ノーリミットアビリティ

ノベルバユーザー202613

第6話 宗教

 用を済まして部屋に戻ったシークと奈落山は昨夜と同じように雑談をしていると、途中からアルトとレインが起きてきて話に加わる。
 太陽が昇りきり、四人で雑談をしていると、突然列車内に鐘の音が響き渡る。

「もうそろそろ到着みたいだね」
「そうだね。この後の予定は確か……僕達はこのまま寮に直行するんだよね?」
「ああ、寮の前で名前と照合して、七年間過ごす部屋が初めて分かる」
「へー、シークは詳しいな」
「先輩が言っていたからな」

 もちろんジンのことだ。それを聞き、レインが相槌を打つ。

「ふーん、てことは寮の前まではシークと奈落山とは一緒ということか」

 そんな何気ないレインの言葉に、シークは敏感に反応する。

「なんだ、嫌なのか? そうか、ならお前だけ一人、別行動してもいいぞ。なんだったら今からもう出て行ってくれても構わない。むしろ出てけ」
「冷たい!」

 シークの言葉は辛辣だ。昨日の肉の恨みはまだ許していない。
 だが、そんなレインを助けてくれる存在がいた。

「シーク、それは流石に言いすぎだと思うよ。幾らなんでもレインがかわいそうだ」

 奈落山だ。シークの言い過ぎた言葉を優しい声で諌める。

「せめて、出て行ってくれても構わない、と言うところで止めておくべきだよ」
「意味がそんなに変わらない!」

 結局出て行ってほしいのには変わらないようだ。

「早いお別れだったねレイン。バイバイ」
「ブルータス、お前もか!」

 長年の親友の淡白な裏切りの言葉に、とうとうレインは頭を抱えてしまう。
 そんなレインの反応で三人の笑い声が室内に響き渡ったその時、列車が揺れる。

「どうやら着いたみたいだな」
「そうみたいだな。それじゃあ降りるか。レイン、前と後ろ、どっちから降りる? 俺ら逆側から行くから」
「俺いじりまだ続いてたの?!」
「ははは」

 レインの突っ込みに笑いながら、四人は荷物を整える。
列車が完全に停止したのを見計らって部屋のドアを開け、狭い廊下に出る。
廊下には既に、列車が減速している途中から廊下に出ていた生徒達で溢れていた。
列車が停止してから動いたのはシーク達だけらしく、シーク達の後に開くドアはない。
そのことに気付いたシークは、順番待ちをしている列の一番後ろに並びながら軽く舌打ちをする。

「ちっ、レインのクソ野朗」
「何でだよ! 列車が停止してから動こうって言ったのはシークの案だろ?」

 シークの理不尽な八つ当たりにレインは怒る。早く出ようと遅く出ようと何も変わらないため、人ごみを嫌ったシークがゆっくりと出る事を提案したのだ。
「そういえばそうだったな。ちっ」

……。

「おい」

…………。

「おいシーク」
「うるさいぞレイン!」
「理不尽過ぎる!」

 頭を抱えたレインの叫び声が列車内に響き渡った。
列は進んで行き、最後尾だったシーク達は外に出ると、列車の前に修道服を着た人達が生徒達を誘導していた。

「二年生以上は各自寮へと向かってください! 新入生の皆さんは寮へと案内しますので私に付いて来てください!」

レインがシークに近付いて、小さい声で聞いてくる。

「あれは?」
「ん? ああ、セントラルは世界で唯一つの学園という顔と、世界最大の宗教、神教の本場という顔の二つがあるんだ。セントラルの校長は第二階位の神器、聖杖アーリアルの所有者で、神教の枢機卿の一人でもある」

 エシークが説明すると、レインが苦虫を噛み潰したかのような顔をして、隣のアルトも苦笑いをしながら頬を掻いている。

「へー。正直、俺は宗教にあまりいい感情を抱いていないんだが……。大丈夫なのか?」
「ん? そうなのか、安心しろ。雑用は彼らが受け持ってるが、教員は世界中からヘリオス監修で公平に選ばれている。それに学園内で宗教の勧誘は禁止だ。ヘリオスの支援無くしてセントラルは成り立たない。学校に宗教色はほとんどねぇから安心しろ」

 世界中の全ての超能力者を学園に招き入れる。
それこそがセントラルの掲げる目標であり、そこにはもちろん学費を払えない子ども達も例外ではない。
そのために必要なお金は莫大なものであり、とてもセントラル国だけでは賄いきれなかった。
四国で最も貧困なカオスは言わずもがな、他国人のためにお金を出す気はないとはっきりと断言するアネモニアにも頼れない。
自然と世界で最も裕福なヘリオスにお鉢が回り、ヘリオスは幾つかの条件とともに、セントラル開校以降、援助をすることを約束した。
 その条件の一つが宗教の勧誘の禁止だ。
 もしセントラルが意向に逆らえば、ヘリオスは即座に援助を打ち切り、全生徒の四割強を占めるヘリオス人の生徒が一斉に母国へと帰国する。
最悪、払ったお金を返せと戦争になる可能性さえあるのだ。
世界最大の軍事力を要するヘリオス国相手に喧嘩を売れば、まず間違いなくセントラルは滅ぶ。
しかもそれだけではなく、優秀な人材もヘリオスは世界最多である。
 そこまで話したシークに、レインが口を挟む。
「そうするとセントラルはヘリオスの傀儡かいらんにならないか?」
「それは問題ないと断言できるな。なにしろこの件はかのヴァリエールが管理している。あれが管理している以上、悪い様にはなんねぇよ」

そう、この学園の管理を外からしているのはジンの一族だった。

「というかそれくらいヘリオス人なら常識だろ」
「ああ、俺らの住んでいたところ、凄い田舎なんだよ。多分まだまだいろいろ分からないことがあると思う」

 シークはジト目でレインを睨むと、レインは頭を掻きながら言い訳をしている。

「へー、まあとにかくこれくらいは覚えておけ。それと冗談でもヘリオス人にヴァリエールの悪口は禁句だ。これからの学園生活でイジメにあいたくなかったらそれくらいは知っとけ」
「そ、そんなにか」
「そんなに、だ」

 レインが頷いたのを見て、シークは怖い顔を和らげる。

「まあとにかく問題ねぇ。今までも問題なかったしな」
「ああ、了解した」

 レインが頷いたのを確認したシーク達は係員の指示に従い、草原の真ん中を分断したような道を進んでいくと、巨大な建物が見えてきた。
 目の前には三十五階建ての高層マンションが二棟並んで建っていた。その真下まで着いた一行はそこで一度立ち止まる。上を見ながらシーク達がそれぞれ呟く。

「でかくね?」
「大きいねー」
「まあまあだな」
「私の家よりは標高が低いね」

  四人の感想は、後半からまるで違っていた。

「……お前らと俺達で文化の違いを感じるよ」
「あっはっはっは、私の家は山の上にあるからね。標高だけで言えば世界で最も高い位置にある家だから仕方がないさ」
「俺は一軒家に住んでいるが都会暮らしだからな。これ位は普通だ」
「そうか……」

 レインの悲しい呟きに奈落山が大笑いし、シークも少しだけ同情する。

「まあそう気落ちするな。自由決めではないが、もしかしたら高い階層を割り当てられているかもしれないんだから。そしたらお前は七年間、そこで成金気分を味わえばいい」
「最後、間違ってないけどその言い方は悪意がありすぎるだろ! ちっ、まあいい。来い! 高階層!」

 神に祈るように両手を組んで拝み始めたレイン。すぐに係員が部屋分けの説明をする。

「新入生の皆さん、ここからは男女別です。女子は私の説明の後、左にずれて下さい。では、今から部屋割りの説明をします!」

 数分後、係員の説明が終わると周りの生徒たちが早速行動を開始する。それに合わせてシーク達も移動を開始する。

「ここでお別れみたいだね」

 奈落山は女子のため、女子寮に行くことになりここでお別れだ。

「ああ、じゃあな」
「うん、レインとアルトもバイバイ」

 レインとアルトもそれぞれ返事をした後、奈落山は走って女子寮に行ってしまった。

「んじゃ、行くか」

 奈落山を見送ったシーク達は男子寮へと足を踏み入れた。

「へー」

 二階まで突き抜けている広いロビーをみて、レインが感嘆の声を上げる。

「広いね」
「ああ、そうだな」

 そう相槌を打ちながら列に並ぶ。すぐに順番が来たシークは係員の下まで行き、名前と番号を伝える。

「シーク・トトさんですね。3333号室になります、どうぞ、鍵とプレートです」
「ありがとうございます」

 係員の女性から鍵とプレートを貰ったシークはすぐに後ろに抜けて、改めてプレートを見る。

(ゾロ目かよ……。まあ上の方だしいいか)
「どうだった? 流石に二人は別れたろ?」

 先に出ていた二人が早速プレートを見せ合っていたので聞いてみる。
シークの部屋番号からも分かるとおり、この寮の部屋の数は百を超えるため、二人が一緒の部屋になれる可能性はほぼゼロであろう。
しかし、レインはきょとんとした顔を一瞬だけ見せ、すぐに説明する。

「ん? ああいや、俺とアルトは同部屋なのは確定事項だぞ」
「は? なんで?」
「同部屋制度があるんだよ。一人までならお互いの両親の嘆願書と本人同士の申請書があれば同部屋が可能なんだよ。僕とレインは同郷だからね」
「へー、知らなかった。まあ知っていたところで使わなかったがな」

 同年代の友達が一人もいないシークには無用の産物だった。

「で、何番だったんだ?」
「ふふふ、凄い番号だったぞ。聞いたら絶対驚く」
「いや、俺のほうが絶対に凄いと思うぜ」
「それはどうかな?」
(哀れレイン。そのドヤ顔が崩れていく様が目に浮かぶぜ)

 ドヤ顔をするレインを見て心の中で笑いながら、アルトのほうを見る。

「で、何階だったんだ?」
「おい、それはせこっ……」
「三十三階だったよ」
 レインが止めようとするが、素直なアルトは正直に答えてしまう。

「まじか! 俺と同じ階層だ」

 自分と同じ階層を言われ、シークは素直に驚く。
レインはシークの驚きを見て、更に胸を張りながらドヤ顔をしている。
「おー、そりゃすげー! 遊びに行くのも楽になるな。だが! 驚くのはまだ早いぜ、シーク! 俺の番号の凄いところはここからだ!」

 そう言って持っていたプレートをシークの目の前まで持っていく。

「なんと……3333のゾロ目だったのだ! どうだ、凄いだろ? はっはっはっは!」

 得意げに数字を見せびらかしてくるレイン。しかし、その表情もシークが自分のプレートを見せたことで一変する。そこに書いてある番号も3333。

「「「マジか……」」」

 三人の声が重なった瞬間だった。

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