転生したからって、ざまぁされなくてもいいよね?~身内との8年間、攻略対象達との3年間の駆け引き~

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 王宮を出るときにはすでに馬車が用意されており、身の回りのものも当然のように用意されているだけではなく、侍女も一人来るという。
(それじゃあ『追放』の意味がないのでは)
 アリアはそんな王の心遣いにありがたく感じたが、それと同時に少し呆れた。『追放』という形になっている以上、馬車は王家所有のものではなく辻馬車に近いもの、そして身一つで放り出すのが筋ではないのだろうか。たぶん、クレメンスやセルドア辺りがかなり手を回したのだろう。その侍女はどうやらクレメンスの縁者らしく、彼に少しだけだが似ているような気がする。

 ミゼルシアまでの道のりは遠く、目的地であるミゼルシアの王都―――ミゼルシアの北部に位置する―――へたどり着くまでに今まで以上の日数を要した。
「ようやく着きますよ」
 今回の『追放』に同行した侍女、サラはアリアにそう言った。アリアも車窓の風景を見ていたので、だいぶ北国に来たことは理解していたが、すでにセリチアを越えていることには気づいていなかった。
「早いわね」
 アリアはこの快適・・な馬車のおかげで乗り物酔いや気候の変化による体調不良などは起こさずにすんでいた。ちなみに、今回の『追放』の内容にはセリチアへの挨拶も含まれており、改めてフィリップ王子とクロード王子に挨拶した。
 その時は城下にある彼らの別宅に呼ばれたのだが、彼らの雰囲気は悪くなく、逆にフリップ王子クロード王子を溺愛しているような気がする。そんな様子に、アリアはほっとしながらも、フィリップ王子がかましてきた爆弾にアリアはたじろいだ。

『リーゼベルツを追放されたんだったら、俺と結婚しないか?』

 その言葉に一瞬クロード王子も兄に対して不穏な空気を見せたが、アリアの方も何のメリットがあるのだろうか気になった。

『俺と結婚すれば俺はリーゼベルツの姫を迎え入れることになり、多少・・反対派は騒ぐだろうが、すでに俺は実績を作っていて、俺の継承権は変わらない。しかし、クロードに嫁いだ方が大変なのはわかるだろう?』
『セリチアの王家がリーゼベルツに支配されてしまう・・・・・・・・・という事でしょうか』
 そのアリアの返答に喜んだのか、フィリップ王子は目を細め、クロード王子も納得した。
『ああ。それを防ぐためにも、リーゼベルツの血をひく俺に嫁いだ方が何十倍も楽だと思う』
 フィリップ王子はそう言い切った。続けて、
『それに、あなたもあの国を捨てたほうが身のためではないか』
 と挑戦的に尋ねた。しかし、アリアは全くその意義を見いだせなかった。
『あなたはおそらく利用されないであろうが、いつどこで何を企む輩が出てくるかわからないのがこのご時世だ。それを考えたら、独り身・・・でいるよりどこかのトップクラス、強いて言うのなら国王かそれに準じる立場の貴族でないとだめだ、それに嫁いだ方が遥かに利用されることはない』
 そのフィリップ王子の言葉にだんだんとアリアの頭も回ってきた。
『でもそれを前提条件とすると、何もあなたでなくても良いのでは?』
『いや、それ以外ないだろうな』
 フィリップ王子の隣では、クロード王子も頷いている。彼の方はフィリップ王子でないとダメな理由を分かっているみたいだった。
『リーゼベルツをはさんで南と北、それぞれに同一名門公爵家から姫が嫁いでいるとなると、多少諸国から反発も強そうだが、遠方に嫁いだとすると、アリア姫の方は特に、価値を分かっていない連中に使われかねるだろうな』
『そうだ。国内でも立場が一応悪い。だが、遠方でも若干使い勝手が悪すぎる、そんな姫をセリチアうちは喜んで引き受けるぞ』
 クロード王子の解説にフィリップ王子が同意する。アリアはため息をつきたくなった。

『お断りいたします』
 一見よさげに見えるこの提案。しかし、彼らの裏の目的はこうだろう、アリアを取り込む。そして、ディートリヒ王のように役に立つ駒としてアリアを使うだろう。もちろん、王妃としての役割は大事だろうが、セリチアとリーゼベルツの同盟を証明してどうなるのだろうか。すでにグロサリアとの話は決着しているとはいえ、まだこの先どのような輩が襲ってくるかわからない。その相手に(口で)戦ってほしいのだろうが、アリアはもうこれ以上は御免だ。はっきり言うと、ディートリヒ王の外交官で復帰してほしい、という要請も断りたいが、なにせあの国の外交技術はお粗末だ。先だっての戦の時もディートリヒ王自らが動かなければ、外務相さえ動かなかった。それくらいの状態だ。
 アリアは自分たちに頷くだろう、と踏んでいた二人が唖然とする中、
『前にもクロード王子もお伝えしたはずです。私はたとえ国を捨ててまで、この国の混乱に巻き込まれるつもりはありません。それにミゼルシアにもいい男はいると思いますので、そこで私にあう・・・・人を見つけますので、ご心配なく』
 アリアはそうにっこりいうと、屋敷を辞去した。


 そんな会話を思い返していると、はらわたが煮えくり返った。
(ふざけるな、あの野郎)
 公爵令嬢らしからぬ、そして元中小企業の社長令嬢らしくない発言を心の中でした。
 それからさらに馬車に揺られること数十分で、ミゼルシア王都に入った。

 ミゼルシアの王に謁見するために、一行は王宮へたどり着き、王宮の一角で馬車を降りた。するとそこは極寒の地で、事前に聞いていた気候とは大きく違った。
(どういう事よ、これくらいの服でも大丈夫だって言っていたじゃないのよ)
 アリアはクレメンスを呪った。しかし、その呪った相手本人は隣居るはずもなく、ただミゼルシアの王宮に勤める武官に案内されるままに、王宮内を歩いた。
 謁見室に入り、王が車で部屋の中を眺めていた。そこは雪の結晶をモチーフにした部屋で、男性名を使っているが、実は女性の君主だったのか、と一瞬思ってしまったが、その疑問は一瞬で破られた。かの王は、長身でまだ年は30前後。ディートリヒ王よりは若いだろうが、油断がならない王だ。短く切りそろえた金髪がまぶしく、片側しかない紫紺の瞳は神秘的だ。アリアはかの王に跪き、定例通りの謁見の挨拶をしようと思ったが、先に目の前の王に言葉を取られた。

「よく来た、アリア・スフォルツァ公爵令嬢。やはり、ディートリヒのいう事は正しい。あなたを私の経営する国立第一高等機関に正式に招待しよう」

 彼はアリアに近づくように屈み、手を差し伸べた。その手にアリアは迷った。取るべき本心なのか、取らないべきなのか。迷っているうちに、かの王――――ラシード王は再びニヤリと笑いながら、
「やっぱりその反応をするのか。ますます楽しみだな」
 と言った。やはりそれは罠だったのかと思うと背中がゾクリとしたが、
「いやーやっぱり駄目か」
 とラシード王はわきに立つ側近らしき男に対してそう言った。側近らしき男は、そりゃあ駄目ですよ、と呆れ口調で言った。アリアはその言葉に思い切って顔を上げてしまった。
「どういうことですか?」

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