転生したからって、ざまぁされなくてもいいよね?~身内との8年間、攻略対象達との3年間の駆け引き~

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「アリア、会いたかった!!」
 その人物は、玄関に入ったばかりのアリアをふんわり包んだ。突然柔らかなものに包まれたアリアは、驚きと同時に安心感をもたらしてくれた。彼女は一通り抱きしめると、アリアを離し、微笑んだ。心なしかその頬はこけているような気がした。
「ベアトリーチェ、あなたは大丈夫だったかしら」
 アリアはベアトリーチェの手を握った。彼女の手も若干ではあるが、やせ細っているような気がした。
「ええ、最初陛下と共にリーゼベルツを追い出されたって聞いた時は本当に驚いたわ。そうしたらいつの間にか私も王宮にほかの侍女と共に閉じ込められていたわ。でも、一人で閉じ込められるよりは何倍もましだったから、皆さんと仲良くなりましたの」
 ベアトリーチェは王太子の婚約者だ。宰相一派に狙われてもおかしくはない。どうやらシシィ殿下と同じように、王宮のどこかで軟禁されていたのだろう。しかし、彼女はかなり明るく振舞っていた。
「で、つい先日、殿下からあなたが帰ってくるって聞いてはいたけれど、浮かない顔されていたから、理由を聞いたらあなたの裁判が行われるって落ち込んでいらして」
 ベアトリーチェの言葉には嘘はないような気がした。どうやらクリスティアン王子も気にかけていてくれたみたいだ。それだけでもありがたい。
「そう、だったのね」
 アリアは胸がいっぱいになる思いだった。もちろん、もうすでにアリアが婚約者ではなくベアトリーチェが婚約者だ。彼女から王子を奪うつもりもないし、その権利もない。そもそも彼に恋愛感情は持ち合わせていない。アリアと彼は友人と呼ぶには程遠いが、彼から心配されるというのは、まるで友人から心配されているかのような感情を抱いたのだ。
「で、あなたはこれからどうするの?」
 どうやら、ベアトリーチェは先に表側の・・・処分内容を聞かされていたらしい。まあ、そうでもしなければ、ピンポイントでこの家を狙う事は難しいだろうが。
「そうね。国内を放浪してみるのもいいとは思うし、他国だったらより気持ちいかもね」
 アリアは思ってもいないことを口にした。今のところ今後の処分・・がどうなるかはわからない。それによっては動けないこともある。実際のところは未定だ。だが、安心させるように多少おどけて言ってみた。すると、ベアトリーチェは目を輝かせ、
「そうなの。羨ましいわ」
 と言った。まあ、アリア自身も(『相原涼音』だった時も含めて)諸国を回るという事は憧れであった。
「まあ、またゆっくり考えるわ」
 アリアは本当に考えるかどうかは怪しかったが、にっこりと笑ってそう答えた。ベアトリーチェはアリアが元気ならいい、と言ってくれ、アリアに会えたからもう帰る、と言った。どうやらそのためにわざわざ来てくれたらしい。おつきの武官は嫌そうな顔をしていない。それによってベアトリーチェの王宮の中での振る舞いがわかる。アリアは本当に良かったと思った。ベアトリーチェは去り際、
「たぶん何事もなければ再来年に私たちの結婚式は行われるから、絶対に参列してね?」
 と言った。どうやらこの数日間で王家は大きく動いたらしい。
「予定が被っていなければ、ね」
 アリアは明言を避けた。本当に国外に出ているかもしれないし、どうなっているかわからない。ベアトリーチェは少し不満そうな顔をしたが、護衛武官の手前、最小限にとどめていた。
 そうして、彼女は去って行き、アリアは自室へ直行した。もうすでに半年余り帰っていなかった自室。その懐かしさにドレスを脱ぐこともせず、ダイブしてソシエ、そのまま寝てしまった。

「お嬢様相当お疲れですのね」
 アリアが寝入った後、彼女がそのままになっていることに気づいた侍女によって、ドレスは脱がされ、きちんと布団に寝かされていた。
「ええ、そうね。父の所為であの子も迷惑をこうむってしまったから、大変だっただろうね」
 エレノアは眠る愛娘を見ながらそう言った。
「しかし、それを言うならば奥様も」
 侍女はエレノアを見上げながらそう言った。しかし、エレノアは首を横に振った。
「私は王宮で軟禁にあっていただけ。慣れない国で長く女主人として働いていたあの子には敵わないわ」
 エレノアはそう呟いた。そして、表情を切り替え、
「さあ、私の出立の準備を手伝って頂戴」
 と侍女に言って、アリアの部屋を出た。



 二日後、朝早くエレノアとジェラルドはそれぞれ別の場所へ向かっていった。エレノアは北東部にあるスフォルツァ領へ、ジェラルドは南方の修道院へ。アリアはそれぞれを見送り、自身は昨日の間にディートリヒ王に呼ばれていたため、王宮へ向かった。
 指定された場所である王の執務室には数人の男がいた。内務相クレメンス、王立騎士団長セルドア、外務相ヨハネス・ユビキニワそしてディートリヒ王本人。
「陛下、いったいどのようなご用件でしょうか」
 アリアは単刀直入に尋ねた。すると、王はクレメンスの方へ視線を送り、クレメンスがアリアに何やら数枚の書類を渡した。
「何ですか?これ」
 アリアはそれを斜め読みした。政へは携わりたくないのに、何だろうこの仕打ち、と思っていたが、実際は違った。
「留学ですか?」
 遠回しに書かれているその文書を読んで言えたのはその言葉だけ。しかも、派遣先はセリチアからはるかに北だ。いったいどうしてそんな国に留学するメリットがあるだろうかと考えてしまった。すると、王は、
「ああ。建前は一応追放となっているが、実際にはあの処分は其方に害は与えない。しかし、どうも反対派連中は騒がしくてな。だから当分の処置となってしまうが勘弁してほしい」
 と頭を下げた。ヨハネスも頭を下げるので、アリアは慌てて二人から距離をとった。残りの2人はにやにやしていた。

「構いませんよ」
 アリアは即答した。ほかの国へ行ってのびのびと出来るのならば、その方がいい。
 こうして、アリアはしばらくの間セリチアの北、ミゼルシアで過ごすことが決定した。

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