お兄ちゃんがお母さんで、妹が甘えん坊なお話
…本当に、やめたのかしら?…
「…どうして?…」
周囲にその状態を非常に心配され、二週間の休暇を余儀なく取得することとなった麗香。
その休暇の初日は本当に何もする気が起こらず、加えて電話そのものが怖くてスマホの電源を切った状態でただただ、進吾と同棲中の自宅に一日引き篭もることとなった。
特に空腹を感じることもなかったため、食事を全く摂ることもなく、本当に何もせずに一日ベッドの上に寝転んでいたら、そのまま翌日の朝まで眠っていたという有様。
さすがにこのままズルズルと行くのはマズい、だらしがないと言う思いが麗香の心に芽生えてくる。
根がしっかり者ということもあって、今の自分の状態を無視できないため、翌日目が覚めてすぐに朝食の準備をし、食事を摂っていた。
その後、さすがにスマホの電源を切りっぱなしにしていたため、友人知人、そして恋人である進吾からの連絡があるのではないかと思ってしまう。
自身をここまで追い込んだ無言電話が怖いと言うのはあるが、だからといってこれ以上連絡が取れない状態を継続するのもだめだと思い、おそるおそると言った感じでスマホの電源をオンにする。
だが、会社の同僚達は気を利かせてくれたのか特に連絡もなく、恋人である進吾も出張先の仕事が忙しいのかやはり連絡はなかった。
重要な連絡を見逃していた、という事態に直面することがなかったため、そのことにはほっと一息だった麗香。
だが、自分一人だけの状況なら一日中鳴り響いていた、と言っても過言ではないほどあった無言電話が、昨日一日はまるでなかった。
本来ならば喜ぶべきことなのだが、いきなりかかってこなくなったことに却って不信感を抱いてしまう。
だが、スマホの電源をオンにしたのが朝食を摂った後すぐ。
現在は昼食も終えて夕食の準備も終えたところ。
もう夕方も過ぎ、辺りも暗くなり始めた頃だが、一向に電話が鳴る気配がない。
あれほどに鳴り響いて自分の神経を攻撃し、追い詰めていたあの音が鳴らない。
それも、これほど長い時間。
「…本当に、やめたのかしら?…」
今は同居人である進吾もおらず、完全に一人っきりの状態。
それを無言電話の犯人も、これまでのパターンならどこかで把握しているはず。
なのに、驚くほど突然に訪れた平穏。
さすがにまだ疑心暗鬼の状態は続いているものの、ずいぶんぶりに訪れた平穏な時間に、これまでの無言電話攻撃で疲弊しきった精神が癒されていくかのような感覚が、じわりじわりと芽生えてくる。
まだ警戒心を完全に解かないまま、麗香はゆっくりと夕食の支度にとりかかるのだった。
――――
「青山さん!」
場所は変わって、進吾の出張先となる地。
昨日はかなり遅くまで晶と飲むこととなった進吾。
結局隣同士の席で、晶にべったりとされながら閉店まで飲んでいた。
進吾としても、他の席の客が思わず視線を向けるような美人である晶に、かなりあからさまな好意を向けられて当然ながら悪い気はするはずもなく…
むしろいい気分しかなかったわけなのだが。
とはいえ、さすがに心に決めた恋人がいる身で他の女性に鼻を伸ばすことに罪悪感がちゃんと芽生えてくる進吾。
加えて、えらくハイテンションにハイペースに飲んでしまい、完全に酔いどれ状態となってしまった晶を支えてどうにか宿泊先まで送ろうとした。
ろれつも回っていない晶から宿泊先を聞くのはかなり苦労したのだが、偶然にも自分と同じホテルだったことが判明し、心底ホッとした進吾。
晶をどうにか宿泊部屋に連れて行き、酔っているためか無理やり自分をベッドに引き込もうとする晶をなだめて寝かせて、ようやくと言った感じで自分の宿泊部屋に戻り、風呂と作業の報告書作成を済ませて眠ったのが午前三時過ぎ。
そして七時に目を覚まし、宿泊内容に含まれていたバイキング形式の朝食を済ませる。
そして洗顔、歯磨き、着替え、荷物のまとめなどを全て済ませると、現地に向かうために八時にホテルを後にする。
そして八時半に現地に到着すると、そこから作業開始。
二日酔いなどにはさすがにならなかったが、かなり睡眠時間を削られてしまったことで眠気との戦いが作業中に勃発することとなってしまう。
それでも特に問題なくこの日の作業も終了。
十七時には現地を後にし、宿泊先であるホテルを目指して本当に畑や田んぼばかりの風景を眺めながら足を進めていく。
その途中、まるで昨日の再現であるかのように、昨日と同じ場所で晶が姿を現す。
昨日と唯一違うのは、まるでこの世の幸せを全て独り占めできたかのようなまばゆいばかりの笑顔を浮かべながら大きな声を進吾にかけてきたこと。
もう、誰が見ても明らかなほどに、晶は進吾に好意を寄せている。
「お…おう…」
そんな晶を見て、進吾は思わずしどろもどろな返事をしてしまう。
本来は竹を割ったようなはっきりとした性格であるだけに、このような反応は珍しいと言える。
もともと異性に目がない性格ではあるものの、だからと言って手当たり次第などということは決してない。
ましてや、すでに心に決めた人がいる今となっては、別の女性にこうして見るだけで分かるほどの好意を向けられても正直困ると、進吾は言わざるを得ない。
自分の中で、その好意に対する回答が決まっているのならば、なおさらだ。
「にしても…あんたも物好きだな。俺はもう恋人がいる身だって、昨日言ったはずだけどな」
そう、昨日の時点で進吾は晶に心に決めた人がいるということを伝えている。
ご機嫌な犬のように尻尾を振っている姿がそのまま当てはまる様子で自分のそばに寄ってくる晶に対し、その好意に対して応えるつもりはないと、遠まわしな発言を声にする。
「ええ、それは聞きましたよ?」
「?じゃあなんで…」
「でも、それで私があなたのことをあきらめるだなんて、言ったつもりもありませんけど?」
「……そういえばそうだったな」
「今はどうにもならないことくらい、私にだって分かります…でも、せめてあなたを想うことくらいは許して…もらえませんか?」
「……あんた、なんでわざわざ困難な方を選ぼうとするんだ?あんたなら、その気になればいくらでもいい男、モノにできんじゃねえのか?」
進吾は、いろいろな女性と交友関係を広げ、深めていったりはしていた。
傍から見ればフラフラとして女に節操がなく、だらしがないと思われがちだった。
だが、その中でも本気になれない相手は一定の距離を取って接していたし、以外にも身体を重ねあうような関係にまでなることもなかった。
異性と交流するのは非常に好きなのだが、男と女の関係に、となるとどうしても踏み込めない。
踏み込むと、その前段階の軽い関係が保てなくなるから。
踏み込むと、他の女性との交流が困難になってくるから。
進吾の本質は、傍からの印象、評価とはまるで違う奥手でヘタレな男なのだ。
そんな進吾が、その一歩を踏み越えた関係を望んだのが麗香。
麗香と恋人の関係になってからは、あれほど見た目は派手だった女性との交流も驚くほどに消滅し、今となっては麗香の友人知人のみとなっているほど。
実際にはそれほど、進吾は女性に対して一途な性格だったのだ。
だからこそ、すでに決めた人がいる相手を思い続け、さらには奪い取ろうとするという…
展開次第では誰も幸せになれない、最悪の結末を迎えるかも知れない方を嬉々として選ぼうとする晶の心境が、どうしても理解できなかった。
だからこそ出てしまった、進吾の晶への疑問の言葉。
そんな進吾の言葉にも、晶は一瞬呆気に取られたかのような表情を浮かべるものの、それもすぐに恋する乙女と言った表情に変わる。
「…だって、好きになるってそういうことじゃないですか」
「え?」
「…本当に好きになっちゃったら、もうどうしようもなくなっちゃうじゃないですか」
「?そ、そうか?」
「だって…その時『この人!』って想えた人にアタックしなかったら、次はいつその人に会えるのか分からないですし!」
「!お、おお…」
「それに…本当に好きだった感じたら、行かないとだめだと思うんです!だって――――」
「――――それが私にとって運命の人だったなら、たとえどんな状況だったとしても絶対に結ばれると思うんです」
「!!……」
どこまでも真面目で真っ直ぐな晶の言葉に、進吾は驚きを隠せなかった。
実際、進吾自身も麗香との出会いは運命だと思っている。
それゆえに、なおさら今の晶の言葉は心に刺さることとなる。
進吾と麗香の場合は、出会った時にお互いがフリーだったこともあって、とんとん拍子に恋人関係にまでなることができた。
だからこそ、晶のような危機感や運命的な感覚を覚えることがあまりなかった。
運命だと感じるようになったのは、恋人同士になってからなのだから。
晶は、これまでのめぐり合わせが非常に悪く、美人とされる容姿とその一途さゆえに恋人関係になるまでは早いのだが、なってからが噛み合わなくなってくる、という悪循環が続いている。
やはりその真っ直ぐさと一途さゆえの独占欲…
それが相手にとって非常に束縛感を覚えさせてしまうものとなっている。
だからこそ、相手の方が早々に晶との付き合いにまいってしまい、恨みごとも含めての別れ話を切り出されることとなる。
もっとも、これまでの晶の相手はそんな真っ直ぐさや一途さをよしとしない、どちらかと言えばライトな関係を求めていたということもあるのだが。
さすがに別れた直後はその感情の整理に苦しむこととなってしまうのだが、時間が解決してくれた後は気持ちを切り替えて次の出会いに賭けるようになる。
だが、元々惚れっぽいところもあるためか、これまでは同じようなタイプの相手ばかりに交際を求め、同じように別れ話を切り出されることとなっている。
だからこそ、進吾の言葉を聞いて晶は今度こそ、この人が自分にとっての運命の人だという確信を持ってしまう。
進吾のその言葉や誠実さ、女性を大切にする心を晶はその目で見、その耳で聞いてしまったから。
一度偶然見かけただけなのだが、晶は進吾のいい人が本当に美人で、本当に気立てのいい人だということを晶は十二分に知っている。
だからこそ、その麗香が進吾のそばにいないこの時こそ、自分にとってのチャンスだと晶は思っている。
麗香への想いは決して揺らぐことなどないという確信は持っているものの、ここまで自分に好意を向けてくれる晶のことをむげにすることなどできず、結局この日も進吾は晶に連れられて、宿泊先の近くにある、昨日とは別の居酒屋へと向かうことになるのであった。
周囲にその状態を非常に心配され、二週間の休暇を余儀なく取得することとなった麗香。
その休暇の初日は本当に何もする気が起こらず、加えて電話そのものが怖くてスマホの電源を切った状態でただただ、進吾と同棲中の自宅に一日引き篭もることとなった。
特に空腹を感じることもなかったため、食事を全く摂ることもなく、本当に何もせずに一日ベッドの上に寝転んでいたら、そのまま翌日の朝まで眠っていたという有様。
さすがにこのままズルズルと行くのはマズい、だらしがないと言う思いが麗香の心に芽生えてくる。
根がしっかり者ということもあって、今の自分の状態を無視できないため、翌日目が覚めてすぐに朝食の準備をし、食事を摂っていた。
その後、さすがにスマホの電源を切りっぱなしにしていたため、友人知人、そして恋人である進吾からの連絡があるのではないかと思ってしまう。
自身をここまで追い込んだ無言電話が怖いと言うのはあるが、だからといってこれ以上連絡が取れない状態を継続するのもだめだと思い、おそるおそると言った感じでスマホの電源をオンにする。
だが、会社の同僚達は気を利かせてくれたのか特に連絡もなく、恋人である進吾も出張先の仕事が忙しいのかやはり連絡はなかった。
重要な連絡を見逃していた、という事態に直面することがなかったため、そのことにはほっと一息だった麗香。
だが、自分一人だけの状況なら一日中鳴り響いていた、と言っても過言ではないほどあった無言電話が、昨日一日はまるでなかった。
本来ならば喜ぶべきことなのだが、いきなりかかってこなくなったことに却って不信感を抱いてしまう。
だが、スマホの電源をオンにしたのが朝食を摂った後すぐ。
現在は昼食も終えて夕食の準備も終えたところ。
もう夕方も過ぎ、辺りも暗くなり始めた頃だが、一向に電話が鳴る気配がない。
あれほどに鳴り響いて自分の神経を攻撃し、追い詰めていたあの音が鳴らない。
それも、これほど長い時間。
「…本当に、やめたのかしら?…」
今は同居人である進吾もおらず、完全に一人っきりの状態。
それを無言電話の犯人も、これまでのパターンならどこかで把握しているはず。
なのに、驚くほど突然に訪れた平穏。
さすがにまだ疑心暗鬼の状態は続いているものの、ずいぶんぶりに訪れた平穏な時間に、これまでの無言電話攻撃で疲弊しきった精神が癒されていくかのような感覚が、じわりじわりと芽生えてくる。
まだ警戒心を完全に解かないまま、麗香はゆっくりと夕食の支度にとりかかるのだった。
――――
「青山さん!」
場所は変わって、進吾の出張先となる地。
昨日はかなり遅くまで晶と飲むこととなった進吾。
結局隣同士の席で、晶にべったりとされながら閉店まで飲んでいた。
進吾としても、他の席の客が思わず視線を向けるような美人である晶に、かなりあからさまな好意を向けられて当然ながら悪い気はするはずもなく…
むしろいい気分しかなかったわけなのだが。
とはいえ、さすがに心に決めた恋人がいる身で他の女性に鼻を伸ばすことに罪悪感がちゃんと芽生えてくる進吾。
加えて、えらくハイテンションにハイペースに飲んでしまい、完全に酔いどれ状態となってしまった晶を支えてどうにか宿泊先まで送ろうとした。
ろれつも回っていない晶から宿泊先を聞くのはかなり苦労したのだが、偶然にも自分と同じホテルだったことが判明し、心底ホッとした進吾。
晶をどうにか宿泊部屋に連れて行き、酔っているためか無理やり自分をベッドに引き込もうとする晶をなだめて寝かせて、ようやくと言った感じで自分の宿泊部屋に戻り、風呂と作業の報告書作成を済ませて眠ったのが午前三時過ぎ。
そして七時に目を覚まし、宿泊内容に含まれていたバイキング形式の朝食を済ませる。
そして洗顔、歯磨き、着替え、荷物のまとめなどを全て済ませると、現地に向かうために八時にホテルを後にする。
そして八時半に現地に到着すると、そこから作業開始。
二日酔いなどにはさすがにならなかったが、かなり睡眠時間を削られてしまったことで眠気との戦いが作業中に勃発することとなってしまう。
それでも特に問題なくこの日の作業も終了。
十七時には現地を後にし、宿泊先であるホテルを目指して本当に畑や田んぼばかりの風景を眺めながら足を進めていく。
その途中、まるで昨日の再現であるかのように、昨日と同じ場所で晶が姿を現す。
昨日と唯一違うのは、まるでこの世の幸せを全て独り占めできたかのようなまばゆいばかりの笑顔を浮かべながら大きな声を進吾にかけてきたこと。
もう、誰が見ても明らかなほどに、晶は進吾に好意を寄せている。
「お…おう…」
そんな晶を見て、進吾は思わずしどろもどろな返事をしてしまう。
本来は竹を割ったようなはっきりとした性格であるだけに、このような反応は珍しいと言える。
もともと異性に目がない性格ではあるものの、だからと言って手当たり次第などということは決してない。
ましてや、すでに心に決めた人がいる今となっては、別の女性にこうして見るだけで分かるほどの好意を向けられても正直困ると、進吾は言わざるを得ない。
自分の中で、その好意に対する回答が決まっているのならば、なおさらだ。
「にしても…あんたも物好きだな。俺はもう恋人がいる身だって、昨日言ったはずだけどな」
そう、昨日の時点で進吾は晶に心に決めた人がいるということを伝えている。
ご機嫌な犬のように尻尾を振っている姿がそのまま当てはまる様子で自分のそばに寄ってくる晶に対し、その好意に対して応えるつもりはないと、遠まわしな発言を声にする。
「ええ、それは聞きましたよ?」
「?じゃあなんで…」
「でも、それで私があなたのことをあきらめるだなんて、言ったつもりもありませんけど?」
「……そういえばそうだったな」
「今はどうにもならないことくらい、私にだって分かります…でも、せめてあなたを想うことくらいは許して…もらえませんか?」
「……あんた、なんでわざわざ困難な方を選ぼうとするんだ?あんたなら、その気になればいくらでもいい男、モノにできんじゃねえのか?」
進吾は、いろいろな女性と交友関係を広げ、深めていったりはしていた。
傍から見ればフラフラとして女に節操がなく、だらしがないと思われがちだった。
だが、その中でも本気になれない相手は一定の距離を取って接していたし、以外にも身体を重ねあうような関係にまでなることもなかった。
異性と交流するのは非常に好きなのだが、男と女の関係に、となるとどうしても踏み込めない。
踏み込むと、その前段階の軽い関係が保てなくなるから。
踏み込むと、他の女性との交流が困難になってくるから。
進吾の本質は、傍からの印象、評価とはまるで違う奥手でヘタレな男なのだ。
そんな進吾が、その一歩を踏み越えた関係を望んだのが麗香。
麗香と恋人の関係になってからは、あれほど見た目は派手だった女性との交流も驚くほどに消滅し、今となっては麗香の友人知人のみとなっているほど。
実際にはそれほど、進吾は女性に対して一途な性格だったのだ。
だからこそ、すでに決めた人がいる相手を思い続け、さらには奪い取ろうとするという…
展開次第では誰も幸せになれない、最悪の結末を迎えるかも知れない方を嬉々として選ぼうとする晶の心境が、どうしても理解できなかった。
だからこそ出てしまった、進吾の晶への疑問の言葉。
そんな進吾の言葉にも、晶は一瞬呆気に取られたかのような表情を浮かべるものの、それもすぐに恋する乙女と言った表情に変わる。
「…だって、好きになるってそういうことじゃないですか」
「え?」
「…本当に好きになっちゃったら、もうどうしようもなくなっちゃうじゃないですか」
「?そ、そうか?」
「だって…その時『この人!』って想えた人にアタックしなかったら、次はいつその人に会えるのか分からないですし!」
「!お、おお…」
「それに…本当に好きだった感じたら、行かないとだめだと思うんです!だって――――」
「――――それが私にとって運命の人だったなら、たとえどんな状況だったとしても絶対に結ばれると思うんです」
「!!……」
どこまでも真面目で真っ直ぐな晶の言葉に、進吾は驚きを隠せなかった。
実際、進吾自身も麗香との出会いは運命だと思っている。
それゆえに、なおさら今の晶の言葉は心に刺さることとなる。
進吾と麗香の場合は、出会った時にお互いがフリーだったこともあって、とんとん拍子に恋人関係にまでなることができた。
だからこそ、晶のような危機感や運命的な感覚を覚えることがあまりなかった。
運命だと感じるようになったのは、恋人同士になってからなのだから。
晶は、これまでのめぐり合わせが非常に悪く、美人とされる容姿とその一途さゆえに恋人関係になるまでは早いのだが、なってからが噛み合わなくなってくる、という悪循環が続いている。
やはりその真っ直ぐさと一途さゆえの独占欲…
それが相手にとって非常に束縛感を覚えさせてしまうものとなっている。
だからこそ、相手の方が早々に晶との付き合いにまいってしまい、恨みごとも含めての別れ話を切り出されることとなる。
もっとも、これまでの晶の相手はそんな真っ直ぐさや一途さをよしとしない、どちらかと言えばライトな関係を求めていたということもあるのだが。
さすがに別れた直後はその感情の整理に苦しむこととなってしまうのだが、時間が解決してくれた後は気持ちを切り替えて次の出会いに賭けるようになる。
だが、元々惚れっぽいところもあるためか、これまでは同じようなタイプの相手ばかりに交際を求め、同じように別れ話を切り出されることとなっている。
だからこそ、進吾の言葉を聞いて晶は今度こそ、この人が自分にとっての運命の人だという確信を持ってしまう。
進吾のその言葉や誠実さ、女性を大切にする心を晶はその目で見、その耳で聞いてしまったから。
一度偶然見かけただけなのだが、晶は進吾のいい人が本当に美人で、本当に気立てのいい人だということを晶は十二分に知っている。
だからこそ、その麗香が進吾のそばにいないこの時こそ、自分にとってのチャンスだと晶は思っている。
麗香への想いは決して揺らぐことなどないという確信は持っているものの、ここまで自分に好意を向けてくれる晶のことをむげにすることなどできず、結局この日も進吾は晶に連れられて、宿泊先の近くにある、昨日とは別の居酒屋へと向かうことになるのであった。
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