転生したからって、ざまぁされなくてもいいよね?~身内との8年間、攻略対象達との3年間の駆け引き~

8

8
 その後、アリアとアランは――――正確に言うならばアランに抱えられたアリアは、他の人たちよりも先に総攻撃しようとした領館へ入った。本来だったらもともとは反乱軍が所有していたものだから気持ち悪いとか言いたくなるものだが、アランが動いてしまった以上、拒否することはできなかった。
「大丈夫?」
 アランはアリアをお姫様抱っこして館の中へ連れ込み、彼女を客室と思われる部屋のベッドに寝かしつけた。
「ええ、大丈夫よ」
 彼女の顔色はあまりいいものではなかったが、体調自体は悪いものではなかった。ただ、自身が今まで、9歳の時から頑張ってきた精神力の安定さが少し崩れかけていたのだ。しかし、今までとは違い隣にはアランがいて、それが一番の支えとなっている。
 アランはなら良かった。と言い、ほかの人たちが来てもいいように支度をしてくると言って、部屋を出て行った。アリアは一人になると、呟いた。
「もうこれ以上は何も失いたくないっていうところかしらね」
 いつも以上に自分自身が落ち込んでいるのだと気づいているアリアは、それに対してアランが必要以上に構うのではなく、少し距離を置いてくれたことに感謝した。アリアはそれから、他の人たちが館に到着するまで少し目をつむっており、いつのまにか寝ていた。
 彼女が目を覚ましたのは日が傾きかけたころだった。
「――――――お目覚めかな?」
 隣にいたのは真っ赤な髪を持つ女性だった。彼女が誰であるのか一瞬分からなかったが、非常によく似た顔立ちをいつも隣で見ていたことに気づき、アリアはハッとなった。
「あなたは―――」
「気づいてくれて嬉しいわね」
 そう言って貴族女性とは思えない気軽な笑いをした女性。彼女は見た目がかなり若いが、確かアリアの母、エレノアよりも年は少し上なはずだ。王宮夜会や他の家での夜会・茶会に参加していたはずだが、なぜか直接の面識はなかった女性だ。
「何故、あなたが――――」
 しかし、領地に行ったときに、領都におり自主軟禁・・・・していると言われていた彼女がなぜここにいるのかが疑問に思った。
「ふふ。息子 ・・が心配してね。もう少し早く着く予定だったけれど、も行くっていう事を聞かないから、説得するのに時間がかかっちゃっていてね」
 彼女が言う『娘』とは、かつてアリアが先輩侍女として慕っていた彼女のことだと直感で分かった。
「あ、あの、ありがとうございます」
 アリアは勢いよく起き上がって頭を下げた。すると再び彼女はクスクスと笑った。自分は何か間違ったのだろうかと思って彼女を見たが、彼女が続けて言った言葉によってそうではなかったみたいであるという事が分かった。
「ごめんなさい。あの子たちがとてもあなたのことをよく話すから、疑う様で申し訳なかったんだけれど、少し疑ってしまって一度直接お会いしたかったのですよ。でも、あの子たちの評価はいい方向に間違っていたわね」
 彼女はウィンクをしながら言う。アリアは彼女――――アランの母、アルメルのそのウィンクに同性でありながらかなりクラクラ来てしまった。この彼女が未婚時代は、多くの男性が堕とされた・・・・・のではないのだろうかと思ってしまった。
「あなたは今までさまざまなことを頑張ってきたのですから、もうこれ以上苦しまなくてもいいのです。って言ってもあなたの事ですから、これからも頑張るでしょう。だから、家庭だけでもせいぜい息抜きになるような殿方を捕まえて頂戴ね、って言おうと思ったけれど、あなたはうちの息子と勝手に婚約を結んでくれたみたいね」
 どうやら、同じ公爵家であるアリアに激励しに来ようと思ったが、どうやら勝手に婚約を結んだことに気づき、急きょ内容をお叱りしたのかと思って、アリアは身構えた。しかし、彼女はにこやかなままだったので、アリアは困惑していた。
「ふふ。こうやって二人きりで会って話せば、やはり年頃の娘さんなのね」
 アルメルは本当に目まで笑っているので、質が悪い。
「えっと―――?」
 アリアはいい加減じれったくなってしまい、ついうっかり心の中の声が出でてしまった。すると、アルメル夫人は咳ばらいをし、

「ごめんなされ。私のしたことがつい、ね。どちらにせよ、私はこの婚約に賛成よ」

「そうですよね、勝手に結んで申し訳―――――え?」
 アリアは一瞬本当に反対されたのかと思って、身体が勝手に反応してしまい、アルメルに頭を下げ謝ったが、もう一度よくよくその言葉をかみしめてみると、自分の思い違いに気づけた。
「えっと?」
 再び同じ発言をした。しかし、アルメル夫人は先ほどと変わらず、
「あの子が本当に結婚するのであるのならば、この婚約は構わなくてよ」
 と言った。アリアは一瞬、魂が抜けるかと思った。そのやりとりがちょうど終わったとき、タイミングを見計らったかのように、扉が開いた。
「アリア、大丈夫か―――って。げ、母さん」
 扉から顔をのぞかせたのはアランで、アルメル夫人の姿を確認すると非常に複雑そうな顔をし、その場から去ろうとしたが、
「あら、あなたも入っていらっしゃい」
 アルメル夫人はアランを中に(物理的に)引き摺りこみ、アリアの隣に座らせた。
「で、アランはアリアさんと本当に結婚する気はあるんでしょうね?」
 アランに対してアルメル夫人から、『勝手に婚約したこと』について厳しい尋問が行われるはずだったのだが、どうやら、雲行きは本当に違うらしい。
「ああ、本当だ。すでに彼女の両親の方には話している。お袋と親父・・・・・にはこの反乱が終わってから言うつもりだったんだよ」
 アランは少し照れ臭そうだった。アルメル夫人はそうだったの、と目を丸くしていた。それ以降は何も言わなかった。

 その後はアルメル夫人と話をした。どうやら、彼女は男所帯であるこの戦場でアリアが一人女性であることに気にしていたらしい。そのため、一番気軽に呼びよせることが出来たのが、実家が辺境伯である母親アルメル夫人だったらしい。ちなみに、社交界で聞いたことなかった話なのだが、アルメル夫人は実家の辺境伯家の末娘であり、あまり社交界には向かない性格―――――直接的な表現をすればかなりのお転婆だったらしく、一人で大型の野生動物も射止めることもできたらしい。そのため、バルティア領からここまで来るのも全く苦労することなく来れた、という。
「だから言っただろう」
 アランはアルメル夫人がいなくなった部屋で、アリアと並んでベッドに座りながら言う。
「え?」
 アリアはアランの言っている意味が分からなかった。
「『政略結婚がいやならば、自分で好きな人間を連れてこい』が家訓なようなものだって言ったことを」
 アランは少し疲れたように言う。その言葉で思い出したのが、スフォルツァ家での一コマだった。それは本当の事であり、アランの母、アルメルもまた、現バルティア公爵とは政略結婚ではなく、すったもんだ付きの大恋愛の末に結婚したという。
「だから、僕は君に申し込んだんだ」
 アランは照れ臭そうに言う。
「そうだったのね」
 アリアは今日起こった一連の出来事を完全には忘れられないが、それによって引き起こされた痛みは少し和らいだ気がした。

「転生したからって、ざまぁされなくてもいいよね?~身内との8年間、攻略対象達との3年間の駆け引き~」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く