太陽王の剣〜命を懸けて、君と世界を守り抜く!〜
16 影傀儡
レオニスの身体は、意思に反して抜剣し、アルサスに向かって剣を振り上げた。
(しまった……!)
金属音。
剣と剣がぶつかる甲高い音が響く。アルサスが、レオニスの振り下ろした刃をとっさに剣で受け止めた。
(団長……!)
「レオニス、お前――」
剣をはさんで、レオニスとアルサスの目が合う。アルサスの瞳に映る自分は無表情で虚ろな目をしていた。
(どうしよう、団長! 僕また――!)
ふと、団長が口元を歪めた。その榛色の瞳に、怒りの炎が燃える。
「いい趣味してるなぁ、女神モア! 今度はこいつに、俺達までやらせようって腹か!」
「ふふ。正解! 味方同士で潰しあって自滅してくれるのが、一番効率的でしょ?」
宙を掴んだ拳を何かを引っ張るように動かしながら、モアは叫び返した。
刹那、レオニスは後ろに飛んでアルサスから距離をとると、その勢いのまま振り返りざまに剣を振り抜いた。
「危ないっ!」
「きゃあ!」
とっさにデンテが飛び込んで、ステラを庇って二人一緒に床を転がる。剣はデンテの背中に当たるスレスレのところをなぎ払った。
「っぶねえ~。そうはさせるかよ! レオニスとの約束だからな!」
デンテは起き上がるとステラを背中に庇ってレオニスと対峙した。
「もしお前の意思に反して身体が勝手に動いた時は、俺達が絶対止めてやるってな!」
(デンテ……!)
「ああ。もう二度とお前にあんな思いはさせねえから、安心しろ!」
(団長……!)
二人の山賊に挟まれ、剣を向けられたレオニスは、内心で安堵の溜息をもらす。二人に任せておけば、きっと大丈夫だ。
「それはどうかしら? やれるものなら、やってみせなさい!」
モアは叫ぶと、左手も動かし、両手で宙を掴む動作をした。すると、周りにいた神兵達が駆け出し、アルサスとデンテ目掛けて剣を振り上げた。
アルサスは一人目の剣を弾きとばすと、返す刀で後ろから来たもう一人の神兵をなぎ払う。三人目の足を払って転ばせると、後ろにいた四人目は勝手に巻き込まれて転んだ。それらが起き上がる前に足を斬りつけ、動きを封じる。刹那、その隙をつくように、背中を狙って来たのは操られたレオニスだった。
(団長、危ない!)
気配を感じて振り向きざまに斬ろうとしたアルサスの身体が躊躇して一瞬止まる。
「おおっと!」
なんとか避けるも、レオニスの剣の切っ先がアルサスの左腕をかすめた。血が溢れ、服を赤く染める。
(団長……っ)
「くそ、しくじったな。レオニス、これくらいでメンタルやられるんじゃねえぞ!」
冗談めかして叫びながら、アルサスは襲い来る神兵の一人を斬り捨てた。
* * *
神兵達の狙いは、どちらかと言うとアルサスに集中していた。デンテは斬りかかってきた神兵を軽くいなし、背後に回って切り伏せた。
「ステラ、大丈夫か!?」
「う、うん! 正直ちょっと怖いけど。ステラ、踊りで鍛えているから素早さには自信があるよ!」
「じゃ、大丈夫だな! 俺、ちょっとあいつを助けて来る!」
言うなり、デンテは駆け出す。
「ええっ!?」
後に残されたステラが驚いて慌てふためくのを放置して、デンテは神兵達を次々と斬り伏せると、捕らえられているホークの元へと走り寄った。
「貴様! こいつの命がどうなっても――ぐがぁっ」
投げナイフで脅す神兵の喉元を正確に射抜くと、周りにいた神兵達が驚いている間に次々と仕留めてしまう。
「デンテ! あなた、もし私にナイフが当たったらとか考えないんですか!?」
縛られて身動きのとれないまま、神兵と共倒れになっていたホークが、デンテに文句をつける。しかし、デンテは気にもとめない。
「まっ! 助けてやったんだから文句言うなよ。細けえこと気にしすぎてるとハゲるぞ?」
「失礼な! 私の家は先祖代々ふさふさですよ!」
ホークはデンテに縄を切ってもらい、手首をさすりながら憤慨した。デンテは思わず笑う。そんなやり取りをしていると、
「きゃー! 助けてー! やっぱ無理―!」
ステラが数人の神兵達を引き連れて二人の元に駆け寄って来た。顔を見合わすデンテとホーク。
「デンテ、あなたあんな美少女をほったらかして来たんですか!?」
「え、あんなやついたっけ? まあ、それより今は、お前のほうが危険かと思って」
「馬鹿ですか!? こういう時は美少女優先です!」
「馬鹿とはなんだ! じゃあ今度からはお前助けてやんねえぞ!」
「ちょっ! 無理っ! ほんと無理―!」
ステラの悲鳴が聞こえてきて、デンテとホークは我に返る。
「こんなことしてる場合じゃない。デンテ、助けに行きますよ!」
ホークが自分を取り押さえていた神兵の腰から剣を奪い、立ち上がる。
「使用人が戦えるのか? お前は隠れて見ててもいいんだぜ!」
デンテが駆け出しながら叫ぶ。
「もちろん、戦えます!」
ホークは言うなり、ステラを追いかけていた神兵を斬り伏せた。
「やるじゃねえか!」
「本当は、剣より弓の方が得意なんですけど、ね!」
ホークは次に背後を狙って来た神兵の顔を振りむきざまに剣の柄で殴り倒すと、すかさず剣を前に振り抜いた。
「ぐがっ!」
刺された神兵がくずおれる。
「お嬢さん、大丈夫ですか?」
ホークに声をかけられて、ステラはほとんど泣きそうになりながら弱々しく頷いた。
「ふえ~。死ぬかと思った。怖いよう」
「誰だか知らないけど待ってろよ、すぐ片付けるからな! ホーク、行くぞ!」
「ええ!」
デンテとホークは駆け出すと、残りの神兵達に挑みかかった。
* * *
デンテとホークの活躍もあり、神兵の数はじりじりと減っていった。
神兵達の様子を見る限り、絶命するか致命傷を受ける、もしくは足に傷を負うとモアの傀儡から開放されることが分かってきた。
そして、それは操られたままのレオニスをモアから開放する方法でもある。
(団長! 遠慮はいりません! 僕が誰かを傷つける前に、ひと思いにやっちゃって下さい!)
内心で念ずる声は、アルサスには届かない。
レオニスを見据える榛色の瞳は、ただ冷静に周囲とレオニスの動きを読むだけだ。
(なんで……団長なら僕なんて瞬殺できるはずなのに)
王太子として剣技の鍛錬を始めたのは7歳の頃だった。老練な騎士から基本的な型を習い、毎日修練に努めた。おかげで体力もつき、技術にも自信があった。
しかし、事件が起き山へ来て、レオニスは驚く。山賊団の団員達の剣技や武術は、それまでレオニスが習得してきたそれとはまるで違っていたからだ。型などまるで通用せず、何でも有りで、ほとんど無茶苦茶。なのに、強い。まさに型破りな山の戦闘法に、レオニスは衝撃を受けた。
そして、そんな山賊団の中で一番強いのがアルサスだった。
団員達に戦闘法を教えたのもアルサスだ。もちろん、レオニスも例外ではない。アルサスに厳しく修行させられて、レオニスは山に来てからの6年で格段に強くなった。
それでも、アルサスの背中は遠い。
まさに段違いの強さを誇るアルサスなのだ。
しかし、そんなアルサスがレオニスを庇って戦うが故に、少しずつ傷ついている。左腕に始まり、右頬、右太腿。どれもかすり傷だが、血がにじんでじわじわとアルサスの体力を削っている。
(団長――! 僕なんて気にしなくていいです! 早く止めを刺して下さい!)
「レオニス、お前、なんて顔してるんだ。しっかりしろよ、リベルタスの男だろ!」
(団長――!)
レオニスの足が動く。一歩目からトップスピードで駆け出して、アルサスの首を狙って振り抜かれたはずの剣は、しかし宙を切った。
背後に回ったアルサスが、レオニスの首筋に手刀を入れようとして、外した。しゃがんで躱したレオニスは、後ろに飛び退って距離をとる。
「もう! 鬱陶しい! 早くやられなさい!」
地団駄を踏んで悔しがるモアは、叫ぶと右手を突き出した。
レオニスが駆け出し、剣を振り上げた。
アルサスは、その動きを完全に見切っていた。しかし、背後から迫り来る風音に気づく。それはメイガスが操る長椅子だった。とっさにそれを避ける。
「しまった!」
叫んだ時には遅かった。アルサスが避けたせいで、長椅子は鈍い衝突音と共にレオニスの腹に直撃した。
「かはっ」
床に倒れふし、血を吐くレオニス。
「きゃー! 命中っ! メイガス、あんたそっちじゃないでしょ!?」
モアが叱りつけるが、メイガスは無言で返した。
そんなやり取りを意識の外で聞きながら、レオニスはなんとか息をしていた。長椅子をもろにくらった衝撃は、痛いというより熱いといった方が近いだろうか。これはアバラが数本いったな、と思いながら、レオニスはそれでも安堵していた。
これでもう動けない。自分は、今度は誰も斬らずにすんだのだ。
「レオニス! 大丈夫か!?」
かけよるアルサス。膝を付き、レオニスの上から長椅子をどけると、助け起こした。
(団長――ありがとうございます……)
しかし、影傀儡の力のせいで返事もできず、ただ荒い息を繰り返すだけとなった。
「てめえ。くそがき。よくも俺の可愛い団員に」
アルサスが低く呟く。その顔は、レオニスが一度も見たことのないような修羅の顔だった。
「あら? 怒っちゃった? せっかくのお楽しみ中だったもんね」
「黙れ!」
アルサスはモア目掛けて矢のように駆け出した。しかし、間合いをつめる暇もなくその動きがピタリと停止した。
右手の握りこぶしを掲げて、モアが不敵に微笑む。
「馬鹿ねえ。あたしがそんなこと、許すと思った? ふふ。レオニスは使えなかったから、あんたを使うっていうのも面白いかしら?」
「団長――!?」
異変に気付いたデンテが叫ぶ。
「気をつけて下さい! 来ますよ!」
ホークが鋭く叫ぶ。
榛色の瞳を虚ろに濁らせ、アルサスは反転し、デンテ目掛けて走り出した。
(しまった……!)
金属音。
剣と剣がぶつかる甲高い音が響く。アルサスが、レオニスの振り下ろした刃をとっさに剣で受け止めた。
(団長……!)
「レオニス、お前――」
剣をはさんで、レオニスとアルサスの目が合う。アルサスの瞳に映る自分は無表情で虚ろな目をしていた。
(どうしよう、団長! 僕また――!)
ふと、団長が口元を歪めた。その榛色の瞳に、怒りの炎が燃える。
「いい趣味してるなぁ、女神モア! 今度はこいつに、俺達までやらせようって腹か!」
「ふふ。正解! 味方同士で潰しあって自滅してくれるのが、一番効率的でしょ?」
宙を掴んだ拳を何かを引っ張るように動かしながら、モアは叫び返した。
刹那、レオニスは後ろに飛んでアルサスから距離をとると、その勢いのまま振り返りざまに剣を振り抜いた。
「危ないっ!」
「きゃあ!」
とっさにデンテが飛び込んで、ステラを庇って二人一緒に床を転がる。剣はデンテの背中に当たるスレスレのところをなぎ払った。
「っぶねえ~。そうはさせるかよ! レオニスとの約束だからな!」
デンテは起き上がるとステラを背中に庇ってレオニスと対峙した。
「もしお前の意思に反して身体が勝手に動いた時は、俺達が絶対止めてやるってな!」
(デンテ……!)
「ああ。もう二度とお前にあんな思いはさせねえから、安心しろ!」
(団長……!)
二人の山賊に挟まれ、剣を向けられたレオニスは、内心で安堵の溜息をもらす。二人に任せておけば、きっと大丈夫だ。
「それはどうかしら? やれるものなら、やってみせなさい!」
モアは叫ぶと、左手も動かし、両手で宙を掴む動作をした。すると、周りにいた神兵達が駆け出し、アルサスとデンテ目掛けて剣を振り上げた。
アルサスは一人目の剣を弾きとばすと、返す刀で後ろから来たもう一人の神兵をなぎ払う。三人目の足を払って転ばせると、後ろにいた四人目は勝手に巻き込まれて転んだ。それらが起き上がる前に足を斬りつけ、動きを封じる。刹那、その隙をつくように、背中を狙って来たのは操られたレオニスだった。
(団長、危ない!)
気配を感じて振り向きざまに斬ろうとしたアルサスの身体が躊躇して一瞬止まる。
「おおっと!」
なんとか避けるも、レオニスの剣の切っ先がアルサスの左腕をかすめた。血が溢れ、服を赤く染める。
(団長……っ)
「くそ、しくじったな。レオニス、これくらいでメンタルやられるんじゃねえぞ!」
冗談めかして叫びながら、アルサスは襲い来る神兵の一人を斬り捨てた。
* * *
神兵達の狙いは、どちらかと言うとアルサスに集中していた。デンテは斬りかかってきた神兵を軽くいなし、背後に回って切り伏せた。
「ステラ、大丈夫か!?」
「う、うん! 正直ちょっと怖いけど。ステラ、踊りで鍛えているから素早さには自信があるよ!」
「じゃ、大丈夫だな! 俺、ちょっとあいつを助けて来る!」
言うなり、デンテは駆け出す。
「ええっ!?」
後に残されたステラが驚いて慌てふためくのを放置して、デンテは神兵達を次々と斬り伏せると、捕らえられているホークの元へと走り寄った。
「貴様! こいつの命がどうなっても――ぐがぁっ」
投げナイフで脅す神兵の喉元を正確に射抜くと、周りにいた神兵達が驚いている間に次々と仕留めてしまう。
「デンテ! あなた、もし私にナイフが当たったらとか考えないんですか!?」
縛られて身動きのとれないまま、神兵と共倒れになっていたホークが、デンテに文句をつける。しかし、デンテは気にもとめない。
「まっ! 助けてやったんだから文句言うなよ。細けえこと気にしすぎてるとハゲるぞ?」
「失礼な! 私の家は先祖代々ふさふさですよ!」
ホークはデンテに縄を切ってもらい、手首をさすりながら憤慨した。デンテは思わず笑う。そんなやり取りをしていると、
「きゃー! 助けてー! やっぱ無理―!」
ステラが数人の神兵達を引き連れて二人の元に駆け寄って来た。顔を見合わすデンテとホーク。
「デンテ、あなたあんな美少女をほったらかして来たんですか!?」
「え、あんなやついたっけ? まあ、それより今は、お前のほうが危険かと思って」
「馬鹿ですか!? こういう時は美少女優先です!」
「馬鹿とはなんだ! じゃあ今度からはお前助けてやんねえぞ!」
「ちょっ! 無理っ! ほんと無理―!」
ステラの悲鳴が聞こえてきて、デンテとホークは我に返る。
「こんなことしてる場合じゃない。デンテ、助けに行きますよ!」
ホークが自分を取り押さえていた神兵の腰から剣を奪い、立ち上がる。
「使用人が戦えるのか? お前は隠れて見ててもいいんだぜ!」
デンテが駆け出しながら叫ぶ。
「もちろん、戦えます!」
ホークは言うなり、ステラを追いかけていた神兵を斬り伏せた。
「やるじゃねえか!」
「本当は、剣より弓の方が得意なんですけど、ね!」
ホークは次に背後を狙って来た神兵の顔を振りむきざまに剣の柄で殴り倒すと、すかさず剣を前に振り抜いた。
「ぐがっ!」
刺された神兵がくずおれる。
「お嬢さん、大丈夫ですか?」
ホークに声をかけられて、ステラはほとんど泣きそうになりながら弱々しく頷いた。
「ふえ~。死ぬかと思った。怖いよう」
「誰だか知らないけど待ってろよ、すぐ片付けるからな! ホーク、行くぞ!」
「ええ!」
デンテとホークは駆け出すと、残りの神兵達に挑みかかった。
* * *
デンテとホークの活躍もあり、神兵の数はじりじりと減っていった。
神兵達の様子を見る限り、絶命するか致命傷を受ける、もしくは足に傷を負うとモアの傀儡から開放されることが分かってきた。
そして、それは操られたままのレオニスをモアから開放する方法でもある。
(団長! 遠慮はいりません! 僕が誰かを傷つける前に、ひと思いにやっちゃって下さい!)
内心で念ずる声は、アルサスには届かない。
レオニスを見据える榛色の瞳は、ただ冷静に周囲とレオニスの動きを読むだけだ。
(なんで……団長なら僕なんて瞬殺できるはずなのに)
王太子として剣技の鍛錬を始めたのは7歳の頃だった。老練な騎士から基本的な型を習い、毎日修練に努めた。おかげで体力もつき、技術にも自信があった。
しかし、事件が起き山へ来て、レオニスは驚く。山賊団の団員達の剣技や武術は、それまでレオニスが習得してきたそれとはまるで違っていたからだ。型などまるで通用せず、何でも有りで、ほとんど無茶苦茶。なのに、強い。まさに型破りな山の戦闘法に、レオニスは衝撃を受けた。
そして、そんな山賊団の中で一番強いのがアルサスだった。
団員達に戦闘法を教えたのもアルサスだ。もちろん、レオニスも例外ではない。アルサスに厳しく修行させられて、レオニスは山に来てからの6年で格段に強くなった。
それでも、アルサスの背中は遠い。
まさに段違いの強さを誇るアルサスなのだ。
しかし、そんなアルサスがレオニスを庇って戦うが故に、少しずつ傷ついている。左腕に始まり、右頬、右太腿。どれもかすり傷だが、血がにじんでじわじわとアルサスの体力を削っている。
(団長――! 僕なんて気にしなくていいです! 早く止めを刺して下さい!)
「レオニス、お前、なんて顔してるんだ。しっかりしろよ、リベルタスの男だろ!」
(団長――!)
レオニスの足が動く。一歩目からトップスピードで駆け出して、アルサスの首を狙って振り抜かれたはずの剣は、しかし宙を切った。
背後に回ったアルサスが、レオニスの首筋に手刀を入れようとして、外した。しゃがんで躱したレオニスは、後ろに飛び退って距離をとる。
「もう! 鬱陶しい! 早くやられなさい!」
地団駄を踏んで悔しがるモアは、叫ぶと右手を突き出した。
レオニスが駆け出し、剣を振り上げた。
アルサスは、その動きを完全に見切っていた。しかし、背後から迫り来る風音に気づく。それはメイガスが操る長椅子だった。とっさにそれを避ける。
「しまった!」
叫んだ時には遅かった。アルサスが避けたせいで、長椅子は鈍い衝突音と共にレオニスの腹に直撃した。
「かはっ」
床に倒れふし、血を吐くレオニス。
「きゃー! 命中っ! メイガス、あんたそっちじゃないでしょ!?」
モアが叱りつけるが、メイガスは無言で返した。
そんなやり取りを意識の外で聞きながら、レオニスはなんとか息をしていた。長椅子をもろにくらった衝撃は、痛いというより熱いといった方が近いだろうか。これはアバラが数本いったな、と思いながら、レオニスはそれでも安堵していた。
これでもう動けない。自分は、今度は誰も斬らずにすんだのだ。
「レオニス! 大丈夫か!?」
かけよるアルサス。膝を付き、レオニスの上から長椅子をどけると、助け起こした。
(団長――ありがとうございます……)
しかし、影傀儡の力のせいで返事もできず、ただ荒い息を繰り返すだけとなった。
「てめえ。くそがき。よくも俺の可愛い団員に」
アルサスが低く呟く。その顔は、レオニスが一度も見たことのないような修羅の顔だった。
「あら? 怒っちゃった? せっかくのお楽しみ中だったもんね」
「黙れ!」
アルサスはモア目掛けて矢のように駆け出した。しかし、間合いをつめる暇もなくその動きがピタリと停止した。
右手の握りこぶしを掲げて、モアが不敵に微笑む。
「馬鹿ねえ。あたしがそんなこと、許すと思った? ふふ。レオニスは使えなかったから、あんたを使うっていうのも面白いかしら?」
「団長――!?」
異変に気付いたデンテが叫ぶ。
「気をつけて下さい! 来ますよ!」
ホークが鋭く叫ぶ。
榛色の瞳を虚ろに濁らせ、アルサスは反転し、デンテ目掛けて走り出した。
「ファンタジー」の人気作品
書籍化作品
-
-
141
-
-
4
-
-
755
-
-
238
-
-
37
-
-
1978
-
-
149
-
-
3395
-
-
89
コメント