聞こえない僕と見えない君の空想物語

朝比奈 江

3話 落ち着く方法

『どうして?』
僕の頭の思考回路は驚きに溢れている。
「えっと、どうしてだよね」
『覚えたの』
笑顔で君は答えた。
『もっと話したいから』

話がしたいから。
この耳になってから初めて言われた。
体の中からこみ上げてくる何かは、僕の頬を静かにつたう。

涙を流したのは何年ぶりだろうか。
「えっ、篠原くん」
急に恥ずかしくなって後ろを向く。
「ちょっと、待ってて」
すぐ、後ろにいるのにメールを打つ。周りの人が見たら笑うだろうか。
ピロンッと通知の音が響く。

どうしよう、止まらない。深呼吸。
涙ってどうやったら止まるんだっけ。
考えながら、気持ちを落ち着かせていると背中に違和感を感じる。
温かい、人の体温。
「寄りかかりまーす」
そう、言ったと思う。


彼女に出会う前の塞ぎ込んでた自分が嘘のようだ。
自分でも、びっくりするくらい彼女に心を開いている。
でも、悪い気分じゃない。
なんというか、落ち着くというか心地よい。
人の体温がここまで、落ち着くと思わなかった。
いつの間にか、僕の涙は止まっていた。

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