転生したからって、ざまぁされなくてもいいよね?~身内との8年間、攻略対象達との3年間の駆け引き~

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「しかし、君がのスフォルツァ公爵令嬢ですか」
 フィリップ王子は品定めするように彼女を見た。その視線にアリアは少し苛立ちを覚えた。
「どのような噂でしょうか」
 まあ、それなりに心当たりはあったものの、他国の人間から言われる筋合いはない、と思った。しかし、ここは公の場だ。いくら個人的につながりのあるセリチアの人間の身内であろうとも、控えなければならない。内心では舌打ちしながらも丁寧に、しかもにこやかに尋ねた。
「君が頑張っているという噂だよ」
 フィリップ王子は笑みを浮かべずにそう言った。アリアはその答えを聞いて、内心首をかしげた。確かに大人顔負けの体張った体験事件に巻き込まれている。しかし、それはほとんどが事実を隠蔽されているはずだ。どこから聞いたのだろうか。アリアのその疑問は、フィリップ王子の次の言葉によって、謎が解けた。
「うちの愚弟が以前この国に来た時は、大変世話になったようだ」
 なるほど、身内召還した異母弟から話を聞きましたか、と冷めた目で見た。確か一度は大使としてこの国に来たクロード王子が召還された理由、そして、ミスティア王女の嫁入り未遂事件はこの人の命令でもあったな、と今更ながら思い出した。しかし、フィリップ王太子の口から聞こえた口調には礼を言う、という感情だけでなく余計なことをやってくれたな、という感情が込められている気がした。しかし、それは一瞬のことで、さらに表情には出ていなかったので、注していなければ気づかなかっただろう。
「いえ、とんでもありません」
 アリアは何を言っているんですか、という感じで首をかしげた。それにどうやら内心満足したらしく、そうかと言いながら、かなりどや顔でアリアの元から離れた。

 すべての招待者の国王への挨拶が終わり、狩りが始まった。ほとんどの男たちがいなくなって、王妃主催のお茶会が始まった。アリアは上級侍女といえども、公爵令嬢であるため、お茶会へ招く方ではなく、参加する方に加わってほしい、と事前に言われていたため、仕方なくではあったものの、席に着いた。当然、近くには王妃をはじめ王族と王族に準ずる女性の姿があった。
「アリアお姉さま」
 一杯目の飲み物が配られたとき、アリアの隣に座ったミスティア王女から話しかけられた。
「何でしょうか」
「先ほど、セリチア王国のお二方、と話されていましたよね」
 ミスティア王女はそのことに気づいていたみたいだった。
「ええ」
 確かに二人と話したことは、誰の目から見ても間違いではなかったので、肯定した。すると、ミスティア王女は目を輝かせて、尋ねた。
「ねえ、アリアお姉さまから見て、お二方のどちらがお好きなのですか?」
「ええ―――ってはい?」
 はっきり言って過去に婚約の話があったミスティア王女だ。二人について惚気られるのかと思いきや、アリアに聞いてきたのだ。
「私、あの国へ行ったときに、フィリップ様とお話させていただいたのですが、とても素敵な方でしたのよ。あの方を毎日見ていることが出来る人は羨ましいですわ」
 確かに、昨年のもう少し暮れに彼女は一度セリチアへ行っている。しかし、そのまま婚約を結ぶことはなかった。
「そういえば、どうして王女様はフィリップ王太子殿下と婚約されなかったのですか」
 本当は、何故ミスティア王女が婚約せずに帰ってきたのか、気になったものの、あの頃しばらくの間は妹が皇国への婚礼する準備のため、自分の中でうやむやになっていた。アリアの質問に、ミスティア王女は、
「私じゃあの方の隣に立てっこないんです」
 と寂しそうに言った。
「どうやら、フィリップ様は幼馴染の公爵令嬢とそろそろ婚約するっていう話が出ていたらしいんですが、私が行く直前にその公爵令嬢がご家族の関係で辺境の地へ行くことになってしまったらしいんです」
 ミスティア王女の話の中にきな臭い話が混じっているな、と思ってしまったアリアだった。
「容姿は私と似ているっておっしゃっていましたが、フィリップ様のお仕事の休憩中に私と話をされていても、ずっと上の空だったんですの」
 確かに目の前に大切な人と容姿が似ている人を見つけても、その人のことを想ってしまうもんな、とアリアはそう感じた。
「ですので、私はあの方の側にいることができても、あの方には見てもらえません。なので、その場でお断りしました」
 ミスティア王女は未練がない、と言ったら嘘にはなるのだろうが、次の恋を探そうとしている。アリアはよかった、と胸をなでおろした。
「私はあの方々に惹かれることはありませんね」
 アリアはミスティア王女が告白してくれたので、自らも告白することにした。
「そうなのですか?」
 ミスティア王女は目を丸くしている。確かに以前から仲の良い(と思われている)クロード王子に、気があるとでも思っていたのだろう。
「まず、私には王妃や王子殿下の妃という大それた役割は務まりません。言わせてもらうのならば、王妃になるのではなく、文官になりたいんです。その方が名前も残すことにはならないでしょうし、気が楽です。それに、セリチアはおそらく次の世代になるまでは、不穏でしょう。だから、この国リーゼベルツで一生暮らしていきたいですわ」
 『アリア』としては、もうすでに、王宮を辞して領地へ引っ込んでいたい。しかし、『スフォルツァ公爵令嬢』もしくは『スフォルツァ家当主代行』としては、そういう訳にもいかない。そのアリアの言葉に、
「そう言ってくれるのは、嬉しいわね」
 と言ったのはシシィ王妃だった。アリアは彼女に向かって、軽く会釈し、飲み物を一口飲んだ。
 その後の茶会は和やかに進み、狩りの試合も終盤に迫っていた。

 しかし、そうも行かないのが事実だ。
「大変だ、誰か来てくれ――――」
 狩場の方から、大声で叫ぶ野太い声が聞こえてきた。国王と王妃両陛下が反射的に立ち、そして、アリアもまた、立った。
「お姉さま?」
 ミスティア王女が引き留めようと思ったのか、アリアの袖を引っ張った。しかし、アリアは彼女手を放し、
「陛下」
 と国王に向けて声をかけた。国王も、彼女の声をかけた意図がわかったのか、
「頼む。先に行きなさい」
 と言い、アリアを先に行かせた。彼女は必要なものと思われるものを持ち、声のした方に向かった。




「なんで、なのよ」
 声のした方面に数分駆けてみて、アリアが見たのは、血まみれになっている二人の男性―――狩りに参加していたアランとここにはいないはずのセルドア―――の姿だった。

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