太陽王の剣〜命を懸けて、君と世界を守り抜く!〜

みりん

11 英雄の登場

 アジリス率いる2000の軍勢は、都市の中心にあるウッドの城からまっすぐ北上し、丘の上に建つインペデ大神殿の正面に布陣した。

 2000のうち、前衛に騎士が100。残りは歩兵である。騎士は皆揃いの甲冑に身を包んでいるが、歩兵の出で立ちは様々だ。どうやら、正規の兵の他に傭兵も混ざっているらしい。

 対するアンジェ率いる大神殿の神兵団は2000の兵を大神殿の正面、左右の側面に配置し、徹底防戦の構えだ。大神殿は丘の上に建っているので、地の利は大神殿側に有利ではあるが、厳しい戦いになることが予想された。

 インペデ軍の中央に布陣する騎士の一人が、騎乗したまま進み出た。

 甲冑を着てなお筋骨たくましい大男と見て取れる。背中に大斧を背負っていた。大きな鼻に太い眉、大きな口。頬の半分を覆うひげ。騎士隊長アジリスだった。

 アジリスはおもむろに口を開き、野太い声で叫ぶ。

「巫女アンジェ! おとなしくその命と聖笛グローリアを差し出せ! そうすれば、大事な神殿は破壊されず、神兵達の命も助けてやるぞ!」

 呼ばれたアンジェも大神殿の布陣した最前衛に進み出る。2000の軍勢を見下ろしながら、臆することなく叫び返した。

「っは! 何を馬鹿なことを! 私が死ねばインペデの結界は破れ、夜になれば亡者共に破壊の限りを尽くされるだろう! そうすればインペデの民はどうなる!? お前たちの命も危うくなるのだぞ! その上、聖笛グローリアを何に使う気だ! よもやケルベルス復活など本気で企んでいないだろうな! 百害あって一利なし! みすみす自領を転覆させる気か!」

 しかし、アジリスは一切の動揺を見せない。それどころか、歯をむきだしてにやりと笑った。率いる2000の軍勢も落ち着き払っている。

「そんなことは我らとて承知の上! しかし、時代が変わったのだ! これからは弱肉強食の時代! 力のある者、強い者が生き残る時代となったのだ! 古いことわりは崩れ去り、新たな理が生まれるだろう! 時代に置いて行かれた者は滅ぶのみ! 我らは絶対の神、オルクス様に忠義を尽くす者! そのような安っぽい脅しに怯むような軟弱者は我が軍にはおらぬわ!」

 アンジェは思わず舌打ちをする。

「愚かな、死の神に魂を売ったか!」

「ふん、何とでも言うがいい! 条件を飲む気がないのなら、力尽くで奪わせてもらう! 全軍、この俺に続け!」

 アジリスが号令し、獣のような唸り声を上げながら馬を駆ると、インペデ軍2000もそれに続いた。

 戦いの火蓋は切って落とされた。

「弓兵、構え!」

 神兵団の最前衛の弓兵達が弓に矢をつがえる。鬨の声をあげて迫りくるインペデ兵達が弓の射程に入るまで引きつけ、

「放て!」

 号令を下す。高所から放たれた矢は、唸りを上げてアジリス率いるインペデ軍に降り注いだ。しかし、アジリス達の勢いは止まらない。馬を駆け、倒れた味方を踏みつけんばかりの勢いで丘を駆け上ってくる。

「シルヴァの徒よ! 我らの元には命を生む神、シルヴァ神のご加護がある! その力、悪しき神々の元に下った暴徒に見せてやれ! 進軍!」

 アンジェの号令で、神兵団も剣を片手に駆け出した。戦乱はいよいよ激しさを増す。丘の中腹で2000対2000の男達がぶつかり合った。

「うははははは! 神兵共、かかって来い! このアジリス様が返り討ちにしてくれる!」

 馬上から大斧を振り回して、騎士隊長アジリスは神兵達を見る間になぎ倒していく。

「っく、強い!」

 神兵達はアジリスのその豪快な斧捌きに安易に傍に近寄れない。遠巻きに取り囲み間合いをうかがうが、隙を突かれては鮮血を散らし倒れて行った。確実に、インペデ軍に押されている。丘を突破されれば、神殿を守る障壁は何もない。制圧されてしまえば、アンジェは殺され、その右手に握る聖笛グローリアは奪われるだろう。そうなれば、結界は破れ、ケルベルスが復活し、インペデはおわりだ。

 丘の上から戦況を見守るアンジェは悔しさに拳を握った。

「ダメか――っ」

 その刹那、空がきらりと光った。光った、と思った次の瞬間、インペデ兵の何人かが馬上から崩れ落ちた。

「何っ!?」

 突然味方が倒れて、アジリスは驚いて辺りを見回した。そして、殺気を感じて頭を伏せる。その頭上を光の刃が掠めた。

「上かっ!」

 アジリスが見上げた先には、3人の少年と少女が1人並んで手をつなぎ空に浮かんでいる。燐光に包まれて宙を浮遊する4人のうち、一番端にいた少女が、金色の飾り剣を掲げて悔しそうに手足をじたばたと動かした。

「あーおしいっ! あのリーダーっぽい奴に当てようと思ったのにっ!」

「ステラ、暴れないで!」

 茶髪の真面目そうな少年が注意すると、黒髪の長髪の少年が続いて叫んだ。

「すみません! 限界です! 落ちます!」

「ええっ!?」

「「「わあああああ!」」」

「きゃああああ!」

 4人は叫び声を上げながら、戦場のど真ん中に降ってくる。

 その場にいる全員があっけにとられて注視する中、4人はなんとか無事着地する。

「って~。エイブス、お前着地下手なのなんとかしろよ!」

「うるさいですね! そんなこと言うなら次からデンテだけ置いて行きますよ! 定員ギリギリだと魔力の消費が激しいんですよ!」

 何やら若干の仲間割れが起こっているようだ。

「貴様ら、何者だ!?」

 アジリスの誰何すいかに、4人は振り返る。すると、生きている神兵の上に降って来て受け止められた少女が、未だ地平線のような胸を張り、高らかに叫んだ。

「聞いて驚きなさい! ステラ達は、太陽王の再来となるお方、レオニスとその一行よ! レオニスが来たからには、こんな戦い無駄むだあ! インペデ侯爵ウッドとその子分達、観念しておウチに帰りなさい!」

 アジリスに対して、ビシっと人差し指を突きつけて言い切った。

 どうやら少女は、アジリスをウッドと勘違いしているらしい。少年達3人は驚きを通り越し、呆れた表情で少女を見た。

「ステラ、バカ――。なんでそんなことわざわざ言うんだ」

 茶髪の少年が頭を押さえている。

「え? なんで? 英雄ヒーローの登場はやっぱ名乗りが大事でしょ! オームで観た劇ではいつもこうよ! それとも、もっとカッコつけた方が良かったかなあ!?」

 その場でくるりと一回転して、ふわりとスカートを浮かばせてから、もう一度ビシっと人差し指を突きつけてみせる少女に、茶髪の少年は顔を赤らめた。

「やめてくれ! 恥ずかしい!」

 アジリスは驚きに目を見開き、そのやり取りを見ていたが、次第に心が喜びに震えた。

「いま、なんと言った? 確かに、貴様レオニスと言ったか? 6年前消えた、あの王太子のレオニスか!?」

「そうよ! 太陽神レクスに選ばれた正当な継承者、世界を救う英雄ヒーローのレオニスよ!」

 少女が叫ぶと、アジリスは持っていた大斧を茶髪の少年に突きつけた。

「そうか! ここで会ったが百年目! 俺は一度で良いからレクス神族と殺し合いがしてみたかったんだ! 本当に王に相応しいか、俺が確かめてやる! この大斧の露と消えろ! いざ、勝負!」

 叫ぶやいなや、アジリスはレオニスに向かって大斧を振り下ろした。馬上からの一撃を素早く交わしたレオニス達。

「うわあ!」

「こうなる気がしてたぜ!」

 デンテも叫んで加勢しようと剣を構えた。しかし、

「一騎打ちに割って入るなど許せん! 私が相手だ!」

 アジリスの部下らしきインペデ騎兵に足を止められる。

「あれ? もしかして、ステラ、余計なこと言った!?」

 焦って周りをキョロキョロと見回すステラ。しかし、そのステラもインペデ兵が取り囲む。エイブスも同様に、敵に取り囲まれた。

「まあまあ、ステラさん。やることは変わりませんよ。聖笛グローリアと巫女のアンジェ様をお守りする! それを阻む敵は誰であろうと蹴散らす。それだけです!」

 エイブスも敵を睨んで剣を構える。

「皆! 行くぞ!」

「おう!」
「うん!」
「はい!」

 レオニスの号令で、四人が新たに戦列に加わり、戦いはさらに熱を増し続いた。

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