転生したからって、ざまぁされなくてもいいよね?~身内との8年間、攻略対象達との3年間の駆け引き~

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 マクシミリアンに提供してもらった食事を満喫したアリアは、客室に割り振られた部屋に戻り、就寝の準備を終え、一人、ここ最近ご無沙汰になっていたノートと対面した。

『マクシミリアン・フェティダ。フェティダ公爵家の長子にて、スフォルツァ家と同じ名門であるが、家が没落していたため、政界からは遠ざかっていた。しかし、その血筋に目を付けた国王により、愛人フレデリカとの娘であるミスティア王女との婚約が結ばれた。しかし、ミスティア王女はあまりの幼く、母親譲りの我儘さにより、主人公との運命の出会い後、主人公に強く惹かれる』

 今現在、フェティダ家は相次ぐ当主の不祥事により確かに一歩間違えば没落していたところだった。しかし、何とか生き延びており、攻略対象であるマクシミリアンはあまり野心がないようにも思えた。また、すでにフレデリカは王宮にはおらず、また、ミスティア王女自身もまた、幼い時から彼女自身の在り方についてはかなり気にしていたので、今では品行方正な淑女に近づきつつある。なので、おそらくはマクシミリアンルートの悲劇も起こることはないだろう、と思われる。
 6つある『ラブデ』の攻略対象者のうち、今現在ベアトリーチェとおそらく接点であろうクロード王子、アラン、マクシミリアンについては、ある程度は必要だがほとんど心配する必要性はないだろう。また、まだ王宮に出て間もない『幼馴染』のユリウスと、ゲーム内において平民宰相になる予定のウィリアムについてはある程度は心配が必要だ。ふとした拍子で接点ができるとも限らないし、それに翻弄されるのは血縁者であるアリアたち、また、ウィリアムを推しているクレメンスだ。これ以上、厄介なことを増やさないでほしい、とアリアは思った。
 最後、ある意味『ラブデ』内においてメインヒーローである、クリスティアン王子と婚約したベアトリーチェは、この前の王妃の実家のように、横槍を入れてくる貴族が出てくる可能性も視野に入れなければならない。本来ならば、アリアが婚約者として王太子の隣にいる可能性の方が高かった。しかし、そうならなかった以上、例えば今は絶対にありえないが、アリア自身が横槍を入れる可能性もあったわけだ。また、彼女自身が横槍を入れるつもりはなくても、スフォルツァ家の誰かが嗾けてくる可能性もあることに気づいていたアリアは、なんとしてでもそれを押さえておきたかった。今思えば、あのコゼットという少女の役目は、本来の『ラブデ』乙女ゲーム内においては自分だったように思えてならなかった。
(今行っていることが無意味にならないで済みますように)
 アリアは王都の空気よりも何倍も澄んだ空気を吸いたく、バルコニーに出て、星空を眺めた。

「こんな時間にどうされたのですか」

 数分間一人静寂の中にいたが、それは隣のバルコニーにいた人物によって遮られた。
「フェティダ公爵」
 アリアは彼の屋敷にいるのだから彼がいてもおかしくはない、と思っていたが、普段王宮でも夜は侍女同士であまりおしゃべりはしないので、なんだか不思議な気分だった。
「もし、よかったら僕の部屋―――いや、食堂まで来てくれるかな」
 マクシミリアンは最初気軽に友人を誘うように言ったが、相手は女性だと思いなおして、安全・・な場所に変えた。その配慮にアリアは少し惚れたが、ある意味憧れのようなものだった。
 まだ部屋着を着ていたので、それに薄い上着を着て食堂へ向かった。すでに食堂にマクシミリアンはいた。
「お待たせしました」
 アリアは彼にそう言ったが、マクシミリアンの方は部屋に入ってきたアリアを見るなり、顔を真っ赤にさせた。
「私、何か変でしょうか」
 首をかしげながら尋ねたが、彼は質問に答えず、
「うん?ううん。なんでもないよ」
 と慌てたように、席を勧めた。その仕草にアリアは、そう、とだけ答えて、彼の好意に甘えて椅子に座った。椅子に座った後、彼は二人分のホットミルクを用意した。
「ありがとうございます」
 アリアは出されたそれを一口、口に入れた。それは、ジワリと体の中に広まっていくような甘さがあった。
「お口にあいましたでしょうか」
「ええ、美味しいです。これはどこの蜂蜜を使われているのですか」
 ホットミルクにはわずかに蜂蜜の味がした。この地方ではあまり作られていないが、王国内外に様々な蜂蜜の産地があるのを知っており、いつかアリアも訪れてみたいと思っていた。
「ウェンダル伯爵領産です」
「え、ウェンダル伯爵領といえば、あの柑橘で有名な」
「ええ」
 ウェンダル――王国の南西部に位置し、気候が温暖なことから柑橘系の果実が多く作られており、蜂蜜もまた観光資源として有名だったはずだ。しかし、ここからは少し離れた位置に存在しているため、気軽に買えるものではないはずだ。
「では公爵は、そことの交易ルートを独自でお持ちで?」
「はい。と言っても、父の代からお付き合いしていただいている方で、こちらの畜産物との引き換えなので、何とか保っているのです」
 確かにマクシミリアンの父親と叔父のおかげで、かなりフェティダ家の評判は地に堕ちので、物流についても大きく影響があったのだろう。しかし、国内でも数か所しか作られていない畜産物は、最も近いフェティダ公爵領において産出しているという資源との引き換えならば、相手方にとってみても悪くない話なのだろう。
「そうだったのですか」
 アリアはマクシミリアンには彼女を食堂に呼び、この蜂蜜を入れたホットミルクを差し出したのは、言いたいことがあるのではないかと察した。しかし、彼女から聞く訳に行かなかったので、彼女は黙っておくことにしたが、マクシミリアンも言おうか言わまいか、なかなか決めあぐねていたのが目に見て取れた。

 それから数分間、食堂内には沈黙が降りていた。
「あの」
 意を決したように、マクシミリアンはアリアの目を見た。
「何でしょう」
 アリアはそんな彼の覚悟を受け止めるかのように、彼の手を握った。握った瞬間、彼の手が震えたことに気づいたが、今は何も言わないことに決めた。

「アリアさん、僕と結婚していただけませんか」

 その言葉には、流石のアリアも驚きすぎて、一瞬口を開けたままにしてしまった。
「えっと、私が貴方と結婚してほしい、という事ですよね」
 フリーズした頭の中で、把握できた言葉をそのまま返した。すると、マクシミリアンはこくこくと頷いたので、把握できたことが間違っていなかったんだな、と思った。だが、そんな頭の中とは正反対に、
「申し訳ありませんが、結婚とか婚約とか、という話についてしていただけるのは嬉しいのですが、まだ自分としては王宮侍女として、王太子殿下の成婚を見届けなければなりません。なので、もう少し待っていただけませんでしょうか」
 アリアは一つの事情と一つの疑念からこのプロポーズに保留した。
「あと、何故私なのですか。初対面の時は私が原因ですけれど、かなり険悪でしたよね」
 そう、疑念とはそのことだ。なぜ、自分なのかアリアにはまったく理由が思い当たらなかった。しかし、マクシミリアンは、
「貴女とは話していて楽しい、と思えたからです。しかも、ちょうど公爵家同士でよい家柄だと思いませんか」
 と言った。しかし、彼は続けて、
「でも、貴女は今、とても苦労されているのを知っているからですよ。貴女の手助けをしたい、そう思うのです」
 彼はアリアの手を漸く握り返した。

「でも、貴女に嫌われたくありません。なので、いつまでも待ちますよ」

 彼のにっこりとほほ笑んだ顔が少し痛々しかった。そして、彼女はマクシミリアンに部屋まで送ってもらい、今度こそベッドに潜り込んで目を閉じたが、先ほど言われた言葉が頭から離れられなく、なかなか寝付けなかった。

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