転生したからって、ざまぁされなくてもいいよね?~身内との8年間、攻略対象達との3年間の駆け引き~

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 国王付きの侍女になってから一か月経った。侍女の時とは異なり、書類仕事も一日の中で結構な割合を占めるが、国王の名代として外出することも多くなったため、今までのようなドレスではなく、仕事着として普段は白いブラウスに黒の共布で作られたベストとパンツを着用するようになった。しかし、国王夫妻と共に行う謁見の儀式や各大臣との会談などは、無駄に警戒心を持たれないようにと、侍女・・として側に控えていた。

 そんな侍女仕事以上に気を張る現在の職場に移ったアリアだが、あるささやかな楽しみがあった。それは、侍女の時と違い、きちんとした休日が取れることだった。侍女の場合、一か月に数日不定期に取れるが、事前に申請しなければならず、さらに上級侍女の場合は急な召集があるため、外出先の制限もかかる上に基本的には日帰りでしか休暇は取れない。その点、『私設の秘書』という立場のアリアは文官に準じて休日が定まっており、8日中2日連続の休日という制度がある。さらに、上司(アリアの場合は秘書長)によって既に割り振られているので、同職内で身内の急な冠婚葬祭や王国の火急の事案がない限り、休日が変更になることはなく、旅行などにも行きやすいのだ。
 そして、ある休日―――――

「久しぶりだね」
 柔らかな微笑みで出迎えたのは、フェティダ公爵マクシミリアンだった。普段は王都内で過ごすアリアだったが、その週の休みは珍しく遠出することにしたのだった。
「ええ、久しぶり」
 マクシミリアンとは自身の誕生パーティー以来だったので、少し懐かしいような懐かしくないような気分だったが、彼の方はアリアに会えて嬉しそうだったので、それだけでアリアは十分だった。
 アリアがフェティダ家に到着したのが昼前だったので、二人はともに昼食をとるために、食堂へ移った。
「もうこの季節なのね」
 テーブルに飾られた白や紫の小花に目を奪われた。以前、王宮で育てようとしたことがあったが、高温多湿の環境下だったため、枯らしてしまったのだ。
「ええ、そうなんですよ」
 マクシミリアンはその緑色の目を細めながら言った。どうやら彼自ら世話をしているらしい。アリアはマクシミリアンにエスコートされ、テーブルにつき、自ら料理を持ってきた。見た目からして、今までとは違った物みたいでかなり臭いが独特であった。
「今回は、前に見えた時に出しませんでした山羊乳で作られたチーズ、同じ山羊の肉を使ったグラタンを作ってみました」
 マクシミリアンにその料理に使われているものを言われて納得した。確かに、前回来た時に、臭いが独特であると聞いていた。前世では食べたことのないものに、ドキドキしつつ食べたが、臭いなどの奇抜さは気にならなかった。ただ、少し食感は砂のような感じであり、その部分だけが苦手と感じた。これは万人受けするものではない。
「どうでしょうか」
 マクシミリアンは少し申し訳なさそうにしていた。さすがの彼も、アリアにとって口に合わないだろうと思ったらしい。しかし、アリアは首を横に振った。
「味はいいと思います。しかし、少し食感は苦手とする方が多いかもしれませんね」
 と忌憚ない意見を言った。マクシミリアンは少し悔しそうに、
「そうでしたか」
 と言った。アリアはその様子に少し、率直に言い過ぎたのかと慌てたが、
「また、研究し甲斐があります」
 とマクシミリアンが気を取り直して言ったので、ほっとした。

 それから二人は公爵領を見て回り、夜はまた彼お得意の手料理を振舞ってくれた。手料理のメニューは赤大根で牛肉を煮込んだスープ、牛の脂身の塩漬け、赤かぶと一緒に煮込んだ豚肉、牛乳と山羊乳で作ったチーズを使ったレアチーズケーキで、アリアが王都に一番持って帰りたいなと思ったのは、牛の脂身の塩漬けだった。夜会などで酒のおともに提供されるのにはちょうど良い一品だと思ったのだ。しかし、彼はその案に賛同したものの、自分の好みで作っているものであり、他の人は作っていないので夜会が開かれるごとには作れないと断られた。
 結局、今回の訪問で収穫は少なかったものの、また新たな料理を知ることが出来、ぜひまたここに来たら食べさせてほしいとマクシミリアンに言ったら、快諾してくれた。

 そして。
 翌日出立する前、アリアが馬車に乗り込む寸前に彼女をマクシミリアンは呼び止めた。
「何でしょうか」
 アリアは少し焦っているマクシミリアンに首を傾げた。彼はアリアを呼び止めたものの、少し言うのをためらった。しかし、
「もしよければこれを受け取ってもらえませんか?」
 と言い、手にした細長い箱を差し出した。その箱はリーゼベルツで見るような布張りの箱ではなく、木がむき出しの箱であった。アリアは、
(まるで桐箱のようだな)
 と思いつつ、それを受け取り、中を開けてみると、そこには一の髪飾りが入っていた。
(これってまさか)
 とアリアが思っていると、マクシミリアンがようやく口を開いた。
「これもまた、交易で得られたものです。もしよければ、つけてもらえませんでしょうか」
 といい、帰りの道中で見ていただければ結構です、と言って彼女を強引に送り出した。

 馬車の中で、アリアはそれに見惚れていた。それ・・は、先端部にきれいな青色のガラスがついていた。そしてそのガラスの中には白い霧のように模様がついていたのだった。彼女はそれを再び木の箱にしまうと、大切に胸に抱えて、王都までの道のりを過ごした。


(ようやく14歳になる。あと一年。あと一年して、私がまだ生きていられるようならば、これ簪をつけよう)


 アリアはこの数年の間に大切な仲間を得た。その仲間のためにも、そして、自分自身のためにもあと一年は何とか生きる。そして、誰かのためでもいい、自分も笑って生きて生きることが出来る。それだけでもいい。



(さあ、運命に反撃開始よ―――――)

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