転生したからって、ざまぁされなくてもいいよね?~身内との8年間、攻略対象達との3年間の駆け引き~

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「お嬢様、何時だと思われていらっしゃりますか」
 アリアの悲鳴を聞きつけたメイドの一人が部屋に入ってくるなり、そう彼女を叱った。
 確かに今はもう夜更け、もうしばらくすると日付が変わる時間帯であると思われていた。こんな夜更けに、アリアは主に周り近所への迷惑を考えずに悲鳴を上げた。完全にアリアの非であった。
「ごめんね、ロゼ」
 彼女が素直に謝ると、そのメイドは目を丸くして、

「お、お、お嬢様、何か変なもの食べられたんですかぁ」
 彼女もまた、夜更けにもかかわらず大声で叫び、他のメイドや侍女、果ては執事長までも彼女の部屋に駆けつけて来た。



「で、説明していただきましょうか、アリア」
 アリアは母親――スフォルツァ家当主マグナムが夫人、エレノアの部屋に来ていた。エレノアは、銀色の髪を夜中でも綺麗に巻いており、アリアと同じ紫の瞳をしている。
「あなたは今まで、私たちが制止するのを構わずにわがまま言い放題、使用人に迷惑かけるのは日常茶飯事当たり前。しかも、迷惑かけたら、かけたで謝りもせず、女王様気取り。なんで、このタイミングで素直に・・・謝るのですか」
 この『Love or dead ~恋は駆け引きと共に』――通称・ラブデをプレイしたことがあったので知っていたが、アリアの所業は非常に悪い。たまになんでこの悪役令嬢を蹴落とす必要があるの?っていうゲームを見かけるが、このラブデでは完全に悪役令嬢アリアたちが悪い。しかし、『私は転生者で、これから起こること知っています』なんて母親に言えるわけもないので、仕方なく、
「おそらく、これから起こり得りそうな夢を見たのです…」
 と、うつむいて言った。
「なので、自分を変えていかなくてはならないと思いまして…まず、初めに謝りたかったのです」
 と涙ぐみながら言った。彼女アリアにとって嘘泣きは得意だった。精神は転生前の『私』である相原涼音だが、身体は所詮アリア・・・・・スフォルツァ・・・・・・だ。かなり不便な設定だが、早く慣れなければならない。そんなことを考えていると、エレノアは、
「そうですか。9歳のあなたにはまだ早いのでしょうね、王太子殿下との婚約のお話を夕食の時にしましたが、あなたは少し夢を見過ぎていたのかもしれませんね」
 彼女はアリアを抱き寄せ、頭を撫でた。
「今日はもう、寝なさい」
 そう言ってメイドを呼び、アリアは迎えに来たメイドによって連れられ、母の部屋を出た。

「では、お休みなさいませ、お嬢様。今度はよい夢を」
 アリアをベッドに寝かせたメイドは、布団をかぶせた後、電気を消す時にそうささやいた。
 アリアは、母と話している間にでも焚いたのだろう、柔らかいラベンダーの香りが彼女を眠りへと誘った。



 翌朝、アリアは朝早く目が覚め、鏡台の引き出しに入っていたノートを取り出し、昨晩思い出したことを書き始めた。


 アリアの前世である『相原涼音』は、ある小企業の社長令嬢だった。中学生の時に従姉から乙女ゲームなるものを勧められ、そのままどっぷりと嵌ってしまった少女であった。高校入学祝に、最初に勧めてくれた従姉から『Love or dead ~恋は駆け引きと共に』が送られ、部活から帰ると同時にとことん攻略していった。

『Love or dead ~恋は駆け引きと共に』
 それは大手ゲーム社から出ていた、携帯ゲームのソフトの名前だった。
 キャッチコピーは、
「素直すぎる少女ベアトリーチェが生計を立てるために働き始めた王宮。権謀術数が渦巻く王宮において、生存するために攻略対象者たちを頼らなくてはならいが、頼るためにも様々な駆け引きが必要だ。
 さあ、彼女は駆け引きを覚え、6人の攻略対象者と共に王宮で生き残れることができるのか。それとも、待っているのは死なのか――」
 という、王宮ものだった。普通の乙女ゲームと違い、相手に対してかける台詞だけでなく、その仕えている相手が出かけるイベント(夜会や茶会、狩りなど)があるのだが、それに行くための服装や持っていく小物などを選ぶという、TPOに合わせた課題があるのだ。『涼音』は小学生のころから弓道をやっており、礼儀作法の一環として着物などを多少嗜んでいたので、その知識を応用して課題は難なくクリアすることができた。

 ちなみに、6人の攻略対象者――
 正統派王子、隣国から来た外交官の肩書を持つ王子、幼馴染の騎士、遊び人の騎士、平民出身の宰相、没落しかけの公爵子息の6人だ。隠れキャラなどはなくただ、『課題』のみが攻略するにあたって、最難関のハードルとされていた。なので、推している《中の人》によって始める人が多かったとされる。
 《中の人》に興味がなかった『涼音』は、ストレートに正統派王子から順に攻略し、最後までフルコンプリートの文字が出た時は、素直に主人公を祝う気持ちになっていた。

 そんな中、17歳のある日、幼い子供を助けようとして『涼音』は車に轢かれて、あちらの世を去った。

 そして、こちらの世界へ来たのだった。
『アリア・スフォルツァ』
 栗色ストレートの髪、紫眼
 強気な少女。スフォルツァ公爵令嬢(長女)。
 ゲーム内では、10歳で王子の婚約者候補筆頭となり、14歳の時、花嫁修業の一環で上級侍女として王宮に上がり、王妃シシィ付きになる。ヒロインをいじめまくり、実家の悪事と共に裁かれることとなり、ゲーム内の全エンドにおいて、よくて没落、悪くて処刑しかない。

 アリアは自分のゲーム内のプロフィールを書きだしたが、うん、と唸った。
「メイドたちの反応を見ていたら、こりゃ、没落して当たり前だわ。昨日までの自分は早く消さなきゃ。あとはスフォルツァ家うちの『悪事』か…」
 自分のことについては自分で、精算する。しかし、公爵家のことまでは難しかった。
「どうにかして、没落だけは防がなきゃ」
 とりあえず、自分改造計画を行うことにした。

 ようやく時間になり、メイドの一人――昨日は見当たらなかった――が起こしに来た。
「お嬢様、朝でござ――うわぉ」
 いつもの・・・・アリアなら起きていないだろう、と思って勢いよく扉を開けたのはいいが、彼女は残念ながら起きていて、すでに何か作業している――そんな光景にメイドが固まっていた。
「あら、おはよう、マリア=アンネ」
 アリアはそんな彼女を一瞥し先ほどまで書いていたノートを鍵のついた引き出しにしまった。
「お、おはようございます」
 マリア=アンネは、ショックから立ち直ると、すぐに着替えの用意を始めた。

「いやぁ、あの・・お嬢様が朝起きておられて、既にメイド私たちを待っているとは、思いませんでした」
「そう」
「そうですとも。昨夜、お嬢様に異変があったって侍女長から聞きましたけれど、まさかここまでになっているとは思いませんでしたよ」
「――」
 彼女たちメイドは普段は喋らずに主人の支度をする。だが、彼女は私の変化ぶりに驚いたのだろう、口が動いたままだ。職分を忘れていないので、問題はない、とする。


 メイドに着せてもらい、私は朝食を取りに行った。
「おはようございます」
 すでに妹以外はそろっていた。
「あら、昨日の言葉は本当だったのね」
 エレノアはそっくりな目を細めて、そう言った。
「何があったのは言わんでいい。だが、身体は大切にしてくれ」
 と、父親――スフォルツァ家当主マグナムは栗色の髪を掻きながら言った。父親は外務相だったはずだ。間もなく出勤なのだろう、すでに朝食は済ませてあった。
 彼は食堂を去るときに、
「そういえば、今日、ミスティア殿下・・・・・・・のところへ行ってほしい。また寂しがっておった」
 と、アリアに言った。
 アリアは、さっそく来たか、と思った

 ミスティア殿下―――ミスティア・フロイア・エル・ツォーネ・フォンデンブルク。この国の国王の4歳になる第3子であり、唯一の王女。ただ、彼女は嫡出子ではない。国王の愛人で、ブラッケンベリヒ伯爵夫人――フレデリカの子供である。母親のフレデリカはマグナムの妹でもあった。つまり従姉妹になるのだが、彼女もまた、『悪役令嬢』だったのだ。

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