聞こえない僕と見えない君の空想物語

朝比奈 江

5話 伝えたい事がある

見つけた。
いつも、制服が似ていると思っていたけど、色が見えないから違う学校だと思ってた。

やっぱり、他の人とは少し違う。
なんというか、すごく綺麗だな。

そう考えている間に、彼が行ってしまうかもしれない。
声をかけたい。話がしたい。
恥ずかしがって、怖がって声をかけないと絶対後悔する。

私は、彼の元へ駆け寄った。
彼の横に立ったのにも関わらず、こちらを見ようともしない。
手が震える。踏み出さなきゃ。
手を伸ばし、彼の腕を叩く。

「こんにちは。同じ学校だったんですね」
彼は振り返って、微笑んだ。

同じ駅だったし、何となくで一緒帰ることになったけど、沈黙がつらい。
「あ、あの私の名前は宮村風澄って言います」
緊張しすぎて何を喋ったか、記憶がない。
ふと、横を見ると眉間にシワを寄せ考え込んでる彼の顔が見えた。
「‥‥っ、楽しくないですか?」
俯いてしまう。
そりゃ、何を喋ってたか自分で分からないくらいだから、つまらなかったと思う。
彼は黙ったまま、私の横を歩く。
「あの!私の話、つまらないですか?」

彼の腕を軽くつつき、こちらを向かせる。
彼は、目を見開いて私を見た。

携帯を取り出し、操作をしだした。

嘘でしょ。この状況で、携帯使うのか普通。
ほんの数秒、彼は携帯を操作した。
彼は、耳まで隠れた髪をだし携帯の画面を見せた。

「ごめん、僕は耳が聞こえないんだ。無視していた訳じゃないよ」

いつも隠れている耳には、補聴器が付いていた。

空気が止まったように感じた。
彼の、あの時の行動に結びついた。
彼は、私に打ち明けてくれた。
私も、打ち明けなくちゃならない。

こういう時こそ、笑顔だ。
「気づかなくてすみません。実は私も、隠していたことがあって」
彼の目をしっかりと見て、言う。
「私、色が見えないんです」
いつもは、怖くて言えない。
でも、彼なら。同じような悩みを持つ彼になら、受け止めてもらえる気がした。

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