転生したからって、ざまぁされなくてもいいよね?~身内との8年間、攻略対象達との3年間の駆け引き~

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「まずは互いに無事に戻ってこられたことを祝おう」
 ディートリヒ王は侍女にそれぞれの食前酒を注がせると、アリアにそう言った。この国の食前酒は日本でのようなカクテルのような比較的アルコール度数が低いものではなく、シェリー酒のようなアルコール度数が高いものだった。食前酒が注がれたグラスを高く掲げ持ち、二人ともに『乾杯』と言った。前世のアリアは未成年の時に死んでいるので、お酒を口にしたことはなかったが、すでに成人男性であったアラン(のもとになっている男性)は酒の味を知っていたらしく、
『気の置けない人間と飲むと楽しいが、気を使わなければならない人がいる時は味わうことさえ出来ない』
 とぼやいていたのを思い出した。今まさに国王を二人きり、という状況であり、アリアにとってみれば、全く食欲もない状態である。食前酒を味わった後は、前菜、スープと順番に運ばれてきて、王もアリアも次々に食していった。二人の間には全く会話はなく、ただひたすらフォークとナイフの動かす音が響いていた。
 そして、ソルベまで食した後、王がおもむろに口を開いた。いつの間にか侍女たちは下がっていたらしい。
「して、今回の事案についてアリア姫、其方の意見を聞きたい」
 その言葉にアリアは一瞬戸惑った。どういう意味なのだろうか、たかが一介の公爵令嬢―――正確に言うならば公爵代理であり、ただの秘書官、しいては、これから裁かれる可能性のある自分に問うことなどあるのだろうか。
「何でしょうか」
 アリアは自身の戸惑いを隠さずに言った。そんな彼女の様子に王は微笑んだ。

「今回の事案の最初の元凶は儂の父が人望もないのに王位を得ようとしたとことからだ。そのために、姉であるマリア=アンネ王女を弑し・・、兄ジェラルド王子から王位継承権を奪うために冤罪を作り上げ、まんまと罠に陥れた。
 そんな、父のもとに生まれてきたのが私だ。父は生涯疑い深く、たとえ王太子といえども決して私を政に参加させないようにさせた。そんな私の治世はどうであろうか。やはり、王位を継がず叔父上に渡すべきだったのだろうか」

 王の問いに対してアリアはすぐさま答えることが出来なかった。しかし、王は決してせかすことはしなかった。やがて、十分に考えた後、
「そうでうね。一概には言えませんが、これでよかったのかもしれません」
 と言った。王はその答えに驚きを隠そうとしなかった。
「何故そう思う」
「少なくとも王宮ここに戻るまでですが、わずかながらこの王国の民を見てきました。もちろん、多少の貧富の差はあります。しかし、内陸部であるこの国はいつ他国から侵されてもおかしくない国です。しかし、それを防ぎ、なおかつ内部からの反乱を防ぐことを並大抵の力量では務まりません。それに、この王宮内では様々な事案がありましたが、それは王国民へ影響していません。おそらく、宰相一派は事案の直後にでも行政のトップの首を挿げ替えたと思いますが、それでも彼らの民への姿勢は同じです。すべての最初を知りませんが、おそらくは陛下が最初に発案されたことも多いのではありませんか」
 アリアはあの9歳の時から様々な一般教養を学んできた。しかし、今一番役に立っていると思ったのは、普通の貴族女子には学ばされない政治学や経済学の講義だ。クレメンスはこうなることを予見していたのだろうかと今でも思っている。
「それに、あの事件があったといえども、王国民が陛下を追放したのではありません。追放すると宣言したのは、一部のならず者・・・・たち、すでに王位継承権を失っているジェラルド殿下を擁しようと思った者たちです。だからこそ、王都へ入城した時、排斥運動は起こらなかったでしょう」
 アリアはそう言った。その言葉にはすでに怖れなどという可愛い感情は持ち合わせていなかった。
「もちろん、祖父ジェラルドの意志があろうともなかろうとも、今回の事案に関わっている、という黒に近い疑いはあります。ですので、今後への禍根を残さないためにもユリウスの代理人であり、陛下の側近役の秘書官である私とはいえども、手心は加えないようよろしくお願いいたします」
 アリアはそう言うと、頭を下げた。言っていることは無茶苦茶かもしれないが、彼女なりの誠意だった。国王はそうか、と言うと食事を続けるために、侍女を呼んだ。
 それからはつつがなく食事が続けられ、食後に出されたものによって、ようやく酒の味が分かったアリアだった。王はそんなアリアの姿を面白そうに見つめており、アリアの心の内を知ることが出来る人はその場には存在しなかった。食事後、王宮に泊まっていくように指示されたアリアは、王宮の国賓が止まる部屋に案内され、丁寧に侍女も二人つけられた。

 その日は旅での疲れと、王に対して自分自身の素直な感情をぶつけられたと思ったので、すぐに眠ることが出来た。やはり、短かったとはいえども、野営での疲れがたまっていたみたいで、夢も見ないほど深く眠った。




 翌日、主犯である宰相一派――――宰相、グレイヴ元内務相、ヤン元軍務相、デビト・フェティダ元公爵の裁判が行われた。公開裁判であったが、意外と王都の民は今回の騒動について気づいていなかったらしく、傍聴しているのは貴族が多かった。裁判自体は滞りなく行われ、現物証拠などもあったので、彼らの有罪は決定的だった。それでも白を切っていた彼らだったが、臨時傍聴していた『白き土蜘蛛』の頭領とスルグランの執政が聞いているとなると勝手が違う。彼らは問われてもいないのに勝手に喚きだし、互いのせいにしており、見苦しいことこの上なかった。
 彼らの処分はすぐに決まった。宰相は役職を罷免の上、蟄居。2年以内に再度同じことを行えばすぐに死罪が確定するという条件文もつけられていた。元軍務相と元内務相はすでに職は免ぜられていたので、元軍務相は爵位はく奪並びにスルグラン国に近い東方の修道院での幽閉、元内務相は元軍務相と同じく爵位はく奪の上、バルティア公爵家での預かりが決定した。そして、マクシミリアンの叔父、デビト・フェティダはすでに一度処罰を受けている。リーゼベルツの法律では、再犯を犯した者の罪はより重い。彼は再犯の上に今回も罪のない貴族たちを捕らえる、という実行役として動いている、という事で死罪が決まった。

 判決文が言い渡された後、この裁判の最高責任者でもあるディートリヒ王は、
「明日は今回の事変には直接携わっていないが、今日判決を下した罪人どもが担ぎ上げたジェラルド・スメルニコ子爵、その娘エレノア・スフォルツァ、そして罪人ジェラルドの孫であり、儂の秘書官を務めているアリア・スフォルツァの3名を裁く」
 と宣言した。その言葉に、国賓の2人は反応が正反対だった。しかし、リーゼベルツの貴族たちの間には早くも戸惑いが広まっていたのに、国王も気付いた。

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