転生したからって、ざまぁされなくてもいいよね?~身内との8年間、攻略対象達との3年間の駆け引き~

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 ヨセフがリーゼベルツに来てから数日。王都の商人たちと交渉し、アリアとアランが王宮に潜入する手はずを整えた。
「明日だね」
 アランがその晩アリアを誘い、二人で夜の紅茶を飲んでいた。ちなみに、現在ヨセフは何故かスフォルツァ領へ向かっていると、アランから聞いた。
「ええ、そうね」
 アリアは紅茶の香りに癒された。やはり大仕事が目の前にある以上、緊張しているみたいだった。
「少し昔話をしてもいい?」
 アランは目を閉じて言う。アリアは何の話なのか気になったので、ええ、と頷く。

は昔ある少女に憧れていたんだ」

 宣言通り昔話を始めたのだが、彼は彼自身を『俺』と言っているから、おそらくは前世での話だろうと検討をつけた。昔のことを話すのならば、とアリアは頭を切り替えた。
「ある少女?」
 アランの元となった人物は成人男性だったはずだ。そんな彼が憧れた少女は一体誰だろう、とすごく気になった。
「うん。偶々、雇い主の代理で地元のスポーツ大会に行ったことがあってね。その時に確か、あれは弓と矢、弓道という種目、だったかな?僕は全くスポーツには興味がなかったから、ルールとかさっぱりわからなくて、暇を持て余していたんだ」
 アリアはそれを聞き、アランの今の性格とは全く違うんだな、と思った。アリアの中での『アラン』は、武芸にも優れ公爵家の跡取りとしても、全く非の打ち所のない人物に見える。それは、彼の努力だけではなく、元からのスキル引継ぎが大きく占めているのだと思っていた。しかし、『弓道』という言葉を聞いた瞬間、アリアはそれはどこの話なのだろうか、と気になり始めた。
「だから、いい加減雇い主のところへ戻りたくて、切り上げようと責任者を探して会場の中をうろついていた時に、廊下で射形の練習している少女がいたんだ。今でこそ言えるけれど、彼女は大した容姿ではなかった。でも、なんだか体の隅から隅まで芯が通っていて、彼女よりも年上で、社会的な地位もあった僕よりも、はるかに彼女の方がしっかりした感じだと見えていたよ」
 アランはそこで一息ついて、紅茶を飲む。アリアは最近、彼の紅茶を飲む仕草が好きだった。
「その後、結局雇い主の方から召集がかかったから、責任者が見つからないまま会場の受付に断りを入れて帰った。それから一週間位した後だっけな、彼女を再び見た・・のは」
 その言葉にアリアは驚く。そんな簡単に再会できるものだろうか。
「彼女はニュースで大きく取り上げられた。ほんの小さな都市で起きた事件・・だったのに」
「どういうこと?」
 アリアは不思議になってアランに尋ねた。
「その事件は、本来ならば単純に事故として処理されるはずだった。だけれど、それはたった一つのミスから人為的に起こされたことだと、明るみになった」
 アランは今までにないくらい暗い瞳をしていた。アリアはそっと手を握った。すると、アランはほっとしたような表情をする。しかし、アリアにとって誤算・・だったのは、アランの次の言葉だった。

「そう、当時17歳だったその少女が死んだことによってね」

「え?」
 アリアは乾いた言葉しか出てこなかった。

 彼が憧れていた弓道の大会に出ている少女。
 そして、大会から一週間ほどで事故死・・・した少女。

 それは、誰か・・に非常に似ている気がした。
「ねえ、彼女の名前は?」
 アリアは気になった。どういうことなのか気になった。

「確か『相原』っていう姓がついていたのは覚えているけれど、名前までは忘れてしまったよ」
 アランの言葉を聞いて、嘘、と思わず言ってしまう。すると、アランがようやくアリアの状態に気づいた。
「アリア?」
「――――――そうだったんだ」
 アリアはかなり嬉しかった。どうやら、一度見かけただけの『自分』のことを覚えてくれていたらしい。今度はアリアの納得の言葉にアランは驚いた顔をした。アリアは一瞬迷ったが、意を決して言う。
「あなたが憧れたという『少女』、それは『私』です」
 アリアの言葉にアランは絶句した。
「私が『相原涼音』だったものよ」
 しばらく彼は何も言えなかったが、一分くらいたった後、アリアの頭を撫でだした。
「じゃあ、君が―――――」
「ええ、そうよ。事故の詳細としては、地元の有力者の息子である小さな男の子をかばって女子高校生死亡。そうでしょ?」
「あ、ああ」
 アリアは少しため息をついた。まさか、自分が轢かれた事故が事件だったなんて。確か轢かれそうになっていたのは、アリアの実家と懇意にしていた会社のご子息だっけ。
「まさか、あなたの雇い主様のところの関係者だった?」
 アリアはもしかして、と思い聞いてみたが、それは違ったらしい。どうやら、彼が言うところによれば、雇い主様とやらは事件とは全く関係なかったが、同じ政党に所属していた質の悪いベテラン議員が裏で糸を引いていたらしい。目的は反対派議員の追い落としで、その議員の後援会に入っていた会社の社長子息を誘拐しようとしていたらしい。
(ちょっと待って。それ、かなりちょうどいい『事故』だったわけ、ね――――)
 アリアはアランの話を聞いてかなりげんなりした。まあ、その社長子息は誘拐されずに済んで、悪徳議員を放りだすきっかけになったのか、と思える部分もあるのだが、それでも少しへこんだ。

「なんか、こんな時に話すことじゃなかった、ね」
 アランはかなりしょげていた。そりゃそうだろう。憧れていた?少女が生まれ変わって隣にいて、彼女だと知らずにその少女の『死』の真相を思いっ切り本人に伝えてしまったことだ。逆の立場だったら、本当に逃げ出しているだろう。でも、彼女は首を横に振った。
「ううん。タイミングは少しいただけなかったけれど、良かったわ。本当のことを知ることが出来たんだし、自分のことを知っていてくれた人がいて嬉しい」
 アリアにとってみれば、特にあちらの世界は生きにくかった。だけども、アリアのことを見ていてくれる人がいただけでもほっとした。

「じゃあ、明日は早いのだから、もう、寝ましょう」
 二人ともすぐに、すっきりした顔になっていた。
「ああ、そうだな」

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