転生したからって、ざまぁされなくてもいいよね?~身内との8年間、攻略対象達との3年間の駆け引き~

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 宰相一派が王宮において事変を起こしたから半年以上が過ぎ、本来であればもうすぐ狩りの大会が行われる頃となった。
 相変わらず懸賞首の筆頭であるディートリヒ国王は、リーゼベルツ国内に踏み入ることはできず、ブロサリスにとどまっており、もともと調停のためについてきた秘書官三人と内務相、後から合流したアランを含む王立騎士の一部は彼に従っていた。

「どうなるのでしょうか」
 アリアは窓の外を見ながらつぶやいた。部屋の中にはディートリヒ王と彼に付き従うものがそろっていた。

 ディートリヒ国王とは反対に、『保護』するように御触れが出ているアリアはため息をついた。いくらアランやクレメンス、セルドアとディートリヒ国王を倒す準備をしているからと言って、今回の事変には全く大義などない。むしろ、先代の国王はあくまでも他に王位継承者がいなくなったので、王位を継いだだけであって、王位簒奪者ではない。しかし、今回の事変を起こし、仮にアリアの祖父でもあるジェラルドを王位につけた場合、ジェラルド自身が王位簒奪者となり、宰相一派も同じ扱いを受ける。
 ちなみに、周辺諸国はリーゼベルツでの事変についてはすでにそれぞれの国から声明を出しており、『セリチア・グロサリア間の戦役を調停したディートリヒ王が正当な王権者である』とのお墨付きをくれた。なので、基本的にはその声明を出した国にクーデタが起こらない限りは、今の立場は安定していると言ってもいい。
 また、彼らが声明を出してくれたおかげで、リーゼベルツ内ではむやみに宰相一派が新王を立てることもできず、現王ディートリヒ対宰相ヴァーノンという図になっている。そのため、後足りていないものは、頭数だけであった。


「そうだな。僕たちはリーゼベルツに踏み込めばあの宰相殿に捕まるでしょう。そして、陛下の弱みとして利用されるのが目に見えています。むろん、アリア姫、あなたもです」
 クレメンスはかなりやつれていた。彼はこの城の中では国王の次に最高責任者として外交関係の情報収集も行っていたのだ。
「そうですね。もちろん、母や弟が気になるのはわかりますが、今ここで私が動けば、声明を出した他国への影響は計り知れません。なので、私たちは誰一人として、動くことはできませんね」
 アリアは自分の置かれた立場血筋が一番この中では厄介だという事に気づいていた。そして、ある事をポールに尋ねるのにもいい機会だという事にも気づいていた。
「そういえば、マッキントン子爵」
 アリアは外を眺めていた窓辺を離れて、ポールに問いかけた。
「なんでしょうか」
 ポールはここで自分が出てくると思わなかったのか、少し驚いていた。
「あなたに聞きたいことが二つあります。一つ目は、あなたが情報を他国へ流していましたね」
 アリアは家柄は下でも、職場の先輩にあたる彼を断罪するのは心苦しかった。しかし、いつかはしなくてならない。それに、彼の方はあくまでも実行犯だ。黒幕を仕留めるには時期尚早だ。彼女の言葉に、ポールは苦笑いした。
「何故僕だと言えるのですか?」
「あなたしか情報を持ちえないからです。もう少し正確に言うならば、あなたと宰相はグルであり、そして、もう一人の人物に接触できる人間が限られてくるからです」
 アリアがそう、きっぱり言うと、ポールは顔色を変えた。心当たりがあったらしい。国王をはじめこの部屋にいる人間は、驚く顔の者、無表情の者、剣に手をかけるものなど、様々いたが、アリアはそれに気を捕らわれることはなかった。

「あなたは南方にいたコクーン騎士団長・・・・に親書を持っていった際に、わざと他国の間諜、正確に言うとスルグランと『白き土蜘蛛』に気づかれるように行動した。リーゼベルツ一の騎士団長が動くとなれば、接している国は当然危機感を覚えますからね。それを利用して、離れている二つの組織を結び付け、リーゼベルツを出遅らせようとした」
 アリアはポールの瞳をしっかりと見た。彼の紺色の瞳がかすかに揺らいだ。


「協定自体はすぐに結ばれて、あなたの思惑自体は成功した。しかし、宰相とそのさらに裏にいる人物は狡猾だったとしか言えませんよね――――

―――――だって、私、アリア・スフォルツァ公爵令嬢を保護する、と言いながらこのように国外に追い出し、国へ戻れないような環境を作っているんですもの」


 アリアは気づいていた。ジェラルド派である宰相は、本当はアリアのことなど気にしていない。もっともいうのならその背後にいる人物が、というところだが。しかし、その背後にいる人物を捕らえることが出来るだけの証拠がないうえ、もし宰相だけを捕らえるのならば、金輪際ジェラルド派、というものが現れないようにジェラルドの娘や孫・・・全て・・絶やさねばならない。それは当然、自分自身も含むのだ。なので、現段階で他国(特にセリチア王族)の調停の場における状況を考えると、彼らの捕縛はかなり難しいと思われる。
「でも、今は宰相や背後のお方はフェティダ公爵と違って捕縛することは難しいです。なので、私も今ここであなたのことを言ったのは、単純に陛下のご指示を仰ぐためだけであり、裁判にかけるつもりは全くないということを示したかったのです」
 アリアはにっこりした。ポールはそんな顔の彼女を見て、
「そうでしたか―――」
 と呟いた。

 しばらく、部屋の中には沈黙が落ちたが、やがて、
「マッキントン子爵」
 とディートリヒ王の呼ぶ声が聞こえた。ポールは姿勢を正した。
「そなたの爵位ははく奪。領地についても返還せよ」
 彼の声はつかれている雰囲気をにじませていたものの、はっきりと言った。ポールはうなだれることもなく、ただ御意と答えた。
「しかし――――」
 彼は続けた。
「―――今回の事変。マッキントンの働きによって収束させることが出来れば、考え直してやらなくもない」
 その言葉にさすがのポールも絶句していた。やや間があって、
「承知仕りました」
 と、再び彼は頭を下げた。

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