転生したからって、ざまぁされなくてもいいよね?~身内との8年間、攻略対象達との3年間の駆け引き~

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 クロード王子に証拠・・を見せてもらったアリアは、
(うっわ、何これ。自分の国リーゼベルツの貴族ながら馬っ鹿じゃないのよと言いたいくらい、お粗末すぎるわ)
 と思わず顔をしかめてしまった。
「お分かりいただけましたでしょうか」
 彼はあくまでもアリアに対して友好的な態度を崩そうとしない。例えば、彼と二人で馬に乗っているとか、例えば、彼に抱きかかえられてアリアの顔のすぐそばに彼の顔が近づいている、とか。
(一応、貴方この国の人間に命狙われていたんでしょうが)
 アリアは顔を真っ赤にしながら、そんなことを考えていた。隣で馬を走らせているセルドアはクロード王子が匿われていた屋敷の時から不満げだったが、今では最高潮にいら立っているのが見て取れた。
 いつまでも飄々としているクロード王子とその王子にいら立っているセルドアに挟まれながら、彼女たち一行は王宮にたどり着いた。もちろん、お忍びで出てきてしまっている以上、堂々と入るわけにもいかず、裏口の普段は侍女たちが出入りしている門から入った。

 王宮では、主な貴族や官僚たちが一堂に集められていることに気づいた。大広間にある玉座の後ろの空間は数人入れる仕組みになっており、アリアたちはそこから大広間で何を会議しているのを聞いていた。
「しかし、クロード王子は自ら出奔なされたとは考えられないのですか」
 そう言ったのはフレデリカ派の一人である高位貴族――フェティダ公爵だった。彼が犯している犯罪をなんとなく知ってはいたものの、未だに捕縛することが出来ていなかった。
「何故、貴殿はそう思うのか」
 法務官を務めているイリアーン伯爵はそうフェティダ公爵に尋ねていた。ちなみに、彼は生粋の王妃信奉家でもあるため、国王派とみなしてよいだろう。ちなみに、この国の身分制度的な問題からして下位貴族である彼が、スフォルツァ家よりは家格が劣るものの、上位貴族の一員であるフェティダ公爵に公の場であっても・・・・・・・・話すことは許されないが、それを国王がとがめていない、という事は国王にも考えがあるのだろう、とアリアは思った。
「黙れ、下級貴族の貴様ごときが公爵である俺に意見するつもりか」
 フェティダ公爵は顔を真っ赤にしてイリアーン伯爵にかみついた。案外この人はちょろかったのではないかと、アリアは今更ながら思った。
「アリア嬢、クロード殿下」
 もっとこの茶番・・を見たい気分だったが、背後からセルドアが呼んだ。
「そろそろ行きましょう」
「ええ、そうね」
 彼女はそう言ってクロード王子と共に大広間の大扉の方へ向かった。

「あんたたちはかなり仲がいいんだね」
 クロード王子はそこへ向かう途中、そう言った。
「え?」
 アリアは一瞬何のことを言われたのかわからなく、セルドアもはぁ、と答えた。
「いや、だってさ。まず、たかが一騎士団長が、普通だったら公爵令嬢であるあんたにいくら頼まれたって武術を教える、なんてことはしないでしょ。しかも、普通だったら王家や国民が一番である王立騎士団だよ。それを理解しているはずの人が一介の公爵令嬢を助ける、なってことはしないよね」
 それはアリアやセルドアにとってみれば普通であっても、確かに端から見れば『一人のわがまま令嬢のいう事を聞く騎士団長』の図だ。第三者から見た普通を彼は易ともあっさりと指摘した。
「そうですね。確かに事情を知らない人からしてみればそうかもしれません。しかし、アリア嬢に救われた身内を持つものからしてみれば、彼女に誠心誠意武術を教え、彼女が危機に陥った場合は必ず助けるというのは、僕ができる精一杯の感謝です。たとえ王族の方であろうとも、関係を知らない第三者に言われる筋合いはありません」
 その指摘に対し、セルドアはそう言い放った。それはアリアが経験してきた中で、一番心に響く『感謝』でもあった。

「では参りましょう」
 大広間に続く大扉のノブに手をかけ、セルドアは二人に声をかけた。アリア、クロード王子ともに頷き、扉がセルドアによって開け放たれ、クロード王子が先に大広間に入っていき、アリアたちも彼に続いた。

「遅くなりました。ただいま王宮に到着いたしました、リーゼベルツ国王陛下並びに諸大臣の皆様をはじめとする皆様方」
 クロード王子はやはり一国の王子であり、それを象徴するかのようにかなり威厳のある声を出していた。
「よく来たな、クロード・コレンス王子――セリチアからの使者よ」
 そこにいた全員が入ってきた三人組に目を見張る中、彼女たちは国王の前まで歩いていき、そこでひざを折った。
「大変遅くなり、国王陛下にはご迷惑をおかけしたことをお詫び申し上げます」
 国王からの出迎えの言葉に対し、クロード王子はゆっくりと頭をふって、
「いえ、僕のけがは浅いものでした上に、手当てをしてくれた医者いわく、僕の生命力が半端ないそうで。おかげで何とかここまで無事にたどり着くことが出来ました」
 と言った。その言葉に、いや、彼の登場にほとんどの貴族が安堵する中、ごく一部の貴族については冷や汗をかいていた。
「貴殿は何かに焦られているようですが、大丈夫でしょうか」
 クロード王子は彼の貴族――フェティダ公爵に近寄って行った。公爵は驚きすぎて、言葉を発することが不可能だった。
「ああ、貴方の『匂い』と同じですね」
「『匂い』だと?ユーカリの香水・・なんかつけておらんが」
「僕はユーカリの香水・・とは一言も言っていませんがなぜ、そう思われたのでしょう」
 クロード王子の一言に、フェティダ公爵はしまった、という顔をしたが、遅かった。一回り以上も離れている他国の王子余所者にしてやられた、顔に書かれていた。
「セルドアさん。例のあれを陛下にお渡しいただけますでしょうか」
「はい」
 セルドアはカフスボタンを国王に手渡した。国王はそれに匂いがついているのだと言われずともわかっていたようで、匂いを嗅ぎ、納得してから近くにいた宰相に渡し、同様に匂いをかがせた。
「なるほど。しかし、彼の奴ひとりの犯行なのか」
 国王はクロード王子に尋ねた。
「いいえ、実行犯は女でしたね。正確に言うと、僕に悪魔のささやきをしたのは女でしたよ」
 クロード王子は人畜無害そうな笑みを浮かべていたが、それは魔王降臨時の笑みと非常似ている、と誰もが思っていた。
「そうか。で、証拠は?」
「こちらに」
 セルドアは再び国王にあるものを手渡した。
「なるほど、黒曜石のイヤリングか」
 それを苦々しく見ている国王は、一拍間を置いたのち、

「フレデリカ・スフォルツァ並びにデビト・フェティダを緊急捕縛せよ。罪状は外国の賓客に対する暴行容疑だ」
 国王の言葉に大広間内は騒がしくなり、それは王宮全体に伝わっていった。
 そうして、叔母フレデリカとその参謀であったデビト・フェティダは捕縛、爵位・名誉などをすべて即時剥奪され、二人とも別々の地方の修道院に送られることになった。

 そうして一件落着した、この騒ぎ。落ち着いた後、改めてクロード王子にアリアは挨拶をしに行った。
「これからよろしくお願いいたします」
「うん、よろしく。可愛い姫さん」
 アリアの頬に口づけを落としたクロードだったが、その直後に彼は背後から何者かによって殴られ、悶絶した。
「ったく、これだからクロード王子殿下は何度言ったら分かるのですか」
 その背後にいた人物は真っ赤な燃えるような赤い髪で、騎士団の制服を着た男――5人目の攻略対象者、アラン・バルティアだった。

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