転生したからって、ざまぁされなくてもいいよね?~身内との8年間、攻略対象達との3年間の駆け引き~

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「いや、それおかしいですよね」
 その部屋の主から事の詳細を聞いたアリアは、思わず返していた。ちなみに、今現在この部屋にいるのはアリアとその部屋の主、クリスティアン王子の三人だった。アリアはある日の午後突然、国王に呼び出されたのだ。
「確かに其方に頼むのはお門違いだと思うが、すまない」
「では、お断りいたします」
 アリアはこれ以上面倒ごとに巻き込まれるのがいやであった上に、今までの面倒ごとのすべての元凶・・がこの部屋の主であると思うと、臍をかみたくなる。理由は如何にせよこんな面倒ごとに巻き込みやがって、と心の中では盛大に罵っていた。それを知っていれば、絶対に自分は動かなかった。かなりこの国王の掌の上で転がされていることに自分自身を後悔していた。
「スフォルツァ公爵令嬢、ここは私からも頼む」
 普段は『お前』とか『アリア』としか呼ばない王太子も、今は改まってそう言った言い方をした。まあ、確かに人に物事を頼むためにそうするのが一番なんだが、とアリアは思ったが、これとそれとは話が違う。しかし、アリアもいつまでも断り続けるというのは貴族の端くれとして外聞が悪いだけでなく、一応この国の未来・・・・・・もかかっているんだよなって思ってはいたので、譲歩案を引き出すことを決めた。
「まあ、そうですね。これ以上、王太子殿下まで頭に下げていただく訳にも行きませんし、お話しいただいた件については了承いたします」
 『了承いたします』と言ったときには、国王、王太子二人とも目を輝かせて喜んでいるのが手に取るように分かったのだが、
「しかし、それ・・をするにあたって、国王陛下にお願いしたいことがあります。クリスティアン王太子の正式な婚約の発表と彼女の身辺の警備の強化をお願いします」
 と、続けて言われた『お願い』に対して、すっと笑顔を固まらせたことについては、見なかったことにした。
「何故この時期なのだ」
 国王がより早くその疑問に気付いた。
「理由は単純です。一応、あの女からはほとんどすべて奪い取りましたが、未だに影響力を持っていることは確かです。それに、もちろん何事も無ければ良いに越したことはありませんが、しかし、奥宮で内密に対処できるであろう私がいないときに、万が一何かがあった場合、王家の力を使いやすいかと」
「お前はそれでいいのか」
 アリアが国王の問いにそう答えると、クリスティアン王子はアリアに近づき、彼女の肩をつかんだ。
「どういう意味ですか」
「もし、今の状態だったらお前は俺の婚約者候補筆頭として存在し続けられる。しかし、もし、俺がベアトリーチェ嬢と婚約発表をしてしまったら、スフォルツァ家に取り入る貴族はいなくなるんだぞ。だったら――」
「だから、何なんですか」
 アリアはクリスティアン王子の言葉を遮り、彼をじっと見つめた。クリスティアン王子は、アリアに見つめられて、言葉に詰まっていた。
(まったく、最初に出会ったときからそうなんだから)
 アリアはある意味で人が良い彼のことが本気で心配になった。どうやら、彼は上目遣いに弱いみたいだ。
「はっきり言いますけれど、今とそう大して変化しないと思いますよ」
「どういう意味だ」
 アリアがはっきりと違うと、言うと、クリスティアン王子は怪訝そうな顔をした。
「王子のデビュタントからまる一年以上経っています。しかも私は『名門公爵家』の娘、というある意味で価値のある立場。それなのに、一年以上『婚約者候補筆頭』状態が続く方がおかしいのですよ。家柄に目を付けたのならばさっさと婚約してしまえばよいのですよ。しかし、それをしていなかったというならば、どちらかに瑕疵があるという事です。しかし、当然王家に瑕疵があるとは言えませんよね」
「ああ、確かに。昔ほどではないが、一応不敬罪というものが名残で残っているくらいには拙いだろうな。王家には誰も其方らの婚約について何も言ってこなかった」
 国王もそれには気づいていたようだ。
「陛下、補足ありがとうございます。まあ、もしかしたらデビュタントの時に横に立っていただけで『婚約者』として見做されていたかもしれませんが、おそらくその確率は低いでしょう。それを考えると、起こり得る事態は一つ。我が家の悪口をいうことですよ。実際、何件か嫌味な手紙が届いたって、母が言っておりましたし、お茶会でも平気で口にする輩がいたみたいですよ」
 その言葉に、国王と王太子の親子は黙って口をつぐんだ。
「まあ、強いて言うならば、あの女のおかげでスフォルツァ家もいいところ・・・・・まで落ちましたので、文句は言えませんが」
 アリアもわかっていた。この婚約が非常にデリケートな問題であるという事を。
「なので、守れる相手である王太子殿下がフェティダ領へ行くまでに、婚約を発表していただくこと、それが、私がこの視察に同行する条件とさせていただきます」
 アリアは彼らの答えを待たずに、一礼をして部屋を出た。

「ねえ、また無茶しているんじゃない」
 個人に与えられた部屋に戻ったアリアは、部屋の前でベアトリーチェに捕まってしまった。彼女はどうやら、ため息をつきながら部屋を出ていく彼女を偶然見かけたらしい。
「無茶ねえ」
 彼女はベアトリーチェを部屋に招き入れ、紅茶を2人分淹れた。
「いつも思うんだけれど、貴女って本当に12歳なの」
 ベアトリーチェは茶葉を蒸しているのを待っているアリアの眉間にできたしわを伸ばしながらそう言った。
「12歳よ」
 彼女は、もちろん自分の事情を説明する気になれなかった。しかし、勘の良いベアトリーチェは、アリアの精神年齢と実年齢が違う事になんとなく気づいていた。

「ねえ、アリア」
 アリアは紅茶を入れ終わった後、ベアトリーチェにそう呼びかけられた。
「何かしら」
 紅茶のにおいに癒されながら目を閉じていた彼女は、そう呼んだベアトリーチェの声に反応して彼女の方を見た。
「貴女は何もかもを一人でやりすぎ」
 彼女から出た言葉は、彼女の予想だにしていなかった言葉だった。
「貴女は私の家族を助けてくれた時、自分には力がないけれど、『ある程度ならできるかも』と言った」
 過去を思い出しながら、ベアトリーチェは言った。
「でも、貴女は『ある程度』ではなく『ほとんどの持てる力』を使っていた。こないだ聞いたんだけれど、貴女は本当に・・・変わったらしいわね。
 でも、それをもおくびに出さず、私たち家族、ユリウス――いいえ、スフォルツァ公爵ですわね、の親子を救った。そして、貴女が王宮に上がってからも、いろいろしでかしていたみたいね」
 彼女はそこで一区切りつけた後、アリアの背後に回り、彼女の肩を抱いた。
「でも、貴女らしいわ。私には無理だもの。しかも、こないだってそう。誰の命令だか知らないけれど、クロード王子のために使い走りさせられて。
 そして、ミスティア王女殿下はこの王宮にとどめさせて、国王の愛人だけを追放する、というある意味運だけじゃできないようなことをしているのよ。それなのに、貴女だけまだ何かするつもりなの」
 と言って、さらに強く抱いた。彼女はそれに対して何も反論は言えなかったが、でも、ベアトリーチェだけでもこの忙しさをわかってくれて嬉しかったので、
「ありがとう。でも、貴女がいるから私も無茶ができるのよ」
 と言って、微笑んでおいた。それに、ベアトリーチェはかなり困った顔をしていたが、まあ、貴女らしいわ、と言って二人で仲良くお茶を飲んで、その日はつつがなく過ぎていった。


 そして、数日後。
 ベアトリーチェの同意のもと、クリスティアン王子と彼女の婚約が国内外に示された。これにより、アリアは『正式に』婚約者候補から外れ、やっかみは受けることはなくなったが、その代り、ベアトリーチェがその役目を背負う事となり、アリアはある決心をしていたが、その決心を実行できたのはそれから数年後のこととなる。
 そして、同時にアリアの元には国王からの使者が訪れ、王太子のフェティダ領視察に接待部の侍女・・・・・・として同行するよう命じられた。

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