転生したからって、ざまぁされなくてもいいよね?~身内との8年間、攻略対象達との3年間の駆け引き~

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 ウィリアム少年は、確か私の一つ上で、平民から宰相にまで上り詰めるんだっけ――と前世に思いをはせつつ、彼を見た。
「僕の顔に何かついていますか?」
 彼はかなり無邪気な声で尋ねた。この少年が後に陰謀が渦巻く王宮へ上がり、猫の皮をかぶり続けた挙句、宰相になるのだから将来を見るのが恐ろしいくらいの存在である。
「いいえ何かがついているわけではなくて」
 アリアはその不気味さを心の中に押しとどめながらも、ツンと言い方をした。
(ああ、調子が狂う)
 アリアは国王などの王族相手にしている時と違って、かなり内心では焦っていた。
(まさか、もうあの才能・・・・の片鱗を見せているとかかしら)
 自分の思考を悟られないようにしながら、彼をじっくり観察した。
「そんなに警戒しないでくださいよ」
 彼はあくまでも穏やかに笑っていた。人懐っこい、ともいうべきか。

 しかし―――
「そんなに疑うのなら、決闘してみます?」
 彼はそう言いつつ、腰に下げていた剣を引き抜きつつ言った。アリアはこれはやばい、と本能的に思って、まさか屋敷内では本当に襲ってくることはないだろう、と思いつつも、どうしようものかと考えた。

 が、彼はそれを実行に移すことはなかった。というよりも、出来なかった。
「やめなさい」
 気配を感じさせずに背後から近づいてきた存在・・に、彼は問答無用で殴られたのだ。そう言って、気絶した彼の首根っこを(物理的に)引きずって、屋敷の方へ向かったのはほかならぬクレメンスだった。
「ああ、貴女も一緒に着いてきなさい。もうすぐ、授業・・を始めますよ」
 アリアはその言葉に首を傾げた。武芸を習うのは彼だけで、自分はデビュタントと共にクレメンスのダンスレッスンを終えているのでは、と思った。しかし、彼は何も言わずに屋敷に入って行ったので、アリアもついて行くしかなかった。
 屋敷へ戻る道すがら、アリアは彼と出会ってから十分もたっていないのに、なんでこんなことになっているのだろう、とふと思った。
(本当に宰相になるだけの器を持っている、という事?)
 あの腹黒さ――猫かぶりな様子は、まるで暗殺者を見ているかのようだ。もちろん彼女は本物の暗殺者プロを見たことはない、というか見たことがあっても、その時には、生き伸びていなかっただろう。
(わからないわね)
 『ラブデ』内の彼は、もっと冷静沈着であんな軽はずみな真似はしないはずだ。だが、『ラブデ』内ではたとえそうであっても、画面越しでは登場人物の一部しか見られない。画面に映っていない部分ではこんな感じの性格だったのかもしれない。王太子もそうだったのが良い証拠だ。
(とりあえず様子見と言ったところね)
 彼女は気持ちを今、目の前にある『授業』に意識を戻した。

「では、始めましょう」
 クレメンスがアリアとウィリアムを連れっていた先は、公爵家の裏庭だった。そして、そこにはユリウスとなぜかベアトリーチェがいた。
「ベ、ベアトリーチェ?」
 アリアは、彼女までもそこにいるのかがわからなかった。彼女はアリアの姿を認めるとすぐにアリアに近寄ってきて、彼女に抱き着いた。
「私もわからないんですのよ」
「な、何があったのよ」
 彼女がアリアを離さないところを見ると、元凶がいるはずだ、と思って考えたが、一人しか思い当たらなかった。
「何を言ったんですか、クレメンス様」
 彼女は、クレメンス元凶にジト目を向けながら言った。
「え」
 その言葉に一瞬つまり、さらに、彼はかなり返答に困った挙句、しきりに目を泳がせていたが、
「クレメンス様、貴方は何を『セレネ伯の令嬢』に言ったので・す・か?」
 アリアはクレメンスの近くまで行き、クレメンスを見上げて、にっこり笑って聞いた。彼はその直接な質問とアリアの感情のこもっていないにっこりした笑みに冷や汗をかいたが、決して口を割らなかった。しかしその代わり、
「アリア様。『デビュタントのダンスは一瞬で終わりますが、アリア様の護衛は一生必要ですよ』とおっしゃったのです」
 と、ベアトリーチェ被害者から報告を受けた。アリアは嘆息し、再びクレメンスを見上げ微笑んだ。
「一生、貴方は私を結婚させないでいる気だったのかしら?」
 通常、この国内での婚姻の際に、嫁側は嫁ぎ先に侍女などを一切連れて行かないのが習わしだ(入り婿の場合は例外である)。なので、一生涯生家の侍女がついているイコール一生嫁がないという事となるのだ。それを指摘してやると、
「でも、王太子殿下のことにはあまりいい顔をなさっていなかったのでは?」
 と先日の王宮のことを持ち出して言われたが、
「あれはあれ、これはこれですわ。私は王家へ嫁ぐのが意味をなさないと言っただけで、『嫁ぐ気はない』とは言った覚えはないですよ」
 アリアは(外見上は)12歳の子供らしく頬を膨らませた。クレメンスは一瞬その顔に何かがグッと来たが、
「そんな頬を膨らませて、貴女はもう成人した姫なのですよ」
 クレメンスは頬膨らませたアリアに呆れ口調だった。しかし、そんな彼の顔が赤くなっていることに気づいたアリアはどこ吹く風だった。
「知りませんわ」
 そんな彼女に、クスクスっと三人分の笑い声が聞こえてきた。クレメンスとアリアが声のした方を見ると、この口論のきっかけとなったベアトリーチェ、ユリウスとウィリアムが笑っていた。アリアはまあ、いいかと思ったが、クレメンスはバツが悪そうに目を逸らした。

「ええい、もう笑うな」
 クレメンスがわざと咳払いをして、仕切り直した。彼としては、自分のペースを年下の女にとられたのが悔しかったのではないか、とアリアは思った。彼は、アリアを見るとにやり、笑ったような気がした。
「では、始めますよ」
 先ほどアリアにしてやられたからか、彼の口調にはいつも以上に力がこもっていた。

「それぞれにあった武術の訓練を行う」

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