転生したからって、ざまぁされなくてもいいよね?~身内との8年間、攻略対象達との3年間の駆け引き~

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 あの後、アリアはあまり眠ることが出来ず、ぐずぐずとしていたら明け方になっていた。とは雖も、当初の予定を変更するわけにもいかず、眠い目をこすりながら朝食を摂るために食堂へ向かった。すでにユリウスもマクシミリアンも揃っていて、マクシミリアンはアリアとは違い全く眠そうな顔をしておらず、反対に眠そうなアリアを見て気まずそうに目をそむけた。アリアはそんなマクシミリアンの態度に気づいたものの、他の人がいる目の前で昨日の話を蒸し返すわけにもいかず、黙って食卓に着いた。この時、ユリウスが2人の少しぎこちない態度に、少し眉をひそめたのに2人は気づかなかった。
 朝食はやはりチーズを使ったホットサンドとフワフワのオムレツ(とれたての卵を使用したらしい)が出された。
「今日はあの工房に向かうんですよね」
 朝食を摂りつつ、マクシミリアンがそう2人に聞いた。
「はい。今日と明日の朝に伺おうと思っておりました。ちなみに、ユリウスは此方に置いていきますので、機密事項以外でしたら何なりと使ってやってください」
 紅茶を少し摂ったおかげで、少し眠気が覚めたアリアはそう答えた。ちなみに、ユリウスにはすでに屋敷に残り、マクシミリアンの仕事を見て、活かせる様に学んでおけ、と言ってある。
「そうですか。僕は此方で仕事をしますので、行くことはできないのですが、もし可能であれば、マルセラさんにお返ししなければならないものがありますので、それを持って行ってもらえませんでしょうか」
「ええ、もちろん持って行って、お渡ししますよ」
 アリアはにっこり笑った。自分の方が引き摺っているのはわかっていたため、これ以上彼に心配させないようにしたかった。

 朝食後、2人と別れてフェティダ家の護衛と共に工房へ向かったアリアは、今日はこの工房内に女性だけでなく、男性の姿も多いと気づいた。
「おや、嬢ちゃん、来てくれたんだね」
 マルセラは最初にアリアに気づき、彼女の方から声をかけてきた。
「おはようございます。今日は男性の方も多いのですね」
「ああ。隣で鶏の解体作業をするから、器具とかの準備で此方に来ているんだ」
「鶏ですか」
 アリアは遥か彼方昔に、聞いたことはあったものの、実際に体験したことはなかった。
「ああ。見たことは――あるわけないか」
 マルセラは、アリアの様子と来ている物をざっと見まわし、そう呟いた。
「もし嬢ちゃんさえ良ければ、やるのは出来なくても、うちの連中がやっている姿を一度見てみるかい?」
「はい」
 マルセラの提案にアリアは一、二もなく頷いた。
「よろしくお願いします」

 鶏の解体は思っていた以上に大変そうだった。
 初めに逆さに吊るした鶏の首元を切り、血抜きをする。その後、屠体を湯で温め、羽を抜く。人力で鶏が入ったかごを回しているのに非常に体力が必要そうだった。羽を抜いた後、内部まで水で洗浄していた。

「大丈夫かい」
 先ほどから一言もしゃべらなかったアリアに心配したマルセラは、白い牛乳を薄めたような飲み物を持ってきた。
「やはりお嬢ちゃんには、刺激の強い仕事だったかな。少し外に行ってこれを飲んで来たらどうだい」
 マルセラはそう言ったが、アリアは首を振ってそれを見続ける、と言った。マルセラは、そうかい、わかったよ、気分が悪くなったらいつでもいいから言いなさい、と言ってくれ、彼女はチーズ工房へ戻らず、隣にいてくれた。

 その後、並べられた鶏の解体作業に入った。この時期は、新年の祭りの準備も入ってくるので、2種類の作業工程があるらしい。
 1つ目は、全ての中身・・を取り除き、中を空洞にした状態にする行程。そこに薬草やら穀類を入れ照り焼きにしたものは、祭りの時の定番らしい。もう1つは日常的に食べられるもので、さまざまな部位に分けるものらしく、この地方では、比較的大きな肉は燻製やそのまま調理に用いたり、こま切れ肉は豚や牛の肉と混ぜて腸詰にしたりするらしい。

 その工程を見ていたアリアは、室内が閉鎖空間であるため、非常に血なまぐさい臭いで気分が悪くなり、とうとう外に出てしまった。
「よく頑張ったね」
 マルセラは今にも倒れてしまいそうなほど真っ青なアリアの背中を撫でていた。
「普通、貴族のお坊ちゃんお嬢ちゃんなんかは、まず見ない光景だから見させようと思って連れてきても、『こんな光景を誰が見るか』と言って、見ようとしないんだ」
 マルセラは過去に何にかの貴族の子女がここにきていることを知っている。
「あの男衆だって楽じゃないのに作ってくれている肉を、お貴族様はどうやって作るかも知らずに食べていやがるんだ。だけど、あのマックス坊ちゃんは小さい時から何度も見に来てくれたおかげで、こちらの苦労を知っている領主様になってくださったんだ。だから、私たちは坊ちゃんにいろんな便宜を図ってやりたくなるんだよ」

「マルセラさんは、フェティダ公爵のことを知っていらっしゃったのですね――」
 アリアはマルセラの言葉から、普段は『マックス坊ちゃん』と呼んでいるが、マクシミリアンがフェティダ公爵であることを見抜いていた。
「ああ、知っていたさ。あの父親の先代やデビトとかっていう先代の弟は、まあ、貴族らしい貴族で、この領内の工房のことはあまり見ていなかったさ。しかも、最後はちゃっかり国王の愛人に手を出しているって聞いたときにゃどうかしていると思ったさ。だが、子供のマクシミリアン坊ちゃんはちっさい時からすべての工房一軒一軒回り、見て回ったらしい。だから、私ら全員マックス坊ちゃんの味方だ」
 マルセラは笑って言ったが、重みが確かにあった。アリアも公爵令嬢であり、は中小企業の社長令嬢だった。そのどちらの時代にも、家庭教師や学校で学ぶことはあっても実際に見たことはなく、今回はいい機会だと思ってみたのは正解だったと思う。やはり現場を実際に見て、それを生かすのが上に立つものの使命でもあると思った。

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