転生したからって、ざまぁされなくてもいいよね?~身内との8年間、攻略対象達との3年間の駆け引き~

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 あの日以来、デビュタントの夜会に向けたダンスを学ぶことになった。ちなみに同い年であるベアトリーチェは、今年のデビュタントを見合わせることになった。というのも、伯爵家ではある程度マナーや最低限の知識を身につけていたものの、マダム・ブラッサムやバイオレット氏の満足するほどではなく、特に基礎部分をもう一度身に着けてから、という事になったのだ。そのためにはある程度時間が必要となり、次の夜会でのデビュタントは見送らざるを得なかったのだ。ちなみに、それをベアトリーチェは素直に受け入れているようにアリアからは見えた。また、スフォルツァ家とほかの家族との関係も今のところ良好だ。リリスを除いて、だが。
 もちろん、『涼音』が前世で行った『ラブデ』内では、家庭的事情冤罪による没落も相まって、ベアトリーチェはデビュタントをしておらず、アリアより早く10歳の時には主人を持たない下級侍女として王宮に勤め始めていた。ある宴会において、接待係として割り振られ、王太子に酒を注いだ時に、王太子に一目ぼれされたのが王太子ルートで、その後、彼がベアトリーチェを王妃自分の母親付きに指名したという回想がある。しかし、その没落さえアリアが潰してしまった今、彼女が侍女として王宮に勤めなければならない未来は避けることができた上に、勤めることになっても、アリアがいじめることはないので、少なくとも・・・・・アリアが自ら没落しに行くことはない。また、勤めに行かなくても、没落だけは何とか避けたいので、社交界で戦っていける術をアリア自身も学ばなくてはならないし、ベアトリーチェにも学んでもらわなくてはならない、と思った。

「アリア嬢、何か迷われごとでも?」
 銀縁眼鏡の若い男性が彼は次のステップを踏み出さないアリアの方を見て尋ねた。
 今、アリアはデビュタントに向けたダンスの練習を行っているところだった。一般的な知識とマナーについては、何とか前世の知識をうまく使えたので、問題なかったのだが、ダンスだけは致命的な問題――超絶なまでの運動音痴――があったのだ。そのため、ほぼ完ぺきと称賛されたマナーの時間を大場に削ってダンスの時間に割り当てられることになり、その担当はセレネ伯爵家の縁戚であり、エレノアの知り合いでもあったクレメンス・ディート伯爵が受け持つことになった。ちなみに、彼――クレメンスは『ラブデ』において、サポートキャラとして登場していた。
「ええ、少し。申し訳ありません」
 アリアは、前世でも苦労した運動についてかなり甘い考えを持っていたが、現実はそうでなかったとかなり最初は落胆した。

(こんな高位の貴族に転生って面倒ね。昔の『涼音』だったら、勉強だってそこそこできればいいものの、今は『貴族として』恥ずかしくないような教養として身につけなくてはならないし、マナーだってそう。でも、それ知識とマナーを身に着けているから、平民やそれを学べなくなった・・・・・・・・・・ベアトリーチェ達・・・・・・・・を見下していい、という論理にはならないわね)

 アリアはそう考えながら、練習を続けた。
「なかなかアリア嬢は、私が見てきた中で上位を争うくらい飲み込みが早いですね」
「それは、私のダンスの技術がとても・・・下手だったという事ですよね?」
 クレメンスの軽口にわざと怒ったふりをして返した。
「それは否定できませんね」
 悪びれずに言った師の言葉に唖然とし、むしゃくしゃしたので足を踏んづけてやろうと思ったが、いかんせん、まだ練習を始めて僅か。師に足をすっとどけられ踏んづけようと思った足に躓き、転んでしまった。
「なかなかあなたもやりますね」
 クレメンスはニヤリと笑い、そういった。アリアは悔しかったものの、自ら招いた事故だったので、文句は言えなかった。
「貴女が足を差し出して、踏んづけられる瞬間まで、気づきませんでしたよ。では、今日はこれでおしまいにしましょう」
 しかし、クレメンスはアリアの髪を撫でた。
「あなたはまだ10才。王太子の婚約者になるには早すぎます」
 彼は真剣に心配しているそぶりを見せていた。
(しかし、何故彼がそれを知っているのだろう?)
 アリアは自分にでさえ、両親があまり口をしないこの話題を何故知っているのだろう、という疑問が浮かんだが、ほぼ初対面の彼に詮索するのはやめた。
 ちなみにあの事件の後、父親のマグナムはエレノアとアリアに対してかなりおとなしく・・・・・なり、家の中での発言権は無くなったといってもよかった。リリスに対しても、以前のようにほとんど甘やかすことはなくなった。今まで父親を頼っていたリリスは父親がスフォルツァ家での発言権を失ったことで、今度は叔母のフレデリカの嫁ぎ先にしょっちゅう行くようになり、これもまた、エレノアの雷を落とさせる原因となっていたが、最近では、エレノアもアリアと同じく、最悪リリスだけ切り捨てる、という選択肢も考え始めているようだった。
 ダンスの講義のあとは、バイオレット氏による座学の時間だった。今日は今度の夜会でアリアと同じくデビュタントする子女の出身についてのおさらいだった。
「アリア様と同じ公爵位を持つものは、アリア様以外に5名。そのうちベルガモット様とマリアンナ様はアリア様と同じ10歳、ほかのお三方――クレメンス様とマクシミリアン様、リデル様は2つほど上でございます」
 バイオレット氏が言った名前の一部にアリアは反応せざるを得なかった。
「マクシミリアン?」
「左様にございます。マクシミリアン・フェティダ、フェティダ公爵のご子息です」
 バイオレット氏はアリアが意外な名前に反応したものだ、と思った。しかし、その名前を聞いて、アリアはやはり、と思った。
「今までの講義の中やお茶会では聞いたことない名前ですよね?」
「そうですわね。どうやら、あまりお体の方が強くないみたいで、領地の方で安静にされていたとか。そのためにデビュタントも遅れて、今年になられたそうですよ」
 マダム・ブラッサムが補足した。
 すでに『ラブデ』バーチャルの世界でのフラグは折り始めており、根本的な部分であるスフォルツァ一家とヒロインの関係性も今現在は問題ない状態だ。なので、ユリウス以外の攻略対象と出会って何か・・をし始めることもできなくはないが、中途半端な状態で主人公側ヒロインサイドのフラグを立てることやや悪役令嬢側のざまぁイベントを起こしたくない。なので、しばらくは逃げるのが一番なのだが、

「マクシミリアン・フェティダ」
 講義の後、自室に戻った私は例のノートを久しぶりに取り出した。

 マクシミリアン・フェティダ。
 公爵の長男なのだが、実家のフェティダ家は、もともとスフォルツァ家うちと同じように、名門であるが、あまり権勢を持たなかった家であった。しかし、彼の家はスフォルツァ家うちとは違い、王族に嫁がせられるような年の釣り合いが取れる娘がおらず、その当時の当主が日和見主義だったため、体よく閑職へ追い詰められ、今現在は『前世』でいう窓際族・・・らしかった。『涼音』はよく窓際族・・・に追いやられていた刑事がバディを組んで、事件を解決する、というドラマをよく見ていた。
 閑話休題。そんな実家フェティダ家の状況も相まって、彼はデビュタントする前までは静かな領地で静養していた、と『ラブデ』の説明書にも確かに書かれていた。
 彼はデビュタントと同時に、王太子付きとなったものの、王女の降嫁先として挙げられ、彼が15歳、王女が8歳の時に婚約者となるのだ。しかし、あまりにも幼かった王女は完全にマクシミリアンの範囲外であり、彼女のわがままにも呆れていた時に、偶々見かけた上級侍女のベアトリーチェに心惹かれていくという、話だ。

(まあ、7歳も下の婚約者なんて、結構国王も難問を突き付けるよね)

 アリアはそのルートでのエンディングにおける醍醐味、通称“ほのぼの日向ぼっこ”スチルが特徴的だったのをよく覚えていた。『ラブデ』でのスチルの中では人気が高いイラストだった。『ラブデ』でのスチルの中では人気が高いイラストだった。

(私としては、ヒロインのマクシミリアンを介抱するスチルも素敵だったとは思うけれど)

 アリアは今回の夜会でデビュタントとなる、攻略対象者の一人には十分注意しよう、と改めて誓った。しかし、そのノートを見返していると、肝心なことに気が付いた。

(王太子であるクリスティアンは?)

 彼もまた、アリアやベアトリーチェと同じ10才だ。彼のデビュタントは一体いつなのか、アリアは社交界にまだ出たことなかったうえに、お茶会でも話題に上がっていなかった。

(確か、2人は同時にデビュタントし、そのデビュタントと同時に婚約発表したんだったっけ?)

『ラブデ』内での設定はそんな感じだ。しかし、ここまでゲームと違う行動をとればどうなっているかわからない。

(お願い、もう『私』は死にたくない)
 アリアはその夜、魘されており、母親が心配して彼女にずっと付き添っていたのに気づかなかった。

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