お兄ちゃんがお母さんで、妹が甘えん坊なお話

ただのものかき

どうすれば僕の姫を、あんな薄汚い視線から解放してあげられるんだろう…

「おいしいね~♪お兄ちゃん♪」

「うん、おいしいね」



雲ひとつない快晴のもと、絶好のお出かけ日和となったこの日曜日。

まるでこの地上に舞い降りてきた天使のような造形美と、無邪気な可愛らしさに満ち溢れた美少女達が、まるで周囲にその幸せをおすそ分けするかのように寄り添いながら、お金が取れるといっても過言ではないほどの極上の笑顔を向け合って、町の最寄駅前の出店で買ったクレープに舌鼓を打っている。



そんな高宮兄妹が自宅から出てきた時はまだ、人通りもなくまさにその世界に二人だけというような状態だったのだが、そこから二人仲良く歩くこと一時間と少し。

そのくらいの時間が経ち、さらには休日の駅前をいうこともあって、周囲には遊びや買い物、もしくは涼羽と羽月と同様にデートに勤しむためにここまで来た人達で賑わっている。



「うわ…なんだあの子達…」

「TVで見るような、下手なアイドルよりもずっと可愛いな…」

「めっちゃくちゃ仲良しで、すっげー幸せそうで…美少女同士のいちゃらぶとか…」

「あ~俺、今日ここに来てよかったわ~…めっちゃ目の保養」



当然ながら、そんな人の目を惹く容姿をしている二人が、そんな風に仲睦まじい様子を見せていると、周囲の男子や男性達が、まるでそうするのは必然だと言わんばかりに、涼羽と羽月の二人に視線を奪われてしまっている。



見たまんまの美少女姉妹が、見てる方が顔が熱くなってくるようなやりとりをしているのを見て、まるで二次元の世界から飛び出してきたかのような錯覚すら受けてしまい、それでいてそんな光景を現実(リアル)で見せてもらえている幸運に、とても幸せな気分に浸れてしまう。



そんな男達の中には、この日まさに自分の彼女とデートをしにきた者もいる。

そして、デート中に自分以外の異性に視線を奪われるなんて、普通なら怒ってしまうところなのだが…



「わあ~…なんて可愛いの~、あの子達~」

「!お前もそう思う?」

「ええ!あんな子達が私のそばに来てくれたら、もうめっちゃくちゃに可愛がってあげるのに~」

「だよな!あんな可愛い子達を見ることができて、今日俺らめっちゃラッキーだよな!」

「もうほんと!…ねえ」

「ん?」

「…私達に、あんな子供ができたら…嬉しいよね?」

「!!お、お前…いきなり何を…」

「嬉しい…よね?…」

「…んだよ…今日のお前…くっそ可愛いんだけど!」



一緒にいる彼女の方までもが、ただ仲睦まじく歩いているだけなのに、周囲に幸せをおすそ分けしているかのような高宮兄妹にその視線を奪われ、さらには彼氏と一緒に涼羽と羽月のことで盛り上がってしまっているような状態に。

その上、彼氏からすれば嬉し恥ずかしなことまで、彼女の口から出てしまい、上目使いで自分の袖を引っ張り、顔を赤らめながらもそんなことを言ってくる彼女のことがとても可愛らしく、愛おしく思えてしまい、却って彼氏彼女の仲が深まってしまう、というような事まで起きてしまっている。



「や~んもお~…見てるだけですっごく幸せな気持ちになれちゃう~…」

「もお~なんなのあの二人~…可愛すぎ~」

「わたし、今日ここに来れてよかった~…あんなに可愛い子達を見ることができて~」

「あの子達…わたしのところに来てくれないかしら~…」



特に彼氏と呼べる存在もおらず、フリーな身の上でこの駅前に遊びに来ている女性達も、涼羽と羽月の仲睦まじく、幸せそうに寄り添っている姿を見て、日々のストレスや鬱憤などが綺麗に洗い流されていくかのような清浄な気分にさせてもらえている。



こんなにも幸せな気持ちにさせてくれてありがとう。

こんなにも心洗われるような気持ちにさせてくれてありがとう。

こんなにも可愛すぎる光景を見せてくれてありがとう。



周囲で、涼羽と羽月の二人のやりとりを目の当たりにしている全員が、そんな思いになっている。



それゆえに、本当は声をかけてみたい、あの二人とお近づきになりたいという思いもあるのだが、それ以上にあの仲睦まじい二人の間に割って入るような、そんな無粋な真似はできないという思いの方が強くなってしまい、ただただ、その見ているだけで幸せ一杯になれるやりとりをじっと見せてもらう、というところに留まっている。



「えへへ♪お兄ちゃん♪」

「ふふ…どうしたの?羽月?」

「わたしね、お兄ちゃんのことだいだいだいだいだあ~~~~~~~~~い好き♪」

「!もう…恥ずかしいよ、こんなところで…」

「こんなところだからいいの♪お兄ちゃんがわたしだけのお兄ちゃんだって、みんなに自慢できるんだもん♪」

「!だ、だから恥ずかしいってば…」

「えへ…恥ずかしがってるお兄ちゃん、すっごく可愛い」

「!も、もお……あ、羽月…口にクレープついてる」

「え?どこどこ?」

「あ、動かないで。とってあげるから」

「うん」

「じっとしててね……はい、とれた(ぱくっ)」

「!………えへ」

「?どうしたの?羽月?」

「お兄ちゃん、だあい好き♪」

「!ま、また…」



自分達のやりとりが、周囲を歩く人達の目を思いっきり惹いてしまっていることなど、まるで気にも留めていない様子で、二人だけのほのぼのとした世界で仲睦まじい様子を見せ続ける涼羽と羽月。



羽月は、むしろ周囲に兄、涼羽が自分だけのものだということをアピールするかのように、涼羽にその尽きることのない愛情を、素直に純粋に言葉でぶつけてくる。

そんな羽月のストレートな愛情表現に、涼羽は思わず面食らって顔を熱くさせてしまうことに。



恥ずかしがる涼羽がまた可愛らしく、羽月はそんな涼羽をもっと見たくなって、もっとその愛情をぶつけていっては、兄を恥ずかしがらせて困らせて、もっともっと可愛くなる兄を見ようとしてしまう。



そんなやりとりの最中、妹の口元にクレープがついているのを見つけると、涼羽は羽月の口元に空いている左手を添えて、幼い子供にそうするかのようについているものを優しい手つきで拭い去るかのようにそれを取り、口元を綺麗にしてあげる。

取り去ったものは、自分の口に運んで、そのまま食べてしまう。



秋月保育園でも、口元に食べかすをつけたままの園児が多いこともあり、普段からそんな風に優しくそんな園児達の口元を綺麗にしてあげているため、それが自然と妹である羽月に対しても行えている。



羽月は、兄にそんな風にされて一瞬驚いたような表情を浮かべるものの、すぐに先ほどまでの幸せ一杯の笑顔に戻っていく。

そして、先ほどからずっと兄、涼羽にべったりとしているにも関わらず、もっともっとと言わんばかりに涼羽にべったりと寄り添ってくる。



そんな妹が可愛いのか、優しい笑顔でどうしたのか問いかけたら、またしても羽月の目一杯の愛情表現となる言葉をもらうことに。

それを聞いて、また涼羽はその顔を赤らめ、恥ずかしがることとなってしまう。



「うわあ…なんだあのやりとり…くっそ可愛いんですけど!」

「お姉ちゃんが妹ちゃんに大好きって言われてんのかな?それで恥ずかしがるとか、どんだけ…」

「しかも、妹ちゃんの口元についたもん優しくとって、ぱく、とか…」

「妹ちゃんますますお姉ちゃんのこと好きになっちゃった、みたいな感じに…」

「わ~なにあれなにあれ~」

「めっちゃ可愛い!お姉ちゃんと妹ちゃんなのに、お母さんと小さい子供みたい!」

「あ~ん!うちに来てくれたら、もうこれでもかってくらい可愛がってあげるのに~!!」

「あたし、あんな可愛い子達がうちにいたら、まともでいられる自信ないわ…」



そんな涼羽と羽月のやりとりの一部始終を見ていた周囲の人間は、ただでさえ癒され、幸せをもらえたという状態だったのに、もひとつおまけに、みたいな感じで心の清浄感と幸福感をもらえたかのような感覚に浸ることができた。



もはやそこにいる一人ひとりが、その日この駅前まで来た目的を忘れてしまったかのように、とても可愛らしく、ほのぼのとしたやりとりを繰り広げている高宮兄妹を、見たままの美少女姉妹と思い込んだまま、幸せそうに眺めているのであった。







――――







「…か、可愛すぎる…僕の姫…」



ここ数ヶ月、涼羽のストーカーをすることで養った、絶妙なポジショニングの感覚を最大限に活かして、涼羽と羽月を無遠慮に眺めているギャラリー達の死角から、涼羽に気づかれないようにひたすら、涼羽のストーキングを続行し、自身にとってかけがえのない宝となる、涼羽の可愛らしい姿の動画を記録し続けている。



周囲の通りすがりの歩行者ですら、思わず足を止めてじっと見つめている状態なのだから、涼羽のことをずっと見つめていたいとさえ思っているこのストーカー男が、あんなにも羽月とやりとりしている時の可愛すぎる涼羽を余すことなく見ていたい、と思うのは当然であり、必然のことなのだろう。



「…ああ…まさに僕のためにこの世に舞い降りてきてくれた女神だよ…姫は…」



相変わらず、就職もせず、家族にも疎まれ、心ない周囲から侮蔑の思いを送られている状況に変わりはないのだが…

涼羽をストーキングするこの行為のおかげで、彼のそんなマイナスな部分が全て吹き飛ぶかのように消えてしまい、多大な幸福感をもらえている。

加えて、彼の家族も、いまだ就職に結びついていないとは言え、自分の部屋から出ることにすら恐怖を感じていた彼が、何をしているのかまでは分からないとは言え、自発的に外出していくようになったことには、少しはいい方向に変わっているのではないか、という思いが芽生えている。



今までが今までであっただけに、自分から外出するようになっただけでも、改善のきざしであると、彼の家族は思えるのだろう。



だが、その外出の目的が、彼よりも一回り以上も年下の幼げで可愛らしい美少女のストーキングだと家族が知ったら、全力でその行為を止める方向に走ることは間違いないだろう。



「…しかし…僕の姫に対して…不埒な視線を向ける男共が多すぎるな…」



やはり人の目を惹く容姿をしている涼羽であるがゆえに、外を歩いているだけで注目を浴びてしまうのは無理もないこと。

特に男性は、涼羽のことを何も知らない状態であるがゆえに、見たままの美少女として見てしまう。

幼げな容姿と、優しさに満ち溢れた雰囲気が清楚で無垢な印象をかもし出しているものの、やはり下心に満ちた視線を向けてしまう者も多い。



今も、二人が放っているほのぼのオーラに癒されてはいるものの、涼羽を自分だけのものにしたい、という下心に満ち溢れた視線を向けている男が、結構いたりしている。



ストーカーであるがゆえに、嫌でもその対象である涼羽に向けられる視線の先にも目が行ってしまうのか…

意外にも、このストーカー男はその視線を敏感に感じ取っていたりする。



「…許せん…あんなにも可愛い姫に対して、あんな男の欲望丸出しの視線を向けるなど…」



完全に自分のことは棚上げの状態で、周囲の下心満載の男達に対して憤りを感じながら舌打ちまでしてしまうストーカー男。

このストーカー男も傍から見れば、醜悪で下心満載な視線を涼羽に向けているその他大勢の一人にすぎないのだが、本人からすれば涼羽を見守るという崇高な使命の元に行なっている行為という認識であるため、まるでそんな風に見えてしまっている、という自覚がない。



「…むう…僕の姫にあんな視線が向けられるのは許せん…けど、だからといって力づくなんてできないしなあ…」



まさにいつ浚われてしまってもおかしくないほどに、男の欲望丸出しの視線を集めてしまっている涼羽のことが心配で心配でたまらず、この状況をどうにかしようと、その脳をフル回転させる。

が、結局のところろくにいい案も浮かぶことなく、かといって力づくなど絶対に無理だということは、他でもないストーカー男本人が一番よく分かっているため、それは最速で却下となっている。



実際のところ、そんな欲望丸出しの視線を向けているのは男だけでなく、可愛いものや美少女が好みでたまらない女性も、結構な割合でいるのだが、さすがにそこまで視野が広くないようで、そんな女性達のことはまるで把握できていない。



「…う~ん…どうすれば…どうすれば僕の姫を、あんな薄汚い視線から解放してあげられるんだろう…」



学校の勉強も、運動も、何もかも諦めてただただ、心の安らぎとして怠惰を貪り、求めてきたストーカー男が、ろくに使ってこなかった脳をフル回転させて、涼羽のために何が出来るかを必死になって考えている。



それは、人の為と言えばその通りなのだが、やはりその考え込んでいる姿も傍から見れば醜悪でおぞましいものに見えてしまっており、悲しいほどに見た目と思いがリンクしていないストーカー男である。



「…!そうだ!…どうせなら…」



そんなストーカー男が、ようやく何かを思いついたようで、はっとした表情を浮かべ、声をあげる。



「…僕のところで、姫と僕が一緒に暮らせばいいんだ…」



自分の中の世界観も狭く、ろくに外での刺激もなかったため、発想も貧困な状態となっていたストーカー男。

そんな男が考え付いたのは、普通ならまず考えないことであり、考えはしても実行に移してはいけないことだった。



「…僕が、あの姫を独り占めして…誰の目にも触れないように護ってあげたら、いいじゃないか…」



こんなにもいいことを思いつくなんて、もしかして自分は天才かも、などと自画自賛に浸ってすらいるストーカー男。

だが、この男のこんな声を他に聞いた者がいたのなら、ほぼ通報されてしまうであろうことに、この男は思い至らない。

それほどに残念な思考回路をしてしまっている。



幸い、周囲の人間ほぼ全てが涼羽と羽月の方に視線も意識もいってしまっているため、誰もその危険なつぶやきを耳にすることはなかったのだが。



「…そうだよ…僕が、あの姫を独り占めして、めっちゃくちゃに愛して…可愛がってあげたらいいんだ…」



そんな世界を想像して、男の顔に醜悪な笑みが浮かんでくる。

それは、他の男も願うであろう素敵な世界。

それを、自分だけができるようになれば。

それは、どんな素晴らしい世界なのだろうか。



「…ちょっと妹ちゃん?に可愛がられただけであんなにも恥ずかしがるんだから…僕がめちゃくちゃに愛してあげたら…くふふ…」



どうやら、ストーカーとしてのクラスが一つ上に向かってしまったこの男。

涼羽のことを見守っているだけでも幸せ、という状態から、涼羽のことを独り占めしたい、という暗い欲望が芽生え、それに火がついてしまった。



それが、ただただ劣等感と絶望感だけに生きてきたこの男に、生きていることが本当に素晴らしいと思えてしまうほどの充実感を与えることになるとは…

そんな人間の不思議など、まるで知る由もないまま、涼羽は妹、羽月と楽しそうに駅前を歩いていくので、あった。

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