転生したからって、ざまぁされなくてもいいよね?~身内との8年間、攻略対象達との3年間の駆け引き~

20

20
 結局、セリチアの外交官というのが、クロード王子という事は現段階でアリアが把握している攻略者がさらに増えたのが厄介だ。また、ヒロインであるベアトリーチェが誰と恋をするのかはわからない。それに、(アリアが自らの破滅を危惧した結果)大幅にスフォルツァ家も正しい方向に動き出しつつある。もちろん、未だにフレデリカとそのブレーンがつかめていない以上、何が起こるかが不安だ。
 そのためには、出来るだけ攻略対象者たちとは出会わない方が無難なのだ。しかし、公爵子息の二人であるマクシミリアンとアランが出てきていないだけで、他の登場人物たちは揃う。あとは、彼女自身があらゆる事象に対し、どれだけの本能的な危機回避能力を発揮できるかだけが頼りだった。

「ねえ、アリアさん。聞いておられますの」
 国王との謁見後、接待部の面々でセリチアの新旧外交官との私的な食事会・・・・・・をどのような趣向メニューにするかで話し合っていたのだったが、アリアはまるで上の空だった。アマンダに揺さぶられて意識をこちら側に戻したアリアは、全員に見つめられていることに気づいた。
「なんだかさっきから様子が変ですのよ」
 アレグラには紅茶のお代わりを用意されてしまった。
「申し訳ありません。少し考え事をしてしまったみたいで」
「考え事ですか」
「ええ。この食事会がうまくいくのかなって」
 アリアは考えていたことをあえてごまかした。強ち間違いでもなかったが。
「大丈夫ですよ」
 侍女頭のマルゴが微笑んだ。
「この接待部だけではなく、他の方々も手伝ってくださることでもありますし、何より、貴女やアーニャさんがいるんだから、用意にぬかりはなくてよ」
 彼女はアリアの考えていることとは少し別のことを言ったが、それでも、彼女にとってみても、何とかなりそうだ、と思えてならなかった。
「そうですわね。ありがとうございます」
 アリアはまだ少し気持ちは沈んでいたものの、彼女通りの不自然にならない程度の笑みで礼を述べた。

 もちろん、接待部の職務はこれだけではない。むしろ、これはイレギュラーに入ったことであり、王宮の行事をおろそかにしていいという訳ではない。春の園遊会の次に行われるのは『狩猟会』と呼ばれる、夏に行われる狩りの会であった。この狩りはもともと軍人たちの腕を競うものであり、現在でいう騎士団の腕前を試すものであった。しかし、今では文官でも参加可能であり、一種の体育祭みたいな状態になっている。今年度のこの会の責任者には、接待部に入りたてのアリアが選ばれていたのだ。
「そういえば、思い出したのですが、今回の夏の狩りについてですが、一つ提案があるのです」
 いつも通りの調子に戻ったアリアを見て、接待部の面々――特にアーニャは胸をなでおろした。
「提案?」
「はい。今までですと、婦人方は狩りをされる方々を待つだけですが、それだと少し退屈される方も見えると思います。なので、今回は様々な市井の文化を知る、という目的もかねて先日行われた園遊会に招待したパティシエールに王城で振舞っていただいたり、他の文化人の方を招いていくつかのサロンや教室を開いたりする、というのはいかがでしょうか」
 アリアは『涼音』の時に経験した文化祭について少し思い出していた。あえて言うなら球技大会と文化祭を組み合わせたものではどうか、と思った。
「なるほど、殿方は狩りに、女性は趣味を、という事ね。それならば、貴族の場合、普段は口にすることはないものを折り紙付きの状態・・・・・・・・で食することが出来るわね」
 目が怪しく光ったのはアレグラだった。確かに彼女とアマンダはかなり甘党だったはずだ。
「そうすれば、飽きることなく時間をつぶすこともできましょう」
「いい考えね、流石はアリアさん」
 アーニャもいい考えだと言った。

 国王との謁見以降、なんとなく沈みがちだったアリアだが、接待部の面々の影響もあってか次第に心の奥に平穏を取り戻していっていき、無事に『狩猟会』も乗り切れ、秋の園遊会である『香蘭会』も無事に終了した。そして、後は年度の最後に赴任してくる予定のクロード王子と離任する現大使との顔合わせ、引継ぎなどに関わる案件だけが残された。
「クロード王子が来ない、ですか」
 その行事が差し迫ったある日、アリアたち接待部は再び国王の執務室へ呼び出された。一同が首をかしげ執務室へ訪れた際に、国王の執務室から慌てて出てきた文官に聞いたところによると、クロード王子が国境を越えた付近で音信不通になったらしい。侍女頭のマルゴは職務柄、普段からあまり表情を顔に出さない方であったものの、今はかなり動揺を隠せていなかった。アリアとアーニャ以外の侍女についても、全員が真っ青になっていた。
「スフォルツァ公爵令嬢、バルティア公爵令嬢。其方らは誰の仕業だと推測する」
 国王はアリアとアーニャに『公爵令嬢』としての意見を求めた。しかし、アーニャには少し難しい問題だったらしくて、国王の問いに首を少し横に振った。一方、アリアは、
「断定することはできませんが、可能性は三つ。セリチア王太子の手の者、国王陛下に反旗を翻すもの、そしてよく訳の分からない愛国心を持っている者。このどれかに当てはまるでしょう」
 彼女は、今は彼が攻略対象だからどう、とか言っている場合ではないという事を弁えていた。
(だって、隣国との戦争?そんなものになったら最悪だわよ)
 平和が当たり前だった『涼音』と違って、ここは弱肉強食の場所。しかし、それでも彼女にとってみれば、平和というものはとても大事だった。
「そうか」
 国王はアリアの目を深く見て、ただそう言った。

「転生したからって、ざまぁされなくてもいいよね?~身内との8年間、攻略対象達との3年間の駆け引き~」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く