お兄ちゃんがお母さんで、妹が甘えん坊なお話

ただのものかき

お兄ちゃんの、ばか…

「こんにちは~♪私、羽月ちゃんの友達で、佐倉 柚宇っていいま~す♪」
「私は佐倉 柚依で~す♪」
「双子さんなんだね。俺は高宮 涼羽っていうの。よろしくね」
「じゃあ、涼羽お兄ちゃんって呼んでいいですか~?」
「ですか~?」
「うん、いいよ」
「わ~い♪」
「えへへ~♪」

土曜日の穏やかな昼下がり。
そんな、のんびりとした雰囲気に満ち溢れていた高宮家。
先程、ずっと単身赴任で不在だった父、翔羽と十数年ぶりの再会を遂げたばかり。
そのすぐ後に、さらなるイベントが発生することに。

「涼羽お兄ちゃんの『リョウ』って、どんな字を書くんですか~?」
「どんな字ですか~?」
「ん?『涼』しいに鳥の『羽』って書いて、『リョウ』って読むんだよ」
「じゃあ、羽月ちゃんの『羽』とおんなじ字が入ってるんですね~♪」
「ふわふわして優しい感じなのが、涼羽お兄ちゃんにぴったり~♪」
「そう?ありがとう」

羽月の友達で、双子の姉妹である佐倉 柚宇と柚依の二人が、この高宮家に遊びに来たのだ。

もともと、羽月とは学校で一番の仲良しだった二人だが…
意外にも、この高宮家に来るのは初めて。

羽月とは外出して遊ぶことの方が多く、それ以外は柚宇と柚依の家で遊ぶというパターンのみだった。
そのため、この二人がここに来るという機会がなかったのだ。

それに、最近は羽月が大好きなお兄ちゃんを独り占めしたいのと…
独り占めにした状態で思う存分甘えたいというのもあり…
羽月自身が、誰もこの高宮家に呼ぶことがなかったのもある。

しかし、今から数ヶ月ほど前…
羽月の兄である涼羽が、羽月とこの佐倉姉妹の学校の前で目撃されてしまったことにより…
羽月の兄である、高宮 涼羽という存在が学校の女子生徒にとっての興味の対象となってしまう。

しかも、その女子達によって羽月から聞き出された涼羽のエピソードもあり…
実際に涼羽を目撃した女子はもちろん、その場に居合わせなかった女子まで…
涼羽のことをちょっとしたアイドルを見るような目で見るようになってしまったのだ。

そうして、ついには涼羽のファンクラブとも言えるグループ…
『羽月ちゃんのお兄ちゃんに甘え隊』が結成されてしまい…
そんな涼羽のちょっとしたファンで涼羽について語り合うようになる。

もちろん、この佐倉姉妹も、このグループの一員である。

しかし、あの一度以来、羽月の学校前で涼羽を見かけることもなく…
羽月から聞きだせるエピソードにも限界があり…
結局、彼女達はもっと知りたいはずの涼羽のことを掘り下げていくこともできず…
ただ、その想いを募らせていくだけの、悶々とした日々を送っていた。

そんな状況に業を煮やした佐倉姉妹が立ち上がり…
この高宮家の場所を知り…
この日、初めてこの高宮家に来ることができたのだ。

そうして、佐倉姉妹にとってはようやく再会することのできた、羽月の兄、涼羽。

偶然、初めて見ることのできたあの時と比べ…
どこからどう見ても超絶な美少女にしか見えないほどに可愛らしくなっていた涼羽。

そんな涼羽に、柚宇も柚依も思わず頬が緩んで…

結局は、このリビングに通してもらってから…
『羽月ちゃんのお兄ちゃんに甘え隊』でひたすらに募らせていた想いを満たすべく…
ひたすらに涼羽にべったりとしたまま、聞きたいことを聞いていっている状態なのだ。

「む~~~~~…」

当然、そんな光景を見せられて…
独占欲満開の、筋金入りのブラコンな妹であるこの羽月が…
何も思わずにいられるわけもなく…

自分だけの大好きで大好きでたまらない兄をとられてしまったような感じで…

現在は不機嫌にやきもちを焼きまくっている状態だ。

「お兄ちゃんは、わたしだけのお兄ちゃんなのに…」

たとえ学校で一番仲のいい友達である柚宇、柚依であっても…
兄、涼羽は絶対に渡したくなんてない。

だから、玄関でもそれを主張し続けていたのに。

そんな板挟みの状況に晒された涼羽が、妹に告げた一言…



――――あとでい~っぱい甘えさせてあげるから、今は…ね?――――



…それにより、どうにか我慢している状態だ。

ちなみに、父、翔羽は娘の友達でお客様である佐倉姉妹のためにお茶やお菓子を用意しようとしていたが…
ちょうどお菓子も切らしてしまっており…
さらには、ついでだからジュースも買ってあげようということで…
今は、それらを買いに出かけているところだ。

「ごめんね、二人とも。何も出せなくて」
「え~?」
「何がですか~?」
「今、うちのお父さんがお菓子やジュース買いに行ってくれてるから、もうちょっと待っててね」
「!えへへ~♪」
「!ありがと~♪」

せっかく来てくれたお客様に何も出せていないことを謝罪する涼羽。
小さな子に言い含めるような、優しい口調に、仕草。
そして、まさに慈愛の女神を思わせる、柔らかで優しげな笑顔。

そんな、慈愛に満ち溢れた表情と雰囲気の涼羽を見て…
柚宇も柚依も、その頬が緩んでしまう。

そして、ちょこんと正座で座っている涼羽に、柚宇も柚依もべったりと抱きついてくる。

「!ゆ、柚宇ちゃん?それに、柚依ちゃんも…どうしたの?」
「ね~、涼羽お兄ちゃん」
「涼羽お兄ちゃん」
「?な、何?」
「私のこと、ぎゅってして、なでなでして?」
「私のことも、ぎゅってして、なでなでして?」

突然の姉妹の行動に驚きを隠せない涼羽。
しかし、戸惑いはありながらも…
無邪気に可愛らしく甘えてくる二人に、嫌な顔を見せることはない。

「!む~~~~~~~~~…」

そんな友達の行為に、実の妹である羽月の嫉妬メーターはもうとっくに振り切れており…
しかし、だからといっておおっぴらに邪魔することもできない状態。

まるで自分が独り占めしていた母の愛情が、後に生まれた子供達にとられてしまう…
そんな、やるせない想いを、噛み締めることとなってしまっている。

「え?え?ど、どうしたの?急に…」
「だって、羽月ちゃんがあんなに幸せそうに甘えてるの見たら~」
「私達も、あんな風にしてほしいって、ずっと思ってたの~♪」
「!あ、あの時の…」
「だから…ね?涼羽お兄ちゃん♪」
「私達のことも、い~っぱい甘やかして?」

まさか、羽月の友達にそんなことを求められるなんて…

そんな、戸惑いの気持ちが強かった涼羽だが…

自分の胸に顔を埋めてべったりと甘えてくる柚宇と柚依が可愛らしく見えてきて…
そして、とうとう…

「…ふふ…」

涼羽のお母さんモードのスイッチが入ってしまう。
そして…

「!あ…」
「!ん…」

まるで我が子を胸に抱く母親のように…
柚宇と柚依の身体をそっと抱きしめ…
その頭を、優しく撫で始める。

そんな、とろけるかのような優しさに、二人は…

「(わ~…すっごく優しくて…すっごく心地よくて…)」
「(なにこれ~…幸せすぎて…ず~っとこうしててほしいよ~)」

そのとろけそうなほどの温かさと優しさ。
そして、慈愛の女神と言えるほどに母性に満ち溢れた笑顔。

その全てが、あまりにも心地よすぎて。
その全てが、あまりにも幸せすぎて。

「(羽月ちゃん…こんなに素敵なことをい~っつもしてもらってるんだ…)」
「(ずるいよ~、羽月ちゃん…こんなの、幸せすぎて…どうにかなっちゃいそうだよ~)」

現在進行形で自分達に降り注いできている幸せ。
それを手放したくないという想いがそうさせるのか…
涼羽の華奢で柔らかな身体をその腕でぎゅうっと抱きしめ…
その顔を涼羽の胸に埋めて、ひたすらにその甘やかしを堪能し続けている。

「むう~~~~~~~…(あれは、わたしだけのなのに…お兄ちゃんの、ばか…)」

大好きで大好きでたまらない兄、涼羽。
びっくりするほどに可愛くて。
びっくりするほどにお母さんで。

そんな兄を、自分だけのものにしてきた羽月。

でも、びっくりするほどにお母さんだからこそ、博愛主義で、誰にでも優しい兄。
それも、涼羽のいいところなんだけど…

それでも、自分以外の子を甘えさせたりしてほしくない。

だって、お兄ちゃんの妹はわたしだけなんだから。

そんな想いが、羽月の心をいっぱいにしてしまう。

しかし、それでも我慢する羽月。
目いっぱい我慢して、我慢して…
後で、めっちゃくちゃなくらいに甘えよう。

後で、あの二人よりもい~っぱい甘えて、あの二人よりもい~っぱい、甘えさせてもらうんだから。

その想いだけで、ひたすらに我慢する羽月だった。

「涼羽お兄ちゃん…」
「涼羽お兄ちゃん…」

そんな羽月の想いをよそに、幸せに緩んだ笑顔の柚宇と柚依…
涼羽の胸から少しだけ顔を上げ、上目使いで涼羽のことを呼ぶ。

「なあに?」

その二人の視界に、涼羽の慈愛に満ちた優しい笑顔。
もうこの甘やかしだけで、根こそぎその心を奪われているのに…
さらに追い討ちをかけるかのような、そんな優しい笑顔。

そんな笑顔が、可愛すぎるくらいに可愛くて…

「涼羽お兄ちゃん、可愛くて、お母さんみたいで…だ~い好き♪」
「涼羽お兄ちゃん、優しくて、あったかくて…だ~い好き♪」

もうとろとろになっていると言わんばかりにふにゃりとした笑顔を涼羽に向け…
目いっぱいの甘い声で、大好きとぶつける二人。

そんな二人が可愛く見えてしまう涼羽。
だから、もっと甘えさせたくなってしまう。

「柚宇ちゃん、柚依ちゃん。ありがとう」
「涼羽お兄ちゃん…もっと、もっとぎゅうってして、なでなでして~」
「涼羽お兄ちゃん…もっとい~っぱい甘えさせて~」
「ふふ…はいはい」

現在高校三年生の男子でありながら…
その姿は、まさに聖母と呼べるものとなっている涼羽。

柚宇も、柚依も、涼羽に完全に心奪われてしまったようだ。
ひたすらに離したくないと言わんばかりに涼羽の身体を抱きしめ…
その胸に顔を埋めてべったりと甘え続ける始末。

「柚宇ちゃんも、柚依ちゃんも、可愛いね」
「ほんと~?うれし~♪」
「ほんと~?うれし~♪」

もはや大好きで大好きでたまらない涼羽からの、そんな言葉。
そんな涼羽の言葉が嬉しくて…

柚宇も柚依もふにゃふにゃとしている笑顔をさらにふにゃりとさせてしまう。

「む~~~~~~~!!」

そんなやりとりを見せ付けられ…
まるで、自分だけが蚊帳の外にいるかのような疎外感を感じている羽月。

お兄ちゃんが大好きで大好きでたまらない筋金入りのブラコンな妹にとって、これは拷問とも言える状況だろう。

そのくりくりっとした瞳からは、涙が滲んできてしまっている。

早く。
早く。
早く、わたしのことぎゅうってして、なでなでして。

そんな羽月のひたすらなやきもちに気づくことなく…
涼羽は、ひたすらに佐倉姉妹を甘やかしてしまう。

この状況は、父、翔羽が買い物から戻ってくるまで、続くこととなった。

コメント

  • たかし

    甘えん坊のストーリーが
    今のギスギスした
    世の中の一服の清涼剤になっていて
    ほのぼのと、穏やかな気持ちになりました。

    0
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