転生したからって、ざまぁされなくてもいいよね?~身内との8年間、攻略対象達との3年間の駆け引き~

外交王子の探し物Ⅴ

 二人は決して長くない道のりであったが、あまり喋らず、クロードは例の件について、問題を後回しにしていた。
 セリチアへ到着した二人は、そのまま王宮へ案内された。事前にラシード王から連絡がきていたのか、国王夫妻の元へすぐに案内された。
「あの性悪に楯突くとは、なかなかお前もやるじゃないか」
 フィリップ王は笑いながらそう言った。ラシード王夫妻とクロードの演技に気づいているようで、全く説教する気がない様子だった。
「ま、その方がお前らしいというべきなんだろうが」
 そう言って、背後にいるカテリーナの方を向いた。全く同じ姿をしている兄王に驚いていた彼女は、国王に見つめられて慌てて一礼した。クロードもカテリーナも言わなかったが、フィリップ王にはそれが解答・・であることに気づいた。そして、彼自身がこの場に来たことも。

「なるほどな。その娘は『バディナの忘れ形見』か」

 彼はカテリーナを見てそう言った。言われた張本人であるカテリーナは、深くかなり俯いた。しかし、同じ王子教育を受けているはずのクロードも、この国に嫁いできたフィリップ王の妃であるヘラも首を傾げた。二人の様子を見たフィリップは、
「今から少しあなたの祖先に関わる話をするから、どうしても聞きたくないのであるのならば、一度退出してもらっても構わない」
 と、フィリップ王はカテリーナに向かって尋ねた。彼女は少し時間がかかったが、首を横に振った。
「ここにいさせていただきます」
 彼女は非常に毅然とした態度でそう言った。しかし、クロードはその様子に少し不安を感じ、彼女の側に行った。一瞬カテリーナはクロードを見て、ぎゅっと自分のドレスに皺がよるのにも構わず握りしめた。
「そうか。数百年前、当時のリーゼベルツとスベルニアの二強時代に、商人組合が二カ国専制に反対して新たな国を作ったのが、このセリチアというのは理解しておるな」
 フィリップ王が始めたのは『建国神話』と呼ばれる話で、これぐらいだったら、平民の子供でも知っている、とクロードは思ってしまった。
「その時、建国王として名高いのがマリアン王であり、その妻は美人であり女性騎士としても名高いリディ妃だ。で、その実家がバディナ家だ。
 建国王の妃の実家として、当時は当然もてはやされ、実力も確かだったのは間違いないだろう。様々な政策が成功している。そのため、彼らは宰相をはじめさまざまな要職に就き、実権を握っていた。ここまではいつの世もよくある話で、つい近年もスベルニアで同様の状態だったらしい。しかし、彼らの悪名・・を一気に高めた一件として、コルプレストナの反乱がある」
 兄の口から出てきた反乱の名前に、クロードは意外さを感じた。
(確かあれは農民の小規模反乱であり、リーゼベルツとセリチアの連合軍に壊滅されたのでは)
 そう思ったが、口には出さずに、兄の話を聞き続けた。
「コルプレストナの反乱はかなり小規模の反乱だ。しかし、連合軍の一翼を担っていた我が国の大将はマリアン王の孫にあたる当時十五歳のスティード王子だった。彼はまだ経験も浅い、という事でバディナ家の当主、トスカンが参謀として同行していたのだが、何を思ったのか、トスカンはスティード王子を落命させた・・・・・。落命させた原因は様々あると言われているから、ここでは触れないでおくが、兎にも角にも一国の王子を落命させた罪は重い。トスカンは大罪人として王宮――――後の世、ミゼルシア王国が出来てからはセリチアを追放され、当時の上層部の取引によって辺境公爵として生きていくことを決断させられたらしい」
 フィリップ王はそこまで言って、一度口を閉じた。しかし、フィリップ王が言った内容について、クロードはおかしな点を尋ねた。
「コルプレストナの反乱もバディナ家も実在するものです。しかし、一応元王子として、私もこの国の歴史も学んできて、カテリーナ姫のことをラシード王の侍従から聞いた時に、彼女の出自がセリチアに関係して、政治的に取引された身の上であるから、公爵といえどもラシード王のもとで生活しているというぐらいにしか分かりませんでした。それなのに、何故兄上はそれらをご存じなのですか」
 クロードの言葉にフィリップ王は笑った。
「今まで今まで話してきた内容はすべて国王だけに伝わる書物から得た情報であり、本来ならば他の者に漏らすわけにはいかない。しかし、流石にその末裔であるポルドルフ女公爵と王族の一員であったお前が結婚するとなると話は別だ。政治的取引でミゼルシアの一員となった女公爵を守れるのは、その配偶者となったものだけであり、我々が。もちろん、王妃はスベルニアの姫でもあるのだから、本来は聞くべきではないと思ったが」
 こう見えても妻には隠し事が出来ないのが私でな、と兄が笑った。その答えにクロードとカテリーナは何とも言えない雰囲気を感じ、隣のヘラは隣に座っている夫をつねった。
「しかし、お前が見つけたというならば、正答はそれしかないだろう」
 そうクロードに言う彼は、ちゃっかりと妻の腰に手を回している。

「もちろん、お前はミゼルシアの公爵家の婿になる立場だ。今後一切、子孫に渡り、この国の王位継承権の放棄と政治的圧力への関与をしてはならないことを誓ってもらわねばならない」

 いいな、と、兄は国王の顔でそう言った。クロードに迷いはなかった。
「はい」
 そう力強く言うと、カテリーナの手をしっかりと握った。その様子を見て、フィリップ王はニヤリと笑い、
「ミゼルシアに行って、お前は変わったな」
 と言う。あまりカテリーナの前で他人にそのことで揶揄われるのは嫌だったクロードは、挨拶を適当にし、王宮から下がった。

 兄王と面会していたため、かなり遅い時間になってしまっていたが、カテリーナを連れて王都にある自宅へと向かった。
「そう言えばすまなかった」
 クロードはようやく落ち着いたと思い、ある話を切り出した。カテリーナは初めてだからか、そわそわしていた。しかし、クロードの言葉に、え?と尋ねた。
「いや、以前あなたと会った時に、私は別の人物を見ていたから、私に何も言わなかった、と聞いた」
 クロードがカテリーナに確認するように言うと、はい、と頷かれた。
「その件についてだが、確かにそうだ。あの時は、あなたではなくある方を見ていた」
 カテリーナはそうですか、と言った。しかし、何も言ってこないので、クロードは続けた。

「昔、私がまだ王子時代の時にリーゼベルツに外交員として派遣された。その時に、王子としての自分を救ってもらった女性がいた。向こうに行った端から事件に巻き込まれたが、その事件もそれ以外の事件も鮮やかに解決するのは、いつもその女性で僕は羨ましかった。でも、いつしか彼女を好きになっていた。向こうでの事情もあって、何度かこっちに来るように誘ったんだけれど、彼女は頑として首を縦に振ってくれなくてね」
 彼は寂しそうに笑った。カテリーナはクロードの側に寄った。側に寄ってきた彼女をクロードは抱く。
「で、結局彼女は一国の王妃になってしまったんだ。周りからは政略結婚だって噂されているけれど、あれは確実に恋愛結婚だろうね」
 こんな話をしてごめん、とカテリーナを離しながら言う。いまさら聞かせるべき話ではなかったかと後悔した。しかし、カテリーナは微笑み、
「いいえ。クロード様の過去を知ることが出来て良かったです。というか、その女性についてもっと詳しく聞かせてください」
 という。カテリーナのことを頼もしい女性だと思いながらも、これ以上話すことをしなかった。
「そういえば、君は良かったの?」
 クロードからの質問に今度はカテリーナが驚いた。
「えっと、普通の女性は自分が嫁いでいくこと、そして、盛大な結婚式を挙げることを夢見ているんじゃないのか」
 二人の立場上、盛大な結婚式を挙げることはできない。それにもまして、教会でのあの儀式を行う事さえ怪しい。その意味を含めた言葉にカテリーナはいいえ、という。
「両親が死んで、私が公爵位を引き継いだ時には諦めていました。二つの国の秘密を持っている以上、仕方ないことだとわかっていますので」
 代々結婚式は上げていないらしいですよ、と笑いながら言ったその姿の中に、気配を悟られぬようにしながらも少し寂しさを滲ませていたことにクロードは気づいた。
「そうか」
 クロードはその気遣いを無にしないように、それ以上何も言わなかった。





 その5か月後―――――
 ミゼルシア北部、ポルドルフ領にある小さな教会で慎ましい結婚式が挙げられていた。
 新婦の名は、カテリーナ・ポルドルフ。彼女の髪色から『灰色の領主』として有名な小柄の女公爵。
 新郎の名は、クラーヴディヤ・バルメド。新婦とはかなり体格差があり、この北国では王以外には見かけない金髪の持ち主であった。
 女公爵の結婚に領民たちは最初、意に沿わない結婚なのだと勝手に想像し、女公爵に同情を寄せていたが、二人の姿を見てその想像はさっぱりとなくなり、どこの出身なのかまでは気づかなかったが、この地に来た花婿を大歓迎していた。
 公爵家当主の結婚式であったが、『都合により』王都や他の地域からの訪問者はいなかった。しかし、二国の王からの公式の贈り物があったため、招待した領民たちは驚き、さらには全く予想していなかった南国の王妃からも個人的な贈り物があったため、彼らは腰を抜かした(知らされていなかったクロードも腰を抜かした)。

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