転生したからって、ざまぁされなくてもいいよね?~身内との8年間、攻略対象達との3年間の駆け引き~

夢の中の事件簿~『灰かぶり』1

 その日はとても寝苦しい夜だった。季節としては春先であり、気温とかもまだ暑くなっていない時期だ。なので、気象的な要因ではなく、フェティダ公爵のこと一方的な裁判があったからなのだろうと思いついた。
 月の位置から考えるともうすでに夜半を越えており、寝ずの番をしている者以外は就寝しているだろう、と思ったアランは、近くにあった戸棚に少し度数の高い酒が入っているのを思い出し、それをグラス一杯飲んで再びベッドに戻った。
 すると、よほど疲れがたまっていたのだろう、彼はすぐに寝息を立て始めた。


――――――――――――――――――――――――――――――――
 目覚めた時には、薄暗い部屋の中にいた。
「――――――何、ここ?」
 いつもの自室とは違う場所――――少なくとも埃っぽく、ベッドもかなり固い素材が使われていた―――――にいることに気づいたアランは、辺りを見回した。ちなみに、彼自身は今まで来ていた寝間着と比べれば、かなりボロい服を着ている。
(自室に比べてかなり狭い。それに何よ、この天井の低さ)
 彼のその疑問に対して、すぐに答えが分かった。
『アラン』
 外から彼を呼ぶ声が聞こえた。それと同時にドンドンと扉を叩く音が聞こえた。
「はい、何?」
 アランは、いつもの状態とは違うという事をうっかり忘れて、何も考えずに答えると、
『何よその返事は。『はい、何でしょうか。ご主人様』と答えなさい』
 と、外から怒鳴り返された。いったいこれは本当にどうなっているのか、と訳が分からなくなり、扉を開けるとそこには綺麗に着飾った金髪の夫人がいた。彼女の顔をどこかで見たことがあるような気がしたが、どこでだったか、あまり覚えていない。夫人はステッキをコツコツ床につついている。それすると、杖も床も傷むんだよな、とアランは思ってしまったが、夫人は杖をじっと見ているアランを汚らわしそうに見て、
「ふん、あんたは私たち・・・の召使なのよ。この家のこともやってもらわなければならないけれど、私たちの支度もしなくてはいけないのよ。分かっているのでしょうね」
 と言う。その時には、どうやら自分・・が寝坊したのだという事に気づいた。
 夫人は『私』ではなく、『私たち』と言った。なんとなく嫌な予感がして、よくよく背後を見てみると、夫人の後ろには褐色の髪と金髪の二人の少年がいた。褐色の方は酷く中性的な雰囲気で、金髪の方はかなりガタイがいい。
(見たことがある―――――?)
 アランは様々なことに対して既視感に捕らわれながらも、それどころではないと思って、
「申し訳ありません」
 と頭を下げ、
「今日はどのようなご予定でしたでしょうか」
 と丁寧に言った。些細なことで怒らせては不味い、と脳が勝手に判断したようだった。
「私は、午後はマルツォネ公爵夫人のお茶会に呼ばれているの。だから、その支度をお願い」
 と、夫人が言ったのを皮切りに、後ろの少年たちも口々に言う。
「俺は今から狩猟に行くから馬の準備をして来い」
「僕もこれから観劇に行く。そのための準備をしてよね」
 狩猟に行く方が金、観劇の方が褐色、と覚えて、承知いたしました、と素直に言う。
(でも、彼らもやっぱり見たことがあるんだけれどな)
 今自分が置かれている立場は、なぜか召使。そして、正体不明の夫人とその息子達?にこき使われている間柄のようだった。
 夫人たちは言う事だけ言うと、さっさと引き返していく。アランは自室に入り、優先順位をすばやく考えて、行動をとった。




Mission1 『金色』の馬の準備
 『アラン・バルティア』としては、騎士団以外ではほとんど厩舎に入ることはなかったが、妙にこの体は慣れている。そして、馬丁も同じで『アラン』がこの場に来るのを全く気にしていない。準備を素早く終えると、それでもちょうど『金』が玄関から出てくるところで、ギリギリ間に合ったのだと、思ってしまった。
「こちらでよろしいでしょうか」
 アランはにっこりと彼に手綱を渡すと、彼は微笑むどころか、
「ふん。蹄鉄の付け方が悪い。これならない方がましだ。これぐらいのこともできないのか」
 と、機嫌が悪そうに言う。アランは蹄鉄の付け方を何故か知っており、先ほど馬丁に確認したら、それで大丈夫だとお墨付きをもらっていた。それなのに、にべもなくダメ出しをされ、そのうえ、どこがだめなのか尋ねようとしたら、すでに彼の姿はどこにも見当たらなかった。
(何なんだ、あの男は――――)
 アランは悪態を心の中でついた。
 金髪男に夕食が必要なのかどうかを聞くのを忘れた、と後悔したが、次のやらなければならないことが待っていることに気づいたアランは、次の目的地に向かった。


Mission2 『褐色』の準備
「で、相変わらず君はこれでいいと思っているの?」
 鏡の中の褐色頭も非常に機嫌が悪そうだ。
 今は、褐色頭が観劇に行くというので、それに見合った外出着や小物を見繕っている。ちなみに、何故かアランの今までのスキルを持って選んだ服は悉く、却下されている。どうやら彼なりのセンスがあるみたいなのだが、アランには理解できなかった。
「今から観劇なさるんですよね」
 アランは少しうんざりして、無表情でそう言ってしまった。彼の選んだ服飾品は非常に劇場という場所には向いていない。そう暗に告げると、褐色頭は何も言わなかったが、目を細めたため、非常にアランは慄いた。しかし、彼も召使・・としての仕事がある。褐色頭クライアントの意向は無視させてもらった。結局、褐色頭はなにも言わずに出かけて行き、残るは女一人となった。
 しかし、褐色頭はアランにとってかなり情報源となる人物だったようで、洋服選び仕事の合間に、ペラペラとあらゆる情報を教えてくれた(もちろん、警戒されないように知っているふりをした部分もあった)。どうやら、夫人の名前はプリセラ、金髪男の名前はクロードという。
(確かプリセラってセリチア王の妃の一人で、クロード殿下の母親の名前だったような気がする。クロードっていう名前の金髪男もいて、非常に顔は似ているから多分あっているはずだ)
 褐色頭自身の名前は分からなかったが、少し状況が把握できた。
(でも、クロード殿下が小さいころに別宮での生活していた、という話は聞いたことないな。ここが別宮だと判断するのは、まだ少し早い)
 そう判断したアランは、プリセラ夫人のところへ向かった。


Mission3 夫人の準備
 プリセラ夫人の部屋に入った瞬間、アランは回れ右をしたくなった。
(趣味が悪すぎる―――――)
 そう、非常に成金趣味というかごてごてした装飾で飾られ過ぎていて、目に毒なのだ。一応雇い主?である以上、そのままゆったりとしている彼女の元へ向かったが、彼女もまた、非常に香水臭く、鼻の穴を塞ぎたい気分になった。
「遅かったわね」
 夫人は苛立ちを隠すような感じに、けばけばしい扇で宙を煽ったが、アランは何のコントをするのだろうか、とうっかり現実逃避をしてしまった。
「まあ、あの出来損ない・・・・・が生んだ娘としては早かったというべきなのかしら」
 プリセラ夫人は彼を憎しみのこもった眼で見ながらそう罵る。しかし、アランはその言葉に引っかかりを覚えた。
のことが憎いのですか」
 アランはあえてそのような言い方で尋ねた。すると、夫人は勝ち誇ったように笑いながら言った。
「ええ、そうよ。あなたも知っていると思うけれど、あんたの母親はどっかの平民の娘ですのよ。でも、ここは伯爵家。いくら裕福な商人の娘で、そしてあの女の父親の代から貴族の家に出入りしていた、と言っても、所詮は平民の生まれなの。だから、慣れない貴族社会に溶け込もうとして、苦労して、早く死ぬのよ。それに比べたら、私はあなたのお父様と同じ貴族である公爵家の娘。あんな幼馴染であるというだけで、平民の娘と一度でも結婚し、息子までもうけた男には嫁ぎたくなかったけれど、でもあの方がどうしても、と望んだから、結婚してあげたのよ」
 どうやら、今のアラン・・・は一応、伯爵子息という身分であり、この世界はどうやら『灰かぶり』の世界そのもののようだった。しかし、実の・・父親は生きており、腹違いの兄弟というのは女ではなく、『クロード』と褐色頭というのがその役割を負っているらしい。
「でも、あの人はあなたを甘やかすばかりで、私たちを見てくれることはいまだにないのよ」
 どうやら、父親はアランのことを溺愛しているらしい。今日初めてこの世界に来てしまったと気づいたので、見たこともない父親だが、どんな父親なのだろうと思ってしまった。
 夫人はアランに一通り話し終えると、さっさと準備するように命じた。
「あなたには時間が有り余るのでしょうが、私たちにはあなたに割く時間なんてないのよ」
 夫人の好みそうな――――だが、社交界で身につけるには不適当な――――ドレスをわざと選び、小物も本来適当なものとは真逆なものを選んだ。

「そういえば」
 仕上げに髪飾り――――これもかなりコッテコテのものだ―――をつけているとき、プリセラ夫人が話し始めた。
「明日、王宮で王太女殿下の婚約者を決める夜会があるから、私たちの準備をお願いね」
 夫人は近くにあった紙をアランに渡し、非常に嫌な笑顔で笑った。
「ま、『全貴族の10歳以上の男子は必ず参加しなさい』と書かれているけれど、あなたは自分の仕事が終わったら来なさい」
 その言葉にアランははっきり言うと、どうでもいいと思ってしまった。こんな生活もいやだが、それ以上に王宮に出向くことなんか御免だと思ってしまった。
「左様でございますか」
 彼はそれだけ答えて、あとはひたすら手を動かした。

 その日の仕事をすべてこなし終え、自室戻ったころにはもうすでに月が高く昇っている時間だった。
(どうして、こんな世界に迷い込んだ――――――?)
 アランはもともと転生者であり、かつては彼が妹に(強引に)勧められたゲーム内へ転生した。しかし、今回は同じ人物は出てくるものの、別世界の世界、並行世界パラレルワールドに来たのだろう。朝に夫人に言われた公爵夫人でさえ思い当たる節がない。
 それに一部の人間は知っている人物だ。しかし、出てきていない人物がいることにも気づいていた。
(明日はどうなるんだろう―――――――――――――)
 明日の夜会には何かが隠されているのではないかと考えられた。
 そう思って、明日のためにと、少々埃っぽい部屋であっても早く寝ることにした。

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