太陽王の剣〜命を懸けて、君と世界を守り抜く!〜

みりん

7 少女の行方 ☆

 屋敷を飛び出したレオニス達は、まず、グラディウム中の買取も行っている宝飾品店と質屋を訪ねて聞きまわることにした。少女がドレスや宝飾品などの証拠品をいつまでも持ち歩くとは考えにくいからだ。

 ドレスは持ち歩くにはかさ張るし、換金してしまえば、証拠もなくなり身軽になれる。百万人都市と呼ばれるだけあり、人口の多いグラディウムでは少女がかさ張る高級品を持ち歩いていては、どうぞ襲ってくださいと看板を持って歩いているようなものだから、危機回避のためにも少女は盗んだ品をどこかに売りに出すと考えたのだ。

 しかし、二手に分かれて、午前中いっぱいを使って探し回っても、該当する少女は見つからなかった。昼過ぎにくたくたに疲れて合流した三人は、お互い何の進展もないことを報告しあうと、溜息をついた。

「ああっ!」
「どうしたんだよ、レオニス。何か思い出したか?」

 デンテに問われて、レオニスは自分の服のポケットをひっくり返したり、胸を押さえたりしながら答える。

「ない! ないんだよ、デンテとマラからもらった羽の首飾りが!」
「はあ!? あの一昨年の誕生日にあげたやつか!? どっかに落としたのか?」
「いや、違う! きっと盗まれたんだ! あの泥棒に! あいつ、昨日なんか僕のことじっと見てたと思ったら、首飾りに目星をつけてたんだな……!」

 怒りに震えるレオニスを、デンテが冷静につっこむ。

「いや、他の盗まれた物に比べて、あの首飾りは安物過ぎないか? 銀だし、細工も下手だし」
「そんなことない! もしそうだったとしても、あの泥棒に宝飾品の価値を見る目があるとは限らないだろ!」

 珍しくカリカリと怒るレオニスを見て、デンテは少し驚いた。

「どうしたんだよ、レオニス。太陽は真上だぜ。まだ日没までは時間がある。少しは落ち着けよ」
「悪い。いや、お告げのこともあるのに、泥棒騒ぎに巻き込まれて焦ってるみたいだ」

 レオニスが、深呼吸するように溜息をつくと、デンテが問いかける。

「お告げ? なんのことだ?」
「いや、これが片付いてから話すよ。団長を助けることが先決だ。だろ?」
「わかった。じゃあ、あとで絶対話せよ」

 レオニスが頷くと、デンテも頷き返した。

「で、お次はどうするんですか?」

 傍で控えていたホークが、口を開いた。

「わあっ! いたのか!」

 驚くレオニスとデンテに、ホークは口を尖らせた。

「いましたよ! まったく、私のこと無視して内輪話だなんて、失礼しちゃいますよ!」
「すまんすまん。じゃあ、犯人探しの続きに戻るとして、次はどうする? ビラでも配って聞き込みたいところだけど、そんな紙を買う金はねえし。いいとこ、立札に女の似顔絵でも書いて通行人に聞いてまわるくらいか?」

 デンテの提案は、レオニスが却下した。

「なんでだよ?」

 食い下がるデンテに、ホークが得意げに答えた。

「簡単ですよ。立札を持ち歩くような目立つ行為をして、こちらが探していることが犯人に伝われば、こちらの目をかいくぐって逃げられる可能性が高いから。ですよね?」

 ホークの回答に、レオニスは頷く。

「うん。それもある。あともうひとつは、犯人の顔を唯一覚えてる僕が、誰もが見てわかる程犯人の特徴を捉えた似顔絵を描けるほど、絵が上手くない」

「なるほど」

 デンテが得心した顔で唸った。

「やっぱり、犯人はあんまり身なりがよくなかったから、貧民街を地道に探すのが一番じゃないかな? デンテの知り合いもいるんだろ? その人達に協力を依頼できないかな?」

 問われたデンテは、首をひねる。

「う~ん。知り合いって言っても、リベルタスが首都から山へ移動した時、俺確か6歳だったからな~。覚えてるのも数人がいいとこだし、あいつらきっと金積まないと何も手伝ってくれねえと思う。それに、さっき一番あてにしてたタバコ屋のおっちゃんに聞いて来たけど、金髪碧眼で左目に泣きボクロがある俺らくらいの歳の女なんて、貧民街では見かけないって言ってたぞ?」

「それって確かな情報なんですか~?」

 ホークが疑わしげに問いかける。デンテは憤慨して答えた。

「間違いねえよ! タバコ屋のおっちゃんは情報屋もやってるんだ。貧民街にそんな目立つ金髪が暮らしてたら、当然知ってるはずだ」

「情報屋ねえ? まあいいですけど。その情報を信じるとしましょう。すると、僕たち手がかりがなくなってしまう訳ですが? 身なりが貧しいから貧民街の出身だろうとあたりをつけてそこを探す、ならまだ可能性はあるかもしれませんが、百万人都市と謳われるグラディウム全部を捜索して一人の少女を見つけ出す、なんて芸当不可能に近いですよ。ましてや、日没までに、なんて絶対に無理です」

 ホークがやれやれと首をふる。

「だけど、見つけ出さないとアルサスさんが衛兵に突き出されんだぞ! そんなこと絶対許さねえ!」

 デンテが熱くなると、ホークは逆に冷めたように溜息をついた。

「まあ、私はディべス氏から君達の監視を言い渡されてるだけですから、好きに行動してくれて構いませんけどね。それより、お腹すきません? 一休みして昼食にしましょうよ」
「なんだと!? この非常時に飯なんか食ってる余裕あるわけ」

 その時、デンテの腹の虫が、盛大に鳴いた。
 ホークもレオニスも、デンテの腹を思わず見てしまう。

「……うるせえな!」

 顔を真っ赤に染めて、デンテは自分の腹をおさえた。レオニスは思わず吹き出してしまい、デンテに小突かれる。

「ごめんごめん。いや、すごいタイミングだったからつい。じゃあ、昼食にしよう。僕とデンテは朝食も食べてないから、お腹減ってることだし。食べながら、次の行動を考えよう」

 レオニスの提案に、ホークは一も二もなく賛成した。

「そうこなくっちゃ。腹が減っては戦はできぬ、ですね!」
「まあ、レオニスがそう言うなら……」

 と、デンテも不承不承頷いたので、三人は昼食を食べることにした。

「安くすませるなら、やっぱり中央広場に出てる屋台で食べるのが一番じゃないか?」

 デンテの提案に反対する者はいなかったので、三人は中央広場へ向かうことにした。



 しばらく歩くと、目当ての中央広場に到着した。
 広場は屋台のテントと人で溢れかえっていた。野菜や果物、燻製肉から、その日の朝採れた魚まで何でも揃っている。金さえ積めば手に入らないものはないと謳われる交易の中心、グラディウムのいつもの光景だ。

 レオニス達の目当ての、すぐに食べられる串に刺さった鳥肉やパンを売っている店もすぐに見つかった。両手に食料を抱えて、レオニス達は広場の端まで歩いて行った。疲れていたので、腰を下ろして食べるためだ。

「あれ、噴水が見れるかと思ったんだけど、今日はやけに人が多くて見れないな」

 デンテが肉を頬張りながら広場の入口辺りを見て言った。

「本当ですね、噴水の回りだけ、やたらと人が集まってるみたいですね。どうしたんでしょう?」

 ホークも、チーズをかじりながら様子を伺った。レオニスも言われて、噴水の方を見た。

「僕もここを通り過ぎた時、人垣ができているなあとは思ってたんだ。いつものことかと思って気にしてなかったんだけど」
「さあ、どうなんでしょう? 私も昼間は屋敷で働いているんでいつもどおりかまでは分かりかねますが……」

 ホークにそう言われてしまえば、レオニスとデンテには知る由もない。三人で首をかしげた。

「何があるんだろう? なんか音楽が聞こえるけど……」
「俺、食べ終わったから見てくる!」

 デンテが立ち上がる。

「僕も行く」
「わ、待って下さい、私も行きますよ」

 レオニスとホークも持っていた食べかけのパンを口に放り込むと立ち上がった。
 駆け寄って、三人は人垣の中を押しのけて最前列へと出た。南方風の独特のギター演奏が鳴り響き、群衆の感嘆の声がわく。

 そこで、三人が目にしたのは、噴水の泉の中で軽やかに舞踏を舞う少女の姿であった。

<a href="//20989.mitemin.net/i238328/" target="_blank"><img src="//20989.mitemin.net/userpageimage/viewimagebig/icode/i238328/" alt="挿絵(By みてみん)" border="0"></a>

 光のようになびく金の髪に、オパールの髪飾り。同じく耳飾りにもオパールの虹の色が光る。少女がくるくると回転する度に広がるドレスは純白。胸にはサファイアのブローチの青と、銀の羽の首飾り。裸足の足が跳躍する度に、水滴が飛び、光を受けて輝いた。

 レオニスは、思わず見とれて、一瞬言葉を失った。

「カルミナ……」

 ホークの呟きに、デンテが問うた。

「カルミナ? なんだよ、それ」
「オーム地方に古くから伝わる舞踏の一種ですよ。驚いたな。こんなところでこれ程までに美しいカルミナが見られるなんて……」

 感嘆の溜息をもらすホーク。

「踊りの善し悪しとか、俺にはわからんが、確かに、これはすげーって俺でもわかる――って、レオニス!? どうしたんだよ!?」

 デンテに引き止められるのも構わず、レオニスは観衆の視線の中心、少女のもとへとずかずかと歩いて行った。

 そして、泉に入って、少女の腕をつかむ。

 踊りに夢中になっていた少女が、驚いて振り返る。その顔の、左目の下に涙ボクロ。

「捕まえたぞ! 泥棒め! 昼日中から堂々と盗品を身につけてダンスとは、いい度胸してるな!」

 レオニスが睨みつけると、少女は驚きに目を見開いた。そして、その碧い瞳はみるみる潤み、後から後から、その上気した頬に雫を伝わせた。

「うえっ!? 泣っ!?」

 レオニスが怯んでいるうちに、駆け寄ってきたデンテとホークが驚いて叫んだ。

「ええ!? こいつが犯人!?」
「まさか、こんな麗しい美少女が!?」

 驚いたものの、確かに盗品のすべてを少女が身につけているので、次の句が継げない。すると、あっけに取られていた観衆達が、ブーイングを始め出した。

「邪魔すんじゃねえ! 今いいとこだったんだからよ!」
「そうだ、そうだ! もっと踊りを見せろ!」
「まずいな」

 デンテが辺りの殺気を感じて呟く。

 すると、少女が思い切り息を吸い込んだ。そして、あさっての方向を指差して叫んだ。

「ああああああああああああああああああああああああああっ!!!!」

 驚いた聴衆達は、少女の指さした方向を一斉に振り返った。

「今よ、走って!」
「ええっ!?」

 少女の号令で、レオニス、デンテ、ホークの四人は噴水の上を走って人垣を抜けだし、どこをどうやって走ったのか、そのまま追っ手をまくまで逃げ続けた。

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