転生したからって、ざまぁされなくてもいいよね?~身内との8年間、攻略対象達との3年間の駆け引き~

夢の中の事件簿~『灰かぶり』3

 そして、何往復かして、あと一往復すれば終わるって思ったときに、それ・・が起こった。
 家の中に入って、荷物をそれぞれの部屋に届け終わった瞬間、彼はどこかに強制転移ワープさせられたのだ。
(なんじゃこりゃ――――)
 強制転移ワープさせられた次の瞬間、アランはそう思ってしまい、驚きすぎて声が出なかった。どこかに着地したと思って、周りを見てみると、そこはかなり豪華なところだった。
「何だ、ここ?」
 アランは放心していた。すると、彼がいる場所にほかの人がいるらしく、
「第一声としては悪くないわね」
 と声がかかった。その声の持ち主を探ると、目の前に栗毛の女性がいた。
(ん、あれって―――)
 彼は最近どこかで見たことのあるような人物だったのだ。だが、彼はその彼女の名前を思い出せなかった。
「ここは私からしてみれば砂の城よ」
 その言い方はどこか引っかかる言い方だったが、アランは、
「なんで俺が城に?まだやり残したことがあるんだけれど」
 と不機嫌そうに言った。すると、目の前の女性は、
「あら、そうなの?じゃあ、ウィリアム、あなたなら出来るはずよね?」
 と何もないところに向かって言う。アランは宙に話している女性に対して、何しているんだ、このお姫様は、と思ったが、当然、何も言わない。
『ええ、お安い御用ですよ、殿下』
 そして、何故かその何もない空間から返事が聞こえた。アランは一瞬、幻聴が聞こえる、とうとう自分は末期症状となってしまったのかと思ったが、宙に浮いているものがあり、それと会話しているようだったのだ。それは、まるでどこかのアニメで出てくる人や物を浮かすことが出来る石のような青くて文様が描かれている石だったが、光ってはいない。ただ、その石から聞こえてきた敬称に驚いた。
 (目の前の女性が『殿下』だと――――?)
 自分に視覚的にも聴覚的にも与えられた情報量が膨大過ぎて、卒倒しかけた。それに気づいたらしい女性は、
「あら、ごめんなさい」
 と、アランの方に向き直り、再び宙に向かって喋りかけた。
「先に、この方を介抱してあげて」
 そう女性が言うと、何もないところから一人の成人男性が出てきた。この成人男性――――名はウィリアムというらしい―――は、髪の色が灰色で飄々とした態度をとっているが、油断できない人物だという事にアランは一瞬で気づいた。
「承知仕りました」
 彼は軽々とアランをどこかへ運ぶ。彼が寝かしつけられたのは、豪華なベッドの上。
「では、お坊ちゃま・・・・・。お坊ちゃまがお求めの物はこちらでよろしいでしょうか」
 と言って、灰色の魔法使い?が彼の顔の前にかざしたのは一枚の紙―――――最後に回したもののリストだった。
「あ、ああ」
 どこからとったのだろうか、と呆気にとられながらも肯定すると、彼は満足そうに頷いて、さっさと消えた。
 先ほどの女性は、今アランがいる場所にまで来ていないので、ウィリアムが出て行った後の部屋にはアラン一人が残されていた。彼がため息をつくと、扉がノックされ、
「入ってもいいかしら?」
 と尋ねられた。
「ええ、もちろんですが」
 と彼が答えると、何かが乗った盆を持ちながら、部屋に入ってきた女性だった。
 彼女はアランの横たわっているベッドまで来ると、
「ごめんなさいね、こんな目に遭わせてしまって」
 と謝る。もちろん、アランはあの課題が終わっていないのは特に気にしなかったが、代行であのウィリアムとかという男がやってくれているのだと思うと、なんだかアランの方が申し訳なく思えた。
「いいえ、こちらこそ」
 そう言うと、女性はフフと笑う。
「やっぱりね。思っていた通りの・・・・・・・・あなただわね」
 女性の言葉にアランはどういうことかと尋ねた。すると、女性は目を丸くして、
「あれ?まだ気づいていないの?」
 と言うではないか。

「だって、あなたはアランでしょ?」
 そう言って紫色の瞳にのぞき込まれたアランは、思い切り目の前の女性が誰なのか思い出したが、全く言葉が出てこなかった。

 目の前の女性はアリア・・・だという。確かに彼女に見た目もそっくりなのだが、一瞬戸惑ってしまった。どうやら、彼女もまたアランと同じ夜からこの並行世界パラレルワールドに来たらしい。ここは魔法が使える世界らしく、ウィリアム・・・・・はその魔法使いの位置づけらしい。アリアは物語が始まる前からこの世界に転移していたといい、アランが並行世界パラレルワールドに送り込まれたときは、例の魔法使い、ウィリアムによって知らされたらしい(なんでも、彼は自称・魔法使いらしい)。
 アリアはその時に、この世界が灰かぶりの世界という事に気づいたらしく、あの・・褐色頭に化けて――――魔法使いによって、周囲に幻覚を見せつつ、プリセラ夫人とその周囲に褐色頭の息子がいると思わせたという―――伯爵家に潜り込んでいたという。
「全く無茶する方ですね」
 アランは呆れ半分で聞いていた。深く聞けば、アランの服を全否定したのは、単純にアランの技量がどの程度のものか確かめたかったからだそうだ。
 そして、今の舞踏会もまた然りだそうで、似た容姿の従妹を囮に出しているという。
 そうこうしているうちに、侍女の一人が部屋に入り込んできて、湯殿の準備ができた、と告げていく。
「じゃあ、行きましょう」
 アリアの宣言にアランは一瞬言っている意味が分からなかったが(思い切り「どこが『じゃあ』で繋がるんですか」と聞いてしまった)、アリアはにこりと笑い、手を思いきり引っ張る。連れていかれた場所は豪勢な湯殿で、そこで侍女たちにひん剥かれた。あれやこれやと言う間に一糸まとわぬ姿になり、お湯を浴びせかけられた。
 そうして侍女たちに一皮めくれるくらい洗われたアランは、これもまた侍女たちによって煌びやかな服を着せられ、髪もきちんと整えられた。年嵩の侍女によって彼女の元へ連れられたアランは、アリアのドレスを見て驚いた。アランの瞳の色である緑を基調とした色で整えられていたのだ。
「さあ、行くわよ」
 そう言って手が差し出された。どうやら、エスコートしろ、という事らしい。あんまり乗り気ではなかったが、ここまで来てしまってはもう仕方ない、とばかりに諦め、彼女の手を取り、外へ向かった。

 伯爵家もそうなのだが、どうやらこの世界は全体的に煌びやかだった。装飾品も服も同じで、アリアは現実世界『ラブデ』での服装と比べて少し窮屈そうだった。しかし、現実でもある意味お姫様を演じている彼女は、そんなことを気にさせないようにふるまっている。
 アリアに誘導されて歩いていくと、視界が開けた。そこはリーゼベルツの王宮とは違い、まるで一度だけ見たことのある宮殿みたいだった。
「何だ、ここ―――――」
 アランはあまりの絢爛さに一瞬立ち止まってしまった。
「やっぱりアランも気付いたんだ」
 アリアは笑いながら言った。アランは無言でうなずくと、アランの手をはなして、今度は彼女が前に立った。アリアは微笑み返し、何かを再び宙に向かって呟いた。何もなかったように広間の方を向くと、その中にいた人たちは全員、アリアたちの方を見て、驚いている。
 アリアはそんな人々の驚きは無視して、中へ進んでいく。アランはいつも通りの彼女の様子にほっとしながらも、遅れまいと彼女について行った。彼女はある人物――――おそらくこの参加者たちの中で最も豪華な服装を着ていることから、多分国王だろう、と直感で思った―――――の前に立つと、一礼して、
「お父様。私はこの方と結婚したいと思います」
 と言った。彼女の言葉に周りがざわめいた。しかも、ある一定の方向からは憎悪のこもった視線を感じる。
(そりゃ、そうだろう)
 社交界に出ていないはずの男がいきなり、王位継承者の婿になるなんて誰しもが驚くだろう。しかし、父親である国王は、
「それがペルグラント伯爵ところにいた彼か」
 と目を細めながら言う。すると、後ろの方向、今さっき、アランに憎しみのこもった視線を向けた人物が声を上げる。

「なんで召使風情がここにいるのよ」
「全くだ。異母弟だと思ったから、せっかく仕事を与えてやったのに、それさえ碌にこなさず」

 二人の言葉は、普通に監禁とか偽証とかを公にしてしまっているな、と思いつつも、面倒だったので何も言うのをやめた。周りは当然ざわめきだす。
 しかし、捨てる神いれば拾う神もあり。
 彼の隣にいた女性がすっとアランと騒ぎ立てる二人の間に入る。

「お言葉のようですが、最初の段階であなた方は勘違いなされているようですね」
 彼女の言葉に、辺りはしん、と静まりかえる。
「まず、プリセラ夫人。あなたは亡くなった前の奥さんの持参金が追加されているはずの伯爵家の財産目当てで伯爵家へ入られたようですね」
 そうアリアが問いかけると、一瞬、夫人は肯定しかけたが、否定した。しかし、アリアも周りの貴族たちを見逃すはずがなかった。
「そもそも前妻であり、彼――アランの母親でもあるアルメル夫人が亡くなった際に、伯爵は全てご実家の方へ返金されているのですよ。なので、今、伯爵家にある財産と言えば、元からあった土地と建物、それに調度品とかも含めてもそんなに多くの金額はないでしょう」
 アリアの言葉にだんだんと顔色をなくしていく夫人。
「で、ここからが本題。あなたはかなりいい・・趣味をなさっているようですが、それはどこから捻出したお金を使われたのですか?」
 アリアは非常に楽しげに話しているが、それと対照的に完全に蒼白なった夫人は崩れ落ちた。アランもこの世界に来た時になんとなく気づいていたものの、灰かぶりの継母や技師たちはその後どうなったんだろう。物語に書かれていない部分は、今の状況なんだろうか。

「まさか、他の男性から貢いでもらった、という訳ではないですよね?」
 アリアは確信をもって言う。アランは少し遠い目をしたものの、アリア自身が褐色頭となってあの家に存在していたのだから、間違いないだろう。しかし、それを知らない人物だっている。
「何をさっきからごちゃごちゃと。証拠はあるのか?」
 プリセラ夫人の隣にいた金髪頭こと、クロードが叫ぶ。アリアは彼を見ると、不敵に笑った。
「あるわよ。こうしてみましょうか」
 アリアはそう言って、指を鳴らすと、そこにはあの屋敷で見た褐色頭そのものの姿がそこには存在した。クロードは驚いて目を瞠っている。まさか、自分の弟だと思っていた人物がこの国の王女だとは思わないだろう。
「まあ、いろいろと細かい部分は裁判で証明してあげるから、おとなしくして頂戴ね?」
 アリアは元の姿に戻り、近くにいた警備兵に向けて彼らを捕縛するように指示した。


 そうして、ハレの舞踏会でひと悶着は起こったものの、無事にアランは伯爵家の息子として認められた。ちなみに、実の父親はあの二人(特にプリセラ夫人)によって領地に追いやられたらしく、明日には王都へ戻ってくるという。


 そして、翌日――――――
 この国では、王女・アリアとペルグラント伯爵子息アランの婚礼が行われようとしていた。
「いやいやいや。どう考えたって早いだろう?」
 婚礼衣装に着替えさせられてからも、アランは必死に抵抗していた。
「仕方ないのよ」
 どうやらそこは、物語仕様らしい。はた迷惑だ、と思いつつも最後の抵抗を試みるべく、外の空気を吸ってくる、言い残して部屋を出た。急いで行かないと捕まってしまう、と思って、走って逃げた。しかし、ここは一国の城。非常に複雑な作りになっていて、迷路のようだった。
(ああ、どっちに行けば―――――)
 迷ったアランは階段を駆け下りるべく、そちらへ向かった。しかし―――――


「へっ――――――――――?」
 体が宙に浮いた。

 足を縺れてしまって、宙に投げ出されたのだと気づいた時には遅かった。周りの景色が走馬灯のように見えた。
「アラン――――――」
 そう叫ぶ彼女も見えた。その顔は絶望に染まっていた。

(なんでだろうか―――君にすごく謝りたいな――――)

 しかし、声も出ないし、身体も言う事を聞かない。惰性でやり過ごすしかなかった。
(ごめん、アリア―――――――)

 目の前が真っ暗になった。





 なんだか瞼が重いな、と思いつつも目を覚ました。
「ん、あれ?」
 そこは、朝起きた時に見慣れた部屋だった。一瞬の後、隣にいた人がアランに抱きついた。
「よかった、坊ちゃまが起きてくださって」
 どうやら、抱き着いたのは乳母もマリアだったらしいことに気づいた。彼女から聞いた話では、アランは丸三日間寝ていたらしい。そりゃ心配にもなるわな、と心の中で苦笑いをした。
「坊ちゃまにお会いしたい人が来ているけれど、どうされますか?」
 乳母は断っても良いと言ったが、アランは首を振った。なんとなく、会いに着た人物に心当たりがあったのだ。
 寝間着から着替えて降りていくと、案の定と言うべきか、会いに来たのはアリア・スフォルツァだった。彼女は接室に案内されており、ソファに座って優雅にお茶を飲んでいた。
「あなたは三日間寝ていたのですってね」
「そういう君はどうなんだい?」
「私は一日だったわ」
 アリアの答えにアランは驚いた。同じであっても、見ている人によっては夢の中で過ごす時間と現実での時間は違うのだと。
「まあ、これから先あなたと共に夫婦としては過ごすことはないでしょうね」
 アリアの言葉にアランは確かに、と言った。今は同じ公爵家という立場であり、そして同じ転生者と言う共犯者でもある。あえて言うのならば、夫婦パートナーではなく同僚パートナーだろう。しかも、互いの家の特徴として、『名門』と『新興』と言う相いれない存在だ。この二家が結婚によって結びつくことはないだろう。特にスフォルツァ家の場合は。彼はそっと目を閉じた。
「とりあえず、フェティダ公爵なら体調も良くなっているみたいだから、もう少ししたら、フェティダ領に戻るわ」
 そう言って、彼女は立ち上がった。
「もう帰るのかい?」
 直接会話をしている二人は互いに気づいていなかったが、何故かその言葉には残念さが滲んでいた。
「ええ」
 アリアはそれだけを言いに来たらしく、本当に帰って行った。
 アランは彼女が去って行った後も、その場にいた。

(そうか。今はこうやって協力関係にあるけれど、それはいつまで続くかわからない、か)

 アランはあの事件の時も、本当は動くつもりがなかった。だが、アリアが動いているという情報を聞いてしまったから、動いたのだ。彼を動かした動機は、彼自身全く理解できていなかった。





 彼のその動機がはっきりしたのは、一年もたたないうちであった。更に、彼自身があり得ないと思っていたバルティア家とスフォルツァ家の婚姻が成り立つのは三年後の話だった。
 もちろん、その時には自分がどういう立場になるのかさえ、分かっていない。

 二人がまだ、文官と武官だったころの話であった。

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