転生したからって、ざまぁされなくてもいいよね?~身内との8年間、攻略対象達との3年間の駆け引き~

9

9
 翌朝の話し合いの場にアリアは同席しなかった。
 アリア自身もあの後、少しやりすぎたかと思った上に、当然マクシミリアンやクリスティアン王子からはよく思われていないだろうと思い、自発的に同席を辞退したのだった。それについて、クリスティアン王子は素っ気なく返しただけであったが、マクシミリアンからは何故か、残念がるような雰囲気を出されていたのを、アリアは感じ取った。

 二人が話し合いをしている間、アリアは近くの牧場を一人散策していた。本来ならば、護衛の物を連れていないとまずい身分であるため、衛兵たちから追い縋られたが、彼女はそれを振り切って出てきた。
 周囲にはたくさんの家畜が暮らしており、牛みたいな大型の家畜から、ヤギや羊などの小型の家畜がそこでは育てられていた。
「お嬢さんは、貴族なのか」
 ある一軒の農家の家畜を見ていた時に、一人の青年から声をかけられた。その青年はこの近くの住民だと感じられた。
「だったらどうしたいの?」
 アリアはその青年に少し意地悪なように尋ね返した。
「綺麗だろ」
「え、ええ、そうね」
 彼女はその青年がアリアの返した問いに答えなかったが、不思議と怒りは沸いてこなかった。彼女の一瞬の戸惑いにも彼は気にすることなく、
「もしあんたが良ければ、チーズを作ってみるか」
 と続けた。アリアはその提案に二つ返事で飛びついた。
「ええ、そうしてみようかしら」

 彼に連れられて、近くの民家にやってきた。どうやら、そこは集団で作業する場所で、王宮の侍女にも負けないくらいの数の婦人方が火にくべた釜の中身と格闘していたり、たくさんの野菜の処理を行っていたりしていた。
「レウニス」
 一人の若い女性がアリアと共に来た青年を認めた瞬間、数人の女性がアリアの方を見た。
「すまない。このお嬢にチーズの作り方を教えてやってくれ」
 青年――レウニスは最初に声をかけてきた女性に、そう頼んだ。女性は腰に手を当て、アリアの方を見つつ少し考えたが、
「いいよ、教えてやるさ」
 と言って、アリアを引っ張って、その厨房らしきところではなく、別の建物の方へ向かった。
「あ、あの。どちらに向かうのですか」
 アリアは彼女の思いがけない行動に、慌てた声を出した。
「大丈夫さ、何にも悪いことはしない。ただ、あんたの服はちっと作業するには向いてないんでね」
 女性は迷わずある部屋に入ると、奥から簡素な服を何着か出してきて、何回か彼女を着せ替え人形にした。
「まあ、これでいいか」
 今のアリアの恰好は、王宮侍女として勤めているときでも着ないかなり簡素な服だった。しかし、
「動きやすい――」
 そう動きやすかったのだ。
「そりゃそうさ。ここではだれもが働けなきゃ意味ないんだ。だから、当然みんな動きやすい衣服になるさ」
 女性はそう言いつつも、彼女に対して目を細めた。
「しっかし、レウニスも上品な嬢さん連れてきたもんだ。奴の嫁にもらいたいよ」
 彼女が独り言として呟いた声はアリアに届く前に掻き消えた。
 その後、チーズ作りは順調に終わり、おいしそうなチーズが仕上がった。
「ちょうどいいところに肉の腸詰があるから、それと一緒に燻製にしよう」
 女性――マルセラは先ほど仕上げたチーズをちょうど仕上がった腸詰と共に燻煙窯につるした。燻煙している間にマルセラと様々な話をした。ここでの生活の話、数年前に起こった飢饉の話、そして、王都への行商の話。
「王都に売りに来ているのね」
「ああ。年に一回、王都の夏祭りの時に稼ぎに行くんだ」
 夏祭りとは、王都での市民の行事の一つである。貴族がお忍びで参加することもあるが、アリアは参加したことはなかった。
「そうなのですね。機会があればそこでも食べてみたいです」
 本当にその機会があるかわからなかったが、実際にそこで食べてみたい気がした。その言葉に、マルセラは笑い、ぜひ来てくれよ、と言ってくれた。
 その後の二人は話していたが、小一時間経ったところで、新たな来客があった、

「迎えに来た」
「お怪我はありませんか」
 不機嫌な様子のクリスティアンと、かなり焦っている様子のマクシミリアンの二人だった。

「転生したからって、ざまぁされなくてもいいよね?~身内との8年間、攻略対象達との3年間の駆け引き~」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く