ノーリミットアビリティ

ノベルバユーザー202613

第7話 死神

それから暫く歩いて、3333号室前。

 無言でエレベーターに乗り部屋の前まで歩いてきた三人だったが、ドアの横についていたネームプレートに自分達の名前があることを確認して、やっとレインが口を開いた。

「本当に三人一緒の部屋だったな」
「ああ」
「凄い偶然だね。列車で一緒だったシークと一緒の部屋になるなんて……。これが運命というものかな?」

 あどけない笑顔で運命という言葉を口にするアルトに、シークとレインは鳥肌を立たせる。

「気持ち悪いこと言ってんじゃねぇよ。男と運命が繋がっているなんてゾッとする」
「それには全面的に同意するぜ。可愛い女の子とならまだしも、なんで野郎と運命が繋がってなきゃならん」
「二人とも素直じゃないなぁ」
「「本気だ!」」
「ははははは」

 息を合わせて否定する二人の説得力のなさに、アルトは笑いながらドアノブに手を掛ける。

「じゃあ、とりあえずここで立っていてもあれだから、早速入ろうか」
「そうだな……、運命云々には議論の余地がある、ひとまず入室するか」
「おう」

 シークとレインも同意し、アルトはドアを開け放つ。すると、中から可愛らしい少女の声が聞こえてきた。

「あ、同室の方ですか? 初めまして、僕の名前は癒雲木防蔓さきづると申します! よろしくお願いします」

 少女……いや、この男子寮にいるからには男子なのであろうが、非常に可愛らしい声、そしてその声に違わず可愛らしい顔の少年がいた。服装も、ゆったりとした布地の男が着ても女が着ても違和感のない部族服を着込んでいる。
 アルトは一瞬だけ防蔓の姿と名前に驚いたものの、すぐに室内に入り名乗る。

「ご丁寧にありがとう。初めまして、アルト・タウロスといいます。よろしくお願いします」

 そう締めくくると、レインとシークを防蔓から見えるように横にずれる。

「初めまして。レイン・ジュゴスだ。横のアルトとは同郷になる。よろしく」

 レインの挨拶はジンや奈落山としたときよりも崩れているのは、相手が一年生であることが確定しているからだろう。

「初めまして。シーク・トトだ。横のレインとは同郷になる。よろしく」
「おい」

 シークのボケに、レインが早速突っ込む。

「え、ええ! ええっとージュゴス君はタウロス君と同郷で、シーク君はジュゴス君と同郷で……、あ、でも同部屋制度は一人までのはず……。あれ?」

 シークの嘘にあっさりだまされた防蔓は、頭を抱えて悩みだしてしまった。そんな防蔓に助け舟を出したのはアルトだった。

「癒雲木君、今のはシークの冗談だよ。僕と同郷なのはレインで、シークとは列車で一緒だったんだ」
「えっ! そ、そうだったんですか。皆さん聞いたことのない苗字でしたので信じてしまいました。ふぅ、びっくりしました」

 嘘を吐いたシークを咎めようとはせず、自分の知識が間違っていなかったことに安堵の笑顔を見せる防蔓。

「それと僕達はファーストネームで呼んでくれて構わないよ。これから一緒の生活をする仲間だからね」
「あ、ありがとうございます! ぼ、僕も名前で呼んでもらって構いません。これからよろしくお願いします!」
「うん、こちらこそよろしくお願いします」

 安心した防蔓は、また頭を下げて挨拶を繰り返す。
アルトもそれに付き合って頭を下げている。

「おい、あの二人、永遠に頭を下げあっているぞ……」
「ああ、凄い絵面だな」

 目の前で行われている頭の下げ合いに、二人はそれぞれ感想を言い合う。
 二人を放置して、シークとレインは荷物を置く為に室内を見回す。
室内は四人一部屋だけあって広い。
入ってすぐ左には、小さい台所にガスコンロやレンジ、湯沸しポットが置いてある。
更には、シークの身長よりは小さいが冷蔵庫まで完備されている。
部屋は入ってすぐに十畳ほどのダイニングで、その先に部屋が二つに分かれていた。

「そろそろ二人とも頭の下げ合いを止めてこっち来い」

 部屋が二つあるので、部屋割りを決めるために二人を呼ぶ。その声に頭の下げ合いを止めた二人がシーク達の下に集まる。

「まず部屋分けだが、同郷だしレインとアルト、俺と防蔓でいいか?」
「はい、僕は構いません!」
「僕もそれで問題ないよ」
「俺も」

 三人が了承したのを確認して、次のステップへと進む。

「じゃあ、次は部屋割りだが……俺は左右にこだわりはないけど三人はあるか?」
「僕はどちらでも構わないよ」
「俺も」
「あ、ああ……あの……」

 レインとアルトはまたしても同意するが、防蔓は何かいいたそうに手を弄くっている。

「ん? どうした、防蔓。左右でこだわりがあるなら……ああ、太陽の位置か?」
「えっ!」

 シークが思い当たる点を口にすると、防蔓は隠そうともせず驚いた顔をしている。

「聞かれたくなかったのなら答えなくてもいいが、防蔓のラストネーム……苗字の癒雲木とその服装。俺の知識が正しければ、それは木神の一族の名前だろ?」
 防蔓の様子から、別に聞いても問題ないと判断したシークは、単刀直入に聞く。
 防蔓はシークが思ったとおり、これといって嫌な顔をせず、むしろ満面の笑顔を浮かべる。

「はい、そうです! 畏れながら癒雲木一族の末席に加えさせて頂いてます!」
「やっぱりか」
(俺が過去を詮索されたくないからって神経質になりすぎているな……)

 防蔓の曇り一つない晴れ晴れしい笑顔を見て、シークは内心苦笑いだ。

「太陽の位置的に右側のほうがよく日が当たるからな。了解。じゃあ俺ら右の寝室でいいか?」
「うんわかったよ。僕らは左側だね」
「おう」
「じゃあとりあえず手荷物を部屋に置くぞ」
「わかった。じゃあすぐお昼ご飯だから、食べた後に送った荷物を取りに行こうか」
「了解」

 それぞれ部屋に荷物を置くと、四人で地下の食堂へと向かう。

「三十三階でラッキーとか思っていたけど、飯食いに行くのにわざわざ三十三階も降りるのはめんどいな」
「だな。これから毎日こんな生活かと思うと……ちょっと憂鬱になるぜ」
「で、でもでも! 毎日高い景色から素晴らしい眺めが一望できますよ!」
「そうだなー、でも、毎日上り下りする手間を考えると……もう一押しほしい」

 防蔓の励ましでもなお面倒くさそうな顔をしているシークに、アルトが助け舟を出す。

「毎日地下食堂まで行く必要は別にないよ。簡易だけど台所はあるし、冷蔵庫もあるから何もない日は僕が料理作るよ」
「あ、ぼ、僕も少しだけなら作れます」

 アルトに便乗して、防蔓も手を上げながらフォローする。

「あー、そういう手があったか。そう言うことなら……まあ大丈夫か。面倒くさかったら最悪飯抜けばいいし。それと因みに俺も飯くらい作れるぜ。これでも手先は器用なんでな」

 シークもそう言うと、三人の視線が最後の一人を見る。

「え、俺? 無理無理、俺が料理なんて作れるわけないじゃん」

 視線に晒されたレインは、何を言っているんだこいつら、という顔で否定している。

「なんでドヤ顔なんだよ」
「レインは料理作るときもサボっていたから」
「別に料理なんて作らなくても死なねぇから大丈夫だ」
「出たな、駄目なやつの定型文。すぐ、死に直結させようとするの」
「うるせぇ」
「じゃあ僕と防蔓君とシークで時間が空いている人が作ろうか」
「はい!」
「ああ、……もし一人分足りなかったとしても文句言うなよ」
「俺の分だよな、それ! 作ってくれよ!」
「ははは、じゃあ行こうか」

 四人はエレベーターで地下の食堂まで行く。

「食堂は男女一緒なのか」
「つか、予想はしていたがむちゃくちゃ広いな。天井のシャンデリアのおかげで地下なのにむちゃくちゃ明るいし」

 先にいる人の顔の表情が分からなくなるほど広い食堂の先まで、入り口から真っ直ぐ長テーブルが伸びている。
広い天井にはどこかの神話をモチーフにしたのか、天使が描かれており、そこから釣り下がっているシャンデリアが、地下の食堂を照らしている。
だが、その長いテーブルには、ちょうどお昼の食事時なのだが、席の五分の一も埋まっていない。
まだ生徒が寮に到着していないのだ。寮の食事は平日は無料なので、食堂のおばさんに欲しいメニューを直接頼む。
四人はそれぞれ昼ご飯をお盆の上に載せてもらった、空いている席に座る。

「いただきます」

 シークはそう呟いてから、自分の頼んだ昼ご飯を口に入れる。

「美味いな」
「うん、お弁当もなかなか美味しかったけどやっぱり作りたては違うね」
「はい! ヘリオスのお料理のようですがとっても美味しいです」
「こんなうめぇもんが食えただけでも学校に来ただけあったな」
「レイン、学校はこれからだよ」

 四人で和やかな談笑をしている最中、シークはアルトとレインがお皿を一つずつ空にしていることに気付いたが、何も言わなかった。

昼飯を終え、先に送っていた荷物を取りに行き、部屋に戻る。

「はぁー……美味かったな。夜は確か新入生懇親会だからこれ以上の品が出るってわけか。うひょー、胸が躍るな」
「お前は飯を食いに学校に来ているのか」
「あはは……」

部屋に帰ると荷物を放って伸びをするレインに、シークが突っ込み、アルトが苦笑している。

「で、では早速荷物を開封しましょう!」
「いや、俺は後でやるよ」
「俺もー。少しねみぃ……」
「丸一日列車の旅をしていたからね。疲れが出るのは仕方がないね」
「あ……ごめんなさい。僕……」

防蔓は列車に乗っていない。セントラルは学園国家ではあるが、学校関係者以外でも大人がいないわけではない。
セントラルの一部地域では、木神の一族とその民が住んでいる領土や水神の一族が住んでいる領土がある。
癒雲木の住んでいる地域がここから近いのだろう。

「いやいや構わないさ。つーわけで俺は寝る」
「じゃあ僕も少し睡眠をとらせてもらうよ。多分ないとは思うけど、もし歓迎会まで起きなかったら起こしに来てもらえるかな?」
「は、はい! 任せてください!」

 気落ちしていた防蔓はすぐに頼られたことで気を持ち直し、笑顔で頷いている。

「んじゃ、よろしくー」
「よろしくね」

 そう言って、二人は左側の自室へと入っていった。

「え、ええっと、シーク君も寝ますか? 僕、がんばります!」
(何を?)

 そうシークははそう思ったが、口には出さず首を横に振る。

「いや、俺はちょっと人と会う約束がある」
「あ、お知り合いの方がいらっしゃるのですか?」
「まあな」
「そうですか……、シーク君ともっとお話したかったのですが、それでしたら仕方ありませんね。僕はお部屋で荷物の開封をしていますね」

 防蔓は少し残念そうな顔をしたが、すぐに笑顔になってそう言ってくる。
何一つシークの言葉を疑ってない曇りのない笑顔にシークは少しだけ心が痛むも、それを表には出さず、努めて平静を装う。

「ああ、よろしく頼む。俺の荷物は場所を取らないし、部屋の内装も特にこだわりはない。帰ってきたら室内が森だった、なんてことになってなければ好きにしてくれて構わないさ」
「そんなことにはならないですよ。でも分かりました。いってらっしゃいです!」

 最後、おどけるように言うと流石に冗談だと分かったのだが、防蔓は少しだけ笑う。

「ああ、行ってくる」

 逃げるように出て行く。行く当てのないシークは、ここからどこに行こうか迷う。
 実のところ人と会う約束なんていうものはない。正直、少し息苦しかったのだ。
普段から他人に興味のなさそうな素振りをしており誤解されやすいが、シークとて人並みに他者に興味があり、人並み以上に人を見る。
そうでなければ防蔓の表情の変化に気付くわけがないし質問もしない。
そして、今までシークは人生の半分以上を一人で暮らしてきており、ジンの家に居候になった時も与えられた部屋は一人部屋だった。

 それが今日から急に同居者が増えたのだ。レイン達はまだ別の部屋だからよしとしても、防蔓はこれからシークの横で寝るのだ。
少し彼らから離れ、一人で考える時間がほしかったのだ。
 行く当てもないので、なんとなく最上階へと上りふらふらと歩いていると、女子寮への連絡通路を発見した。
 立ち入り禁止の看板もないので何となく行ってみる事にした。
しかし、女子寮へと続く橋の間にドアがあり、開けて中に入ると大きな広場があった。

広場には机がいくつも置いてある。
飲み物やお菓子の自動販売機まで完備してある、男女で一緒に勉強したり遊んだり談笑したりするためのスペースだった。

今日は初日の為、周りを見回しても誰もおらず、ここなら少しゆっくり出来ると、飲み物とを買って外の景色が見える端っこの椅子に座る。

 外は草と花が生い茂る通学路を、夕焼けが照らし、辺りをオレンジ色に染め上げている。
 綺麗だった。三十五階からの景色ともなると丘の先にある校舎まで見える。世界中の超能力者をたった十組で受け持つのだ。その校舎も相当に大きく、広かった。暫くその光景を見ながら飲み物を飲む。

「ん? あ、無くなったな」

 中身を全く見ずに飲んでいたら、缶一本分をいつの間にか飲み終わっていたようだ。

「さて、行くか」

そう呟いて立ち上がった瞬間、

「何処に?」 
「っ!?」

 その声が聞こえた瞬間、シークは瞬時に飛び上がり、声が聞こえた方向とは逆の方向へと跳び、距離をとる。

(この俺がこの距離に近付かれるまで気付かなかっただと? バカな! あり得ない!)

 シークは幼少期を荒れ果てたスラムで過ごしてきた。
油断が死を生む世界で過ごしてきたシークにとって、例え景色に目を奪われようと一年生しかいないはずのこの寮内でここまで接近されるなど信じられなかった。

「誰だ!」

 シークは声を掛けてきた人間に向かって叫ぶ。

「そんなに叫ばなくてもちゃんと聞こえているわよ」

 少女の甘えた子猫のような声が柱の影から聞こえてくる。

「姿を見せろ」

 出来る限り心の内を隠しながら平静を装う。しかし、それでも流れる汗までは止められない。

「うふふ、女の子に向かって姿を見せろだなんて。そんなのじゃ、女の子に嫌われちゃうわよ?」
「うるせぇよ。とっとと姿を見せるか立ち去るか選べ」
「もー、せっかちさんなんだから。仕方のない子ね」

 子どもを叱るような優しい声とともに、柱の影から一人の少女が現れる。

「なっ!」

 シークが驚くのも無理はない。
柱から出てきたのは、その声に違わない幼い少女だったからだ。
年はシークと変わらないだろう。寧ろそれより低くも見える。
極めつけはその服装。白を基調とした黒いリボンで所々をあしらったフリフリが付いているワンピース。世間一般にはゴスロリ服と呼ばれるそれを、ウェーブのかかった美しい紫色の髪をした少女が見事に着こなしていた。
そんな少女がシークの背後をこんなにもあっさりと取れるなど信じられなかった。
 しかし、彼女はそんなシークの内心を知ってか知らずか、その小さな手の平を口元に当てながら話を続ける。

「そんなに離れていたら話し辛いわ。もっと近くで話しましょう」

 少女の声は先ほどと同じ優しい声音で話しているのだが、シークは冷や汗が止まらなかった。

「悪いな。俺は人見知りでね。これ以上女の子の近くに行くと上手く喋れなくなっちまうんだ」
「うふふ、そんな必死に嘘なんてつかなくてもいいのに。可愛い子ね」
「……いつからだ。いつから俺の後ろにいた?」

 一流の隠密系統の超能力者ならば、素人相手に丸一週間付きっきりで真後ろを歩ける。
シークはそんな能力者を知っている。
それでもなお、目の前の少女のほうが数百倍危険な存在だと断言できる。
匂うのだ。圧倒的強者の匂いが。そしてそれは嗅いだことのある匂いだ。

(義兄さんと同じ匂いだ……)

 しかし、ジンと彼女では纏っている覇気の種類が絶望的に相容れない。ジンが人を包み込む大らかでありながら従いたくなるような覇気であるならば、少女が纏っているのは見た瞬間に目を逸らしたくなるような死を伴った覇気。
 存在自体が死であるかのような少女。死神というのがこの世に存在したのなら、それはきっと彼女のことだろう。シークはジンには勝てない。シークがどれだけ必死になろうと、ジンはそれを容易く捻ってしまう。
恐らく彼女はそんなジンと同等以上の強さを持っている。 

(こいつがもし……、もし隠密系能力者なら……列車に乗っている最中から……)

 そこまで考えた瞬間、全身に鳥肌が立つ。

(あり得ない……そんなことはあり得ない!)

 内から沸き起こる恐怖をかき消すように内心で叫ぶ。目の前の事実から目を背けたくなる。
こんな簡単に背後を取られるほど盲目していないと思いたくなる。
そんなシークの内心を知ってか知らずか、少女はくすくすと笑いながら質問に答える。

「ふふふ、そんなに警戒しなくてもいいわ。私が貴方の後ろにいたのはついさっき。貴方がそこで黄昏ていたときよ」
「……俺の背後を取った理由は?」
「貴方の黄昏ている姿に一目惚れをしたから」

 人差し指を真っ赤な唇当て、吸い込まれるかのような闇色の瞳を片方だけ閉じている姿は彼女の魅力をより一層引き立てた。 
 だが、シークはその可愛らしい仕草に少しも動揺することなく淡々と返答する。

「それはありがとよ。だが愛の告白なら間に合っている。他所に行ってく……!」

 素っ気なく断ろうとしたシークに沸き起こる寒気。それと同時に、彼女の死の覇気が刃となってシークの首筋を横切った。

「レディーのお誘いをそんなあっさり断るなんてあまりに酷すぎるわ。殺しちゃおうかしら」

 彼女の声音は全く変わっていない。変わったのは雰囲気だけ。ただでさえ漏れていた殺気が、今や部屋中に充満するまでになっている。彼女がその気ならシークは一瞬で死ぬ。
 ごくりと喉を鳴らし、彼女の裁定をジッと待つ。しかし、彼女はふっと殺気を消すと、またクスクスと笑う。

「ふふふ、冗談よ。もう、本当に可愛いわね。ペットにしたいくらい」
「……」

 シークは沈黙する。彼女はそれを気にした様子もなくシークに背中を見せる。

「私の名前はミゼラブル。ミゼって呼んで頂戴。会えてよかったわ。またどこか出会いましょう? ふふふ」

 その言葉を最後に、ミゼは女子寮へと続く扉の奥へと行ってしまった。

「……」

 ミゼが視界から消えてもシークはその場から動けずにいた。
扉の先に出て行ったと見せかけて戻って来ないとも限らない。
それからしばらくの間、その場で動かず感覚をより鋭利にしていく。それと同時にシークは自分の気配を段々と薄くし、落ちていく太陽の光がとうとうシークを射さなくなるほどに薄くなっていった時、女子寮へと続く扉の奥からこちらに誰かがやってくる気配がする。
雑ではあるが、本人は恐らく気配を消しているらしい。
それを察知したシークの行動は早い。
一瞬で扉の上の壁に背中を付けて張り付くと、息を潜めて訪問者を待つ。
やはり段々とこちらに近付いてきているが普通の歩ではない。
何かを警戒するような通常よりもゆっくりとした歩き方だ。

普通の人間には聞こえずとも、他人より感覚が敏感なシークの耳は、そのほんの小さな足音を拾っていた。
シークは息を殺し、出来うる限り自身を無音に保つ。
侵入者は、ゆっくりとドアノブに手を掛け、ゆっくりと回す。
数秒間、誰もいないことを確認し、ゆっくりとドアを開け中に入ってくる。

 その瞬間、自然に倒れるように壁から降りたったシークは、地面に降り立つと同時に侵入者の腕を取り、開いた左腕で首を締め上げ無力化させる。出来れば刃物を持っておきたかったが、超能力者であればシークに限らず相手に直接触れるだけで問題ない。

「なっ……!?」
「動くな……」
(……?)

 シークが呟くと相手の動きも止まる。
 その体がシークが予想していたよりも少し大きい。
ミゼが目算で百四十センチ位だったのに対して、今シークが締め上げている少女は百五十五センチ位ある。それに、鼻腔をくすぐる嗅いだことのある甘い匂いが。

「……何者だい、君は? 私は人に殺されるほど恨まれることをした覚えはないけど……」

 それはつい先ほどまで聞いたことのある声だった。

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