転生したからって、ざまぁされなくてもいいよね?~身内との8年間、攻略対象達との3年間の駆け引き~

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「本当に、美しいわね」
 アリアはその姿を見て、この世界に転生してそれだけはよかったと思った。なぜなら、その目の前にいるのは、(試着だが)純白のウェディングドレスを着た生身・・のベアトリーチェだったのだ。1回目の打ち合わせの時に、ベアトリーチェを見て、浮かんだドレスがこれだ、というのだ。アリアの時は、瞳の色と同じアメジスト色のドレスを別に作ってきてくれたのだった。

(確かこのドレスって、王太子殿下と王太子ルートでの結婚する際にハッピーエンドで着用するものじゃなかったかしら)

 『ラブデ』のクリスティアン王子とのハッピーエンドでは、最後のシーン、教会での結婚式を挙げてその際にお姫様抱っこをするという、スチルがあり、その時に着用していたものと全く同一のものを彼女は纏っていたのだった。
「そうですわね。このドレスですと、流行や廃りなどはあまりないシンプルなものですので、お嬢さんがご結婚なさる時にもお作りさせていただきますよ」
 公爵家に来た針子団の中で一番年長の針子も彼女をうっとりとみていた。ちなみに、針子であるマチルダも今回、アリアとベアトリーチェのためならば、とお針子団の中に混ざっている。ちなみに、あの後マチルダもすっかりエレノアとアリアの人柄に感化されたのか、ユリウスを取り上げられるのではないかという不安はぬぐい去ったようだった。しかし、2人を見つめるには少し、さみしさが残っていた。アリアはマチルダに気づかれないように、そっと打ち合わせの部屋を抜け出した。
「お母様」
 彼女は、エレノアの部屋に行った。幸い彼女はそこで休んでいた。
「何かありましたか」
「いいえ、お願いあります」
 娘から出た言葉に、エレノアは驚いた。普段重要なタイミングでしか『お願い』をしてこない娘なので、これが重要なことかと勘繰ったが、彼女の続きの言葉を促した。
「ユリウスも今回夜会に出ることは不可能でしょうか」
「ユリウスは6歳よ。いくらなんでも――」
 絶句した母に、肩を落とした。
「無理ですよね」
「いいえ、無理じゃないわ」
 反対の言葉を言われ、彼女はどんな案があるのだろうかと頭を一瞬のうちにひねったが、思い当たらなかった。

「公爵家主催のパーティーを開けばいいのよ」
「は?」
「いや、だからね、アリア。王家主催の王宮夜会は成人しか参加が認められないけれど、各家で開くパーティーは、基本的に年齢制限がないわ」
「なるほど」
 その手があったのか、とアリアは感心した。スフォルツァ家では『誰か』のせいで財政破たん寸前だったというのもあって、開いていなかったし、そもそも王宮に上がっていたアリアは他家のも参加したことがなかったのだ。
「じゃあ、ユリウスのあの部屋に呼んでもいいですわね?」
「いいえ」
「え」
 彼女は、ユリウスを呼びに行こうとして、扉の方まで向かったが、エレノアにストップをかけられた。
「いくら6歳児でも男子と女子の部屋は分けなければなりません。それにあなたたちは成人しているし、これからするのですから」
「なるほど」
 アリアは自分が成人していることを忘れていた。どうしても『涼音』の感覚からすると11歳はまだ子供、なのだ。
 そうして、急きょユリウスの分も何着か作ってもらう事となり、その様子を母マチルダはほっとした目で見守っていた。
(やはり、まだユリウスをとられる、という不安が拭い去れない部分もあったのね)
 アリアは不慣れな採寸に望んでいるユリウスに微笑んだ。

 公爵家にいる3人の子供(と準大人)の採寸が終わって、誰しもが疲れ果て寝静まっているときに、それ・・は起こった。
「大変です。皆さまお逃げください」
 来たのは若い管理官だった。彼はマグナムの元で働いているはずで、その彼はまだ帰ってきていなかった。だが、彼は確か『王宮で他部署との合同夕食会がある』と言っていたはずだ。
「何があったのですか」
 騒ぎを聞き、広間に駆けつけてきた一同の多さに驚いている管理官に代表としてエレノアが尋ねた。

「大臣が、マグナム・スフォルツァ公爵様が公金横領と背信罪で投獄されました」

 管理官は顔を真っ青にしながら言った。
「それは誰の命令なの」
 最もこの中で落ち着いているのはエレノアとアリアだった。マチルダとユリウス親子は不安そうに少し震えているのがわかったし、セレネ伯爵一家は3人で抱き合った。
分かりません・・・・・・が、国王陛下や国王派の王族ではないのは確かです」
「それは、何故そう言えるの」
「捕縛された後に、陛下に直接奏上すべき草案を私が代理で持っていったら、事情を話させられたので」
 管理官の話について、アリアは本当のことだと思ったが、エレノアに目配せした後、管理官に話しかけた。
「それを演技だとは思わなかったのですか」
 彼は、娘に話しかけられるとは思っていなかったのだろう、一瞬驚いたが、
「思っておりません。なぜなら、そもそも捕縛した時の文書に描かれていたら花押が国王陛下のものと比較して不完全でしたので」
 と言った。
「理由を話してくださって、ありがとうございます。しかし、疑うような真似をしてすみません」
 アリアは礼を言った後に謝った。彼女もまた、国王陛下を疑いたくて言ったわけではなかった。
「お気になさらず」
 管理官は笑った。

「ハイネ・ユードリヒ管理官、ご苦労様でした」
 エレノアから言葉をかけられた管理官は文官なのに敬礼をした。
「私たちは次のことがわかるまでここにいます。これ以上のあなたの協力は不要です」
 エレノアは帰るように促した。渋々といった風に管理官は部屋を出て行った。

「少なくともあの管理官がうちを何かに巻き込もうとしているのは確実ね」
「はい」
 あの管理官はおそらくフレデリカ一派だろうと最初から思っていた。
「しかし、どうしましょう」
 不安になっているセレネ伯爵が言った。
「そうですね。このままですと、アリアを今から侍女として王宮に向かわせるのは危険すぎますわね」
 エレノアは聡明な長女を抱き寄せた。滅多に見られないその光景にアリア自身も驚いていた。
「お母様」
 アリアは抱き寄せられた腕の中で、ある覚悟をしていた。
「スフォルツァ領へ行きましょう」
 誰しもが驚いた。しかしエレノアは、娘の言葉を吟味していた。
「その戦に勝算はあるの」
 彼女は数十秒の時を経て、そう問いかけた。


「はい」

 この時、アリアはまだ知らなかった。ベアトリーチェのデビュタントの王宮夜会までに多くの出会いと失うことがあることを。

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