お兄ちゃんがお母さんで、妹が甘えん坊なお話

ただのものかき

番外編_もしお母さんが生きていたら

「うふふ~♪涼羽ちゃんったらなんでこんなに可愛いの~?」

「お、お母さん…俺…男だし、もう高校生なんだから…」

「でも涼羽ちゃんは私の子供でしょ?お母さんってね、子供を可愛がらないとだめな生き物なの」

「そ、それなら羽月の方を可愛がってあげれば…」

「ええ、羽月ちゃんは羽月ちゃんで可愛がってあげる。でも、涼羽ちゃんは涼羽ちゃんで可愛がってあげないとだめなの」



休日となる土曜日の早朝。

単身赴任から帰ってきた父、翔羽は日々多忙でここしばらく休日出勤も非常に多くなかなか休めなかったからか、久々の休日となるこの日はまるで死人のように静かに眠っている。

涼羽の妹である羽月も、いつもは大好きでたまらない兄に優しく起こしてもらうのが常日頃となっているため、父と同じように静かに眠っている。



その二人を含めた朝食作りや洗濯、掃除などの家事をするため、涼羽とその母、水月はすでに起きており、今は台所で二人、家族四人分の朝食を作っている。

涼羽の母である水月は年齢こそ四十台に届いてはいるものの、年齢と容姿が一致しないことで近所からは有名となっている高宮家の例に違わず、非常に若々しい容姿を持っている。



特に母親の容姿を色濃く受け継いでいる涼羽とは非常に容姿が似通っており、しかしそれでいてその涼羽を少し大人びた印象にしたものとなっているため、初見で涼羽と水月の二人が親子であるなどとは十人中十人とも思えないほど。

まず水月が大学生くらいの姉で、涼羽が中学生くらいの妹に見られてしまう。

それでいて華奢でありながらも女性として見事な曲線を描いているそのスタイルは、見る人の目を思わず奪ってしまう。



そんな自分と非常に似た容姿の涼羽とお揃いのファッションに身を包みたくなる水月は、事あるごとに男子である涼羽に女の子の衣類を着せてとにかく可愛がってしまう。

今も、自分と一緒に早起きした涼羽に自分が普段から着ているクリーム色の落ち着いたデザインのセーターに膝より下の丈のふんわりとした濃い灰色のロングスカートを着せている。



水月がヘアピンで前髪を分けて顔の右側を出しているように涼羽もヘアピンで前髪を分けて母とは逆の左側を出している。

腰の下まである涼羽の長い髪は後頭部の上の方で一つに束ねられており、髪を束ねるのに使っている水色のリボンがまた、涼羽の可愛らしさを強調している。



そんな涼羽が母である自分と一緒に家事に取り組んでくれることが嬉しくて、可愛くてたまらず、水月は涼羽のことをぎゅうっと抱きしめて、露わになっている左頬に自分の右頬をすりすりとくっつけている。



涼羽は涼羽で母とこうして家事に勤しむことは楽しいのだが、もう高校三年生にもなる息子にまるで幼子のように接してくる母の愛情が恥ずかしくてついつい顔を赤らめて儚げな抵抗を見せてしまう。

もちろん、そんな涼羽がまた可愛くて可愛くてたまらず、子供大好きな水月がますます涼羽のことを可愛がってしまうのは言うまでもない。



「あ~もお~♪こんなに可愛い涼羽ちゃんと一緒に家事ができてお母さん幸せ♪」

「そ…そもそもなんで俺、お母さんの服着ないとだめなの?…俺、男だよ?」

「そんなの、涼羽ちゃんが可愛いからに決まってるじゃない♪涼羽ちゃんみたいな可愛い子が可愛い恰好するのなんて、当たり前なんだからね♪」



母と息子でありながら、涼羽と水月は身長も体格も非常によく似ている。

さすがにかなりの自己主張をしている女性の象徴などは男子である涼羽にはないものの、ほっそりとくびれた腰はわずかではあるが母よりも細く、お尻のラインもやや小ぶりではあるものの女性らしい曲線まである。

ゆえに母、水月が着ている服も無理なく着ることができており、今の涼羽はどこからどう見ても清楚で可憐な美少女にしか見えない容姿となっている。



「もお~涼羽ちゃんったら、これが男の子の腰だなんて詐欺よ♪詐欺♪」

「!ひゃっ!…い、いきなり腰を掴まないで…」

「それに、お尻も綺麗な丸みがあって可愛い♪」

「!ふあっ!…だ、だから触らないで…」

「お母さん、ほんとに涼羽ちゃんが大好きで大好きで、可愛すぎて可愛すぎてたまらないの♪だからこんなにも触っちゃうし、可愛がっちゃうの♪」



最愛の長男である涼羽の身体をぎゅうっと抱き寄せ、まるで鏡を見ていると思うほどにそっくりな息子の顔を堪能しながらすりすりと頬ずりまでしてしまう水月。

そんな母、水月に対してツンツンとした抵抗の言葉は出てしまうものの、決して邪険に扱うことなどなく、抵抗らしい抵抗もできない涼羽。



「…も、もお…」



結局のところ、こんなにも自分のことを愛してくれる母、水月に抵抗などできるはずもないというのは涼羽自身、常日頃から思っているため、こうしてほぼなすがままにされることとなっている。

ただ、それでも自分が男であることは強調したいのか、その目いっぱいの愛情を隠すどころか前面に押し出してくる水月に少し拗ねたような表情を浮かべてしまう。



もちろん、そんな表情をした涼羽もさらに愛して可愛がってあげたくなるような可愛らしさに満ち溢れており、すでに天元突破しているその愛情がさらに膨れ上がっていくのを水月は感じてしまう。



なんやかんやで手はしっかりと動かしているため、母と息子の触れ合いの時間ともなっている朝食作りもほぼ終わりを迎え、後は配膳を残すのみとなっている。



「涼羽ちゃんったら、本当にいいお嫁さんになれるわね♪」

「!俺、男なんだからお嫁さんになんてなれないの!」

「でもだめよ?涼羽ちゃん」

「?な、なにが?」

「決まってるじゃない!涼羽ちゃんはお母さんのお嫁さんになるんだから、誰にもあげないの!」

「!だ、だからそんなこと言わないでよ!お母さん!」

「そうよ、こんなにも可愛くて可愛くてたまらない涼羽ちゃんをお嫁さんにだなんて…誰が許してもお母さんは絶対に許さないわ」

「だから俺はもらう方で、もらわれる方じゃないってば…」

「安心してね♪涼羽ちゃん♪涼羽ちゃんはお母さんと羽月ちゃんとお父さんがず~っと大事に大事にしてあげるから♪羽月ちゃんだって、涼羽ちゃんのこと大好きで大好きでたまらなくていつもべったりして…お母さん涼羽ちゃんと羽月ちゃんがい~っぱい仲良くしてくれるだけで本当に幸せよ♪」



とにもかくにも涼羽が可愛くて可愛くてたまらない水月。

その涼羽と同じくらい可愛い娘である羽月のことも、今涼羽にしているようにべったりと抱きしめて可愛がったりするほど溺愛している。

特に羽月が兄、涼羽にべったりと抱き着いて甘えている時の幸せいっぱいな笑顔と、妹、羽月に甘えられて困りながらもどことなく嬉しそうな涼羽の笑顔を見ているだけで、水月はこの世の幸せを独り占めできているかのような幸福感に満ち溢れてくる。

世間一般的に見れば度を超えたブラコンと言える羽月の涼羽に対する執着心と独占欲すらも、水月は不安に思うどころか嬉々として受け入れている。



夫である翔羽が会社の中でも重要なポストを任されており、結構な高給取りであるため水月は専業主婦として基本的にはずっと家の中にいる。

そして、涼羽と羽月が学校から帰ってくるとこれでもかと言うくらいに二人の子供を可愛がっている。



家の中で家族と触れ合うことが本当に幸せなのか、自分一人でどこかに行きたい、と思うこともなく、外出は買い物の時くらいのものとなっている。

そのため、商店街ではその姿を見ることができただけでも幸運とまで言われるほどの美人として、町内では有名な存在となっている。



「あ~…お母さんほんと幸せ~」



自分の血を引いた、自分と瓜二つと言っても過言ではないほどにそっくりな息子である涼羽が本当に可愛くて可愛くてたまらないのか…

水月は涼羽の露わになっている左頬に、親愛の情を表すように自らの唇を落とす。



「!!お、お母さんったら…もう…」



いつまでたっても幼子を可愛がるように、もう高校三年生にもなる男子の自分を可愛がってくる母、水月の愛情表現に涼羽はついつい恥ずかしがってしまう。



「お母さん、涼羽ちゃんと羽月ちゃんみたいな可愛くていい子がいてくれてほんとに幸せ」

「!!お母さん…」

「お母さん、涼羽ちゃんと羽月ちゃんが大好きで大好きでたまらないの」

「…もう…」



だが、母である水月のまっすぐな愛情を言葉でも行動でもぶつけられては…

涼羽も言葉では抵抗するものの、決して邪険になどできるはずもなく…

結局は水月のしたいようにさせてしまうことと、なっている。



「涼羽ちゃん、お母さんのところに生まれてきてくれてほんとにありがとう」

「え…」

「お父さんも、お母さんも、涼羽ちゃんと羽月ちゃんがいてくれてほんとに幸せ」

「お母さん…」

「涼羽ちゃんはこの家の初めての子だし、羽月ちゃんっていう妹がいるからほんとにしっかり者さんになってくれたけど…でも、甘えるところは甘えてね?」

「う…」

「お母さん、涼羽ちゃんが甘えてきてくれたらいくらでも甘やかしちゃうくらい涼羽ちゃんが大好きなのよ?」

「あう…あ…あり…がとう…」

「涼羽ちゃんがしっかり者すぎて、お母さんが逆に甘えることが多いけど…でもお母さんも涼羽ちゃんに甘えてきてほしいの」

「も、もう…恥ずかしいよ…」

「うふふ…涼羽ちゃんほんとに可愛い♪」



恥ずかしがってはいるものの、決して母である自分を邪険にしない涼羽のことが愛おしくて可愛くてたまらない水月。

自分のところに授かることのできた子供が、こんなにも可愛くて愛おしくて、本当にいい子に育ってくれて…

水月は毎日が幸せでたまらない。



「ふあ~…おはよ~…」



水月が涼羽のことをただただ可愛がっているところに、寝起きの間延びした、それでいて鈴のなるような声が響く。

この家のもう一人の子供である羽月が目を覚まして、真っ先に大好きな兄がいるはずのキッチンにその姿を現した。



「羽月ちゃん、おはよう!」

「羽月、おはよう」



羽月の声にすぐさまと言った感じで反応し、朝の挨拶を返す二人。

水月は目に入れても痛くないと断言できるほどに愛おしい娘が来てくれたことで、ますますその年齢不相応な若作りの顔に幸せに満ち溢れた笑顔が浮かんでくる。

涼羽も可愛い妹が起きてきたことで、その性別不相応な美少女顔に非常に母性的な笑顔を浮かべる。



「お兄ちゃん、朝のぎゅ~」



まだ頭の中が完全に目覚めていない様子の羽月は、まるで幼い子供のような舌足らずな口調で兄、涼羽を求めるようなことを音にすると、そのまま寝ぼけ眼で涼羽のそばまで近づき、その胸に顔を埋めてべったりと抱き着いてくる。



「ふふ…羽月はほんとに俺にべったりするの、好きだね」



寝ぼけた状態でも兄である自分にべったりと甘えてくる羽月が可愛くて、羽月を包み込むようにぎゅっと抱きしめて、その頭を優しくなで始める涼羽。



「えへへ…お兄ちゃん、だあい好き…」



最愛の兄に優しく包み込まれていることが嬉しくて、幸せでたまらないのか…

羽月の顔に本当に幸せそうな笑顔が浮かんでくる。



「もお!うちの子達はなんでこんなにも可愛いの~!?」



そんな兄妹のやりとりが本当に可愛すぎてたまらなくなってしまった水月は、仲睦まじくお互いに抱き合ってる涼羽と羽月を自分だけのものにするかのようにぎゅうっと抱きしめる。



「お、お母さん…」

「わ~い!お母さんもぎゅうってしてくれて、すっごく幸せ!」

「羽月ちゃん、ありがとう!お母さんもすっごく幸せ!」



涼羽はついつい恥ずかしがってツンツンとした態度になってしまうものの、それでも水月のことを邪険にしないあたり、やはり母のことは大好きなのだろう。

羽月は兄と同じくらい大好きな母にもぎゅうと抱きしめてもらえて本当に幸せと言った感じの笑顔を浮かべてはしゃいでしまう。

そんな涼羽も羽月も可愛くて、水月はその笑顔をゆるゆるのとろとろにしてしまう。



何も知らない者が見れば本当に仲睦まじい美人三姉妹という光景が展開されていて…

見る者を幸せな気持ちにできる、そんな雰囲気と力を感じてしまう。



恥ずかしそうに頬を赤らめながらも、涼羽は母、水月と妹、羽月がこんなにも仲睦まじくいられることに、言いようのない幸福感を感じていた。





――――





「――――ん……あれ?」



そんな幸せいっぱいの光景がふっと途絶えたと思ったら…

時刻は早朝の五時半。

ぱっちりと開いた、大きくくりくりとした目に映ってきたのは、いつも通りの自室。

自分の胸の中に、妹の羽月がべったりと抱き着いて寝ているのもいつも通り。



確か自分は、もうすでに起きて朝食の準備をしていたのではないか。

それを、一人ではなく、母である水月と。



そこまで思った瞬間、涼羽の思考はクリアになっていく。

そして、そこまでの光景は――――





「…夢、だったのか…」





物心がつくかつかないか、くらいの時にはもう、この高宮家には『母親』と呼べる存在は…

もうこの世にはいなかったこと。

それを、また実感することとなった。



あまりにも現実味のある夢だったために、母、水月が故人であるという事実…

そして現実が、やけに寂しく、そして悲しく感じてしまう。

気が付かないうちに、涼羽の瞳からほろりと、一筋の涙が零れ落ちてしまう。



あの夢は、現実の涼羽と羽月にはなかったものばかり。

母に包まれて、愛されること。

母と共に家事に取り組むこと。

妹、羽月と共に母と仲睦まじく触れ合うこと。



明確な記憶もなかったにも関わらず、夢の中の母、水月は今生きていたら本当にそんな人であると確信できるほど現実味溢れた存在になっていた。

夢の中でとはいえ、そんな母とのわずかながらの触れ合いは、涼羽の心に確かな幸福感を与えてくれた。



それゆえに、現実に戻ってきた時の喪失感も確かなものとなってしまった。



「…お母さん…」



あんなにも生きていると実感できて、そばにいてくれて当然とまで思えるほどに温かかった母がもうこの世にはいないという現実。

十五年の時を経て、涼羽はその現実を実感してしまう。



どうして今、こんな夢を見てしまったのか。

どうして今になって、母の死という実感を味わうことになってしまったのか。



涼羽の目から、涙が溢れて止まらない。

そして、当時その現実を突きつけられたあげくに、自分達と引き離されるような転勤を命じられてしまった父、翔羽の悲しみも同時に実感してしまう。



「…お父さん…こんなにも悲しいことがあったばかりで、あんな転勤を…」



当時の父の心境が、嫌でも分かってしまう。

どれほど悲しかったのだろう。

どれほど辛かったのだろう。

それを思うだけで、涙が溢れて止まらない。



そして、夢の中で見た通りなら、母、水月も自分達子供とこの世で触れ合えないこと…

子供が成長していく姿をこの目で見られないこと…

それらが、どれほど悲しくて、どれほど辛かったか…

それを思うと、ますます涙が溢れてしまう。



涼羽はそのまま、誰に見られることもなく…

ただただ、両親のことを思って静かに、涙を流し続けた。

コメント

  • ノベルバユーザー601714

    ランキングから拝見しました。ほのぼのしたホームドラマかと思いきやブラコンがすごい。

    1
  • ヘンゼルとグレテル

    ランキングで紹介されてたので拝見しました。
    普通に面白かったです。
    ストーリーも独特で、展開が読めない分続きが気になります!

    0
  • ノベルバユーザー432686

    更新待ってました!((o(。>ω<。)o))

    0
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