転生したからって、ざまぁされなくてもいいよね?~身内との8年間、攻略対象達との3年間の駆け引き~

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 それから、アリアとクリスティアンは互いに言葉を交わすこともなく、ただ人々の踊る姿を見つめていた。アリアは久しぶりの社交界、という側面でこの夜会には出席している。普段なら適齢期間近の王族の隣というものは、同じくらいの年頃の娘を持つ貴族連中にとっては、格好の売り込みの場戦場なのだが、『スフォルツァ公爵令嬢』が隣にいること、そして、その家は国王の元愛人の実家であることを鑑みて、誰も近づくことが出来ず、ただ、遠巻きにしか見ている人はいなかった。
そのため、アリアにとって『王太子の隣』という場所は、貴族たちの観察には格好の場所でもあった。なので、喩え恋愛感情には至らなくても、彼に感謝はしていた。
 彼女は近くに王太子はいるものの、一人でじっと全体図を眺めるような状態を保っていた。すると突然、王太子からドレスのフリル部分を引っ張られた。
「なあ」
「何でしょう」
 アリアは、すぐさまフリルの部分から彼の手を叩き落とすと(もちろん周りからはそう見えないように慎重にやっているが)、王太子を少し睨めつけながら、言った。
「あ、すまん。あ、あのドレスの女性は誰か知っているか」
 彼の視線の先には数人の男女が話しており、その中にはベアトリーチェもいた。
「その中の何方の事ですの」
アリアは耳をそばだてている連中に聞かれまいと、極力唇を動かさずに小声で言った。当然、社交的な笑みは浮かべたままである。すると、クリスティアンは少し赤くなりながらも、
「あのピンクのドレスの女性だ」
 アリアはその瞬間に、クリスティアンのクリスティアンルートでの一目惚れ破滅フラグだという事に気づいた。だが、今のアリア悪役令嬢は違う。そう自分に言い聞かせて、アリアはある提案をした。
「クリスティアン様、もう一曲踊りませんか」
 口調はにっこりと言った。しかし、貴族連中に背を向けた瞬間に、『踊りなさい、話がある』という視線を向け、強引にダンスのフロアに引っ張っていった。周りにいた貴族は、わぁとか、きゃあ、とか、さすがはスフォルツァ家令嬢、やり手が汚い、とかイロイロ聞こえてきたが、アリアはまるっと無視させてもらうことにした。

「どういうつもりだ」
「貴方、あの娘に一目ぼれしたんでしょ」
 きっぱり言ってやると、少しむくれて、だから何が悪い、とクリスティアンは言った。
「お前は俺の事を単なる政治の駒だと思っていないか」
「多少は。でも、基本的に王家も上位貴族の家も政略的な結婚はしても、きちんと当人同士の意向も考慮する」
「だから、お前はそれを逆手にとって、俺との婚約話を無かったことにしようとしているだろう」
 クリスティアンは、アリアが思っていることを正確にくみ取っていた。
「そうね。私が役人として働けるような環境にしてくださるんでしたら、あの子を紹介してあげてもいいわ」
 アリアは半分冗談交じりに言った。そうしてくれると、アリア・スフォルツァ自分の破滅フラグは大きく回避できるからだ。
 さすがのクリスティアン王子も一瞬詰まったが、いいだろう、と言った。

 その後、間もなくして夜会はお開きとなり、それぞれの屋敷へ帰り始めた。
「さあ。アリア、帰りましょう」
 母、エレノアがいつの間にか近くにきており、王太子や国王夫妻へ挨拶を済ませ、帰宅することにした。帰りの馬車の中で、
「どうでしたか、王太子とのダンスは」
「全くね」
「全く?」
 エレノアは娘の言葉に目を見開いて聞いていた。
「上手いのはうまいのですが、やはり私の趣味には会いません」
 アリアのさす『趣味』というものがわからなかったが、とりあえず、エレノアはそう、とだけ言って、しばらくこの話題に触れないでおこう、と思った。

 帰宅するなり、アリアは王妃の元へ届けてもらうため、一通の手紙を書き、セルドアに直接届く鳩で運んでもらった。数日後、彼から『わかりました。お伝えさせていただきます』とだけ、書かれた手紙が返ってきた。

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