転生したからって、ざまぁされなくてもいいよね?~身内との8年間、攻略対象達との3年間の駆け引き~

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「で、なんで私まで」
 スフォルツァ家の居間でそう言ったのは、金髪の令嬢ベアトリーチェだ。彼女は誰が見てもぐったりしている、という表現をしてしまうくらい、疲れ果てていた。なぜなら、つい先ほどまで彼女は、王宮から使わされた侍女たちによって服の採寸をされていたのだ。
「それはリーチェが王宮侍女になったから」
「そういう事じゃない」
 ベアトリーチェはそれの元凶がアリアであることを見抜き、エレノアではなくアリアに不満を言った。
「分かっているわよ」
 アリアははぐらかしたことをすぐに認めた。
「貴女だけに言うけれど、あの王太子殿下、貴女に一目惚れしたみたいだわよ」
 アリアは笑わずにそう言った。案の定、
「いや、それおかしいでしょ。私、殿下に挨拶さえしなかったわよ。それに、貴女がいるんだし」
「そうね」
 普通は挨拶すべきなのだが、あの夜会においては未婚の娘がいる貴族たちが挙って王太子に集る可能性が否定できなかったため、ダンスはアリアとだけ踊る、挨拶も本人が大臣職についている公爵のみとしたため、主だった貴族でさえ挨拶していない。また、アリアの評判は一部の貴族を除いて一年前と比較して、かなり良くなっていたので、多少は羨ましがられることはあっても、多くの人、特に若い未婚の女性たちの方からは、王太子の隣にいることを理解されていた。
「でも、あの王太子殿下は貴女に興味を示したのよ、ベアトリーチェ・セレネ」
「どういう意味?」
 ベアトリーチェはますますわからなくなった、と首をかしげた。
「私が隣にいたのは、単純にここ最近波に乗ってきているスフォルツァ家・・・・・・・の令嬢だからよ。そこに本人たちの意思は関係ない」
「でも、貴女や私も含め貴族は愛のない結婚を普通はするでしょ」
「ええ。でも、私としては貴女に不幸な結婚はしてほしくはない。それに、王太子殿下も貴女のことを知っているわけじゃない。だから、お互いが近くにいるべきなのよ。もちろん、その結果が凶と出るかもしれないけれど、そしたら、また新しい出会いもあるんじゃないのかしら」
 アリアとしては、何をもってしても彼女たちを邪魔することなく、早くくっつけ、『悪役令嬢』の座から完全に退きたかった。もちろん、自分自身も生きた状態で。
 そのために彼女と王太子を早く遭遇エンカウントさせる恋のキューピット役になりたかったのだ。そのために、セルドアにお願いして、王妃に侍女としてベアトリーチェを召すよう働きかけたのだ。
「分かったわ。でも、私は貴女みたいに強くはない。やっていけるのかしら」
 ベアトリーチェは不安げに瞳を揺らしながら言った。
「貴女に最初に出会ったときは、精いっぱいの虚勢を張ってお父様のことを言った。でも、貴女と違ってあれは本物じゃない。だから、私――」
 ベアトリーチェは泣いていた。アリアはそんな彼女を軽く抱きしめた。
「ねえ、ベアトリーチェ」
 アリアは語り掛けるようにしゃべりだした。
「ほかの人に言うと、絶対に怒られるから言わないけれど、『アリア・スフォルツァ公爵令嬢』だって偶像アイドルなのよ」
「どういう意味?」
「貴女は知っているかもしれないけれど、数年前まで私は『我儘、尊大、自己中心的』というのをこの生活している次元で、体現したような人間だったのよ。でも、ある時を見て、それから昔の自分とは別れを告げたの。だから、今、特に最近会う人からは『元からきちんと行動する人間』って思われがちなんだけれど、違う。最初から私は貴女と王太子殿下から嫌われたくなかった」
「私と王太子殿下?」
「ええ、貴女と王太子殿下よ」
 アリアは、アリアの突然の発言に驚いているベアトリーチェに微笑み返した。
「何故か、私は貴女に会う事を知っていたのよ」
 だから、と言って彼女の手を強く握った。
「これからも貴女には嫌われたくない。でも、王太子殿下にも嫌われたくないから、一緒に行かない?喩え、今回あなたの目王太子殿下適わなくて、外に出ても、王宮での作法は役に立つし、一応箔はつくわよ」
 と最後ににっこりと言い、駄目押した。

「分かったわ。貴女の言葉なら、何故か最初から信じられるの。だから、ついてきたし、ついてきて正解だったと思っている。まるで魔法使いみたいね」
 ベアトリーチェは涙を拭いて笑った。
「魔法使いじゃなくて『魔女』となら呼ばれたことあるわよ」
 アリアはにっこりと笑った。
 そう、『ラブデ』内で悪役令嬢として出てきたときは、アリアは王太子クリスティアン・幼馴染ユリウス・宰相ウィリアムルートで必ず『魔女』呼ばわりされたのだ。そして、『ラブデ』をプレイしたファンからも『魔女』呼ばわりされていたのだ。
 そう言ったアリアに対して、冗談でしょう、とベアトリーチェは笑い、
「じゃあ、貴女のために頑張るわね」
 と、捉えようによっては少し危険な言葉で締めた。

 数日後、アリアは一人で馬車に乗り王宮へ向かっていた。
 王宮侍女のうち下級侍女は裏方をこなすことが多いのだが、入りたて1年目の侍女は全ての行事において担当を入れ替えて(例えば春の茶会において接待部だったものは、夏の涼み会では配膳部、秋の茶会では外注部へ、など)配属される。
 2年目以降は希望と抽選によって配置が割り振られ、大体は上級侍女に昇進か結婚のために退職するまではその部署で働く。そのため、彼女はこの部署決めと、先輩侍女からの引継ぎを受けなければならないため、ベアトリーチェよりも早く王宮へ向かったのだ。
 ちなみに、アリアは本来ならば、『完璧である』と評されたマナーの知識を生かすべく配膳部への配属が望ましい、とは思いつつも、外とのつながりコネが欲しいので、一番官吏たちと繋がれる接待部を希望する予定である。


「初めまして、よろしくお願いしま―――ふがっ」
 王宮へ着き、同僚たちとの割り振りの会議によって、アリアは希望通り接待部へと配属となり、その日からすぐに行われる春茶会の準備に取り掛かることになったため、先輩侍女たちの元へ行った。しかし、それ・・は突然やってきた。
「すっごい可愛らしいじゃないの、貴女は」
 そう言って、その赤毛の女性は会議を行う部屋に入ってきたアリアを一目見た瞬間に抱き寄せ、図らずとも彼女の豊満な胸にアリアの顔を押し付ける形になってしまっていた。

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