とある英雄達の最終兵器

世界るい

第144話 五ヶ月ぇ……

「さて、まずはツヨシを迎えにいくか。つーか、今更だけどツヨシってマジでウチで飼うのか?」

 テュールは歩きながら、誰に問いかけるわけでもなく言葉を発する。

「……ん、当然。ツヨシはうちの番犬」

「……いや、ポメベロスいるじゃん」

 しれっとした顔でそう答えたのはレーベ。テュールは切実な表情で、愛犬ポメベロスを忘れないでくれとツッコむのであった。

「まぁ、けどポメは番犬にしてはちょっと可愛すぎるのだ?」

「うん、うーもぽめめ好きぃー! かぁいい!」

(……地獄の番犬って設定忘れてます? あの子愛玩動物じゃなくて、狩猟生物ですよ?)

 もはやポメベロスの威厳と強さは底に落ち、ケルベロス成分とポメラニアン成分が逆転してしまっていることに哀愁を感じずにはいられないテュールであった。そんなやり取りをしながら歩いていると騎獣舎はもう目と鼻の先だ。

 そして、騎獣舎を見るなりテップが先頭へと躍り出る。

「うっし、ついた! 俺ちょっとツヨシんとこ行ってくる! おい、レーベ行くか?」

「……ん、当然。ツヨシは私のペット」

「うっし、行くべ行くべ。んじゃみんなちょっと待っててくれなー」

 こうして赤毛のお調子者と、小さなライオン娘が騎獣舎へと駆けていく。

 一同は、他愛もない話──ここでは主にヴァナルをからかう話であったが、をしながら待つこと五分。

 ──ふぎゃぁっ!!

 会話をしていた一同の耳に聞き慣れた叫び声が届く。そして、一同は口を閉ざし、騎獣舎の入り口をジーッと見つめる。

 キィ。

「……ん? なに?」

 騎獣舎の入り口から出てきた瞬間、皆の視線を感じたレーベが首を傾げる。その手には手綱が握られており、ごキゲンなツヨシも一緒に現れる。そしてやや遅れて、顔に蹄の跡をつけた男も。

「……なぁ、テップ? こいつってお前に逆らわないんじゃないのか?」

「……あぁ、その筈だったんだがな。流石は最強の魔獣の一角に数えられるベヒーモスだ。はっはっはー、そんな存在を俺が制御できるわけないしぃー?」

 さらっと恐ろしいことを言うテップ。そんなテップは気付いているだろうか、彼を見つめる冷たい視線、冷たい視線、冷たい視線に。

「……ん、大丈夫。ツヨシはお利口。ちゃんと言うことも聞いてくれる」

「るふぁ♪」

 だが、どうやらこの少女がいる限りツヨシが暴走をすることもなさそうだ。文字通り手綱を握る少女に一同は顔を緩める。

 こうしてツヨシを引き取った一同は、ゆっくりとリエースの出口まで歩いていく。街の人々はツヨシに怯えることもなく、歓声を上げたり、手を振ったりと思い思いにセシリアを送り出してくれる。

「セシリア、この国はいい国だな」

「テュールさん……。えぇ、自慢の国です。でも……」

 そう、見送りにきた街の住人はツヨシに怯えることはなかったが、セシリアの周りを囲む者を見て表情を固くしていた。睨んだり、罵声を上げる者こそいなかったが、どこか腫れ物を扱うような余所余所しい空気が流れてしまっていたのだ。

「フ、セシリアが変えて行けばいい、私達も協力する。お前が国のトップに立った時はこの空を覆い尽くさんばかりの龍が祝うさ」

「うん、そうだねっ。私達は仲良くなれたんだもんっ。喧嘩もそりゃするけど、それは私が人族で、セシリアがエルフだからってのとは違うからね」

「……ん。セシリアには耳もふもふさせてあげてもいい」

「!? うーももふもふしたいっ! うーもしたいっ!」

 そして、許可を取らずレフィーはウーミアをレーベの頭の上にそっと置く。早速耳をもふもふし始めたようだ。レーベの表情は特に変わらない。どうやら怒ってはいないようだ。

「フフ、皆さんありがとうございます。そうですね、私達がこんなに仲が良いんだってみんなに見せつけちゃいましょう」

 そんな少女たちの励ましにセシリアは本当に楽しそうに笑い、そんなことを言う。

「リリス? お前はあの輪に入らなくていいのか?」

 そして、一人何も言わずに不敵な笑みを浮かべているリリスにテュールが問う。そう問われたリリスは待ってましたとばかりに目を見開き──。

「フッフッフ。もちろん入るのだ! リエースのみんな良く聞くのだー! リリスはセシリアが大好きなのだぁー! だからセシリアの国も大好きなのだぁー!」

 そんなことを恥ずかしげもなく叫ぶ。それを聞いたリエースの一同は目を丸くし、遊楽団の面々もキョトンとする。

「ップ。あのちんまいのが一枚上手だな」

「フフ、そうだねー。リリスちゃんが言うと不思議とイヤミがないからねー。案外種族差別撤廃の旗頭はリリスちゃんかもね~」

「そうですね。見て下さい皆様の表情を、先程までの固かった表情がまるで豆鉄砲を食らったような……。ププッ」

 そんなリリスとリエースの住人を見て、カラカラと笑うアンフィス、ヴァナル、ベリトの三人。

「よーしっ! んじゃ俺も歌おう! 俺の名はテップ! セシリアの未来の旦那の親友だ! 聞いてくれ、旅立ちはいつも晴れ。んんっ、あ~、わっぷっ、なんだよテュール! 今、いいと──」

「黙れっ。お前のせいで種族間の仲が悪くなったらどうする。あれはリリスだから許されてんだよ。ほれ、行くぞ」

 テュールは、今まさに歌いだそうとしたテップの襟首を掴み上げ、ズルズルと引きずっていく。

「皆さん……。フフ、ありがとうございます」

 そして、セシリアは息を一つ長く吸う。

「……リエースの皆さん! 私はここにいるみんなと仲良く元気にやってます! どうかリエースの皆さんもまた会う日までお元気で! いってきます!」

 門まで辿り着いた一行、そしてセシリアはくるりと振り返り、リエースの住人に対し大きく手を振りながら挨拶をする。先程まで面食らっていたリエースの住人もここでハッと気付き、大きく歓声を上げ、一同を見送る。そこには先程までの固い表情はなく、どこか憑き物が落ちたような晴れやかな笑顔だった。

 こうして、大きな歓声の中、門をくぐりテュールたちはリエースを出国する。各都市に伸びる大きな街道の脇で協力しながらツヨシに引いてもらう車を作り、乗り込んだ。

「はいよぉおお!! ツヨシぃいい!!」

「ぶるふぁぁあ!!」

 こうして、御者席が定着したテップが叫び、ツヨシが走り出す。その速度はやはり凄まじく、あれほど大きかった門もあっという間に見えなくなる。

 そして、やはりここでも行きと同じようにリリスとレーベが順番にテュールの上に座ろうとするが、御者席に座る者からの強大な負のオーラによって途中で中止となり、今はみなのんびりと外を眺め景色を楽しんでいる。

「さぁて、リバティのみんなは元気かな? たった三日だけど随分長く会っていない気がするな……」

 そして風を浴びながらテュールがふと、そんなことを言う。そんなテュールの独白に気付いたベリトがスッと手帳を取り出し、パラパラとめくりながら言葉を発する。

「えぇ、テュール様。我々の時間軸では三日ですが、なんと第百話からリバティを離れましたので、実に四十四話もの間リエースに滞在していますね。これは向こうの・・・・時間軸で五ヶ月程となっています」

「…………マジか。いや、うん、聞かなかったことにしよう。時間軸とかよく分かんない。ミア、ほらおいでー」

「ん? あーい!」

 有能な執事の次元を越えたツッコミをなかったことにし、ウーミアを膝の上に乗せ、抱きしめるテュール。そんな場面を一同は苦笑しながら見守っている。懐かしのリバティまであと少し。

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コメント

  • Ashley

    まってるで

    0
  • RAI

    面白かったですこれからも頑張ってください

    0
  • TADAI

    まさかの現実時間www

    0
  • ドラゴン2

    メタい

    0
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