転生したからって、ざまぁされなくてもいいよね?~身内との8年間、攻略対象達との3年間の駆け引き~

正月奇譚~~相原涼音の場合~~

 中小企業といえどもそれなりの業績を出している会社の社長令嬢である彼女は、中学生という身分ながらヨーロッパの一流ホテルに来ていた。もちろん、自分のお小遣いをどんなに頑張ったところで泊まれる場所ではない。今回は父親が後援会に入っている地元議員の後援会親睦旅行で来ており、その費用は全て父親が払っているのだ。
 しかし、未成年での参加者は彼女一人で、後は全員小父さん小母さん、と言っていいほどの年齢だった。そうなってくると、当然待遇にも差が出てくるわけで、パーティーでのお酒の提供がなかったり、参加すべき講演会とかもないため、非常に暇ができるわけなのだ。それは、すでに初めて参加した昨年の親睦旅行で理解しているからこそ、彼女はあるもの・・・・をこの旅行に持ってきていた。それは、普段涼音を知らない両親に知られることなく購入したものであり、彼女がその『暇つぶし』を購入したことには気づいていたが、何も言ってこなかった。そして、旅行中にそれにハマり、帰国してからはお嬢様やお坊ちゃまが多い現実同級生の知り合いとの話題に乗せることはできず、SNS上で知り合った友人たちと自らを偽って交流していた。
 そう、彼女がハマったものとは女性向けRPG、すなわち乙女ゲームだ。そして、その中でも特に『Love or Dead~恋は駆け引きと共に~』というタイトルで、攻略対象者が6人おり、推しの攻略対象は赤毛の騎士・・・・・だった。もちろん、現実にはそんな『騎士様』がいるわけでないのは知っていたので、所詮は空想物と言う風に一線を置いていたが、やはり彼のキャラクターソングなどは全て購入しており、ファンイベントでも全てのグッズを買っていたのだ。

 二年目の親睦旅行の真っ只中の正月二日の昼間、大人たちが地元の政治家の講演を聞きに行ってしまい、涼音は一人ホテルのラウンジでそのゲームをしていた。もちろん、ボイスを聞きたかったため、イヤホンをつけており、周りの客などには迷惑にならないようにしている。彼女がラウンジに入り浸るのは今年が初めてではなく、また今年もすでに五日間入り浸っていたので、すでにここのコンシェルジュと顔見知りであった。そのため、景色のいい席ではなく、空いている場合は一人になりやすい――――話しかけられにくい席に案内し、一杯の紅茶を持ってきた後はそっとしておいてくれるのだ。
 彼女がゲームを始めてからしばらくしてから、隣に人が座る気配がした。しかし、そもそも涼音から声をかけることもしないし、今までも隣に座った人からも声をかけてこないので、油断していた。
「君はどうしてこんなところで、ゲームなんかしているの?」
 隣に座ったのもどうやら日本人らしく、透明感あふれる低音の日本語で話しかけられたので、自分に向けられて話しかけられたのだと瞬時に分かった。こんな人は自分たちの旅行に行ったっけ、と思ったが、あまり顔を覚えるのが苦手な涼音は早々に考えるのをあきらめた。
「私にとって知ってもいない人の話を聞くのは苦痛ですから」
 涼音はイヤホンを取り、相手の顔を見てみた。彼は非常に端正で知的な顔立ちで、どこかの小説に出てきてもおかしくないような青年だった。
「そうなんだ」
 彼は大して興味なさそうに言った。涼音はまあ、そういう反応を返されても仕方ないだろうな、と思ったが、口には出さなかった。
「で、そういうあなたはなんでこんなところにいらっしゃるんですか」
 その代りに意趣返しで聞いた。その青年はあまり驚かずに、
「僕は個人旅行さ。だから、時間にも縛られずにこうやって動くことが出来る」
 と答えた。二人は静かな店内で様々なことを話したが、一番彼女の印象に残ったのは、青年がアリアと同じゲーム『ラブデ』を後学のためにプレイしていることだった。

「まあ、僕としては関係ないんだろうけれど、ね」
 彼が最後に言ったその言葉は、アリア自身も同じことが言える。どうやら、彼もまたやんごとなき家柄に所属しているようだ。

 青年と小一時間話したところで、そろそろ講演会が終わるころだと言って、彼と別れた。
「また、日本のどこかで会えたら、ね――――」

 しかし、その約束は文字通りには果たされることはなかった。


 もっとも、違う形で果たされることになるのだが、その時にはすでにここで出会っていたことなど二人とも忘れていた。

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