世界の真理を知って立ち上がれる者は俺以外にいるのだろうか

つうばく

第8話 「彼がホムラとしたのは稽古というよりも一方的な虐め」

 剣や銃などの武器は無く、素手での戦い。
 素手と言っても、殴るなどの行為は全く出来ない。
 いや、することを許されていない。
 殴ろうとしても後ろへ流す様に片手で対処される。

 そして、そこを追撃される訳だけではない。
 何もされないのだ。
 それに腹が立ち、集中力が掻き乱される。
 そこを狙って攻撃される。

 避けようとしても避けれない。
 素早さが違い過ぎるのだ。
 動こうとし始めた時には、もう身体に攻撃が加わっている。

「ーーぐへぇっ!」

「反応が遅い! それといちいち相手の行動、言葉などに惑わされ、集中力を逸らすな!」

 ホムラは僕を吹き飛ばすと、仁王立ちでその言葉を言い放った。
 目に見える光景はホムラが横向きに立っている光景。
 つまり、僕は吹き飛ばされ横向きになっているのだ。

「いつまで寝ているんだ! さっさと立ち上がれ!」

 ホムラは罵倒する様に言い、消えた。
 いや、物凄い速さで動き僕の死角へと入った。
 それに気付き僕は急いで起き上がり、ホムラの方を向いたが、そこには誰もいない。
 そして、また僕の見ている光景は変わる。
 それと、右腹の部分が痛い。
 ホムラに後ろから蹴られたのだろう。

「っ、がぁはっ!」

 飛んだ先にあった木にぶつかった。
 だが、こんな事で稽古は終わらない。
 終わるとすれば、それは死ぬ直前。
 そもそも死んだ後かもしれない。
 ホムラは埒外ーー普通ならば近距離戦が出来たら、遠距離戦、魔法が使えない。
 その逆もまた。
 なら、死んだとしても回復するぐらいの魔法を持ち合わせている。
 その為、いつ終わらないかの恐怖に埋もれながら、僕は戦い続ける。

「戦闘中に何を考えているのだ! そんな余裕はお前にないだろ!」

「うぐぅっ!」

 木にもたれた状態のまま蹴られて、木ごと吹き飛んだ。
 そのまま後ろに吹き飛び、木は二、三本続けて倒れていく。
 だが、そこで追撃は終わった。
 僕はチャンスだと思い、ホムラが立っている場所に走っていく。

 ーー頭にある考えを消し、本能に任せて動く。

 ホムラは、僕を迎え撃つ様に構えた。
 そして右から飛んでくると錯覚する程までの速さの蹴りを繰り出したホムラの足を、バックステップで避け、足が片方だけで立っているその隙に懐に踏み込んで攻撃を仕掛ける。
 だが、それが罠かの様に、ホムラは冷静に対処する。
 さっき蹴ろうとした地面から浮いている足で、蹴り、それも後ろにホムラが下がる様にしてある程度の蹴りをだ。
 後ろに下がったホムラは、僕に見えない何かで攻撃をした。

「だぁあ!?!?」

 完全に何が起きたかが分からない。
 ホムラがゆっくりと空気を殴る様に手を前に出したと思うと、僕は吹き飛んだ。
 まさかな、そう考えるしか今は出来ない。
 今、考えている事があっていたら、ホムラは空気を殴ったのだ。
 だが、そう考えるしかなかった。
 見た限りではそうとしか見えなかったからだ。

「何を思っている......さしずめ、空気を殴ったとでも思っているのだろう。そいうことを考えるのは良いことだ。ーーだが! 今、お前は負けているんだぞ。それを考えろ!」

 その声は何処からか聞こえた。
 僕は周りを見渡したが、ホムラの姿が見えない。

「言っただろう。考えている暇があるのだったら、相手を倒す策を考えろ! ましてや相手から目を話すなどはするな!」

 上から、極寒と感じる風が吹いてきた。
 僕は、一瞬にして後ろに飛ぶ様に立ち上がり、上を見た。
 そこには、秋色へと変わって来ている空から降りてくる者が一人。
 その人物ーーホムラを見る限り、勝てるビジョンが全く思い浮かばない。

「どうしたもうへばったか! 所詮その程度なのか!」

「ま、まだ、行ける!」

「なら、来い。勿論、全力でだ」

 さっきまでの戦いを否定されるかの様な言い方。
 今から本気を出せと。
 だが、だからこそホムラに勝ちたいという気持ちが湧いてくる。
 たとえ、勝利のビジョンが見えなくとも、僕は勝ちたいという願う。
 決して不可能な事を言われているわけじゃ無い。
 相手も同じ素手なのだ。
 武器を持っているわけじゃ無い。

 なら、出来るはずだ。
 そう心を震わせて、僕はホムラへと攻めた。
 何かをする訳でもなく、ましてやホムラの攻撃を避けたりする訳でもなく。
 ただ、攻める。
 相手が攻撃をするよりも早く。
 一歩、また一歩と物凄い勢いで加速していき、残りホムラまであと一歩。

 僕はホムラを殴って吹き飛ばしたーー













 ーー筈だった。

 だが、ホムラへと触れた瞬間、僕が見ている光景は変わっていた。
 夕暮れに差し掛かった空。
 その中にいた......いや、そこで浮いていた。
 僕は、ホムラが殴った風に乗って飛ばされていたのだ。

 あの殴られたのはフリだ。
 僕が殴ろうとして、拳を出したのと同時にもうホムラは風を僕へと飛ばしていて、ホムラへと拳が触れた時にその風は僕にあたっていたのだ。
 完全に油断していた。
 何もしていない時が一番何かをしている。
 ホムラから学んだ事なのに、それを大事な時に忘れていたら意味無いな。
 あれだと、相手に向かってただ飛び込んでいった奴そのものだな。

「ーーっ、よいしょ。おかえり」

「有り難う、ホムラ」

 空から落下していく僕をホムラが下で受け止めてくれた。
 それは恥ずかしいけど、お姫様だっこの状態で。
 けど、これがなかったら今頃重症だし、今だけは有り難く思う。

「今日はこれぐらいにしとこうか」

「分かった。けど、ちょっと悔しい」

 よろよろの僕を見てホムラが今日は終わりにしようと言った。
 だけど、このまま終わるのは本当に悔しい。
 最後の最後で何も考えずに突っ込んでいってしまった。
 それが悔いで悔いで仕方が無い。

「大丈夫だ。最初はこんなもんだ。それにちゃんと成果はあるぞ。ウィンドウを開けてみろ」

「ウィンドウを? 分かった」

 僕はホムラに言われた通りにウィンドウを開けた。
 成果......それはステータスに現れている、という事なのだろうか。
 もしくは他のものなのか。
 ホムラの口振りだと、前者の方が当てはまっている可能性の方が高いだろう。

(そんな事は見てみないと分からないか。じゃあ見ようか)

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 《ハデス・サラディン》
 種族 :正真正銘の人間  性別 :男  年齢 :3
 職業 :無し  称号 :世界の真実を知った者
 適正魔法 :次元魔法
 レベル:24
 魔力 :C+
 攻撃力:C+
 防御力:C
 俊敏力:C
 知能 :B
 魅了 :C
 器用 :D+
 運  :D

≪スキル≫


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「こんなに増えるの!? 普通はステータス値のランクを1でも上げるのに一年は掛かると言われているのに」

「まあ、それは真面目にしている奴だけだ。今みたいに、私とハデスのようにレベル差がある同士がやったら、経験値ががっぽりと入るんだ。それでレベルが上がるからステータスも上がる」

「そいうことか。なら、これを続けたらホムラみたいに強くなれるの?」

 己よりも強いものと争えばその分の経験値ががっぽりと入ってくる。
 なら、それを続ければ良い。

「ーーと、言うのを普通ならば考えるだろう。だが、それでは根本的に何かが足らなくなる。それは......」

「ーーそれは?」

 僕はホムラへと近付き、聞き返した。
 それほどまでに気になった。
 いや、気にならざるを得なかった。
 だって、自分が考えた事を否定されそれの何処が駄目なのかをホムラは言ってくれようとしているのだから。

「それは......対応性だ。私の様な者ばかりと戦うとその戦い方が身体に慣れてしまう。こんな事は、色んな人と戦っていると実際は起きないのだがな。それを起こしてしまうと、確実にハデスは世界を救えなくなるぞ」

 厳しい言葉だが、ホムラの言葉に従うしかない。
 実践経験が積めて、経験値も入るという美味しい稽古だと思ったが、やはりそんな完璧なものはない様だ。
 これが出来る代わりに、他の相手とは戦えなくなると。
 メリットが大きい反面、デメリットがそれ以上にデカイ。
 目標は世界を救う......いや、それ以前にホムラを倒すという目標があるのに、それが出来なくなれば下の子もない。

「じゃあ、どうすれば良いの? 僕はこれから?」

「どちにしろ、二年もあるんだ。その間に私を倒せば良いんだよ。だからそうだな......今から六ヶ月ーー半年間は、私ではない者と戦ってもらう」

「相手は......」

 僕はそう静かに聞いた。
 大きな声でも良かったが、どれだけ強い奴なのかが分からなく、自然と出なかったのだ。
 その声を聞き、ホムラは少し間を空け応えた。

「ーー魔物だ。それも、黒の樹海の魔物とだ」

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