都市伝説の魔術師

巫夏希

第四章 少年魔術師と『二大魔術師組織間戦争』(6)

 カナエはそれを見て溜息を吐く。

「……ほんと、あなた昔から変わらないわね。そういう自信満々なトコロ。嫌いじゃないけれど、いつか大恥かくわよ?」
「ありがとう、カナエ。そう言ってくれるということは――」
「ええ。協力するわよ。私としても、魔術師という存在が貶められていることについて不満に思っているしね。それをどうにかしないと、我々魔術師としての未来も、明るいものにはならない。そんなものは、未来に残しちゃいけない。私たちの世代で起きた問題は、我々で解決しないといけないから」
「相変わらず、硬いねえ。もう少し柔らかい頭をもって考えてみたらどうだい?」

 ユウの言葉にカナエは首を傾げる。

「仮にそう抱いたとしても、何も変わらないわよ。あなたも、私も」
「そりゃそうね」

 そう言ってユウは笑みを浮かべる。
 同盟はできた。戦力は増えた。
 問題は――柊木香月復活のための重要なピース、サンジェルマンだけだった。


 ◇◇◇


「スノーホワイトとヘテロダインが同盟を組んだ?」

 時雨の言葉を聞いて、アリスはそう訊いた。
 今アリスと時雨は車に乗って移動している。タクシーではなく、時雨が運転する乗用車だ。もっといい車もある、という時雨の言葉に対して小回りの利く車が良いというアリスの意見が激突し、結局アリスの意見が通った次第だった。

「ええ、スノーホワイトは正直大規模の魔術師組織とはいえません。所属魔術師が十数名の弱小組織です。ですが、スノーホワイトのボスはユウ・ルーチンハーグの旧友とのことです」
「旧友? あの子に友達がいたの。ふーん、人って変わるものね」
「それはちょっと言い過ぎではありませんか?」
「そうかしら。あの子、人見知りだったのよ。しかも極度の。それが今や魔術師組織のリーダーですって? ほんと、おかしな話」
「時代は先に進み、幼子は立派に成長するものでは?」

 時雨の言葉にうなずくアリス。

「うん、うん。そうかもしれないわね。そうかもしれない。けれど、やっぱり私にとってはまだまだ彼女は赤子だよ。幼子だ。小さい子供を見ている親の気分だよ。いやあ、時代というのは常に進化していくものだねえ……」
「……思うのだけれど、ユウ・ルーチンハーグとあなたって、どういう関係なの?」

 唐突に訊ねられて、アリスは首を傾げる。
 まさかそんな質問をされるとは思いもしなかったのだろう――アリスは目を丸くしていた。

「どうして急にその質問を?」
「いや、ちょっと気になっただけです。なぜかな、と」
「成る程」

 頷いて、笑みを浮かべるアリス。
 アリスはずっと車窓を見ていたが、その言葉を聞いて時雨のほうを見た。
 アリスはひとつ溜息を吐いて、話を続ける。

「先ず、一つの前提から話をしておこう。それは、かつて存在していた『アレイスター』という原初の魔術師組織について」
「かつて……? いや、アレイスターは今も存在している組織でしょう? それはおかしな話ではなくて?」
「いいや、間違っていないよ。私は真実を告げたまでだ。現状存在している『アレイスター』と私がこれから話す『アレイスター』は全くと言っていいほど別物だよ。構成員も役割も、おそらくは違うからね」
「おそらくは……?」
「当時の『アレイスター』は魔術師に対して関心のない、どちらかといえば訝しく思っていた世間について、正しく魔術師の知識を植え付けるために生み出された組織だった。国際連合直下の国際魔術師管理組織、それが最初のアレイスターだった。そして、私は――そのリーダーを務めることになった」
「最初は国際連合直下の組織だったんですか?」
「魔術師という概念を、国連のものにしたいという思いがあったのでしょうね。実際問題、コンパイルキューブが発見されたときの世界の衝撃はとんでもないものだった。コンパイルキューブ、それを使うことで適性のある人間は誰でも魔術を使うことが出来るようになった。ただし、基礎コードを自分で作る必要はあったがね。その法則性も、当時のアレイスターが解析したものだ」
「アレイスターは魔術師の基礎を作り上げた組織だった……それは私も聞いています。ですが、まさかアレイスターが前と今では違うことが知らなかった」
「そうねえ。それはあまり語るべき事実ではないから。だってあの『アレイスター』が今のアレイスターになるときにおきた事件は、あまり語られるべきことではないから」
「アレイスターの事件?」
「そう。アレイスターが分裂して今の魔術師組織の分立となった、事態のこと。仕方ないけれどね、魔術師組織はいろいろあったけれど、ずっと一つのままだった。アレイスター。それは、組織の肥大が続いても管理は行われてきていた。けれど、結局、ダメだった。アレイスターは肥大化と管理能力が追い付かなくなった。そして――」
「一つの崩壊を迎えた、と」

 こくり、とアリスは頷く。

「一つの崩壊と再生。この場合は再編、とでもいえばいいかな。それとともにアレイスターは勢力の大半を失い、国際組織の名前を失った。だが、それでも我々は魔術師の地位を確固たるものとする、その目的をまだ果たしていなかった。だから、果たさねばならなかった。我々の目的はなんだ? 我々の存在価値はなんだ? ……そう思うと、我々はまだやり残したことがたくさんあった」
「そうして現在のアレイスターに繋がる……と?」
「原初の魔術師組織、そういえば格好がつくが今の話を聞いてみればただの内輪もめで内部分裂を起こした組織だよ。今はその時に比べれば人員も少ないからね」

 アリスと時雨の会話は、そこで一旦終了した。
 終了した理由は単純明快。車がある場所に到着したためである。

「……到着したのか?」
「ああ、着いたよ。ただしここから歩かないと行けないがね」
「歩くのか。そいつは厄介だな」

 そう、溜息を吐いて――懐からコンパイルキューブを取り出す。
 コンパイルキューブに何かを呟く。
 基礎コード。魔術師がコンパイルキューブを通して魔術を使うためのコード。
 それを彼女は呟くように言った。
 それと同時に――地面が大きく歪んだ。
 いや、それは間違いかもしれない。正確に言えば地面に大きくぽっかりと穴が開いていた。そして、その先にあるのは――。

「やあ、これでどうだ。私はいろいろと面倒だからねえ。一直線に向かってしまいたいものなのよ」
「ほんとう。そういうことが好きよ、あなた」

 そして二人はその穴に突入していった。

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