黒猫転生〜死神と少女の物語〜

霧ヶ峰

第7話:家

 柔らかな陽が窓から差し込み、チュンチュンと何処からか小鳥の鳴き声が響いている。

「・・・スゥ・・・スゥ・・・・・」
 暖かい光を受けながら机に突っ伏して、静かな寝息を立てていた少女は、やがてその身をモゾモゾと動かしながらゆっくりと顔を上げる。

「ここは・・・・・」
 未だぼんやりとしか開いていない瞳を擦り、大きな欠伸をしながら、少女はゆっくりと周りを見渡す。

 少し見渡した時、少女の目には丁寧に折りたたまれた一着の服が置き手紙のような紙切れとともに、そっと置かれているのが目に入って来た。


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 急に寝てしまったので驚いたが、ただ眠っているだけのようなので、食料の調達に行ってくるから、机の上に着替えとこのメモを置いておく。
  
 君の食べれる物、食べれない物がわからないため、色々と取ってくるつもりだ。時間は掛かるかもしれないが、今後の食事は期待してほしい。

 君が目覚めてことメモを読んでいる時までに、俺が帰ってきてなかったなら、机の上に置いてある服に着替えて、今来ているものは突き当りにある扉を開けたところに置いておいてくれ。

 後、俺の帰りが遅くて小腹でも空いた時は、そこらへんに置いてある壺の中に木の実が入っているから、それでも摘んで待っていてほしい

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 手に取って読んでみると、そんなことが書いてあった。

「着替えってこれかな?」
 机の上に置いてある服はメモに書いてあった着換えなのだろうと思い、シアンはそっと手に取る。

 その服を手に取ると同時に、シアンは二つの意味で驚きの声を上げる。

 一つ目は、その手触り。上級貴族の着ているであろう物と大差ないどころか、それを上回っていると感じられるほどの滑らかさものだったのだ。
 そしてもう一つは、その服の下に綺麗に畳まれて置いてあるものに対してだった。

 シアンは、滑らかな手触りの服をそっと置き直して、それを手に取る。手に取ってみると、シアンの驚きは驚愕へと変化する。

 なぜなら・・・

「なんでこんなにピッタリなの!?!?!?」

 手に持った“下着”が、全て自分のサイズにピッタリだったのだ。



『なんでこんなに?・・・・・!まさか、今の服を着せられた時に?いやでも、あの人?はそんなことしそうにないし。で、でも・・・絶対見られたよね?』
 顔を赤く染め、悶々としながらも数々の下着を身体に重ねていたシアンだったが、一度大きな音とともに頭から湯気を立てると、おもむろに服を着替え始めた。

 その表情からは、どこか清々しいものが感じられただろう。













 一方その頃、ナギは森の中にあるいくつかの川の中で最も大きいところに赴いていた。
 最も大きいと言っても、川幅は20〜30メートルほどしかなく、時たま急に深くなっている所があるが、それを除けばそれほど深いところが無い川だ。そのため、魚を取る時などに大変重宝している。

「さてと、なんだかんだで時間かかったからな・・・2、3匹取ったら帰るとしよう」
 川辺で、山影から登り始めた太陽を見てそう呟いたナギは、そのら辺に転がっていた手頃な木の棒を[死者の灰]で作ったナイフで削り、即席で銛を作ると、そのままの川の中に躊躇なく足を踏み入れ、どんどんと水の中に入っていく。


 ゆっくりと波を立てないように歩き、川の中央ほどまで進むと、ナギは銛を構えてじっと立つ。

 すると、その姿が・・・いや、その気配が次第に薄れていき、終いには、川を泳いでいる魚ですらそこにナギがいることすら気づかないであろうほどの影の薄さになっていた。


「フッ!!!」
 ナギは、川の中に生えている木のような気配の薄さのまま、足元に向けて鋭く三回銛を繰り出した。


 銛から手に伝わる振動が、獲物を捕らえたことを証明する。
 銛から水面から出すと、返しの付いた先端に、団子のように三匹の魚が刺さっていた。



「よし、帰るか」
 そのまま銛を担ぎ、川辺に置いてあった麻袋とその他諸々を回収すると、ナギは森の中を家の方に向かって歩き始めたのだった。


 鬱蒼と茂る木々の中で、家のある方向がなぜわかるのか。
 それは、十中八九【暗黒樹林ダークフォレストの覇者】という称号の影響だろう。

 この称号を手に入れたのがいつだったかは忘れてしまったが、ある時からこの森で迷うことが無くなったので、多分その時に得たのだろう。
  

 実際、この称号さえあれば、木々に目印として切り傷をつけたり板を打ち付けたりしなくて済むようになった。称号というのは、このように非常に便利なものなのだろうか。






 ナギは、そんなことをぼんやりと考えながら歩いていたためか、ふと顔を上げると、もう家が目の前に迫っていた。

 称号のおかげで迷うことも転んだり躓いたりすることもなかったが、考え事をしながら歩くのは危ないなと思うナギであった。











「ただいま・・・」

 ガチャリとドアを開けると、ついつい口をついて出てしまう。いつも俺一人だというのに、やはり習慣というのはなかなか取れないものだ。


「あ!お帰りなさい!!!」

 だが、今日はいつもと違って、家の中から声が帰ってくる。
 たったそれだけのことなのに、なぜか無性に嬉しく感じられるのは、俺が元日本人だからなのか、また別のせいなのか。


「お、早速着てくれたのか・・・うむ、やはりよく似合ってるな。素体が良いと付属品も華やかになるな」
 己の感情の真意を見出す前に、シアンの姿が目に入り、ついついそんなことを言ってしまった。

「や、そんな・・・滅相もございません?」

 指に髪をクルクルと巻きつけながらそう呟くシアン。かなり失礼な言い方だったと自負していたが、当の本人からこう言われてしまったら、謝罪するのも不躾だろう。



ナギは、そんなことを頭の片隅で考えながら、シアンの頭をくしゃくしゃと撫でるのだった。

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