転生したからって、ざまぁされなくてもいいよね?~身内との8年間、攻略対象達との3年間の駆け引き~

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 一曲目の中盤、同僚と話していたアリアのもとを訪ねてきたのは、セリチア国のクロード王子だった。
「これは、クロード王子殿下。事前に一筆頂ければ、ご挨拶申しましたのに」
 アリアは彼が何か言おうとしていたのを視線で制し、先に挨拶した。そう言うと、彼は少し寂しそうな雰囲気を出した。アリアはその寂しそうな顔をさせてしまうことをあらかじめ予想は立てていたので、
「というのは少し言い過ぎました。申し訳ありません」
 とすぐに謝ることが出来た。すると、クロード王子は、
「いいえ、確かにアリア姫の言う通りですね」
 と言った。普段、個人的な付き合いで話す時は、『君』という呼び方をするのだが、流石に公の場であるので、個人的には会っているという事を、あえて伏せておいた。彼はアリアが落ち着いて返したことから、確信犯だったことを悟り、少し苦笑いしていた。
「そういえば、ご用件は?」
 一応来賓であるクロード王子は、決まったエスコートなどは必要としておらず、以前と同じように護衛の王立騎士と共に夜会に参加しており、女性たちから踊ってほしいという視線を受けながらも、事前には誰とも踊る約束していなかった。以前の夜会では数人の女性と踊ったらしいが、全てセリチア国の王子と結婚しても全く無害な女性たちばっかりだったらしいので、さほど問題にはなっていなかったという事を思い出した。その彼が公爵令嬢であるアリアの元へ訪れ、声をかけたとなると、人々の注目は当然向く。何をしているんだと、言う意味の問いかけを含めて、彼に柔らかく尋ねた。
「それはもちろん、あなたを誘いに来たのですよ」
 クロード王子はいたずらが成功した時の少年のような表情をしながらそう言った。一方、その言葉を聞いたアリアは本気で頭を抱えたくなった。
「―――お断りいたします」
 一瞬どう答えるべきか迷った。もちろん、個人的な感情では全くもって踊りたくない。しかし、一応、来賓として来ているクロード王子を断るというのは外聞的にマズい。どうしようかと思ったが、結局、断る方を選択した。
「それはどうしてですか?」
 彼は一瞬その答えに驚いたみたいだったが、すぐに平静さを取り戻していた。ちなみに、アリアの答えにギャラリー当事者以外が少しざわめいたのをアリアは聞き逃さなかった。
「そうですね。私と踊ればまず私の方に、ほかの令嬢たちからやっかみが来るのは必然でしょう。それに、殿下のセリチア国内でのお立場、というものがあります」
 アリアはそこで言葉を区切った。前半の理由には反論したそうだったが、後半の理由にはさすがに怪訝な顔をした。
「どういうことだ?」
 クロード王子は小声になり、そう尋ねた。
「この夜会にはセリチアの関係者はあなただけではありません。それに、他の国からの来賓の方々も見えます。このことがどういう状況を引き起こしかねないか、殿下はお分かりいただけると思います」
 アリアもクロード王子と共に小声になったが、クロード王子からしてみれば、かなり力強く聞こえた。彼は少し考えた後に、
「そうか、残念だな」
 と言った。その時、彼は心から残念そうな顔をしていた。そして、では、またなと言い、去って行った。アリアがため息をつくと、
「というか、姫さんってあの王子サマの事嫌いだよね」
 と、とんでもないことを言ってきた男がいた。クロード王子がやってくるのも想定外だったものの、についてはもっと想定外の出来事で驚きを通り越して、呆れていた。
「あなたはどこでもそうやって気配消してやってくるのね」
 彼は特徴的な髪色を持ち、今のように気配を常に消して行動することから、今では『沈黙の灰色悪魔』と各部署から言われている人物だった。今度はその彼がいったい何の用なのだろうか。
「そんなことはありませんよ。俺はいつでも気配を隠さないようにしているのですが、どうやらそれを皆さんに分かってもらえなくて残念ですよ」
 そういう彼は全く残念そうではなく、アリアの方がため息をつきたくなった。
「で、あなたの用件は?」
 アリアはため息をつく代わりに、先ほどクロード王子に言った言葉と同じ意味のフレーズを投げつけた。ウィリアムはクククッと笑い、
「いやぁ、俺もアリア姫にお相手願おうと思ったんだよね」
 いくら公爵令嬢相手といえども、彼は敬語を全く使う気は無いようだった。まあ、そう意気がなければ、彼のあだ名となっている『悪魔』という単語はつかないだろう。恐らくは各部署のお偉いがたにかみついているに違いない、と思った。
「お断りよ」
 アリアは彼もまた、断った。しかし、ウィリアムは断られたというのに、そうですか、とにこやかに告げ、アリアのもとを去って行った。

 アリアは少し何かがおかしい、と思ったが、まあ自ら余計なことに巻き込まれるよりはいいか、とその気は思った。

 やがて、2曲目に移り、アリアはクレメンスと踊った。
「あなたの腕は落ちていませんね」
 クレメンスはしばらく侍女としての生活を過ごしていたアリアに、ほんの少し嫌味を込めてそう言った。
「全くですわね」
 アリアはその嫌味に気づき、にこやかに返した。
「しかし、今回のドレスのセンスはまた、斬新ですね」
「ええ、そうみたいね」
 今までは針子や仕立て屋の意見がほとんどだったが、今回は自分の意見を通して見せたのだった。この世界ではプリンセスタイプやA-ラインタイプのドレスが多く、最初に図案を見せた時から難色を示されたが、無性に今回の夜会は前世からのあこがれでもあったホルターネックタイプのマーメイドドレスにしたかったのだ。案の定、薄紅色のそれはほかの参加者からかなり浮いたものになってしまったが、アリアとしては自分自身の立場と共に、注目されても問題ないと思っていたので、大して気にしなかったのだ。だが、ドレスに向けられる視線は好意的なものが多く、始まる前からどこで手に入れたのか、などと多くの人に購入した店を聞かれた。
 そういった話などを言うと、クレメンスは少し苦笑いしていたが、
「あなたらしいですね」
 と言った。

 そして、しばらく彼と踊っていると、曲が変わり、相手も変わった。2番目の相手であるクリスティアンとは11歳の時以来のダンスだが、互いに意気はぴったりだった。
「お前を嫁に取る男はお前ほどの伝説・・を作らないとまずいだろうな」
 彼はアリアを誉めているのかけなしているのか、分からないことを言った。

 最後にアランと踊った。彼は今年が正式なデビュタントで、バルティア家の跡取り息子という事で、かなりの人気者であった。しかし、何故か本人はいたってアリアのみに執着しており、他の令嬢のことを見ていなく、彼の両親はアリアのことをにらんでいるような気がしてならなかった。

 こうして、14歳の王宮夜会は何事もなく無事に終わり、その年が始まった。
 ちなみに、後日同僚から聞いたところによると、彼の両親はアリア年上の女よりもほかの令嬢年下の令嬢に顔を向けさせようとしていたらしく、ひたすら女性を紹介していたらしい。

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