お兄ちゃんがお母さんで、妹が甘えん坊なお話
どうちたら、りょうせんせーみたいになえるの?
「涼羽ちゃん!!」
ほのぼのと、癒し空間となっている秋月保育園の教室の中…
涼羽にとっては、非常に聞きなれた声。
その声が、自分を呼んだことに驚き…
思わず、その小柄で華奢な身体ごと、声のする方向に視線を向けてしまう。
「み、美鈴ちゃん!?」
視線を向けたその先にいたのは…
やはり、美鈴だった。
学校の制服のままであることを見ても、明らかに学校帰りであることが分かる。
「えへへ~♪涼羽ちゃ~ん♪」
そして、まさにいつものごとくで…
保育園での作業着に身を包んでいる涼羽にべったりと抱きついて…
その丸みを帯びた柔らかな頬に、すりすりと頬ずりまでしてしまう。
「え?え?なんで?なんで美鈴ちゃんがここに?」
いきなりいつものようにべったりと抱きつかれた涼羽の方は…
いつものような羞恥を感じるよりも驚きの方が勝っており…
どうしてここに、学校帰りの美鈴がいるのかも分からず…
その思考は、混乱の渦に巻き込まれている。
「柊だけじゃないぜ、涼羽」
そんな涼羽に、これまた聞きなれた声がかかる。
ここ最近、常に自分と関わろうとしてくる声が。
「!え…志郎?」
その声に驚いて、慌てて視線を向けてみたら…
美鈴と同じように、学校帰りであることを示す制服姿の志郎が…
優しげな眼差しを自分の方に向けて、立っていた。
「ハハ…お前…どっからどう見ても可愛い女の子じゃねえか」
「!そ、そんなこと…」
「そこのおちびちゃん達と触れ合ってるところなんか、まじでお母さんみてえだったぜ」
「!み、見てたの?…」
「ああ、もう見てるだけで幸せになれちまうほどだったぜ」
自分が園児達を目いっぱい包み込んで…
本当に幸せな感じで触れ合っていたところを見られていたと知ってしまい…
その童顔な美少女顔を熟れたトマトのように真っ赤に染めて…
恥じらいに俯いてしまう涼羽。
「うん!子供達と触れ合ってる涼羽ちゃん、すっごく可愛くて…もうずっとこんな風にぎゅってしたくて、たまらなかったの!」
涼羽にべったりと抱きついて…
思う存分にその可愛らしさを堪能している美鈴も…
涼羽の保育士としての姿を見て、本当に心が癒され…
本当に、涼羽が可愛すぎてたまらなかった、と。
「高宮君、本当に可愛くて…本当にお母さんみたいで…すっごく素敵だったわよ」
そして、さらに聞こえる、今となっては聞きなれた声。
この声も、ここ最近、よく聞くようになった声。
「!こ、小宮さんまで…」
これまた驚いて、すぐさま声の方向に視線を向けると…
ほかの二人と同じように、学校帰りであることが分かる制服姿で…
優しい微笑みを浮かべながら、自分を見つめている愛理が、そこにいた。
学校帰りに友人のアルバイト姿を見に来る…
そんなことに一番無縁だと思っていた愛理が、この場に姿を現していることに…
涼羽はここまでで一番の驚きを見せてしまっていた。
「高宮君…本当に女子力高すぎ」
「!そ、そんなこと…」
「もうほんとに、大和撫子って感じで…すごく素敵だった」
「!ち、ちが…」
「私、女として本当にあなたのこと、尊敬しちゃうくらいだもの」
「!うう…」
普段の素直になれない愛理と違い…
もう、無理をしている風でもなく…
ましてや、決して嘘を言っている風でも、からかっている風でもなく…
ただただ、純粋に『女性として』涼羽のことを褒め称え…
純粋に、素直に『女性として』涼羽のことを尊敬に値する、と。
身近にいる、同年代含む近い年代の女子達は…
見た目こそ垢抜けている子は多いものの…
その中身が、明らかに女子としては物足りないとまで思えてしまうから、余計にそう思ってしまう愛理。
共学であるにも関わらず、スカートがめくれあがることも気にせずにがさつに足を上げたり、開いたりしながら座ったりする女子。
今では、スパッツだの、見せパンだの…
見られたとしても、当人としては問題のないものを着用しているのがほとんどなのだが…
それを考慮しても、これは、もう女子として問題外。
加えて、言動が男子に近い、乱暴でこれまたがさつな印象を隠せない女子も多い。
これもまた、女子として問題外。
また、施設の関係上、家庭科の実習が授業に存在しないため…
加えて、家に帰らずに夜遅くまでふらふらと出歩いては、遊びほうけているため…
料理はもちろんのこと、家事など一切しないし、できない女子。
愛理自身がちゃんと家事手伝いなどもし…
料理もこなす家庭的な女子であることもあり…
やはり、そういう女子も本当に女子力に欠けると、言わざるを得ない。
そんな女子達を目の当たりにしていることもあり…
せいぜい母親の家事手伝いで留まっている自分とは違い…
今はいない母親の代わりとして、ひたすらに生活の中心になるほどに…
目いっぱい家事全般に取り組み…
今となっては、誰もが認めるほどの腕前になっている涼羽。
さらには、妹のために自らがお母さんの代わりとして接して…
その母性と慈愛を駆使して、目いっぱい妹を可愛がって…
父親に対しても、まさにお母さんの代わりとして…
縁の下の力持ちとして、ひたすら尽くすかのようにせっせと付き添い…
本当に家庭的で、本当に女性らしい…
男の子なのに、本当に女子力に満ち溢れた存在である涼羽。
ちょっとしたことですぐに恥らったり、貞淑で清楚であったり…
そんな涼羽が、本当に女子として尊敬に値すると、思えてしまうのだ。
愛理から、そんな称賛を与えられて…
「…そ、そんなこと言わないで…」
当の涼羽の方は、もうひたすらに恥ずかしがって…
すでに真っ赤に染まっている顔をさらに真っ赤に染めて…
もう、どうすることもできないほどに俯いて…
ひたすらに、恥らい続けている。
「わ~、りょうてんてー、かわいい~♪」
「おかおまっかにちて、はぢゅかちがってりゅりょうてんてー、かわいい~♪」
「えへへ~♪かわいいりょうせんせー、らあ~いちゅき♪」
そんな涼羽を見て、園児達がわらわらと…
再び涼羽のそばへと寄ってくる。
そして、もう溶けてしまいそうなほどに恥ずかしがっている涼羽を至福の表情で見つめながら…
その小柄で華奢な涼羽の身体に、べったりと抱きついて甘えてくる。
「あ…あんまり、見ないで…ね?」
自分のそんな顔を見られることに非常に抵抗があるのか…
園児達の純真無垢な視線から逃れようと、ふいと視線を逸らしてしまう涼羽。
それでも、自分にべったりと抱きついてくる園児達を邪険にすることなどなく…
逆に、目いっぱい包み込もうと、優しく抱きしめてしまうのだが。
そんな涼羽の儚い懇願が、あまりにも可愛すぎて…
「りょうせんせー、かわいい~♪しゅ~ごくちゅき~♪」
「かわいいりょうてんてー、らあ~いちゅき~♪」
「りょうせんせーのかわいいおかお、もっとみちて~♪」
もうたまらない、といった感じで、よりべったりと抱きついて甘えてくる園児達。
「涼羽ちゃん、本当に可愛い!可愛すぎだよ~♪」
そんな園児達と同じように、よりべったりと涼羽に抱きついて…
その頬にすりすりと頬ずりまでしてしまう美鈴。
「ハハハ…お前、本当に可愛いな、涼羽」
ついには、男友達であるはずの志郎まで、涼羽のそばによってきて…
そのさらりと手触りのいい髪の感触を堪能するかのように…
優しく頭をなでてくる。
「高宮君、本当に可愛い…」
そんな風に、もうみんなからひたすらに愛されて可愛がられている涼羽を…
普段からは考えられないほどの優しい微笑みを浮かべた、優しげな眼差しで…
じっと見つめながら、その手を涼羽の頬に伸ばして、優しくなでる愛理。
「…あのお友達も、涼羽君の可愛らしさにメロメロのようですね」
「そりゃそうですよ。あの可愛らしさに心動かされない人間なんて、いやしませんよ」
突然の乱入者である志郎、美鈴、愛理も含めて…
ひたすらに涼羽が愛され、可愛がられている姿を見て…
すでに緩んでいる頬をさらに緩ませてしまう祥吾と珠江の二人。
特に珠江は、まるで自分の子供がこんなにも愛されて、本当に嬉しいと言わんばかりに…
ちょっとしたドヤ顔にまで、なってしまっている。
園児達に…
そして、学校での友人達に…
ただただ、ひたすらに愛されて、可愛がられて…
涼羽は、その顔全体を真っ赤に染めたまま、どうすることもできずに…
ただただ、その顔を少しでも見られないようにと、俯くことしかできないでいた。
――――
「ハハハ、どうだ~?高えだろ~?」
「わ~!!すっげー!!」
「はやくはやく!ぼくも~!!」
「おっきいにーちゃん!!ぼくも~!!」
ひとしきり、涼羽を可愛がってつやつやとした顔をしている志郎、愛理、美鈴の三人。
そこから、飛び入りの臨時保育士として、園児達の相手をこなし始めていた。
上背があり、見るからに体力自慢の志郎は、小さな園児達を自分よりも高い視線に導いて…
その光景を楽しんでもらっている。
涼羽の前では比較的おとなしくなってしまう男児達だが…
こんな感じの遊びの方がやはり好みのようで…
男児達のほとんどは志郎の方へと、我も我もとせっつくように寄っていき…
その高い視線見たさに、早く早くと、キラキラと期待に満ちた笑顔で…
志郎の足元にべったりとしている。
志郎の方も、割かし幼い男児達の相手を楽しんでいるようで…
その精悍な造りの顔には、楽しそうな笑顔が浮かんでいる。
もともと、孤児院で年下の男子達の面倒を見ていたこともあり…
意外にも、こういうことは嫌いではないようだ。
「えへへ…ど~お?可愛くなったでしょ?」
「わ~…ほんとだ~」
「おねえたん、わたちにもちて~」
「あたちも~」
美鈴の方は、女児達を可愛らしくコーディネイトすることで、お互いに楽しんでいる。
幼い女の子達の髪質や髪の長さに合わせて、リボンをつけたり…
三つ編みにしてみたり、ポニーテールにしてみたり…
美鈴自身、こうやっていろいろしながら女の子達を可愛がることに楽しみを覚え…
女児達も、そんな美鈴に可愛らしくしてもらうことを今か今かと楽しみにしながら、その様子を見つめている。
一人っ子で、年下の子供の面倒を見ることもなかった美鈴だが…
こうやって幼い子供と戯れるのが楽しいのか…
その可愛らしい美少女顔からは、喜びと楽しさに満ち溢れた笑顔が絶えることがなく…
ただひたすらに、本当に楽しそうに子供達と遊んでいる。
そんな美鈴に、最初は美鈴がどんな人かを伺うようだった女児達も…
すぐに気を許して、割とべったりと懐いている。
「ふふふ…ほら、お口からよだれ、垂れてるわよ?」
「ん…あいがと~!きれいなおねえたん!」
「きれいなおねえたん、ぎゅってちて~?」
「なでなでちて~?」
「はいはい、いいわよ…おいで」
そして、美鈴と同じ一人っ子ではあるものの…
風紀委員や、クラスの委員長など、ほかの人間があまりやりたがらないことを自ら積極的にやろうとしていく性格のため…
しっかりもので、それなりに面倒見のいい愛理。
ゆえに、涼羽のように本当に園児達のお世話をして…
優しく触れ合って、園児達を可愛がっている。
年齢よりも大人びた印象で、造りの綺麗な…
本当に美人といえるタイプの顔立ちもあり…
一見冷たそうな美人の愛理が、こんなにも優しい笑顔で自分達の面倒を見てくれることもあり…
涼羽に甘えるように、愛理に懐いて甘えてくる園児も、かなりの数になっている。
愛理も、こうした感じで、小さな子供達の面倒を見ることに、ちょっとした幸せを感じているのか…
加えて、もともと可愛いもの好きということもあり、こんなにも可愛い子供達がこんなにも自分に甘えてくれるのが嬉しいのか…
家庭的で女子力が高いこともあり、すぐにここの園児達と打ち解けることができているようだ。
「りょうてんてー、らっこ~」
「りょうせんせー、ぎゅってちて~」
「はいはい…おいで」
「えへへ~♪りょうちぇんちぇー、らあ~いちゅき♪」
「りょうてんてー、ら~いしゅき♪」
そして、他の三人にもよく園児達が懐いていっているものの…
やはり、涼羽の方には、一番多くの園児が懐いている。
その可愛らしい、童顔な美少女顔に浮かぶ、母性と慈愛に満ち溢れた笑顔。
そして、そのとろけんばかりの優しさで園児達を包み込む包容力。
涼羽に包み込まれているだけで、本当に幸せだと感じてしまう園児は数多く…
ただただ、涼羽にべったりと抱きついて、ひたすらに甘えてくる。
そんな園児達が本当に可愛いのか…
涼羽の顔に、本当に幸せそうな、優しい笑顔が絶えず浮かんでくる。
涼羽のことが大好きで大好きでたまらない園児達。
そんな涼羽の笑顔を見て、もっともっとと、嬉しそうに、幸せそうに甘えてくる。
「いや~…まさか涼羽君の友達がこんなにも園児達に懐かれるとは…」
「これは本当に…嬉しい誤算でしたね、園長先生」
「こんな風に園児達と仲良く、楽しそうに触れ合ってくれて…私としては本当に嬉しいですよ」
「園児達も、いきなり来たお兄さんお姉さんのことを怖がらずに、べったりと懐いてくれてるのが、本当にありがたいですよね」
「…こんな風にこの保育園に貢献してくださって…涼羽君は友達にも恵まれていますね」
「ええ…あの子は本当に、周囲にいい影響を与えてくれますよね」
「いきなりなお願いでしたけど…こんな風にいい結果になって…彼らにも、少ないですがこの日の分の給料をお渡ししようと思います」
「…園長先生がそう思われるのでしたら、ぜひそうしてください」
「ありがとうございます、市川さん」
「いえいえ、あたしとしても本当に楽させてもらってますので、園長先生の判断は妥当だと思ってますので」
突然の乱入となった涼羽の友達三人が、これほどに園児達と仲良く触れ合ってくれて…
さらには、涼羽自身もより園児達のことを可愛がってくれて…
本当に思いつきの判断となってしまったものの…
結果的には園児達が喜んでくれて…
さらには、涼羽の友達である志郎、愛理、美鈴の三人も…
本当に楽しそうに、嬉しそうに園児達と触れ合ってくれて…
その仕事に向き合う真摯な姿勢と意識でどうにかもたせているものの…
実際のところ、珠江の身体も結構ガタが来ているところもあり…
あまり無理ができない今この時に、こんな風に楽させてもらえていることに、本当に感謝の念を送っている。
そして、この園長である祥吾の人を見る目に、またしても驚かされることとなっている。
涼羽自身も、仲のいい友達と共に、こうして園児達と触れ合えていることに…
よりよい刺激を受けることができているようで…
その笑顔が、いつもよりも心なしか嬉しそうな感じになっている。
「ねーねー、おっきいにーちゃん!」
「ん?なんだ?」
「にーちゃん、すっごくちからもちだね!」
「ハハハ、そうか~?」
「どーちたら、おっきいにーちゃんみたいに、こんなにおっきくて、ちからもちになえるの~?」
「ん~?そうだな…好き嫌いせずに、ちゃんと食うもん食って、目いっぱい身体動かしたら、なれるぞ?」
「!ほんと~?」
「ああ、ほんとだ」
「じゃあぼく、ちゅききあいしないで、ごはんいっぱいたべゆ~!!」
「ぼくも~!!」
「ぼくも、い~っぱいおそとであちょんで、い~っぱいからだうごかしゅ~!!」
「うんうん、そうだぞ。そうしたら、ちゃんと大きく、強くなれるからな」
「は~い!!」
志郎のところに懐いている園児達は、どうしたら志郎のように大きく、そして強くなれるのか…
そのことにすごく興味が沸いたようで、純真無垢でまっすぐに、そのことを志郎に聞いている。
園児達からそんな問いかけをされた志郎は、実にあっさりと…
それでいて、子供達のためになるような模範解答を、笑顔で返す。
そんな志郎の答えを、幼く素直な男児達はまっすぐに受け止め…
目の前にいる、大きくて力持ちな兄ちゃんのようになりたいと…
そう心に思い、この兄ちゃんの言うとおりにしていこうと、可愛らしくも誓いを立てる。
そんな園児達を見て、こんな自分でも小さな子供達に教えられることがあるということ…
その事に、言いようのない喜びと充実感を感じ、本当に心からの笑顔が浮かんでくる。
そして、そんなきっかけを与えてくれた涼羽と…
実際に不審者のようにこの中を覗き込んでいた自分達に声をかけてくれた園長である祥吾に…
まっすぐな感謝の念を、送ることができた。
「ね~ね~、おねえたん?」
「なあに?」
「どーちたら、おねえたんみたいにかわいくなえるの~?」
「ん~…本当に自分を可愛くしたいって思って、もしそれがしたくないことでもちゃんとしていくことかな~?」
「?やなことでも~?」
「そう。疲れる~って思うこととか、やだ~って思うことでも、それをしないとだめだってことは、ちゃんとしていくこと…かな?」
「…そっか~」
「おねえたん、すっごくがんばいやさんなんだね~」
「うん!だって、お姉ちゃんがんばってる!ってところを見てもらいたい人がいるから…だから、がんばれるの!」
「おねえたん、しゅご~い!」
「あたちも、おねえたんみたいにがんばりゅ!」
「わたしも、おねえたんみたいにがんばって、かわいくなりゅ~!」
「うん、そうだよ!みんな、がんばろ!」
「は~い!!」
本当に天真爛漫で、素直に可愛い美鈴を見ていた園児達。
その園児達からの、美鈴に対しての純真無垢な問いかけ。
その問いかけに対し、美鈴からの、まっすぐで真摯な答え。
ぱっと見では、ふわふわとしていて、ゆるい感じの美鈴ではあるが…
そんな第一印象に反して、実際にはかなりの努力家。
大好きな料理が上手になりたい…
それだけで、当時本当にとっつきづらく、誰からも腫れ物扱いされていた涼羽に勇気を出して、声をかけた美鈴。
涼羽に可愛いって言われたくて、自分を可愛くしていきたい…
そう思って、常日頃からやや太りやすい体質をカバーするために、懸命にプロポーションを保つための努力を欠かさない美鈴。
涼羽に本当の意味で、大好きと言われたい…
そのために、常日頃からずっとべったりと涼羽にくっついて、懸命に自分をアピールし続ける美鈴。
そんな美鈴の想いが、幼いなりに伝わってくるのか…
園児達も、このお姉ちゃんみたいにがんばろうと…
もしそれが、自分の嫌なことだったとしても、がんばってみようと…
そう、小さいなりに思うことができ、そうしていきたいと、声にすることができたのだ。
そんな園児達を見て、美鈴自身、園児達を本当に可愛いと思うと同時に…
自分自身も、もっともっとがんばっていこうと、思わせてもらえた。
そんな美鈴の顔には、この可愛い園児達とその想いを分け合うことができた喜びに満ちた笑顔が、浮かんでいた。
「ね~ね~、きれいなおねえたん?」
「あら、なあに?」
「どうちたら、おねえたんみたいにきれいでやちゃちくなえるの~?」
「え?」
「おねえたん、しゅ~ごくきれいで、しゅ~ごくやちゃちくて…わたち、おねえたんみたいになりたいの」
「わ、私みたいに?…」
「うん、なりたいの」
「あたちも」
「わたちも~」
「そうね…ちゃんと守らなきゃいけない決まりごとは、ちゃんと守ること、それと…自分が優しくできた人が、それで嬉しくなってくれてるのを見て、自分も嬉しくなれること…かな?」
「!じゃあ、おねえたんはわたちがうれちくなってるのみて、うれちいの?」
「ええ、あなた達みたいに素直で可愛くていい子達が嬉しいと、私も嬉しいわ」
「!えへへ~♪じゃあわたちもうれちい!!」
「え?」
「おねえたんがうれちいってゆってくえて、なんだかわたちもうれちい!!」
「…そう。なら大丈夫」
「?」
「あなた達なら、絶対に綺麗で優しくなれるわ」
「!ほんと~?」
「ええ、ほんとよ。ただし…今みたいに、私が嬉しいから、自分も嬉しいっていうことが、これからもずっとできたら…ね?」
「!わ~い!!」
「あたちも、ほかのひとがうれちかったら、もっとうれちくなりゅ~!!」
「うふふ…可愛い。そうよ、みんなでい~っぱい嬉しくなっていこうね」
「は~い!!」
そして、自分が綺麗で優しいと園児達に言われて、思わず驚きの表情を浮かべてしまう愛理。
そんな愛理に、べったりとしながらもまっすぐに思ったことを問いかけてくる園児達。
そんな幼い子供達に、本当に母親が優しく言い聞かせるかのように…
自分が思ったこと、感じたことをそのまま、言葉として音にする愛理。
そして、園児達が嬉しいと、自分も嬉しいといってくれた愛理に対し…
園児達も、愛理が嬉しいと自分も嬉しいといってくれたこと。
それが、愛理にとって本当に嬉しいこととなった。
そして、大丈夫だと。
こんなにも優しい心を持てる子供達なら、絶対に綺麗で優しくなれると。
そう、確信を持って、園児達に言うことができる。
自分がただ、思ったままに伝えたことを、そのまま素直に受け取ってくれる園児達が本当に可愛くて…
愛理の顔からは、優しい笑顔がそのままずっと、浮かび続けていた。
「ね~ね~、りょうせんせー」
「?なあに?」
「どうちたら、りょうせんせーみたいになえるの~?」
「え?」
「あたち、りょうせんせーみたいに、す~っごくやちゃちくて、す~っごくぽっかぽかになりたいの」
「……せ、先生みたいに?」
「うん」
「わたちも!」
「ぼくも!」
「…そう…なら、この人が困ってたら、助けてあげたいって、素直に思えること…かな?」
「?たとえば~?」
「たとえば、あの子がおなかすいたってなったら、ご飯を食べさせてあげる、とかかな?」
「わ~…」
「そうして、おいしいおいしいって食べてくれて、おなかいっぱいで幸せな顔になってくれたら、先生、本当に嬉しくなれるかな…って思うの」
「そえって、あたちがおなかぺこぺこ~ってなったら、りょうせんせー、あたちにごはんたべさせてくえるの~?」
「うん。それで、おなかい~っぱいで、しあわせ~って喜んでくれたら、先生本当に嬉しくなれるよ?」
「わ~…」
「しゅご~い…」
「じゃあ、りょうせんせーがおなかぺこぺこ~ってなったときに、わたちがこれたべて~ってちたら、りょうせんせー、うれちい?」
「うん、すっごく嬉しい」
「!じゃあ、わたちもりょうせんせーみたいにする~!!」
「りょうちぇんちぇーみたいに、ほかのひとにうれちいってなってもりゃう~!!」
「ふふ…可愛い。じゃあ、先生と一緒に、いろんな人に優しくなっていこうね」
「は~い!!」
園児達が大好きで大好きでたまらない涼羽に対し、なんとなく思ったことをそのまま問いかけてくる。
その問いかけに、一瞬間の抜けた反応をしてしまうものの…
すぐに、優しい笑顔で、自分の思ったことをそのまま伝える涼羽。
本当に誰にも優しい涼羽らしい解答に、園児達も興味津々で掘り下げてくる。
そして、その追求にまた、優しい笑顔で分かりやすく答えていく涼羽。
そんな涼羽のことが本当にすごくて…
本当に素敵だと思えたのか…
自分達も、涼羽のようにしていきたいと、無邪気な可愛らしい声をあげる園児達。
そんな園児達を見て、本当に可愛いと…
そして、本当に一緒に人にもっと優しくなっていこうと…
そう思え、思わずあふれんばかりの笑顔が浮かんでくる涼羽。
それぞれがそれぞれで、個性的でありながらも…
いい方向で園児達を導いていく、涼羽、志郎、愛理、美鈴の四人の姿を…
本当に微笑ましく、優しい笑顔で見つめる祥吾と珠江の姿が、そこにあるのだった。
ほのぼのと、癒し空間となっている秋月保育園の教室の中…
涼羽にとっては、非常に聞きなれた声。
その声が、自分を呼んだことに驚き…
思わず、その小柄で華奢な身体ごと、声のする方向に視線を向けてしまう。
「み、美鈴ちゃん!?」
視線を向けたその先にいたのは…
やはり、美鈴だった。
学校の制服のままであることを見ても、明らかに学校帰りであることが分かる。
「えへへ~♪涼羽ちゃ~ん♪」
そして、まさにいつものごとくで…
保育園での作業着に身を包んでいる涼羽にべったりと抱きついて…
その丸みを帯びた柔らかな頬に、すりすりと頬ずりまでしてしまう。
「え?え?なんで?なんで美鈴ちゃんがここに?」
いきなりいつものようにべったりと抱きつかれた涼羽の方は…
いつものような羞恥を感じるよりも驚きの方が勝っており…
どうしてここに、学校帰りの美鈴がいるのかも分からず…
その思考は、混乱の渦に巻き込まれている。
「柊だけじゃないぜ、涼羽」
そんな涼羽に、これまた聞きなれた声がかかる。
ここ最近、常に自分と関わろうとしてくる声が。
「!え…志郎?」
その声に驚いて、慌てて視線を向けてみたら…
美鈴と同じように、学校帰りであることを示す制服姿の志郎が…
優しげな眼差しを自分の方に向けて、立っていた。
「ハハ…お前…どっからどう見ても可愛い女の子じゃねえか」
「!そ、そんなこと…」
「そこのおちびちゃん達と触れ合ってるところなんか、まじでお母さんみてえだったぜ」
「!み、見てたの?…」
「ああ、もう見てるだけで幸せになれちまうほどだったぜ」
自分が園児達を目いっぱい包み込んで…
本当に幸せな感じで触れ合っていたところを見られていたと知ってしまい…
その童顔な美少女顔を熟れたトマトのように真っ赤に染めて…
恥じらいに俯いてしまう涼羽。
「うん!子供達と触れ合ってる涼羽ちゃん、すっごく可愛くて…もうずっとこんな風にぎゅってしたくて、たまらなかったの!」
涼羽にべったりと抱きついて…
思う存分にその可愛らしさを堪能している美鈴も…
涼羽の保育士としての姿を見て、本当に心が癒され…
本当に、涼羽が可愛すぎてたまらなかった、と。
「高宮君、本当に可愛くて…本当にお母さんみたいで…すっごく素敵だったわよ」
そして、さらに聞こえる、今となっては聞きなれた声。
この声も、ここ最近、よく聞くようになった声。
「!こ、小宮さんまで…」
これまた驚いて、すぐさま声の方向に視線を向けると…
ほかの二人と同じように、学校帰りであることが分かる制服姿で…
優しい微笑みを浮かべながら、自分を見つめている愛理が、そこにいた。
学校帰りに友人のアルバイト姿を見に来る…
そんなことに一番無縁だと思っていた愛理が、この場に姿を現していることに…
涼羽はここまでで一番の驚きを見せてしまっていた。
「高宮君…本当に女子力高すぎ」
「!そ、そんなこと…」
「もうほんとに、大和撫子って感じで…すごく素敵だった」
「!ち、ちが…」
「私、女として本当にあなたのこと、尊敬しちゃうくらいだもの」
「!うう…」
普段の素直になれない愛理と違い…
もう、無理をしている風でもなく…
ましてや、決して嘘を言っている風でも、からかっている風でもなく…
ただただ、純粋に『女性として』涼羽のことを褒め称え…
純粋に、素直に『女性として』涼羽のことを尊敬に値する、と。
身近にいる、同年代含む近い年代の女子達は…
見た目こそ垢抜けている子は多いものの…
その中身が、明らかに女子としては物足りないとまで思えてしまうから、余計にそう思ってしまう愛理。
共学であるにも関わらず、スカートがめくれあがることも気にせずにがさつに足を上げたり、開いたりしながら座ったりする女子。
今では、スパッツだの、見せパンだの…
見られたとしても、当人としては問題のないものを着用しているのがほとんどなのだが…
それを考慮しても、これは、もう女子として問題外。
加えて、言動が男子に近い、乱暴でこれまたがさつな印象を隠せない女子も多い。
これもまた、女子として問題外。
また、施設の関係上、家庭科の実習が授業に存在しないため…
加えて、家に帰らずに夜遅くまでふらふらと出歩いては、遊びほうけているため…
料理はもちろんのこと、家事など一切しないし、できない女子。
愛理自身がちゃんと家事手伝いなどもし…
料理もこなす家庭的な女子であることもあり…
やはり、そういう女子も本当に女子力に欠けると、言わざるを得ない。
そんな女子達を目の当たりにしていることもあり…
せいぜい母親の家事手伝いで留まっている自分とは違い…
今はいない母親の代わりとして、ひたすらに生活の中心になるほどに…
目いっぱい家事全般に取り組み…
今となっては、誰もが認めるほどの腕前になっている涼羽。
さらには、妹のために自らがお母さんの代わりとして接して…
その母性と慈愛を駆使して、目いっぱい妹を可愛がって…
父親に対しても、まさにお母さんの代わりとして…
縁の下の力持ちとして、ひたすら尽くすかのようにせっせと付き添い…
本当に家庭的で、本当に女性らしい…
男の子なのに、本当に女子力に満ち溢れた存在である涼羽。
ちょっとしたことですぐに恥らったり、貞淑で清楚であったり…
そんな涼羽が、本当に女子として尊敬に値すると、思えてしまうのだ。
愛理から、そんな称賛を与えられて…
「…そ、そんなこと言わないで…」
当の涼羽の方は、もうひたすらに恥ずかしがって…
すでに真っ赤に染まっている顔をさらに真っ赤に染めて…
もう、どうすることもできないほどに俯いて…
ひたすらに、恥らい続けている。
「わ~、りょうてんてー、かわいい~♪」
「おかおまっかにちて、はぢゅかちがってりゅりょうてんてー、かわいい~♪」
「えへへ~♪かわいいりょうせんせー、らあ~いちゅき♪」
そんな涼羽を見て、園児達がわらわらと…
再び涼羽のそばへと寄ってくる。
そして、もう溶けてしまいそうなほどに恥ずかしがっている涼羽を至福の表情で見つめながら…
その小柄で華奢な涼羽の身体に、べったりと抱きついて甘えてくる。
「あ…あんまり、見ないで…ね?」
自分のそんな顔を見られることに非常に抵抗があるのか…
園児達の純真無垢な視線から逃れようと、ふいと視線を逸らしてしまう涼羽。
それでも、自分にべったりと抱きついてくる園児達を邪険にすることなどなく…
逆に、目いっぱい包み込もうと、優しく抱きしめてしまうのだが。
そんな涼羽の儚い懇願が、あまりにも可愛すぎて…
「りょうせんせー、かわいい~♪しゅ~ごくちゅき~♪」
「かわいいりょうてんてー、らあ~いちゅき~♪」
「りょうせんせーのかわいいおかお、もっとみちて~♪」
もうたまらない、といった感じで、よりべったりと抱きついて甘えてくる園児達。
「涼羽ちゃん、本当に可愛い!可愛すぎだよ~♪」
そんな園児達と同じように、よりべったりと涼羽に抱きついて…
その頬にすりすりと頬ずりまでしてしまう美鈴。
「ハハハ…お前、本当に可愛いな、涼羽」
ついには、男友達であるはずの志郎まで、涼羽のそばによってきて…
そのさらりと手触りのいい髪の感触を堪能するかのように…
優しく頭をなでてくる。
「高宮君、本当に可愛い…」
そんな風に、もうみんなからひたすらに愛されて可愛がられている涼羽を…
普段からは考えられないほどの優しい微笑みを浮かべた、優しげな眼差しで…
じっと見つめながら、その手を涼羽の頬に伸ばして、優しくなでる愛理。
「…あのお友達も、涼羽君の可愛らしさにメロメロのようですね」
「そりゃそうですよ。あの可愛らしさに心動かされない人間なんて、いやしませんよ」
突然の乱入者である志郎、美鈴、愛理も含めて…
ひたすらに涼羽が愛され、可愛がられている姿を見て…
すでに緩んでいる頬をさらに緩ませてしまう祥吾と珠江の二人。
特に珠江は、まるで自分の子供がこんなにも愛されて、本当に嬉しいと言わんばかりに…
ちょっとしたドヤ顔にまで、なってしまっている。
園児達に…
そして、学校での友人達に…
ただただ、ひたすらに愛されて、可愛がられて…
涼羽は、その顔全体を真っ赤に染めたまま、どうすることもできずに…
ただただ、その顔を少しでも見られないようにと、俯くことしかできないでいた。
――――
「ハハハ、どうだ~?高えだろ~?」
「わ~!!すっげー!!」
「はやくはやく!ぼくも~!!」
「おっきいにーちゃん!!ぼくも~!!」
ひとしきり、涼羽を可愛がってつやつやとした顔をしている志郎、愛理、美鈴の三人。
そこから、飛び入りの臨時保育士として、園児達の相手をこなし始めていた。
上背があり、見るからに体力自慢の志郎は、小さな園児達を自分よりも高い視線に導いて…
その光景を楽しんでもらっている。
涼羽の前では比較的おとなしくなってしまう男児達だが…
こんな感じの遊びの方がやはり好みのようで…
男児達のほとんどは志郎の方へと、我も我もとせっつくように寄っていき…
その高い視線見たさに、早く早くと、キラキラと期待に満ちた笑顔で…
志郎の足元にべったりとしている。
志郎の方も、割かし幼い男児達の相手を楽しんでいるようで…
その精悍な造りの顔には、楽しそうな笑顔が浮かんでいる。
もともと、孤児院で年下の男子達の面倒を見ていたこともあり…
意外にも、こういうことは嫌いではないようだ。
「えへへ…ど~お?可愛くなったでしょ?」
「わ~…ほんとだ~」
「おねえたん、わたちにもちて~」
「あたちも~」
美鈴の方は、女児達を可愛らしくコーディネイトすることで、お互いに楽しんでいる。
幼い女の子達の髪質や髪の長さに合わせて、リボンをつけたり…
三つ編みにしてみたり、ポニーテールにしてみたり…
美鈴自身、こうやっていろいろしながら女の子達を可愛がることに楽しみを覚え…
女児達も、そんな美鈴に可愛らしくしてもらうことを今か今かと楽しみにしながら、その様子を見つめている。
一人っ子で、年下の子供の面倒を見ることもなかった美鈴だが…
こうやって幼い子供と戯れるのが楽しいのか…
その可愛らしい美少女顔からは、喜びと楽しさに満ち溢れた笑顔が絶えることがなく…
ただひたすらに、本当に楽しそうに子供達と遊んでいる。
そんな美鈴に、最初は美鈴がどんな人かを伺うようだった女児達も…
すぐに気を許して、割とべったりと懐いている。
「ふふふ…ほら、お口からよだれ、垂れてるわよ?」
「ん…あいがと~!きれいなおねえたん!」
「きれいなおねえたん、ぎゅってちて~?」
「なでなでちて~?」
「はいはい、いいわよ…おいで」
そして、美鈴と同じ一人っ子ではあるものの…
風紀委員や、クラスの委員長など、ほかの人間があまりやりたがらないことを自ら積極的にやろうとしていく性格のため…
しっかりもので、それなりに面倒見のいい愛理。
ゆえに、涼羽のように本当に園児達のお世話をして…
優しく触れ合って、園児達を可愛がっている。
年齢よりも大人びた印象で、造りの綺麗な…
本当に美人といえるタイプの顔立ちもあり…
一見冷たそうな美人の愛理が、こんなにも優しい笑顔で自分達の面倒を見てくれることもあり…
涼羽に甘えるように、愛理に懐いて甘えてくる園児も、かなりの数になっている。
愛理も、こうした感じで、小さな子供達の面倒を見ることに、ちょっとした幸せを感じているのか…
加えて、もともと可愛いもの好きということもあり、こんなにも可愛い子供達がこんなにも自分に甘えてくれるのが嬉しいのか…
家庭的で女子力が高いこともあり、すぐにここの園児達と打ち解けることができているようだ。
「りょうてんてー、らっこ~」
「りょうせんせー、ぎゅってちて~」
「はいはい…おいで」
「えへへ~♪りょうちぇんちぇー、らあ~いちゅき♪」
「りょうてんてー、ら~いしゅき♪」
そして、他の三人にもよく園児達が懐いていっているものの…
やはり、涼羽の方には、一番多くの園児が懐いている。
その可愛らしい、童顔な美少女顔に浮かぶ、母性と慈愛に満ち溢れた笑顔。
そして、そのとろけんばかりの優しさで園児達を包み込む包容力。
涼羽に包み込まれているだけで、本当に幸せだと感じてしまう園児は数多く…
ただただ、涼羽にべったりと抱きついて、ひたすらに甘えてくる。
そんな園児達が本当に可愛いのか…
涼羽の顔に、本当に幸せそうな、優しい笑顔が絶えず浮かんでくる。
涼羽のことが大好きで大好きでたまらない園児達。
そんな涼羽の笑顔を見て、もっともっとと、嬉しそうに、幸せそうに甘えてくる。
「いや~…まさか涼羽君の友達がこんなにも園児達に懐かれるとは…」
「これは本当に…嬉しい誤算でしたね、園長先生」
「こんな風に園児達と仲良く、楽しそうに触れ合ってくれて…私としては本当に嬉しいですよ」
「園児達も、いきなり来たお兄さんお姉さんのことを怖がらずに、べったりと懐いてくれてるのが、本当にありがたいですよね」
「…こんな風にこの保育園に貢献してくださって…涼羽君は友達にも恵まれていますね」
「ええ…あの子は本当に、周囲にいい影響を与えてくれますよね」
「いきなりなお願いでしたけど…こんな風にいい結果になって…彼らにも、少ないですがこの日の分の給料をお渡ししようと思います」
「…園長先生がそう思われるのでしたら、ぜひそうしてください」
「ありがとうございます、市川さん」
「いえいえ、あたしとしても本当に楽させてもらってますので、園長先生の判断は妥当だと思ってますので」
突然の乱入となった涼羽の友達三人が、これほどに園児達と仲良く触れ合ってくれて…
さらには、涼羽自身もより園児達のことを可愛がってくれて…
本当に思いつきの判断となってしまったものの…
結果的には園児達が喜んでくれて…
さらには、涼羽の友達である志郎、愛理、美鈴の三人も…
本当に楽しそうに、嬉しそうに園児達と触れ合ってくれて…
その仕事に向き合う真摯な姿勢と意識でどうにかもたせているものの…
実際のところ、珠江の身体も結構ガタが来ているところもあり…
あまり無理ができない今この時に、こんな風に楽させてもらえていることに、本当に感謝の念を送っている。
そして、この園長である祥吾の人を見る目に、またしても驚かされることとなっている。
涼羽自身も、仲のいい友達と共に、こうして園児達と触れ合えていることに…
よりよい刺激を受けることができているようで…
その笑顔が、いつもよりも心なしか嬉しそうな感じになっている。
「ねーねー、おっきいにーちゃん!」
「ん?なんだ?」
「にーちゃん、すっごくちからもちだね!」
「ハハハ、そうか~?」
「どーちたら、おっきいにーちゃんみたいに、こんなにおっきくて、ちからもちになえるの~?」
「ん~?そうだな…好き嫌いせずに、ちゃんと食うもん食って、目いっぱい身体動かしたら、なれるぞ?」
「!ほんと~?」
「ああ、ほんとだ」
「じゃあぼく、ちゅききあいしないで、ごはんいっぱいたべゆ~!!」
「ぼくも~!!」
「ぼくも、い~っぱいおそとであちょんで、い~っぱいからだうごかしゅ~!!」
「うんうん、そうだぞ。そうしたら、ちゃんと大きく、強くなれるからな」
「は~い!!」
志郎のところに懐いている園児達は、どうしたら志郎のように大きく、そして強くなれるのか…
そのことにすごく興味が沸いたようで、純真無垢でまっすぐに、そのことを志郎に聞いている。
園児達からそんな問いかけをされた志郎は、実にあっさりと…
それでいて、子供達のためになるような模範解答を、笑顔で返す。
そんな志郎の答えを、幼く素直な男児達はまっすぐに受け止め…
目の前にいる、大きくて力持ちな兄ちゃんのようになりたいと…
そう心に思い、この兄ちゃんの言うとおりにしていこうと、可愛らしくも誓いを立てる。
そんな園児達を見て、こんな自分でも小さな子供達に教えられることがあるということ…
その事に、言いようのない喜びと充実感を感じ、本当に心からの笑顔が浮かんでくる。
そして、そんなきっかけを与えてくれた涼羽と…
実際に不審者のようにこの中を覗き込んでいた自分達に声をかけてくれた園長である祥吾に…
まっすぐな感謝の念を、送ることができた。
「ね~ね~、おねえたん?」
「なあに?」
「どーちたら、おねえたんみたいにかわいくなえるの~?」
「ん~…本当に自分を可愛くしたいって思って、もしそれがしたくないことでもちゃんとしていくことかな~?」
「?やなことでも~?」
「そう。疲れる~って思うこととか、やだ~って思うことでも、それをしないとだめだってことは、ちゃんとしていくこと…かな?」
「…そっか~」
「おねえたん、すっごくがんばいやさんなんだね~」
「うん!だって、お姉ちゃんがんばってる!ってところを見てもらいたい人がいるから…だから、がんばれるの!」
「おねえたん、しゅご~い!」
「あたちも、おねえたんみたいにがんばりゅ!」
「わたしも、おねえたんみたいにがんばって、かわいくなりゅ~!」
「うん、そうだよ!みんな、がんばろ!」
「は~い!!」
本当に天真爛漫で、素直に可愛い美鈴を見ていた園児達。
その園児達からの、美鈴に対しての純真無垢な問いかけ。
その問いかけに対し、美鈴からの、まっすぐで真摯な答え。
ぱっと見では、ふわふわとしていて、ゆるい感じの美鈴ではあるが…
そんな第一印象に反して、実際にはかなりの努力家。
大好きな料理が上手になりたい…
それだけで、当時本当にとっつきづらく、誰からも腫れ物扱いされていた涼羽に勇気を出して、声をかけた美鈴。
涼羽に可愛いって言われたくて、自分を可愛くしていきたい…
そう思って、常日頃からやや太りやすい体質をカバーするために、懸命にプロポーションを保つための努力を欠かさない美鈴。
涼羽に本当の意味で、大好きと言われたい…
そのために、常日頃からずっとべったりと涼羽にくっついて、懸命に自分をアピールし続ける美鈴。
そんな美鈴の想いが、幼いなりに伝わってくるのか…
園児達も、このお姉ちゃんみたいにがんばろうと…
もしそれが、自分の嫌なことだったとしても、がんばってみようと…
そう、小さいなりに思うことができ、そうしていきたいと、声にすることができたのだ。
そんな園児達を見て、美鈴自身、園児達を本当に可愛いと思うと同時に…
自分自身も、もっともっとがんばっていこうと、思わせてもらえた。
そんな美鈴の顔には、この可愛い園児達とその想いを分け合うことができた喜びに満ちた笑顔が、浮かんでいた。
「ね~ね~、きれいなおねえたん?」
「あら、なあに?」
「どうちたら、おねえたんみたいにきれいでやちゃちくなえるの~?」
「え?」
「おねえたん、しゅ~ごくきれいで、しゅ~ごくやちゃちくて…わたち、おねえたんみたいになりたいの」
「わ、私みたいに?…」
「うん、なりたいの」
「あたちも」
「わたちも~」
「そうね…ちゃんと守らなきゃいけない決まりごとは、ちゃんと守ること、それと…自分が優しくできた人が、それで嬉しくなってくれてるのを見て、自分も嬉しくなれること…かな?」
「!じゃあ、おねえたんはわたちがうれちくなってるのみて、うれちいの?」
「ええ、あなた達みたいに素直で可愛くていい子達が嬉しいと、私も嬉しいわ」
「!えへへ~♪じゃあわたちもうれちい!!」
「え?」
「おねえたんがうれちいってゆってくえて、なんだかわたちもうれちい!!」
「…そう。なら大丈夫」
「?」
「あなた達なら、絶対に綺麗で優しくなれるわ」
「!ほんと~?」
「ええ、ほんとよ。ただし…今みたいに、私が嬉しいから、自分も嬉しいっていうことが、これからもずっとできたら…ね?」
「!わ~い!!」
「あたちも、ほかのひとがうれちかったら、もっとうれちくなりゅ~!!」
「うふふ…可愛い。そうよ、みんなでい~っぱい嬉しくなっていこうね」
「は~い!!」
そして、自分が綺麗で優しいと園児達に言われて、思わず驚きの表情を浮かべてしまう愛理。
そんな愛理に、べったりとしながらもまっすぐに思ったことを問いかけてくる園児達。
そんな幼い子供達に、本当に母親が優しく言い聞かせるかのように…
自分が思ったこと、感じたことをそのまま、言葉として音にする愛理。
そして、園児達が嬉しいと、自分も嬉しいといってくれた愛理に対し…
園児達も、愛理が嬉しいと自分も嬉しいといってくれたこと。
それが、愛理にとって本当に嬉しいこととなった。
そして、大丈夫だと。
こんなにも優しい心を持てる子供達なら、絶対に綺麗で優しくなれると。
そう、確信を持って、園児達に言うことができる。
自分がただ、思ったままに伝えたことを、そのまま素直に受け取ってくれる園児達が本当に可愛くて…
愛理の顔からは、優しい笑顔がそのままずっと、浮かび続けていた。
「ね~ね~、りょうせんせー」
「?なあに?」
「どうちたら、りょうせんせーみたいになえるの~?」
「え?」
「あたち、りょうせんせーみたいに、す~っごくやちゃちくて、す~っごくぽっかぽかになりたいの」
「……せ、先生みたいに?」
「うん」
「わたちも!」
「ぼくも!」
「…そう…なら、この人が困ってたら、助けてあげたいって、素直に思えること…かな?」
「?たとえば~?」
「たとえば、あの子がおなかすいたってなったら、ご飯を食べさせてあげる、とかかな?」
「わ~…」
「そうして、おいしいおいしいって食べてくれて、おなかいっぱいで幸せな顔になってくれたら、先生、本当に嬉しくなれるかな…って思うの」
「そえって、あたちがおなかぺこぺこ~ってなったら、りょうせんせー、あたちにごはんたべさせてくえるの~?」
「うん。それで、おなかい~っぱいで、しあわせ~って喜んでくれたら、先生本当に嬉しくなれるよ?」
「わ~…」
「しゅご~い…」
「じゃあ、りょうせんせーがおなかぺこぺこ~ってなったときに、わたちがこれたべて~ってちたら、りょうせんせー、うれちい?」
「うん、すっごく嬉しい」
「!じゃあ、わたちもりょうせんせーみたいにする~!!」
「りょうちぇんちぇーみたいに、ほかのひとにうれちいってなってもりゃう~!!」
「ふふ…可愛い。じゃあ、先生と一緒に、いろんな人に優しくなっていこうね」
「は~い!!」
園児達が大好きで大好きでたまらない涼羽に対し、なんとなく思ったことをそのまま問いかけてくる。
その問いかけに、一瞬間の抜けた反応をしてしまうものの…
すぐに、優しい笑顔で、自分の思ったことをそのまま伝える涼羽。
本当に誰にも優しい涼羽らしい解答に、園児達も興味津々で掘り下げてくる。
そして、その追求にまた、優しい笑顔で分かりやすく答えていく涼羽。
そんな涼羽のことが本当にすごくて…
本当に素敵だと思えたのか…
自分達も、涼羽のようにしていきたいと、無邪気な可愛らしい声をあげる園児達。
そんな園児達を見て、本当に可愛いと…
そして、本当に一緒に人にもっと優しくなっていこうと…
そう思え、思わずあふれんばかりの笑顔が浮かんでくる涼羽。
それぞれがそれぞれで、個性的でありながらも…
いい方向で園児達を導いていく、涼羽、志郎、愛理、美鈴の四人の姿を…
本当に微笑ましく、優しい笑顔で見つめる祥吾と珠江の姿が、そこにあるのだった。
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