転生したからって、ざまぁされなくてもいいよね?~身内との8年間、攻略対象達との3年間の駆け引き~

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「いやぁ、あなたがここにまでこられるとは思いませんでしたよ」
 彼の首都内での自宅に案内されたアリアは、開口一番そう困惑気味に言われた。ここまで至近距離で面と向かったのは初めてだが、調停の場と少し印象が違うような気がした。しかし、困惑していたのはアリアもそうだった。すんなりと彼に会うことが出来るとは思っていなかったからだ。
「本当に突然の訪問で申し訳ありません」
「気にせんでええよ。かわい子ちゃんに会えるとそりゃぁこっちも生きてきた甲斐があったからね」
 ヨセフはにこやかにほほ笑む。そして、アリアの願いを聞く。すると、彼は全く考えることもせず、
「構わんよ。まあ、執政にどういわれたか知らんけれど、俺は嬢ちゃんについて行ける身だ。だけれど、今日明日は動けん」
 彼はどうやらメッサーラ執政が何を言うのかは想像していたみたいだった。まあ、長年彼と共に行動していたのならば、それを感じ取るのは容易いのだろうが。しかし、すぐには動けない、というのはどう意味なのだろうか。アリアは疑問に思ったが、口に出せずにいると、ヨセフ自身が喋り出した。
「まあ、有り体に言えば俺自身が病気なのだ」
 アリアは驚きで目を見開いた。だが、言われてみれば、彼自身の印象が違うのもそのせいだろうと納得できた。そんなアリアの様子にヨセフは笑った。
「問題はない。単にここ最近のストレスがたまっていたせいで、少し肌がかゆすぎて、な」
 確かに彼の手は少しはれぼったくなっている。それが原因なのだろう。
「その薬が届くのが今日か明日だから、嬢ちゃんとゆっくりこれからのことを話する時間は、ある程度取れるさ」
 ヨセフの言葉にアリアは素直に感謝した。

 それからしばらくアリアとヨセフは話を続けた。
「ふぅん。結局は、あの国王サマは監禁されたか。まあ、もともとリーゼベルツは結構大きな確かに前回の一件でスルグラン、セリチア、グロサリアが声明を出してしまっている以上、今回は明るみになったら、干渉を招くことになるから、公にはできないね」
 ヨセフはニマリと笑う。
「でも、嬢ちゃんとバルティア公の坊ちゃんだっけ、あの調停の場に来ていた騎士様としてはあの国王サマの元で戦いたいんだよね?」
「はい」
 これは両親やアランとも話し合ったし、ミゼルシアの国王、クロード王子とも話し合った結果だ。はっきり言うと、貴族内部の争いだけの話ならば、すでに国王は廃位されて、もっというならば処刑されていてもおかしくないくらいの状態だ。しかし、対外的な面があり、民衆にはそれほど嫌われていない、という面から、現段階でとどまっている。その彼に従う、というのは対外的な面を除けば、かなりリスクの高いことだ。本来ならばとっとと鞍替えして宰相一派に付くべきなのだ。もちろん、戦いたい理由は陛下のことを守りたい、というだけの単純な話ではない。
「そうですね、少なくともは彼らとともに陛下には刃を向けることはできないでしょうね。それに対外的な面を考えた場合、彼らは私を欲しがるでしょうが、絶対に誘わない、もしくは誘えない大きな理由もあります」
 その言葉にヨセフはおやっという顔をした。アリアは彼が何も言わないことをいいことに、話をつづけた。
「単純な話です。今回の事の発端となったのは、陛下の王位の正当性。先だっての政変から戻った際の裁判において、陛下はすでに私の祖父であるジェラルドの廃爵を決定しています。すなわち、いくら薄かろうと持っていた王位継承権のはく奪と同じです。ですから、彼を擁することはもうないでしょうし、現に血筋は持っているとはいっても、その次に安全牌である私をミゼルシアからさらうのではなく、かつて王宮を追放された元愛人、そしてその娘であり、現在は継ぐ可能性は薄い庶子を擁しております。その時点で、私があの場に呼ばれることはないのです」
 アリアは微笑んだ。もちろん、アリアは仮にその案がまとまって、アリアのところに持ってこられたとしても、最大限抵抗するつもりだった(まあ、実力行使された場合は、たぶん他国がすっ飛んでくるだろう、と勝手に予想していた)。ヨセフはその言葉にうんうんと頷いた。
「確かに嬢ちゃんならセリチアとか『土蜘蛛』のみんながすっ飛んで行ったと思うねぇ」
 彼の台詞の中には、やはりスルグランの名は含まれていなかった。まあ、そんなところだろう、とも思う。なぜならあの時すでに彼は更迭されていて、スルグランの上層部の中でリーゼベルツは、もしくはアリアの名は怨嗟の渦の中心だっただろう。そんな国がアリアを助けに来るわけがないことを理解していた。一方、他の国については真偽のほどは不明であり、アリアが勝手に思っていることなので、アリアはすっとぼけることにした。
「それはわかりませんよ。国益が敵っていなければ、助けに来ることはないですよ」
 しかし、ヨセフはそのボケに騙されない一人だったみたいだ。
「それはないさ。なぜなら嬢ちゃんは―――いや、アンタはという相手を屈服させたようなもんだ。だから、スルグランうちアホ・・上層部とグロサリアは不可能でも、王子たちと懇意にしているセリチア、イサクという強い意志をもつ『白き土蜘蛛』はアンタを何が何でも助けたと思うぜ」
 ヨセフは口調を変え、そう言った。アリアは自分がしてしまった事の重大さをいまさらながら気づいた。
「まあ、だが、嬢ちゃんが望むなら、俺は嬢ちゃんの手助けをする。報酬は後払いで結構さ。薬が来次第、リーゼベルツへ戻ろう」
 ヨセフは絶対に勝つ、とは言わないが、彼がいればなんとなくこの内乱に勝てる気がした。
「はい、よろしくお願いします」
 アリアは頭を下げた。了解、とヨセフは笑う。

 そして、翌日の朝。何故か旅立つ二人を首都の境まで、見送りに執政とその片腕らしき男が来てた。
「ヨセフ」
 メッサーラは二人の姿が見えると、ヨセフに声をかけた。ヨセフはもう会う事のない人物だと思っていたのか、かなり驚いていた。一方のメッサーラはかなりばつが悪そうだ。
「何でしょうか」
 そんな雰囲気の彼に、ヨセフはあえて堂々と尋ねる。顔を少し赤くしながらも、メッサーラは言う。
「必ずスルグランに戻って来い」
 その言葉にはヨセフも驚いている。
「契約者は俺だ。いいか、リーゼベルツの女狐」
 アリアはまさか自分がそのような名前で呼ばれることになるとは思っておらず、目を丸くさせ、肩をすくめた。はっきり言うと、なんで自分がそのような呼ばれ方をせねばならないのか不思議だが、面倒になったので無視することにしたのだ。
「という事だ。俺と契約としろ」
「はぁ!?」
 ヨセフは再び固まる。
「契約は『リーゼベルツにディートリヒ陛下の治世という安寧をもたらせ』。そして、契約金はこれだ」
 と言い、布袋を渡す。それを受け取ったヨセフはその布袋の重さを確認し、ギョッとする。だが、まるで抗議は受け付けない、というばかりにメッサーラはそっぽを向いていた。
「で、成功報酬は――――――『軍師としての再任用』だ」
 ヨセフはその『報酬』に卒倒しそうだった。もちろん、アリアにもその報酬は主従の間にとって十分過ぎるものだろう、と思った。さすがのヨセフも泣きそうになっているのが見て取れた。
「承知いたしました」
 ヨセフは掠れる声でそういうとアリアに、行きましょう、と声をかけ、二人はスルグラン首都を後にし、リーゼベルツへ向かった。

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