お兄ちゃんがお母さんで、妹が甘えん坊なお話

ただのものかき

涼羽ちゃんのお父さんって、どんな人?

「へ~、珍し~。涼羽ちゃんのお父さんからこんな時間に電話だなんて」

昼休みの直後に鳴り響いた涼羽のスマホ。
そして、コールの鳴るスマホを操作し、電話に出た涼羽。

会話の内容から、涼羽の電話の相手が、涼羽の父、翔羽だと判断する美鈴。

美鈴は、翔羽が栄転で再び高宮家に帰ってきてからも、涼羽のお料理教室をしてもらっていたため…
翔羽とも面識はある。

「え?今涼羽ちゃんが電話してるのって…涼羽ちゃんのお父さんなの?」
「うん、そうだよ」

美鈴が何気なしにぽつりと漏らした言葉を聞いていた女子が、思わずといった感じで美鈴に聞いてくる。
そして、その女子の問いかけに対し、美鈴もさらりと答える。

「へえ~…涼羽ちゃんのお父さん…」
「涼羽ちゃんのお父さんか~…」
「涼羽ちゃんのパパ…」

もはやこのクラスのアイドル兼マスコット的存在として、常に周囲に愛されっぱなしの涼羽。
その涼羽の父親、ということで、クラスの女子達が非常に興味津々な状態となる。

こんなにも可愛くて、健気で優しくて…
お母さんみたいな母性と包容力で、一緒にいてすごく癒される…

そんな涼羽の父親がいったいどんな人物なのか、気になって気になって仕方なくなってくる。

「ねえ、美鈴」
「?なに?」
「涼羽ちゃんのお父さんって、会ったことあるの?」
「うん、あるよ」

当の涼羽が電話の真っ最中のため、聞くに聞けず…
クラスの中で唯一、涼羽の自宅にまでお邪魔したことのある美鈴に、話を聞いてみることにした女子の一人。

涼羽の家に最近までお邪魔したことがあるのなら、父親とも面識があるのではないか…

その考えは見事に的中していた、という証明の言葉が、美鈴の口から音として教室に響く。

「!本当!?美鈴!?」
「うん、本当」
「ね~ね~!どんな人?どんな人?」
「涼羽ちゃんにそっくりな感じ?」
「それとも、全然似てないの?」

涼羽の父である翔羽と面識がある、と答えた美鈴に食い入るように…
いつものように涼羽の周囲を囲むように陣取っていたクラスの女子達が一斉に…
美鈴の元へと集まり、非常に興味津々と言わんばかりの表情で、掘り下げて聞いてこようとする。

そんなクラスの女子達に対し、やや気圧され気味になりながらも…
異性はもちろん、同性の目をも惹くであろう、天真爛漫な笑顔を見せながら、その口を開く。

「えっとね…見た目は涼羽ちゃんとは全然似てないね~」
「!そうなんだ~」
「で?で?」
「どんな見た目のお父さんなの?」
「普通のおじさん?」
「もしかして、メタボってたりしてる?」

今この場にいる女子達が、興味津々となれる話題ということで…
きゃっきゃきゃっきゃと、非常に楽しそうに話が弾んでいく。

その話題の対象となっている涼羽は、現在電話中ということで…
女子達が自分の父親のことでおしゃべりに励んでいることに全く気がついていない。

「え~っとね…お父さんっていうより、お兄さんって感じ」
「え?」
「お兄さん?」
「なにそれ?どういうこと?」
「見た目でいうと、二十五~六歳くらい」
「!うそ~!」
「そんなに若い見た目なの!?」
「それほんとにお兄さんって感じ!」
「でね、テレビのドラマに出てきてもおかしくないような、イケメンさん」
「!うわ~、いいないいな~」
「やっぱり涼羽ちゃんのお父さんだから、イケメンさんなんだね~」
「しかも、すっごく若い見た目なんて、うらやまし~」
「背なんかすっごく高くてね~…『身長どのくらいあるんですか?』って聞いたら、185cmもあるんだって。しかも細身で、足すっごく長いし」
「!わ~、ほんとに正統派のイケメンさんだ~」
「いいないいな~、そんなお父さんがいるなんて…」
「涼羽ちゃんうらやまし~」
「で、今会社で部長さんだから、収入も結構いいんだって」
「!すご~い!」
「仕事できるお父さんなんだ~」
「聞いてるだけですっごくかっこいいお父さん…」
「でも、涼羽ちゃんと、涼羽ちゃんの妹ちゃんのことがすっごく大好きなの。涼羽ちゃん達の前だと、い~っつもデレデレして、もうめちゃくちゃに涼羽ちゃん達のこと、可愛がってるの」
「!子供大好きなお父さんなんだ~」
「でも、そんなイケメンパパにそんな風にしてもらえたら…」
「あたし絶対『パパ大好き!』ってなっちゃう!」

涼羽の父、翔羽について、知っていることをつらつらとあげていく美鈴。
初めて高宮家に訪問した時のように、金曜日の放課後からお邪魔して…
土曜日の夜に自宅に帰る、という流れが、以降そのまま定着してしまっている。

そのため、涼羽の父親である翔羽とも、それなりに交流はしており…
翔羽の方から、学校での涼羽のことを結構聞かれたりは、している。

当然ながら、翔羽はいつでも最愛の子供達である涼羽と羽月のことを可愛がっており…
それは、美鈴がいるときでも変わりはない。

むしろ、それなりに来る回数が多い美鈴なので…
翔羽も特に気にすることなく、美鈴の前でも思いっきり子供達のことを可愛がっている状態だ。

ちなみに、涼羽のクラスメイトで、涼羽が周囲とうまく馴染めなくて孤立していた時に、自ら交流しようとしてきた美鈴のことを、翔羽は結構…
いや、かなり気に入っている。

涼羽にとっての貴重な友達とも言える存在が、人の目を惹くであろう美少女ということもあり…
また、美鈴も涼羽のことを思いっきり可愛がって、目一杯の愛情をぶつけて…
さらには、羽月と同じように涼羽にべったりと甘えているのを見て…

自分の息子がこんなにも可愛い娘さんにこんなにも好かれていることに、非常に好感を持っている。

ただ、どう見ても童顔な美少女にしか見えない自分の息子の容姿のことがあり…
このまま男女としてお付き合いしていって、仮にゴールインしたとしても…
おそらくどちらもウエディングドレスに身を包むことになり…
見た目完全なゆりっぷる夫婦になっているのではないか…
そんなイメージしか浮かんでこない翔羽なのである。

それに、普段からの涼羽と美鈴のやりとりを見ていても…
明らかに主導権は美鈴の方にあるようにしか見えないため…
自分の息子が、普通の男子のように積極的に恋愛事に取り組んでいくようには思えない、というのもある。

なので、もしこの二人が成立するとしたら…
とにかく美鈴の方がべったりとアピールしながら、その好意、愛情をぶつけていって…
美鈴の方から、涼羽にプロポーズする光景しか見えない、というのもある。

まあ、それはそれで非常に可愛くていいのだが、と思ってしまっているあたり、翔羽の親バカぶりが伺えてしまうのだが。

「あとね~、そのお父さんから聞いたんだけど…」
「?なに?美鈴?」
「涼羽ちゃんって、本当にお母さん似なんだって」
「だよね」
「お父さんは聞いてる限りだと、正統派なイケメンさんだし」
「だったら、お母さんの方に似てる、ってことになるよね」
「それも、今の涼羽ちゃんって、お母さんの高校一年生の時くらいと瓜二つだって、涼羽ちゃんのお父さん、言ってた」
「!わ~…」
「じゃあ、今の涼羽ちゃんって、本当にお母さんの若い頃そのまんまなの?」
「涼羽ちゃんのお父さん、その当時のお母さんの写真持ってたから、ちょっとだけ見せてもらったんだけど……本当に今の涼羽ちゃんまんまな見た目だったよ」
「すご~い…」
「お母さんの見た目、そのまんま受け継いじゃったのね~、涼羽ちゃんって」
「涼羽ちゃんのお母さん、胸おっきくて…すっごくスタイルよかった」
「!なにそれ!いいなあ~」
「美男美女のお父さん、お母さんなんだ~」
「いいなあ~」
「ちなみに、妹ちゃんもお母さん似で、小学生に見えるくらい小柄なんだけど…胸結構大きいし、スタイルもいいもん」
「わ~…妹ちゃんもお母さん似なんだね~」
「確か涼羽ちゃんとよく似てるって言ってたから…」
「お母さんに似てて当然、ってことよね~」

話を聞けば聞くほど、面白くなっていく涼羽の家族の話。
美鈴が展開してくれる涼羽の家族の話に、クラスの女子達は非常に楽しみを覚えながら聞いており…
さらには、より話を広げていっている。

「涼羽ちゃんのお父さん、涼羽ちゃんのお母さんのことがすっごく好きで…お母さんが亡くなってから結構経つのに、お母さんのこと裏切りたくないからって、未だに再婚とか、全然考えてないんだって」
「!わ~…一途~…」
「そんなにかっこいいのに、そんなに一途で…」
「しかも仕事もできて、高給取りなんて…」
「いいな~…」
「ただ、そのせいで涼羽ちゃん達にお母さんがいない状態がずっと続いちゃってるから、どうしたらいいのか…って、悩んだりすることはあるみたいだけど」
「もお!話聞けば聞くほどいいお父さん!」
「でも、そのお母さんの忘れ形見で、お母さんにそっくりな涼羽ちゃんと妹ちゃんがいるし…涼羽ちゃんが家だと本当に亡くなったお母さんの代わりに、お父さんのことしっかり家で支えて、お母さんを全く知らない妹ちゃんに、お母さんとしても接してるから、再婚の必要性を感じなくなっちゃってるみたい」
「もお~…涼羽ちゃんったら~」
「やっぱ涼羽ちゃん、すっごく天使~」
「あんなに可愛くて、家事万能で奥ゆかしくて…」
「もう、女の私達から見ても、お嫁さんにしたい子ナンバーワンだよね~」
「ね~」

父、翔羽がどれほどに涼羽に支えられているのか…
それも、翔羽本人の口から、美鈴は聞かされている。

そして、そんな息子、涼羽のことが可愛くて可愛くてたまらなく…
どれほどに愛情を注いでいるのかも、ずっと見てきている。

まあ、話の内容と、話すノリが、息子自慢と言うよりは嫁自慢のような…
そんな惚気満開ではあったのだが。

そして、その辺のお話まで聞いた女子達は…
改めて、涼羽がどれほどに今時珍しいくらいのいい子で…
今時いないでしょ、と言えるほどの大和撫子なのかを、痛感させられることとなった。

女の身である自分達でも、お嫁さんにしたいと思ってしまうほど。

「手作りのお弁当は詰め方も綺麗で、しかもすっごく美味しいし…」
「で、いつでも私達に優しくて…」
「掃除もすっごく手際よくて…」
「家事全部して、お父さんと妹ちゃんの面倒まで見てるのに、成績もいいし…」
「運動神経もよくて、スポーツ全般得意みたいだし…」
「なのに、全然偉ぶった感じもなくて…」
「むしろいっつも控えめで、自分に厳しいし…」

周囲の女子達から、涼羽のいいところがこれでもかと言わんばかりに、つらつらと出されていく。
一度、あのとっつきづらさ満点のフィルターが取っ払われてからは…
高宮 涼羽という人物は、愛される要素しか出てこない、と、クラスのみんなは思っている。

「で、ちょっとしたことで恥ずかしがっちゃうところなんかめっちゃ可愛いし」
「私達にお弁当のおかずわけてくれて、それで私達が美味しいって言った時なんか、涼羽ちゃんすっごく笑顔で喜んでくれるし」
「勉強で分からないところなんか、優しく分かりやすく教えてくれるし」
「体調崩してしんどそうにしてたら、すぐに気がついて、いろいろ世話を焼いてくれるし」
「ほんとに涼羽ちゃんって、天使みたいだよね」
「もう可愛くて可愛くて、ついつい可愛がりたくなっちゃうもんね」
「あたし達みんな、涼羽ちゃんのこと大好きだもん」

常に自分のことよりも、他人のことを優先して…
いつもいつも、人に優しく、温かく接している涼羽。

クラスの女子達も、涼羽の可愛らしさに常に癒され…
その優しさに常に救われ…
その温かさに常に満たされている。

いつもいつももらってばかりで、有難さと同時に申し訳なさすら感じてしまっている女子達。

だからこそ、涼羽のことを目一杯可愛がって、愛したくなってしまう。
そうすることで、少しでも自分達がもらったものを返したい。
そんな思いで。

一時期までの、誰をも寄せ付けない、孤高の一匹狼な雰囲気がなくなって…
本当に、天使としか言いようのないほどに愛される要素しかなくなっていっている涼羽。

本人が可愛がられることが苦手で、恥ずかしがりやであるため…
みんなのお返しとも言える愛情表現に対し、どうしてもツンツンとした反応しか出せないでいる。

ところが、そんなところもまた可愛くて、周囲はよりいっそう涼羽のことを可愛がりたくなってしまう。

涼羽がいてくれるおかげで、学校に行くのが楽しくてたまらない。
涼羽がいてくれるおかげで、勉強するのも楽しくなってきている。
涼羽がいてくれるおかげで、自分達の心がいつも癒されている。

涼羽自身も、女子達の愛情表現が苦手ではあるものの…
悪意など微塵もない彼女達のことを邪険にすることなど、決してあるはずもない。

そして、それは、女子達だけではなくなってきている。

「高宮…いっつも俺が分からないところを笑顔で教えてくれるもんな…」
「俺が熱出て、授業中に倒れそうになった時も、真っ先に気づいて、保健室に連れて行ってくれたし…」
「俺が弁当忘れてどうしようかと思ってたら、自分の弁当半分以上も分けてくれるとか…」
「あいつ、本当に天使だよな…」

クラスの男子達も、涼羽の優しさに触れ…
涼羽の笑顔に癒され…
涼羽の温かさに満たされている。

もう、クラス全体が、涼羽に対しての感謝と好意に満ち溢れている状態なのだ。

だからこそ、女子達と違って、気軽なスキンシップを取れる状況がない分…
何かあったら、絶対に助けてあげよう…
何か困ってたら、絶対に手伝ってあげよう…

そんな思いに、満ち溢れている。
そして、常にそんな機会をうかがっている。

「ふう………あれ?みんな、何の話してるの?」

父、翔羽との電話を終え、お昼の弁当に手をかけようと、自分の席に戻る涼羽。
そんな自分の席の周囲に、いつものように集まってきている女子達が、すごく楽しそうにおしゃべりしているのを見て…
無意識に嬉しそうな表情を浮かべながら、問いかけてみる。

「え?こういうこと!」
「え?……!わっ!」

涼羽の問いかけに真っ先に気づいた美鈴が、非常に嬉しそうな表情で、いつものように涼羽にべったりと抱きついてくる。
もはや恒例行事であるにも関わらず、慣れない初心な感じのまま…
べったりとされて、思わず慌ててしまう涼羽。

「えへへ~♪涼羽ちゃ~ん♪」
「ちょ…美鈴ちゃん、離して…」
「や~♪涼羽ちゃん可愛いから、だあめ♪」

もうとろけるかのような嬉しそうな笑顔で、ひたすら涼羽にべったりと抱きついている美鈴。
そんな美鈴に対し、相変わらず困り果てた表情で、離してほしいと懇願する涼羽。

「涼羽ちゃん!」
「涼羽ちゃ~ん♪」
「涼羽ちゃん♪」

美鈴に負けじと、他の女子達も我先と言わんばかりに涼羽に抱きついてくる始末。
女子達は、自分達に抱きつかれて困っている涼羽を見て、さらにその頬を緩めてしまう。

「ちょ、ちょっと…みんなして…」
「えへへ♪だって涼羽ちゃんが可愛すぎるから、いけないの♪」
「そうそう♪」
「可愛い涼羽ちゃんは、私達に可愛がられないと、だめなんだからね♪」

涼羽のことが本当に大好きで大好きでたまらない、クラスの女子達。

涼羽のことを、目一杯愛してあげようとべったりと抱きついてくる彼女達に対し…
涼羽は、儚い声だけの抗議をしながらも、抵抗らしい抵抗はできずに、されるがままになっているのであった。

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