。新入生なら誰しも通る道。何事も経験が大事だと思うよ?」
「さすがはジン様」
「なんでだよ」

 ヒツジはうっとりした声を出しながらジンを褒め称えている様子をシークがジト目で突っ込んだその時、次の列車が駅内に入ってくる。

「じゃあ行こうか」

 ジンは列車へと先導する。その後ろをヒツジとシークが追う。
 前の列車に乗れなかった生徒も多くいるので、今回もまた乗車戦争が早速始まった。
シーク達もぎゅうぎゅう詰めになりながらもジンの他の生徒より一回り大きい身体のおかげで、それほど苦もなく無事列車内へと乗車を果たした。
乗車した列車内は、面積をコンパートメントにリソースを振り分けているらしく、廊下の横幅は子ども二人分しかない。
 そんな狭い廊下の中を、空いている部屋を探して生徒達が右往左往している。

「じゃあヒツジは後ろを探して。僕とシークは前を探すから」
「いや、別に分ける必要は……」
「畏まりました」

 シークは止めようとするが、ヒツジはさっさと後ろに行ってしまう。

「行っちゃったね」
「行っちゃったね、じゃねーよ! 止めろよ!」
「ははは」

 ジンは笑いながらシークの手を掴み、足を前方車両へと進める。

「……」

 もう何を言っても無駄な気がしたシークは、黙ったまま引っ張られる。
 ジンは部屋探しをしているというのに、コンパートメント内をひとつも見ようとしない。まるで、既に行き先が決まっているかのような足取りだ。

「ここかな」

 何を見てそう判断したのかは不明だが、ここらしい。コンパートメントのドアをノックすると、中から返事が返ってくる。

「どうぞ」
「失礼するよ」

 ドアを開け、ジンに続いて中に入ったシークは、ジンの狙いを知った。
コンパートメント内に入ってすぐ目に付いたのは、四角い開閉可能な窓。そして室内は赤を基調とした簡素な部屋だ。縦二メートル、横四メートルの小さな室内を八割方ベッドが占領しており、そのベッドも面積の節約のために二段式になっている。

入って左側のベッドが二つ、既に二人の少年達に占拠されていた。顔やジンを見た振る舞いから、彼らは新入生であろう。

「こんにちは。少しいいかな?」

 ジンは、初めて会うはずの生徒にも物怖じすることなく爽やかな笑顔で挨拶をしている。

「も、もちろんです!」

 二人はジンを見て先輩と分かったのか、慌てて立ち上がり頭を下げる。

「ありがとう。突然で申し訳ないのだけど、もしそちら側のベッドが空いているようなら相部屋をお願いしたいんだけどいいかな?」
「も、もちろんです! どうぞどうぞ」

 二人は緊張しているのか、ベッドの方をわざわざ手で招いている。

「ありがとう。あ、自己紹介がまだだったね。三年のジン・トトと言います」
「こ、こちらこそ初めまして。僕の名前はアルト・タウロスと言います」

 二人のうち、アルトと名乗ったのは、シークと同じ黒髪に黒い目をした少年だった。
しかし、その表情は緊張で硬くなっており、笑顔をしているのだろうが、どう見ても苦笑いになっている。もう一人の金髪の少年も名乗る。

「同じく一年のレイン・ジュゴスと申します。こちらこそよろしくお願いします」

 レインと名乗った少年は、アルトよりも落ち着いた様子で挨拶をしている。

「……シーク・トト」

 シークは仏頂面のまま目礼だけする。

「じゃあ、挨拶も終わったことだし、ありがたくベッドを使わせてもらおうか」
「いや二つしかねーだろ」

 ベッドは全部で四つ。レインとアルトが一つずつ使うので、ベッドの空きは二つしかない。

「それともヒツジとジン義兄さんで一つのベッドを使うのか?」
「ははは、さすがにそれはないよ。僕の分はヒツジが部屋を取ってくれているだろうからそっちに行くよ」
「……ちょっとこっち来い」

 そう言って、ジンを引っ張って、一度コンパートメントを出る。
 そしてジンよりも身長の低いシークは、下から凄むように睨みつける。

「……おい、幾らなんでも過保護が過ぎるぞ。兄が弟のために友達を用意するな」
「そ、それは誤解だよ。さっきの彼らの反応を見ただろう? 完全に初対面だよ」
「けど迷いなくここに入っただろうが」
「外から見てて先に目星を付けていたからね」
「けどそれだけで……」

 なおも食い下がろうとするシークの言葉に、ジンは少し自慢げにニヤリとする。

「それだけで分かるから、僕はあの家を継げるんだよ」
「……」

 正論をぶつけてくるジンに言い返せないのが悔しくて、シークはブスッとした顔をする。拗ねるシークの顔を見て、ジンは大笑いしながらシークの頭を撫でる。

「ごめんごめん。可愛い弟のために一肌脱ぎたかったんだ」
「……」
「僕達にくっついていたら一人が好きなシークは学校で孤立しかねないから」
「……分かった」

 兄なりの優しさだと笑うジンに、シークはしぶしぶ納得した。

「それと次に会うのは数日後とかになるから、一つだけ」
「なんだ?」
「学校、楽しんで来たらいいよ」
「は?」
「後先のことなんて考えなくていい。シークはシークの思うまま好きにすればいい。僕に迷惑が掛かるとか小難しいこと考えてたら学校生活が楽しめないからね」
「……」

 ジンの言っていることがよく分からずシークは首を傾げる。

「ふふふ、今はその言葉を心に留めておくだけでいいよ。じゃあ僕はもう行くね」
「あ、ああ」

 その言葉を最後に、ジンは後列車へと帰って行く。

「はぁ……」

 ジンの言っていることはいちいち正しい。心配されている自分が情けなくて溜息を吐くが、いつまでもここにいてはレインとアルトに怪しまれてしまう。まあもう既に遅いのだが……。

「悪かったな、急に席を外して」

 部屋に戻り、空いているベッドの下段に荷物を置いてから開口一番に謝罪する。

「い、いや構いませんけど……。さっきの先輩は何処に?」
「もう一人の連れのところに行ったよ」

 シークは気軽にそう説明するが、レインとアルトの表情はまだ硬い。

「それと俺も一年だから敬語は不要だ」

 そう名乗ると、二人の顔は少しだけほぐれ、ホッとする。

「ああ、そうだったんだ。てっきりジン先輩と同じ三年生かと思ったよ」
「うん、僕も。物凄い、なんていうのかな……。そう、輝いていた!」
「ははは、あれと一緒にされると困るけどな」
「そうだな、こう見てみるとシークはそうでもないな」
「レ、レイン、流石にそれは失礼だよ!」
「ははは、構わないさ」

 レインのジョークのおかげで場の空気が和んだ室内に、ノックの音が転がってくる。

「どうぞー」
「失礼するよ」

 レインが代表して訪問者を招くと、中に入ってきたのは一人の少女だった。
 光に反射すると赤く見える長い髪を結えて腰まで伸びている。小顔ではあるが、切れ長の大きな鳶色の瞳は取っ付きにくそうにも人懐っこそうにも見える。紛れもない美少女だった。

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