転生したからって、ざまぁされなくてもいいよね?~身内との8年間、攻略対象達との3年間の駆け引き~

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『王太子クリスティアンを名代としてセリチアへ派遣する』
 そう王が告げた言葉に、全員が唖然とした。何故国王ではなく、外遊経験がない王太子がこの重要な局面で名代として派遣されるのか。理由は語られず、貴族たちの中に動揺が走った。
 そして、もう一つ。王太子の随伴として同行するのも、外交経験が豊富な長官クラスの文官や『アリア・スフォルツァ』ではなく、王太子と同じ年代の若者、しかも全て外交経験のない公爵家の当主若しくは次期当主。ちなみに、アリアがアランから逃げ回っていた、というのもあるのだが、この二日間アランとも一切話さなかったので、結局、誰を選んだとかいう話を一切しなかった。しかし、彼らが選んだ侍女たちは、長年社交界から遠ざかっていたアリアでさえ知っているような賢い女性が多かった(なぜかアランの姉であるアーニャが含まれているのには驚いたが)。もちろん、その中から誰かを妻とするのだろうと思うと、少し胸が苦しくなるが、自分自身が選んだ道でもあるのだ。彼はアリアに巻き込まれたようなものだから、彼を非難するわけではない。
 アリアがそのように考えている状況ではあったもの、頭を切り替えて公爵家筆頭であるバルティア公爵は苦笑いだけで済ませていた。
(公爵であってもここは陛下自身が動くものだと思っていらっしゃるようね)
 内心はほかの諸侯と同じことを思っていたに違いない、とアリアは横目で見ながらそう思った。アリアは内務相補佐の身分から、国王の左隣の隣である内務相の後ろに控えており、一応文の括りである公爵家筆頭の立場にいるバルティア公爵が近くに控えており、その表情を読み取ることが出来た。
 しかし、王から王の代理であることを示すための文書や王自身がしたためた弔文を受け取り、彼らはすぐさま出立となった。外にはすでにベアトリーチェや侍女たちが乗る馬車や男たちが乗る馬が控えており、誰も反論することは許される雰囲気ではなく、全く順調に進んでいった。

「行ってしまわれましたね」
 アリアが一人で王宮の二階で遠くを眺めていると、背後から声をかけられた。
「すみません、あなたが一人でここに来るのが見えてしまったので、つい追いかけてきてしまいました」
 彼――――セルドアはどうやらアリアに用事があったらしく、ここまで来たという。
「少し付き合ってほしいのですが、時間は大丈夫ですか?」
 そう言って、彼はアリアの方へ手を差し出した。アリアは大した用事もなかったし、本来ならば今日は休みを取った日であったので、問題はなく、セルドアの手を握り返した。
 セルドアに連れられてきたのは、軍務相としての彼の執務室だった。ここは防音設備が完璧らしく、密談にはもってこいの場所だという。
『本当は扉を開放しておきたいけれどね』
 と言いつつ、アリアと二人きりで話をしたいのか、扉を閉めた。
「すみません、騎士団の執務室にいると、時々騎士が来るもので、落ち着かないんですよね」
 どうやら彼は落ち着いて話すべきことがあるらしい。セルドアは彼自身で茶を入れると、本来ならば女性には甘いお菓子を添えるべきなのですが、と言いつつアリアに差し出した。その茶はかなり美味しく、もう一杯頂きたいところだった。しかし、セルドアはほんの一口飲んだところで、本題を切り出した。
「あなたはこの一件で何か思われていたようですが、それを教えていただけませんか?」
 アリアは一瞬ドキッとした。自分が動揺していることを見抜かれていたとは思っていなかったのだ。
「あなたは妹と同じで感情を隠すのが得意ですね。僕としてはその感情の隠し方を教えてほしいものですよ」
 セルドアは寂しげに笑った。
「でも、あなたにはこれ以上の苦労をかけさせたくない、というのも本音です」
 アリアは一瞬うつむいたが、今ならば全てを事の発端でもある彼にぶっちゃけてもいいと思ってしまい、口を開いた。

「そうですね。私は公爵家の娘であり、内務相補佐という地位についているものでもあります。そして、何より一部からは厳しい目で見られているのを知っています。だから、私だって本当は自由に恋が出来るのならば、自由に恋がしたい。でも、こうなってしまった・・・・・・・・・以上、それに従う事しかできない。だから―――――」

「――――だから、あなたは苦しかったのですね」
 アリアの言葉は途中でセルドアに引き継がれ、アリアの肩に暖かい何かが覆いかぶさった。顔を上げると、彼女の瞳にはセルドアの顔がどアップで映し出された。どうやら、彼はアリアの肩を抱いていたらしい。
「――――――――――」
 アリアは少し赤くなってしまったが、セルドアは腕を緩める気はないらしい。
「そうでしたか。それは、僕の責任でしょうね」
 彼はしみじみと呟く。
「ですが」
 彼は続けようとして、そう区切った。
「もともと平民であり、政略結婚とは縁のない僕が言うのはおかしいことですが、あえて言わせていただきます。あなたもわかっている通り、政略結婚は貴族では当たり前でしょう。それに加えて、あなたには様々な重責や縛りがのしかかってきています。ですが、僕はあなたならばどのような形であろうともきっと幸せになると思いますよ」
 セルドアの言葉に、今の状況ではそれしか光はないだろうと思った。
 アリアは少し彼の言葉にすっきりとし、残っていた茶を飲み、礼を言って部屋を出た。

 アリアが出て行った後、一呼吸おいて、
「もう出て行きましたよ」
 と誰もいない空間に向かって声をかけた。すると、執務机の背後から一人、サイドルームから一人出てきた。
「やはり、陛下、クレメンス。ビンゴですね」
 と涼やかにセルドアが言うと、
「お前、スフォルツァ嬢を泣かしたな」
 とクレメンスには白い目で見られ、
「しかし、どちらが―――――」
 王は唖然としていた。

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