転生したからって、ざまぁされなくてもいいよね?~身内との8年間、攻略対象達との3年間の駆け引き~

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 その後、帰りの馬車の中でマクシミリアンとアリアは少し喋ったものの、クリスティアン王子は2人を見るだけで、何も喋らなかった。

「今日はあの工房で頂いた腸詰とチーズを使った料理にしてみました」
 マクシミリアンは自ら調理台に立って、2人に料理を振舞っていた。腸詰の方は、季節の野菜と一緒に煮込んだ『ポトフ』風のスープ。それと違って、サワークリームは入っていないものの、どうやって作られたのかはわからなかったものの、ヤギのホイップバターが載せられていた。また、チーズの一部はトマトと同じ大きさに切りそろえて、カナッペになり、残りは粉末状にした後、イモ類が主体で作られたピザみたいな生地の上に載せられ、焼き上げられていた。
「美味しそうね」
 アリアは『涼音』であったころから、料理というものとの相性が良くなかったので、目の前で調理法を披露された料理というものが、どれもかなり美味しそうに見えた。
「ありがとうございます。では、2人とも、食べましょう」
 彼は取り皿を数枚ずつ各自の手元に置き、自由に取れるようにして、3人は食べ始めた。やはり、彼が食事は見た目通りに美味しく、出来ることならば自分も挑戦してみたい、とは思ったが、ダンスの時と同様で『涼音』の時のスペック料理音痴を引き継いでいるかもしれない、と思うと断念せざるを得なかった。さすがに、成人前や成人したての頃ならともかく、成人して3年目だ。屋敷に迷惑をかけるわけにいかない。
「ねえ、フェティダ公爵は結局これからどうなさるのですか」
 アリアは、そう言えば、と思って聞いた。彼は優し気な笑みを崩さず、
「そうですね。本来ならば王都に出て仕官すべきなんですが、体調のせいであまりここを出るわけにいかないんですよね」
 そう、彼はまだ『病弱』く、王宮での仕官は体力的に難しいのだった。
「それに、一応この屋敷の主は僕で、この地方の領主も僕です。だから、信頼できる部下も一応いるので、彼に任せれば僕とも連携をとることも容易ですが、ここから離れていないところに重罪人が2人ほどいるんですよね」
「重罪人――」
「ええ、重罪人です」
 きっぱりと言い切った彼には『自分の肉親』という感情はみられなかった。
「その人たちの監視を含め、出来れば、何かあったときの対応を行いたいので、ここに残ります、と殿下にはお話ししました」
 そう言い切った彼の目は凪いでいた。ゲーム内に見られたところどころ王太子でさえも見下すような話し方ではなかった。
「そう、ですの」
 アリアもまた、彼と話す時の心は凪いでいた。
「また、遊びに来ても良いかしら」
 アリアとしてはここの空気というものが気に入った上に、ヤギなどの小型の家畜ともっと触れ合ってみたかった。
「ええ、またお越しください。今の僕なら貴女を理解できます。また、こうやってチーズや腸詰を食べてほしいです」
 彼は微笑んだ。アリアが今まで出会った攻略対象の中で、一、二を争うくらい良い人なのかもしれない。


 食事が恙なく終わった後、以前もらったというチーズを使って作られた(フェティダ家の侍女製)ジェラートを食べきった3人は、さまざまなカードゲームをして遊び、日付が変わるころに寝た。
 翌朝、日が昇ると同時にアリアとクリスティアン王子はフェティダ家を立った。本来なら、マクシミリアンも見送りに来なければならないが、彼の体調を考えてクリスティアン王子が事前に断っていた。
 さすがに、行きと違って疲れ果てている2人は仲良く馬車で帰ることとなった。王子はその馬車の中でも無言で外をずっと見つめていた。
「あの」
 居た堪れなくなったアリアは王子におずおずと声をかけた。
「なんだ」
 彼はイラついているとも、それとはまた別の感情ともつかぬ声音でアリアに返した。
「あの、やはり昨日のことを怒っていらっしゃいますか」
 アリアは首をかしげながら問うた。王子はため息をつき、
「確かに、お前には怒っている。だが、言いたいことは全部フェティダが言ってくれたから、俺からは言う事はない。だが、何故、あのような態度をとった。お前は賢い・・賢くない・・・・俺の隣に立ってもらいたくないほどにな」
 王子の言葉は嫌味なようにも聞こえたが、アリアにはそれは違う、と分かった。彼はもともと自己評価が低いのだ。あの女のせいで、父親と将来重要な役割を担うはずの国政からは遠ざけられ、自分の好みではない女と結婚させられそうになるくらいネガティブな感情の生じる元はあった。
「だが、お前は賢いから、あんな態度をとる理由があるはずだ。言わなくても結構だ。俺にはお前がなすこと全てに意味があるのだと、断言できる。だが、俺が言葉をまとめている間に、フェティダが言葉を掻っ攫っていきやがって、そして俺の立ち位置まで掻っ攫われたのが許せなかっただけだ。そして、その状況を作った自分自身にも、な」
 クリスティアン王子は彼自身の頭を掻きむしった。
「なあ」
 彼は救いを求めるような目でアリアを見つめた。
「何ですか」

「俺は、いろいろ言いつつも、この子供・・だけの視察は楽しかったが、お前はどうなんだ。何か役に立てたか」
 彼は少し、げんなりして聞いた。

「ええ、楽しかったですよ」
 アリアは満面の笑みを浮かべた。

 その後、2人は王都まで仲良くしゃべり倒したものの、流石に二人とも精魂尽き果てていたのか、来た時と同じように宿ではすぐに眠りに落ちた。

 斯くして、王太子と接待部侍女によるフェティダ領視察は終了し、戻ってきたアリアによって、王宮の食事でも時々フェティダ領の特産物である腸詰とチーズが、取り入れられるようになった。

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