転生したからって、ざまぁされなくてもいいよね?~身内との8年間、攻略対象達との3年間の駆け引き~

助っ人役の受難

 クレメンス・ディートはこれまで生きてきた中で最も、戸惑いを隠しきれていなかったと自分でも分かった。
「あなたは、それをどういう意味で仰っているのかお分かりで?」
 目の前にいる少女――――否、すでに年齢的には成人デビュタントしているので、女性というべきであろう――――に向かって、そう尋ね返してしまう。しかし、その少女はええ、と言う。その答えに再びクレメンスは頭を抱えた。




 事の発端は、5年前―――――――
 目の前にいる女性がまだ、少女だったころ、彼女は戦に巻き込まれ、敵の真っただ中に放り込まれた。放り込んだ張本人はその戦の中で戦死し、残るは本当の悪人たちであったために、正確な状況が分からず、父親・・でさえ彼女の扱いには困っていた。しかし、彼女が一切弁明しなかったこと、一方で彼女の侍女たちからの証言で、彼女への処分は『籍のはく奪とディート伯ここでの謹慎』という反乱軍に関わったものとしては軽い処分で済まされた。それから彼女はこの館の隣にあるディート家侍従長の家に居候しており、時々様子を見に来るクレメンスと顔を合わしている。
 その彼女とクレメンスは父と子というほどではないにしろ、ある程度年は離れており、独身とはいえどもクレメンス自身は何とも思っておらず、いずれはディート家か侍従長の家の養女とし、嫁に送り出すつもりでいた。
 一方、現王の即位直後は国内の政情が若干不安であり、かなりの重鎮貴族たちが代替わりした、という事情もあり、内務相として日夜働いていた。クレメンス自身もまた、彼の拾い子であり、彼が見込んで文官に送り込んだ人物を反乱の際に失い、少し気を紛らわしたい気分だったため、仕事に打ち込む口実としてそれを使い、王宮に入り浸っていた。そのため、自身が当主を務める領地といえども、年に二度――――春の種まきと秋の収穫時、そして緊急時以外はもとから帰っていなかったものの、その足がさらに遠のいていた。


 よって、彼の姫とゆっくりと話せる時間が持てたのは、彼が内務相をやめた昨年の末が初めてだった。
 その時の印象は、残念ながらクレメンスはあまり覚えていなかった。彼自身が彼女の処分を提言したような状況であったので、彼女にとってみれば―――――もし、彼女が本気で反乱軍についていなかったのだとしたら、彼は仇敵のような存在だろう、と思えた。そんな仇敵と話す気力など彼女には持ち合わせていないだろう、と彼自身が決めつけていたので、あまり力が入っていなかったのだ。

 ゆっくりと最初に話した次の日、領地へ戻ってきてから彼が日課としている領地内の視察を終えて戻ってきたとき、彼女が彼を再び訪れた。彼女は自分で昼食を作ったと言い、内務相時代は特に食事をとらなかったクレメンスを食事に誘ったのだ。彼や彼の秘書たちは彼女の言ったことに驚き、秘書たちは彼女を排そうとしたが、クレメンスはそれを止めた。彼女がもし、彼を殺したいのならばそれでいい、と本気で思っていたからだ。
 彼女が提供したのは、葉菜類に肉や穀物を混ぜたものを蒸した料理など、彼が食べたことのないようなものばかりであった。彼はあまり食にこだわりを持たなかったものの、彼女が作った料理はおいしいと感じられた。すぐさま家の料理人たちに彼女から料理を習うよう指示した。しかし、彼女が作った料理以外はどれも大差のない味に感じられた。
『何か入れたのか』
 クレメンスは彼女に尋ねたが、彼女は首を横に振った。彼は一応念のために彼女に内緒で様々な人物を調査し、彼女が居候先である侍従長に何かを強請った様子はなく、特別なものを他の領から購入した、という話も聞いていないという事を商人たちからも証言を得た。あえて考えられるのは二つの方法だが、そのどちらも距離からしてありえないことだろうとクレメンスは納得し、しばらくしてから彼女にそう告げた。すると、彼女はそうでしたかとホッとしたように呟いた。彼女はどうやら、彼女自身が疑われていることを感じており、気が張っていたに違いなかった。
 本来ならば王の赦しを得ることのなく、勝手に謹慎先を移すことはできないものの、謝罪の意味も含め、彼自身の判断で彼女の住まいを伯爵邸に移した。彼女は伯爵邸に移った初期は、かなり怯えていたようだったが、しばらく時が経つにつれ、この屋敷の侍女たちとも仲良くなった。侍女たちもクレメンスが結婚しないから、女性のには飢えていたみたいで、嬉々として彼女を飾り立て上げ、しまいには彼女をこの屋敷の女主人として扱い始めた。クレメンスも彼女が後々、結婚してこの家を出て行くのだろうと考えていたので、今の間にどのように振舞えば良いのか学んでおけ、という意味で、何も侍女たちの決断に言わず、彼女に女主人の役割を果たさせた。
 すると、実の母親がアレとはいえども、彼女は一端の王族であったためか、すぐにこの屋敷の女主人としての役割を理解し、行動へ移すことが出来ていた。食事は彼女自身が作ることもあったが、ディートこの家の人間として、食事をとるようになった。また、彼女が伯爵邸に移ってから、クレメンスもまたきちんと食事をとる回数が増えた。


 そんな細やかな日常の中、クレメンスは王宮から呼び出しを受けた。
 呼び出し人は国王夫妻。彼らから彼女と共に王宮へ来るようにという伝令騎士の言伝を聞いて、クレメンスも彼女もどこからか、一連の日常・・が漏れたみたいであり、とうとう『その時』が来たのかと腹を括りつつ、王宮へ向かった。
 王宮では、すぐさま王の執務室へ通されると、そこにはすでに国王夫妻がいた。しかし、国王が上座ではなく、王妃がこの場を取り仕切っており、非常ににこやかな顔だ。だが、彼らは内心のおびえを捨てずにいたが、
「久しぶりね」
 そう彼女に挨拶した王妃は君主としてではなく、従姉として挨拶をした。その言葉から、二人は今『この場では身分は関係ない』という宣言をされてしまった事を理解させられた。彼女は王妃に気軽に話しかけられたことに驚いているのか、少しそわそわしていた。そっとクレメンスが無意識のうちに彼女の手を包むと、国王夫妻が笑った。
「あら、こんなに愛されているんじゃ、ね?」
 王妃の言葉にクレメンスは首をかしげた。
(自分が彼女を愛している?)
 確かにクレメンスは彼女のことを見守って、保護者として嫁がせたい気持ちはあるが、彼自身が彼女のことを好きであると思ったことはないはずだ。そう思って、きょとんとしていると再び国王夫妻が笑う。
「あなたはどうなの?」
 そう王妃が彼女に尋ねた。すると、彼女はクレメンスの方を見て、口を開いた。

「私はディート伯様のことをお慕いしております。もし可能であるのならば、私自身をもらっていただけませんか」

 彼女の発言に、クレメンスのみならず、彼女に振った王妃までもが赤くなり、隣に座っている王に抱えられている。その王も心なしか赤いような気がした。クレメンスはこの二人の目の前で、自分がこんな顔をするのことなろうとは露思いもしていなかったので、かなり混乱気味であった。
「あなたは、それをどういう意味で仰っているのかお分かりで?」
 クレメンスはここが王夫妻の御前だというのに、思いっ切り言ってしまった。しかし、彼女も負けじと、
「ええ」
 と言った。
「もちろん、私は罪人です。ですので、愛人でも構いませんし、それでも無理というのならばディート家の侍女にでもしていただければ結構です」
 彼女はきっぱりという。その言葉に、クレメンスは落ちた・・・

「そういう訳にはいきません。たとえ何もなくても、あなたはディート家で女主人となっている身でしょう。侍女たちに怒られるので、あなたをそんな風に扱う訳にはいきません。それに、私自身もあなたの料理には驚かされました。これからはあなたの料理以外は食べたくありませんね」
 彼の言葉に王妃がやっぱりと言った。クレメンスは王妃の言葉に我に返り、しまったという表情をしたが、時はすでに遅かった。
 国王夫妻は軍務相と法務相を呼び、その場でクレメンスたちに結婚の手続きをさせた。









 二人―――――クレメンス・ディート伯爵とミスティア元王女はその後、ディート伯爵領で結婚式を行った。その席にはなぜかお忍びで国王夫妻もやってきて、それに気づいた領民や侍女たちが非常に恐縮していた。
 しかし、彼女――――ミスティア王女が王の許可なしに別の場所に移ったことは別問題とされ、罰として王女の謹慎は引き続き継続され、そして、領主であるクレメンスの監督責任・・・・となった。一方、クレメンスは国王夫妻の息子の家庭教師となることが決まり、王都へ再度出てくることとなった。それに伴い、特例・・でその妻も同伴することとなり、ミスティア・ディートもまた、王都へ来ることとなった。

 その後、この結婚でクレメンスを幼女趣味だと揶揄った幼馴染も、結局、かなり年が下である町娘と結婚することとなり、今度はクレメンスが揶揄った。







 生涯、伯爵夫妻は二男に恵まれ、その子孫は、その後リーゼベルツ王国の後継国では最高の文官である大統領に任じられ、彼の伯爵の再来とも言われるが、それはまた、別の話。

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