転生したからって、ざまぁされなくてもいいよね?~身内との8年間、攻略対象達との3年間の駆け引き~

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 クレメンスと王の会話から丸二日経ち、一行は王都まであとわずかというところまで漕ぎつけていた。一行内部では、宰相一派との一戦があるとわかりきっているので、やはり緊張感が高まっている。
 アリアもその一人だった。しかも、アリアにはほかの人は何も言ってはいないものの、自分自身で分かり切っていることがあった。
(そうね、ディートリヒ王が王都へ戻る、という事は宰相一派が敗れるという事がはっきりするとともに、王位継承権の正当性・・・・・・・・・が証明されるという事。母上と私へも何らかの処罰が下される)
 今回の事変の元凶は、宰相はもちろん、その裏の人間ラスボス、ひいては王位簒奪の意思の有無にかかわらず祖父のジェラルドも関わっている。他国も関わっている以上、祖父に対しても断罪せざるを得ないだろう。そして、今後への禍根を立つためには娘である母エレノアと孫であるアリア自身も断罪の場に呼ばれることだろう。むろん、妹リリスもその血筋ではあるだろうが、もうすでにスベルニア皇国へ嫁いでいる身であるし、アリアほどの影響力も少ないだろう。せいぜい向こうの王自身に彼女自身の子供に対する継承権をはく奪してもらう、という具合の処遇しかできないであろう。また、叔母のエンマに対してもそうだ。せいぜいリリスと似たような処遇になるだろう。
 アリアは自身への断罪について何も感慨を抱かなかった。昔は『ラブデ』通りにならないことを祈っていた。しかし、今回は自身の悪行によって断罪されるのではない。他人から見ると些細な違いかもしれないが、アリアにとってみれば大きく違う。
(結局、アランからもらった誕生日カードに書かれていたことは出来なさそうだけれどね)
 内心、彼に対して申し訳ないと思いながらも、これでいいのだとも思えた。

 そんなアリアの心の中とは正反対に、どんよりとした曇り空の日、ついに地下に潜っていたディートリヒ王一行は王都に入城した。
 王宮ではここまでの大規模な変化があったものの、宰相一派は民への関心は低かったのか、城下町は平穏通り動いていて、混乱は見られなかった。王宮へ入るのも事前に騎士団の内通者側から連絡が言っていたためか、奥宮側から入ってもあまり人が慌てふためいて動くことはなかった。
 通路のど真ん中を歩く王の斜め後ろを歩いていたアリアは、わきに見覚えのある人間がいるのに気付いた。
(ミスティア王女殿下――――)
 確か王族はほとんど軟禁状態にあるのではなかったのか。それなのに、なぜか彼女だけが王族や貴族の中で一人動いている。一行とすれ違うのは、家柄が低い、もしくは宰相一派の派閥に属している下級侍女たちだ。しかも、王女は『王女』であることを隠していない。どういうことかが気になった。ミスティア王女はアリアに気づくと彼女の方に来たがってうずうずとしていたが、アリアはそれを目で制した。
(来てはだめ。殿下がいるといることはほかの殿下たちも大丈夫なのだろうか)
 アリアは一抹の不安を感じていた。王の気配は読み取ることもできなかった。しばらくすると、騎士たちがどこからともなく現れ、王族や親ディートリヒ王派の貴族たちの人質を解放したことを告げて行った。マクシミリアンもまた、その中に含まれていた。
(よかった)
 アリアは安心して、その場に崩れ落ちそうになったが、人前であるという事が理性を保たせた。
 前触れもなく一行はある部屋の前まで来て、突然の王の来訪に驚いている近衛騎士たちを、アランをはじめとする王立騎士たちが取り押さえていく。そして、一段落ついた後に、王はノックなしで扉を開けさせ、中に入っていった。アリアたちもそれに続く。部屋の中にはやせぎすの老人と紺色の髪をした初老の男だけがいた。老人の方はおそらく宰相本人だろう。
「な、何故、お前たちが―――――」
 紺色の男は、を目の前にしてもそのように言った。
「何故、とはな」
 ディートリヒ王は男の態度に鼻白みながらそう言った。
「まだ、儂は王位を奪われていないが?」
 そう言いつつ、アリアの隣にいるクレメンスに目で合図した。クレメンスは了承とばかりに懐の中に手を突っ込み、ある紙を出した。
「ええとですね、まあ、あなた方の企みはまるっとお見通しなんですよね」
 彼はにっこりしながらそう言った。だが、もちろん声はかなり冷ややかで、ただ聞いているこちら味方であっても、背筋が凍るほどだ。
「何故それが儂らだと思うのだ」
 老人の方が言う。クレメンスはにこりと笑い、
「大まかに言えば他国からの・・・協力要請ですよ」
 と言った。アリアは詳しく聞いていなかったが、クレメンスやセルドア、ディートリヒ王はおそらく何らかの取引を諸国としたのだろう。断罪される側のアリアには関係のない話だった。それを見た初老の男は、
「何が他国からの要請だ。単にお前たちの都合のいいように使っているだけじゃないか」
 と言った。アリアはじっと男の顔を見つめた。男の顔をどこかで見たことがあるような気がするのだ。クレメンスは男の言い草に構わず、
「そうですか。まあ、あなたたちと同じようなことをしただけですがね。でも、あなたたちの言い分はじっくりと聞かせてもらいますが、少なくとも一晩はじっとしていてくださいね?」
 と先ほどまでとは反対に、冷ややかに言い、騎士たちに合図し、彼らは初老の男と老人を拘束していった。
「自害しないようにしっかりと見ていなさいね」
 騎士たちにそういうと、セルドアはそういうと、今度は彼が王に目で合図した。王は二人を一瞥し、この部屋から去って行く。アリアもクレメンスもそれに続く。

 そのあとも、王宮を隈なく見て行き、王の帰還を知らせると同時に、主たる人物の捕縛を行った。
 その日行った捕縛は、宰相とその最側近であった元内務相、元軍務相、そしてアリアたちが宰相と同じ部屋で見た初老の男―――マクシミリアンの叔父であり、以前に公爵位を追われたデビト・フェティダ、彼らに追随していた近衛騎士20名と王立騎士団長をはじめとする王立騎士15名。あとは公爵1名、侯爵4名を含む爵位持ち39名が次々と捕縛されていった。彼らの話を聞いている限り、祖父のジェラルドにも捕縛のための騎士が向かっていることだろうとアリアには推察された。もちろん、彼らへの断罪も大事だが、自分も覚悟を決めなければならない、とアリアは思った。
 一方、解放されたのは、王妃、王太子とその弟ダリウス王子、エレノア。そして、親ディートリヒ派として捕縛されたユリウスやアランの父親、マクシミリアンをはじめとする公爵などの貴族たち。そのほとんどが解放された。

 そうして王宮へ戻った日は、王自身に話しかける隙もないほど忙しくしており、母親や弟への見舞いもこの混乱の中では行くことが出来なかった。
 激動の一日が終わるころ、アリアはディートリヒ王に呼ばれた。夕食をともに、という事だったので、奥宮に勤める侍女たちを借りて、旅の疲れを落としてもらい、きちんと着飾った。

「待って居ったぞ」
 指定された部屋に入ると、すでにディートリヒ王がいた。アリアは覚悟を決め、示された席へ向かった。

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