お兄ちゃんがお母さんで、妹が甘えん坊なお話

ただのものかき

涼羽ちゃん…私のこと、嫌い?

「りょうおねえちゃん!」

終了のHRも終わり、放課後となる校舎の中。
部活のある生徒は、即座にそちらの方へと向かい…
生徒会に所属している生徒は、役割を果たす為にと、そちらの方へと移動し…
特に何にも所属していない生徒は、そのまま帰宅もしくはちょっとした寄り道の為にと、校舎を後にするなど…
それぞれがそれぞれの思惑で教室から飛び出していくこの時間帯。

涼羽も、平日ということでいつも通りのアルバイトに向かおうと…
帰る準備を全て終えて、まさに教室を飛び出そうとしていたその瞬間。

聞き覚えのある、鈴の鳴るような可愛らしい声が、教室の中に響き渡る。

「あ、かなちゃん」

ふと、声のする方を見てみると、そこには、水蓮の娘である香奈の姿が、そこにあった。
本来ならばここにはいないはずの幼子の姿を見て、涼羽の顔に優しげな笑顔が浮かんでくる。

「りょうおねえちゃ~ん!」

そんな涼羽の笑顔が自分に向けられているのが本当に嬉しいのか…
ぱたぱたと可愛らしい足音を立てながら、一直線に涼羽のところへと走っていく。

そして、涼羽の華奢な胸に文字通り、飛び込んでくる。

「えへへ~♪りょうおねえちゃんだ~♪」

女性らしさなどない平坦さではあるものの…
柔らかで優しげなその胸に顔を埋めて、非常にご機嫌な様子で…
涼羽にべったりと抱きついてくる香奈。

「ふふ…また、お婆ちゃんに連れてきてもらったの?」
「うん!」

非常にご機嫌で幸せそうな笑顔の香奈を見て…
涼羽もまた、嬉しくなってくるのか…
慈愛と母性のこもった、優しい眼差しを香奈の方へと向ける涼羽。

自分にべったりと甘えて、懐いてくれる香奈が本当に可愛くて…
その小さな身体を優しく抱きしめ…
その小さな頭を優しく撫でて…
まるで、本当の母のように香奈を可愛がる涼羽。

涼羽のそんな甘やかしと可愛がりが本当に嬉しくて幸せなのか…
その母譲りの整った可愛らしい顔に、天真爛漫なにこにこ笑顔を浮かべて…
思う存分に涼羽の胸の中で甘える香奈。

「あ~!四之宮先生の娘ちゃんだ~!」
「わ~…また涼羽ちゃんにべったりして、う~んと甘えてる~」
「も~!いつ見ても可愛い~!」

以前、一度ここに来たことがあるため…
香奈のことは涼羽のクラスの生徒の大半が知っている。

以前来た時の、涼羽と香奈のやりとりが本当に可愛すぎて…
あの時あのやりとりを見ていた生徒全てが、もう一度見たい、と思っていたこの光景。

それがまた、自分達の目の前で展開されることとなり…
もう、頬を盛大に緩めながら、二人のほのぼのとしたやりとりを、見つめている。

「りょうおねえちゃん」
「なあに?」
「だあ~いすき♪」
「ふふ、ありがとう」
「りょうおねえちゃんは、かなのこと、すき?」
「うん、大好きだよ」
「!わ~い!りょうおねえちゃんがすきっていってくれた~!」

涼羽の腕の中に優しく抱かれたままの香奈が…
その純真無垢で純粋な好意を、真っ直ぐに涼羽に伝えてくる。

そんな香奈が本当に可愛いのか…
涼羽も、目一杯の愛情を持って、香奈のことを慈しむ。

涼羽に好きと言われて本当に嬉しかったのか…
無邪気な笑顔で、その嬉しさを表現するかのように涼羽の胸に顔を埋めて、さらに甘えてくる。

「かな、りょうおねえちゃんだいだいだいだいだあ~いすき~♪」
「ふふ、かなちゃん可愛い」

至福の表情でうんと涼羽に甘えてくる香奈。
そんな様子がまた、本当に可愛らしくて…

「あ~もお~!見てるだけでめっちゃ幸せ!」
「もう!前もそうだったけど、なんでこんなに可愛いの!涼羽ちゃんも、四之宮先生の娘ちゃんも!」
「あの二人、可愛すぎてめっちゃぎゅうってしたくなっちゃうよ~!」

二人の周囲で、二人のやりとりを見守っている女子生徒達は、まさに至福の表情となっており…
文字通り、幸せのおすそ分けをしてもらっているような常態となっている。

「………む~………」

そんな女子達とは対照的に…
二人のそんなやりとりを見ていて面白くない、とばかりに…
ご機嫌斜めな表情となっている美鈴。

美鈴は、涼羽に関しては非常に子供っぽい独占欲を抱いており…
それを、常にむき出しにしてしまっている。

たとえ相手が四歳の幼子相手でも…
涼羽にあんな風に甘えさせてもらっていて…
しかも、涼羽の関心を独り占めしている、ということがとにかく気に食わない。

「(涼羽ちゃんったら、い~っつもいっつも香奈ちゃんにはあんなに優しく甘えさせて…おまけに、私のことぜ~んぜん相手にしてくれないなんて…)」

『可愛い』よりは『綺麗』の方にバランスが寄っている愛理に関して言えば…
そんな容姿にマッチするかのように、普段の立ち振る舞いも大人びてきていて…
そういう意味では、本当に『お姉さん』という感じが出ている。

もともとがしっかり者ということもあり…
以前よりも人当たりが柔らかくなっていることにより…
今では、美鈴と双璧をなす、校内屈指の美少女として生徒達の認識が改まっていっている。

それに加えて、涼羽や志郎とやりとりする時の、自分の思いを素直に出せない…
まさにツンデレ、といった仕草や素振り…
さらには、いつもは厳しい印象の愛理がふと見せる…
ふんわりとした、優しくも可愛らしい笑顔…

そんなギャップが、校内の男子生徒はもちろん、女子生徒達にも非常に好意的に受け入れられており…
かつては、とことんまで人に敬遠されていたはずの愛理が…
今では、目に見えて分かるほどの人気者となっている。

美鈴の方は、愛理とは対照的に、『綺麗』よりも『可愛い』の方にバランスが寄っている。
非常に整っている美少女顔ではあるが、少し幼さの色濃い童顔であるため、やや子供っぽく見られてしまう。

加えて、口調や性格にも子供っぽさがところどころで見られてしまうため…
校内では、本当にマスコット的な可愛がられ方をしている。

ただ、身体つきは女性として美しく、異性にとっては非常に目を惹く成長をしているため…
そういうギャップが、異性の欲に満ちた目を惹いてしまう。

美鈴自身、異性のそういった視線を非常に嫌悪しているため…
交流らしい交流をしているのは、常に同性となっている。

そして、その同性からは、妹のように可愛がられることが多いため…
どうしても、こういった子供っぽい部分を消すことができず…
こんな、後から生まれてきた兄弟姉妹に大好きな母親をとられてしまう、といったような…
そんな、子供じみたやきもちを焼くことも、当然のごとくとなってしまっている。

ましてや、自分にとってこの世で最愛であると、公言できてしまうほどの存在である涼羽なのだから…
どうしても、そんなやきもちを、自分の心から切り離すことなど、できはしないのだろう。

「…ん~っ!」
「!ひゃっ!…み、美鈴ちゃん?」

案の定、涼羽と香奈の仲良しっぷりを見せ付けられて…
もうそのやきもちが抑えられないところまで来ていた美鈴が、涼羽の背中にべったりと抱きついてくる。

いきなり背中から抱きつかれてしまったため、いつもよりも甲高い、それでいて可愛らしい声を上げてしまう涼羽。
いつものように抱きつかれていることもあり…
美鈴の、女性として魅力的な身体の感触が、涼羽の身体に伝わってくる。

しかし、それでも決して異性としての欲求が芽生えてくることはなく…
むしろ、壊れ物を扱うかのように優しく包み込んで、護るべき対象だと思ってしまう涼羽。
そんな、絶対的な安心感があるからこそ、美鈴も、異性であるはずの涼羽に対して、こんな風に気安く…
むしろ、積極的にべったりとしてしまうのだが。

「涼羽ちゃん、香奈ちゃんばっかりずるい!」
「え?」
「私も涼羽ちゃんのこと、大好きで大好きでたまらないもん!」
「み、美鈴ちゃん?」
「私のことも構ってくれなきゃ、や!」
「………」

もう、今年で十八歳になる高校生の女の子とは思えないような子供っぽさを見せる美鈴。
自分にとって大好きで大好きでたまらない存在である涼羽の身体の感触を堪能するかのように…
べったりと、ぎゅうっと抱きついて…
そのうなじに顔を埋めて、その美少女顔をぷうっと膨れさせたまま…
可愛らしく、わがままな台詞を声に出してしまう。

「…はいはい」

そんな美鈴が、なんだかとても可愛らしく思えたのか…
少し苦笑しながらも、自分の胸にべったりと抱きついている香奈の頭を撫でていた左手を…
今度は、自分の背中に抱きついている美鈴の頭の方へと移動させ…
そのまま、同い年で同学年である美鈴の頭を、幼子をあやすかのように、優しくなで始める。

「ん…もっと…もっとして」

それだけで、言いようのない幸福感を感じることができているのか…
もっと、もっとと、おねだりするかのように、さらにべったりと抱きついて…
涼羽のうなじに埋めている顔に、幸福感に満ちた笑顔を浮かべる美鈴。

「美鈴ちゃん…本当に子供みたい」
「いいもん、子供でも…涼羽ちゃんだけだもん…こんな風になっちゃうの」
「美鈴ちゃん、俺と同い年でしょ?」
「そんなの関係ないもん…涼羽ちゃんに甘えられなくなっちゃうなんて、や」
「ふふ…じゃあ、美鈴ちゃんが子供のままになっちゃうのは困るから、俺、美鈴ちゃんを甘えさせるの、やめた方がいいかな?」

優しげな笑顔のまま、少し意地悪な台詞を声に出して、美鈴に向ける涼羽。
いつもいつも、べったりと抱きつかれて、困らされているということもあり…
たまには、こんな冗談の一つも言葉にしてみたかった、というのがあるのかも知れない。

ただ、涼羽にとっては他愛もない冗談だった台詞だったのだが…
美鈴にとっては、まさに死活問題である、とばかりの、分かりやすい反応が返ってくる。

「え…涼羽ちゃん、私のこと、嫌いになっちゃうの?」

先ほどまでの幸福感に満ちた笑顔は、まるで満開に咲き開いた花が萎れてしまうかのように悲しげになってしまい…
その大きな瞳には、うっすらと涙まで滲んできてしまう。

涼羽に甘えられなくなる、ということは、よほど美鈴にとっては堪えるようで…
ついつい、こんな反応になってしまっている。

「ちょ、ちょっと、美鈴ちゃん!?」

ちょっとした冗談で出した言葉であるにも関わらず…
まさか、こんな反応をされるなどとは微塵も思っていなかった涼羽。
思わず、といった感じで、驚きの表情が浮かんでくる。

「涼羽ちゃんに嫌われるなんて、やだよお…」
「み、美鈴ちゃん…」
「私、涼羽ちゃんのこと、大好きで大好きでたまらないのに…」
「あ、あのね…」
「涼羽ちゃんに嫌われたら、私…私…」

とうとう、大粒の涙をこぼして、人目もはばからずに泣き出してしまう美鈴。
それでも、涼羽のことを離したくなくて、べったりと抱きついたまま…
涼羽のうなじに顔を埋めて、すがるように泣き続ける。

そんな美鈴がかわいそうで…
そして、こんなちょっとした冗談でここまで思い込んでしまうほど、自分のことを大好きでいてくれる美鈴がものすごく可愛くて…

香奈のことを抱っこしたままの右腕がふさがっているため…
空いている左手で器用に、制服のポケットから…
先ほど、皐月に使ったのとは別の、予備のハンカチを取り出し…
涙に濡れた美鈴の顔を、優しく丁寧に拭い始める。

「ごめんね…美鈴ちゃん」
「ん…涼羽ちゃん?」
「美鈴ちゃんがそんなにもなっちゃうなんて、思ってなくて…あんな意地悪なこと、言っちゃって…」
「…じゃあ…私のこと、嫌いになったり、しないの?」

涼羽の優しい手つきがくれる心地よさ…
そして、慈愛に満ちた優しい眼差し…

それらに、いいようのない安心感を覚えながらも…
まるで、悪いことをした子供のように、おそるおそるといった感じで、涼羽に問いかける美鈴。

そんな美鈴がまた、涼羽の目には非常に可愛らしく映ってしまい…
思わず、美鈴の顔を自分の方へと優しく引き寄せて、額と額をこつんと、優しくくっつける。

「ふふ…大丈夫。美鈴ちゃん、こんなに可愛いから…嫌いになったりなんか、しないよ?」

そして、ほぼゼロとなっている距離の中で…
母性と慈愛に満ち溢れた、優しい笑顔を浮かべて、美鈴の欲しい言葉を音にしていく涼羽。

そんな涼羽の言葉に、美鈴の曇った顔が、少しずつぱあっと明るくなっていく。

「…えへへ♪じゃあ、涼羽ちゃん、私のこと、好き?」

親の気を惹きたくて、ついつい試すかのような聞き方をしてくる美鈴。
その顔には、もういつもの無邪気で明るい笑顔が浮かんでいる。

「うん、大好きだよ」

そんな美鈴が可愛くて、美鈴が望む言葉を、優しい笑顔で向ける涼羽。
その一言は、美鈴にとって本当に嬉しくて嬉しくてたまらない言葉となる。

「えへへ~♪涼羽ちゃん、だあ~い好き♪」

もうたまらなくなって、涼羽の露になっている左頬に、ついばむような親愛のキスをしてしまう美鈴。
それも、一度だけではなく、その想いをぶつけるように、何度も何度も。

「み、美鈴ちゃん…くすぐったいよ…それに…みんな見てるし…」

いきなり美鈴に頬にキスされて、さすがに恥ずかしくなってしまったのか…
その童顔な美少女顔を赤らめて、困ったような表情を浮かべてしまう涼羽。

「だあめ♪涼羽ちゃんは私が涼羽ちゃんのこと、どんなに好きなのか、ぜ~んぜん分かってないんだもん♪」
「そ、そんなこと…」
「あるの♪だから、あんな意地悪なこと言っちゃうんでしょ?」
「ご、ごめんね…」
「だあめ♪許さない♪だから、涼羽ちゃんには私が涼羽ちゃんのことどれだけ好きなのか、い~っぱい教えてあげないとだめなの♪」
「や、やめて…」
「やだ♪やめてあげない♪」

恥ずかしさのあまり、逃げようとする涼羽の顔をしっかりと両手で抑え込むと…
その溢れかえる想いをぶつけるかのように、頬へのキスの雨を降らせる美鈴。

ちなみに、香奈はよほど涼羽の胸の中が心地よかったのか…
とても幸せそうな寝顔を浮かべながら、静かに涼羽の胸の中で眠っている。

「も~!なんなの!涼羽ちゃんも美鈴も、めっちゃ可愛い!」
「ほんとに、どこまで可愛かったら気が済むのよ!あの二人!」
「もうだめ!我慢できない!」
「私達も、涼羽ちゃんぎゅうってしちゃうから!」

そんな、そんじょそこらのバカップルでも太刀打ちできないほどの…
それでいて、母と娘のようなほのぼのとした感じで、ひたすらにべったりとし続ける涼羽と美鈴のやりとりが可愛すぎてたまらなくなってしまったのか…

とうとう、クラスの女子達が我慢できなくなってしまい…
美鈴にひたすらに親愛と情愛のキスの雨を降らされている涼羽のことを抱きしめてしまう。

「!ちょ…みんな…離して…」
「だめ!こんなに可愛い涼羽ちゃん、離したくなんかないもん!」
「涼羽ちゃんったら、どこまで可愛かったら気が済むの?」
「私達、涼羽ちゃんが可愛すぎて、めっちゃくちゃに可愛がりたくなっちゃう!」

もう、涼羽にべったりとしているだけで、至福の表情となってしまう女子達。
そんな中でも美鈴は、涼羽に頬ずりしたり、キスしたりと…
ひたすら、涼羽にアピールするかのような愛情表現を繰り返している。

「涼羽ちゃん♪涼羽ちゃんは、私だけの涼羽ちゃんなんだからね♪」
「あ~!美鈴ずる~い!」
「涼羽ちゃんは、私達みんなのアイドルなんだから!」
「独り占めなんてずる~い!」
「だあめ♪涼羽ちゃんはぜ~ったい私だけのなんだもん♪」
「美鈴がそんなこというなら、私だって~!」

その独占欲を隠そうともせず、ひたすらに涼羽は自分だけのものだとアピールし続ける美鈴に、ついに我慢ができなくなってしまったのか…
とうとう、クラスの女子も、涼羽の露になっている左頬に、そっと唇を落としてしまう。

「!ちょ、ちょっと!…」
「えへ~♪涼羽ちゃんのほっぺにちゅー、しちゃった♪」
「あ~ずる~い!」
「なら、私だって~!」

もう、一人がしてしまうと歯止めが利かなくなってしまい…
次から次へと、美鈴が涼羽にしていたことを、自分達もしてしまう女子達。

「み、みんな…俺、男なんだから…そんなこと、気安くしちゃ…だめだよ…」

周囲の女子達に目一杯可愛がられることに、暴発するほどの羞恥を覚えながらも…
異性である自分に、気安くそんなことをしてはいけないと、言い聞かせるかのように言う涼羽。

もっとも、恥じらいに頬を染めながら、儚げな様子での発言であるため…
そんな姿は、余計に可愛らしさを生むこととなってしまっていることに、本人だけが無自覚という状態なのだが。

「涼羽ちゃん本当に可愛い~!」
「涼羽ちゃんだからいいの!私、涼羽ちゃんだから、こんなことしてるんだよ?」
「もうほんとに可愛くて可愛くてたまらない!だから涼羽ちゃん、大好き!」
「涼羽ちゃん!涼羽ちゃんは私だけの涼羽ちゃんなんだから、私以外の子に気安く触られたりしたら、だめなんだからね?」

美鈴を含む女子達が、まさに涼羽のことを奪い合いながらも可愛がっていく図式となってしまっているこの状況。
もう、人目もはばからずに涼羽のことを可愛がり続ける女子達。
結局、涼羽が恥ずかしさのあまり涙目になってしまうまで、このやりとりは、続くこととなった。

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