お兄ちゃんがお母さんで、妹が甘えん坊なお話

ただのものかき

なんかね、お兄ちゃんのところに来たくなっちゃったの♪

「お、おい…あの子…」
「やべ…めっさ可愛い…」
「ちょっと子どもっぽすぎるけど…それがまたいいっていうか…」

午後の授業も滞りなく進んでいき…
これから部活に勤しむ、それを楽しむ、といった生徒を残し…
後は帰宅するのみ、となっている生徒にとっては、ある意味最も待ち望んでいたであろう、放課後。

一日の終了となるHRも終わり、続々と生徒達が、今時の学校としてはお世辞にも広いとは言えない校舎から飛び出し…
学校の出入り口となる校門に向かって歩を進めていたところ。

あきらかにこの学校の制服ではない…
別の学校の制服に身を包んだ、一人の女子生徒が、校門のそばにいるのを見かけてしまう。

非常に小柄で幼さの色濃い、しかし誰が見ても美少女であると称するであろう…
その少女に、思わず足を止めて見入ってしまう生徒さえ出てしまっているほど。

「あの制服…この近くの中学校の制服よね?」
「よね?」
「でも…ちっちゃくて、本当に幼げで可愛くて…小学生って言ってもおかしくないよね?」
「なんか、めっちゃくちゃに可愛がりたくなっちゃう」

通りがかりの女子生徒達が、あまりにも可愛らしいその少女のことを…
無遠慮に、頬を緩ませながらじっと見つめている。

そんな視線を受けている少女は周囲を拒絶するかのように俯いたまま、じっとその場に佇んでいる。
まるで、意中の誰かを待ち続けているかのようだ。

「あ~なんかマジ可愛い…」
「思わずぎゅってしたくなるよな、あの子」

幼げで、それでいて儚い感じまでするその少女の雰囲気、佇まいに…
下校中の男子生徒達が思わず目を奪われる始末。

異性として、というよりは、可愛い子供に優しくしたくなる、といった…
恋愛的な感情よりは、家族愛…
いうなれば、幼い妹を可愛がる兄、のような気分…
もしくは、幼い娘を可愛がる父、のような気分…
そういった、ほっこりとした思いに、させてもらえているようだ。

「…でも…」
「?どうしたの?」
「…あの子、どっかで見たことあるような…」
「え?」
「…っていうより、誰かに、似てない?」
「?誰か?」
「最近…ううん…今ずっと見てる誰かに、似てると思うんだけど…」
「…そういえば…」
「…見たことあるような、そんな顔よね…あの子…」

そんなほっこりとした思いに満たされながら、少女を見つめている男子達と同じように…
じっくりと少女を見つめていた女子生徒の一人から、ぽつりと漏れ出た言葉。

その言葉が、波一つない静かな水面に、水滴を落としたかのような波紋を呼び起こす。

その何気ない一言を漏らした女子生徒を一緒にいた女子達も…
言われてみれば、と、改めてよく目を凝らしながら少女の顔を見つめる。

少女が何かを思いつめるかのように俯いてしまっているため…
いまいち、その造詣をしっかりと認識できないため、じろじろと無遠慮に見つめる形となってしまっているのだが。

だが、その下を向いている顔が、上を向いてはっきりとその造詣が明らかになる時がきた。

それは、少女の待ち人である…
一人の少年が、大勢の生徒が足を止めている校門前に、姿を現した時だった。

「さ…早くアルバイトに行かないと…」

少年と言うには、美少女という評価が相応しいその容姿。
この学校では、すっかりアイドル的な存在になりつつある、高宮 涼羽。

その涼羽が姿を現した途端、それまで身体の動かし方を忘れていたかのようにじっとしていた…
幼げで可愛らしい美少女が、まるで花が咲き開かんかのような笑顔を露にしたかと思うと…



「お兄ちゃん!」



普段、自身が涼羽に対して呼びかけているその呼称を声に出し…
ぱたぱたと、その嬉しさが目一杯詰まっているかのような足取りで、涼羽の元へと駆け出していく。

「!え?…」

今はここにいないはずの妹の声が耳に入ってきたことで、一瞬戸惑いの表情を見せる涼羽。
いつものアルバイト先である、秋月保育園に向かって動かしていた足も、止まってしまう。

そんな涼羽の身体に、いつもの軽い衝撃と…
いつもの柔らかな感触が、信号として脳に送られてくる。

「えへへ~♪お兄ちゃ~ん♪」

もう、今となっては当たり前になっているその感触。
それが、自身の学校で感じることとなってしまい…

その童顔な美少女顔には、驚きの表情を隠せないでいる。

「え?え?は、羽月?」

自身の呼び名を示す、その単語を…
自身がこの世で最も愛する人物に呼んでもらえた…

それだけで、羽月の可愛らしさ満点の顔に、幸せ一杯の満面の笑みが、こぼれてくる。

「お兄ちゃん♪お兄ちゃん♪」

いつものように、兄の胸に顔を埋めて、べったりとその華奢な身体に抱きついてくる羽月。
それだけで、自分を包み込んでくれるその感覚…
その甘い、芳しい匂い…

大好きで大好きでたまらない兄にこうしてもらえることが、今の羽月にとっては、何物にも変えがたい…
この世で最上の幸福なのだ。

だから、いつどこであっても…
この幸せを手にしたくて…
この幸せを思いっきり堪能したくて…
ついつい、人目を気にすることなどなく…
思いっきり、兄、涼羽にべったりと抱きついて、甘えてしまう。

「え?え?あの子、高宮君の妹さんなの?」
「あ!でもよく見たら、本当にそっくり!」
「わ~…お兄ちゃんにあんなに幸せそうに甘えて…」
「可愛い~…私もあんな風に甘えて欲しくなっちゃう…」

涼羽の妹である羽月の存在…
そして、その羽月がいったいどんな人物なのか…

それを知っていたのは、この学校内では、涼羽と最も交流の深い存在である、柊 美鈴だけ。

ゆえに、その他の生徒は、あの高宮 涼羽に妹がいたこと…
そして、その妹がいったいどんな子なのか…

今ここで、初めてそれを知ることとなった。

「マジか…あの子、高宮の妹なのかよ…」
「高宮そっくりの、めっちゃ可愛い子じゃねーか…」
「どっからどう見ても、文句なしの美少女姉妹にしか見えねーよ…」

もう完全に、美少女姉妹がそのゆりゆりしい仲睦まじさを見せ付けているようにしか見えないそのやりとり。
どう見ても美少女にしか見えない兄にべったりと抱きついて甘える妹。

最初の方は戸惑いを隠せないでいた涼羽だが…
うんと可愛らしく甘えてくる妹に、その母性を刺激されたのか…

「…ふふ…どうしたの?こんなところまで来て…」

全てを包み込むかのような包容力…
そして、その女神のような慈愛と母性に満ち溢れた笑顔を浮かべ…
自分に目一杯甘えてくる妹を、とろけるかのような優しさで包み込み…
その頭を、優しくなで始める。

「えへへ♪お兄ちゃん♪お兄ちゃん♪」
「ふふ…よしよし」

普段から、当たり前のように自宅で行なわれているやりとり。
それが、今、涼羽の学校の校門前で行なわれている。

それも、多くの生徒が足を止めて見ている中で。

「あのね、なんだかお兄ちゃんに会いたくなって…」
「うんうん、それで?」
「でね、お兄ちゃんにこうしてほしくて…来ちゃったの」
「…もう…羽月は本当に甘えん坊さんだね」

特に理由があったわけではない。
ないのだが、とにもかくにも最愛の兄に会いたくて…
そして、最愛の兄に甘えたくてたまらなくなったという妹、羽月。

兄である自分の胸の中から、覗き込むように上目使いで…
思う存分に甘えてくる妹、羽月のことが可愛くてたまらず…
少し文句を言いたげな言葉と口調とは裏腹に…

さらにとろけるかのような優しさで、妹のことを甘やかす涼羽。

「…か、可愛い!可愛すぎるよ!」
「なんて可愛いの~!あの二人!」
「高宮君、あんなに嬉しそうに妹ちゃん甘やかして…」
「もう、ほんとにお母さんみたい!すっごく可愛い!」
「あ~ん!あたしも高宮君にあんな風に甘やかしてほしい~!」
「あたしも、あんな風にめちゃくちゃに甘やかしてほしい~!」

その美少女としか言いようのない素顔を晒してからというものの…
校内の女子達はもう、雰囲気や仕草も天然で可愛らしい涼羽のことがどんどん好きになっていっていた。

普段から、美鈴を筆頭とする涼羽のクラスの女子達に独占されていたため…
なかなか、涼羽のことをじっくりと見られる機会がなかったのだが…

今ここで、その母性、慈愛、包容力…
そして、その可愛らしさを思う存分に発揮している涼羽に、一気に心奪われてしまっている。

自分も、あんな風に甘やかして欲しい。
自分も、可愛い涼羽のことをめちゃくちゃに可愛がってあげたい。

そんな思いで、心が満ち溢れていく。

「やべえ…どっちも可愛すぎるじゃねーか…」
「なんなんだよ、あの兄妹…可愛すぎるだろ…」
「なんでだろ…高宮に、めちゃくちゃに甘やかして欲しい…」
「え?お前も?」
「お、お前もか?」
「いやだってよ、あれは絶対甘やかして欲しいって、思っちまうだろ?」
「だよな?」

そして、高宮兄妹のバカップル顔負けないちゃらぶっぷりを目の当たりにしていた男子達も…
そのあまりの可愛らしさに、心を奪われている。

特に、その母性と慈愛を遺憾なく発揮して、全力で妹を甘やかす涼羽の姿は…
誰の目から見ても美しく、可愛らしいものとなっており…
あの甘やかしで幸せを感じない奴などいない、と断言できるものとなっている。

男である、と分かってはいるのだが…
どうしても、見た目は校内でもトップクラスと言えるほどの美少女であり…
すでに、校内のかなりの男子は、涼羽のことを可愛らしい美少女として認識し始めていることもあり…

今、涼羽と羽月のいちゃいちゃっぷりを見ている男子達も…
涼羽が男子だという意識がかなり希薄になってきている状態。

そのため、あの羽月の幸せそうな表情を見て…
自分達も甘えさせて欲しいと、ついつい思ってしまう。

「あ!涼羽ちゃん、なんかちっちゃくて可愛い女の子ぎゅってしてる!」
「あのちっちゃい子、なんか涼羽ちゃんと顔そっくり!」
「もしかして、あの子が涼羽ちゃんの妹ちゃんなの?」

今しがた、校内から出てきたのは、涼羽のクラスの女子達。

涼羽が、自身とそっくりな小さな女の子を優しく包み込んで…
思いっきり甘えさせてる姿に、思わず頬を緩めてしまう。

そして、その涼羽に幸せそうな表情でべったりと甘えている少女の顔立ちを見て…
あの少女が、話に聞いていた涼羽の妹ではないのか…
そんな思いが、芽生えてきてしまう。

「えへへ~♪お兄ちゃんだあい好き~♪」
「はいはい…ふふ」

そんなところに、羽月が涼羽に嬉しそうに呼びかける。
羽月のその、兄を呼ぶ声が、クラスメイトの女子達の耳に入ってくる。



――――今、涼羽にべったりと抱きついて甘えている少女が、話に聞く涼羽の妹なのだと、確信できる声が――――



「!今あの子、『お兄ちゃん』って言ってたよね?」
「!うん!言ってた!」
「やっぱりあの子、涼羽ちゃんの妹ちゃんなんだ!」

涼羽のクラスの女子達は、美鈴という情報源があるため…
ある程度、話を聞くことはできる。

ゆえに、涼羽に妹がいること…
その妹が、兄である涼羽のことが好きで好きでたまらない、ということも、美鈴から聞いている。

しかし、聞くと見るとでは、まるで違うと思ってしまう。

非常に仲がいい、とは聞いてはいたのだが…
それでも、一緒にいることが多い、くらいのものだと思っていた女子が多い。

だが、今、涼羽とその妹である羽月のやりとりを見ていると…
雰囲気的には、年頃の兄妹とは思えないほどに甘く、仲睦まじいやりとり。
それでいて、幼い娘が若い母親にべったりと甘えているという、優しくほのぼのとした雰囲気もある。

今時の恋人達でも、ここまであまあまないちゃらぶっぷりを見せてくれるだろうか…
そう思ってしまうほどに、この二人の仲は良すぎる…
どうしても、そう思えてしまう。

今このやり取りを見ている女子の中には、実際に兄を持っている身である女子もいる。
その女子達は、決して険悪、というわけではないが、取り立てて仲がいいわけでもない。

だからこそ、この光景がどれほど異常であるのか…
涼羽と羽月の兄妹が、どれほどに世間一般の兄妹からかけ離れた…
びっくりするほどに仲のいい兄妹なのか。

そんな異常性に満ち溢れた光景を見る目で、あの二人を見てしまっている。

「な、なに?あの二人…」
「実の兄妹よね?あの二人…」
「なんであんなに仲いいの?」
「お兄ちゃんって、そんなにいいもんじゃないよね?」

涼羽と羽月の仲睦まじさに、とてつもない異常性を感じてしまっている女子達の言葉。
特に、兄と仲が悪い女子達は、なおのことそう思ってしまう。

思うのだが…

「…でも、あんなお兄ちゃんだったら、ああなっちゃうかも…」
「…だよね…あんなにも優しく甘えさせてくれるお兄ちゃんなんて…」
「それに…あんなに可愛くて、男って感じしないから…」
「お姉ちゃん、って感じで、すっごく仲良くできそう…」

涼羽の美少女な容姿…
そして、その母性、慈愛、包容力…

加えて、異性という感じがしないこともあり…
余計に、ああなっても仕方ないのではないか、と思えてきてしまう。

「ああ~…妹ちゃんのことい~っぱい甘えさせてる涼羽ちゃん、す~っごく可愛い~」
「それに、すごく幸せそうな顔で目一杯お兄ちゃんに甘えてる妹ちゃんも、す~っごく可愛い~」
「もう二人とも、可愛すぎてぎゅってしたくなっちゃうよ~」

クラスの女子達は、もう完全に涼羽と羽月の兄妹の可愛らしさに、その顔を盛大に緩ませて…
デレデレの状態になりながら、目の保養といった感じで、じっと見つめている。

大好きで大好きでたまらないお兄ちゃんに目一杯甘え続けている羽月。
そんな妹の羽月を、これでもかと言わんばかりに甘えさせている涼羽。

周囲の視線をまるで気にかけることもなく…

その兄妹の固有結界を、展開し続けている。

「お兄ちゃん♪もっとわたしのこと、ぎゅ~ってして♪なでなでして♪」
「はいはい、してあげるね」
「うれしい♪お兄ちゃん、だあい好き♪」
「ふふ」

気持ちよさそうに目を細めながら、兄のなでなでを思う存分に堪能している羽月。
兄の胸に顔を埋めながら、思いっきりべったりと抱きついている。

涼羽の方も、そんな妹が可愛くて可愛くてたまらないのか…
妹の望むままにぎゅうっと抱きしめて、よしよしと頭を優しくなで続ける。

優しく、温かく、ほのぼのとした二人のやりとりに…
ひたすらに目を奪われている、周囲の生徒達。

これにより、ますます涼羽の校内での好感度が上がっていくこととなってしまい…
お嫁さんにしたい子ナンバーワンだけでなく…
お兄ちゃんにしたい子ナンバーワンとしても、涼羽の名前があがることになってしまうことに…

そのことに涼羽自身が気づくこととなるのは、今この時から結構時間が経ってからのことであった。

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